第13話「誘拐?」

「──爆発がぁぁぁああファイヤ イン ザアアアアアアアアアアホーーーーーーアアアアアアアアアアーーーーーール



 がばっ!!



「あ。おきた」

 突如跳ね起きた美少女のベッドわきでうつらうつらしていたマイトも同時に覚醒する。


 現在時刻、真昼。

 現在位置────。


「……って、どこじゃここは!! そして、お主は──────はっ、」


 ま、まさか!!


「わ、ワシの可愛さに思い余って、ついに──……な、なんということじゃ、ワシの貞操がぁぁあああああ!!」

「やかましい」


 ズビシッ!!


「ひぃ!! 爆発がっぁあああああエネミーフラーーーーああああああーーーーーグ!!」


 おっと、ズビシはまずかったか────つーか、トラウマになっとるやんけ。


「……っていうか、貞操??」

「ぎくっ」


 いや、ギクって、

 別にええけどさ────コイツって……。


「エルフ、だよな?」

「な、なんでそれを──って、あ、帽子!!」


 いや、今更耳を隠すとか無理だし。

 あの趣味の悪い体育帽はもちろん、脱がしてる。……室内で帽子とかマナー違反だからね!!


「……うぉい! お主がマナー違反とかいうなし──つーか、本当にナニもしとらんのか?」

「いや、ナニもなにも、そもなんも言ってねーよ」


 何勝手に勘違いして、

 何勝手にナニもされてないと思ってるのよ。


 まぁ、基本・・なんもしてねーけど。


「基本んんんん!! あ、なんか体がすっきりしとる!! まさかぁぁあー!」

 まさかじゃねーよ。

「おーよ、綺麗にしてやったわ」


 くっせーからな!!

 宿にシーツとか弁償させられたらたまらんからな!!


「……って、ことはもしや──」

 んぎゃぁぁああああああああああああああああああああ!!

「さーわーらーれーたー!!」


 さーらーわーれーてー、さーわーらーれーたー!!


「うっせぇえつーの!!」


 いん踏まんでええっちゅうねん!!

 つーか、触ってもどうってことねーだろうが!! 触るほどのものも、価値もねーわ!!


「んな!! お、おぬしぃぃい! 乙女にむかってなんちゅうことを!!」


 がばっ! とシーツで体を隠してるけど、一応服は着せてるよ!! マイトさんの奴だけどな!!

 つーか、なんだよ、あのブルマ!! 今時見ねーよ!! 上着には『3-2』とか3年2組か!!


 JSとJCとJKで、大分色々違う・・・・・・からせめて学校名いれろバーカ!!


「そ、そこまでマニアックなのは求めとらんわーい!」

「着といていまさら……ったく。そも、何が乙女だ。エルフってのは高齢なんだろ? 見た目と年齢が合致しねーことくらい知ってるぞ」


 それに何だっけ?

 『魔塔』が何だとか言ってたな。


 念の為持ち物は預かったけど、コイツ小銭すらもってないでやんの。


「むぐ!! レ、レぃディに年齢をきくなどとな────っと、そうではない!」


 ──お、おぬし!!


「き、昨日のお主・・・・・で間違いないな?!」

「は?……昨日のお主がどのお主か知らんが、多分、そうだけど」


 ちっ。

 やっぱり覚えてるわなー。


 ワンチャン記憶でも失ってるかと思ったけど、そんなうまくいくわけねーか。

 ──まいったな……。

 いっそ、あの場に捨てて言ってもよかったかもしれないけど、さすがになー……。


 この世界に慣れつつあるとは言っても、もとは普通の日本人のマイトくん。


 さすがに気絶(?)した女の子を放置するわけにもいかず──かといって、その場に駆け付けた衛兵隊に引き渡すわけにもいかず──。

 結局、拉致監き……げふん、救助介抱するに至ったわけだ。


 それに、どこまで知られているかも気になるしな。

 なんだかんだで、このクソチビが突然ダンジョンから出てきただけで、マイトが爆破したかどうかなんてわからないはず──。


 それにステータス画面は基本、本人にしかみえないし、

 それは地球人でも同じこと。まぁ、例外は結構あるみたいだけど──それはさておき。


 つまり、昨日の状況から察するに、

 たまたまダンジョンから出てきて、たまたまダンジョンの出口にいたマイトが、たまたまその時間に出くわして、たまたまダンジョンが爆発して倒壊したと────うん! たまたま多いな!! そして、無理筋が過ぎるな!!


 だけど、コイツ頭がいいように見えてバカっぽいし──。

 うん、多分、気づいてな──


「……ふむ。やはり、ダンジョンを破壊したのはお主か」

「ん、んんんんんー……!!」


 正解!!

 くっそ、むかつくけど、正解だよド畜生ッ!


 ……ええい、まいったな。


 どうする?!

 絞めるか? 沈めるか。いやいや、焼いてバラして────。


「うぉい!! 怖いわ!! め、目が怖いわお主!!」

「……いや、まずはこう、剝いてから──チョキリチョキリと」


 ちょぉおおお!!


「待て待て待て! 待てぇぇええ!! 一回落ちつけ!」

「むっ、そうか。一回落としてから、漬けるかコンクリに──」


 ちょぉおおおおおお!!

 違う違う違うちがーう!


「漬けるな漬けるな!! 糠にもコンクリにも漬けるな、混ぜるな危険! い、いいから、一回待てと言うとろうに!! えええい」


 ばん!!


「ほれ!! ワシはこういうもんじゃ!」

 なにやらカードのようなものを懐から取り出す少女……んん?

「……魔塔の──なんて書いてるの?」


 ずるっ。


「お主、異世界人じゃろうが!! なんか、こう──翻訳機能ついとるんじゃろ?」

「いや、ついてるけど────って、詳しいなお前」


 ふんっ。


「あったり前じゃ──こう見えて、ワシは世界一の魔法研究機関の長──『魔塔主マスター』をしておるからのー」

「へー」


「うっす!! 反応うっす!!」


 ──ガシガシっ!


「あーあれだ。詳しくは知らんが、ほれ、トーダイの主席じゃ、首席! そう言ったらわかるじゃろ! それか、トーダイの教授といったところかのー」

「な! 東大生?!」


 すっげ!


「……反応わかりやすいのー。まぁ、これで分かったじゃろ? 別に怪しいもんじゃない──ただ魔法を研究しているだけのイチ研究者じゃ…………って、なんじゃ? 急に荷物からロープを取り出しで──ビンビンッして、硬さまで確認して──」


「え? いや、これで絞めようかと──」

「こわいこわいこわいこわーい!! だから怖いと言っとるじゃろうが!」


 コイツこわーい!


 なんで?

 なんで、すぐそっちいくん?!


「お主は殺すしか選択肢がないのか!!」

「む──……そうか、殺さずとも、一生監禁」


 待て待て待て!!

 まてーーーーーーー!!


「ダメだダメだ!! そういうゲームじゃないから!! おちつけと言っとる!!」

「いや、落ち着く要素が一個もなくてだな──どちらかというと、研究機関の長とか一番見られちゃまずい奴に見られたので、なんとかしてこの場を穏便に収めようかと」

「どのへんに穏便な要素あったー?! 穏便が穏便でない方法になっとるぞぃ! い、言うたじゃろ!! 魔塔主──トーダイの教授だと!!」


 む!!

 むむむむ……! それはつまり、


「……くっ。結構な有名人ってことか。さすがに、バラすと足がつくかもしれんな」

「|殺《バラ)す前提かいな、怖いやつじゃのー……。ワシ、本当に寝てる間なんもされておらんだろうなー?」


 もそもそと体を確認している魔塔主ちゃん。

 それを、ムムム……と難しい顔で見るマイトであるが、今のところ殺すのはとりあえず・・・・・保留──。


「とりあえずじゃなくて、一生保留してくれんかのー。……で、まぁ、そうしたがるところをみるに、お主、その『すきる』を隠したいんじゃな?」

「そりゃそうだろ」


 もう、バレたら何をされるか、わかったもんじゃない。


 こう──絞めたり、沈められたり、焼いてバラされたり、

 あげくは、剝かれてチョキチョキ、最後は落とされ、糠とかコンクリ漬けに──。


「……それをワシにやろうとしたんじゃろが、まったく──」


 がしがしっ。と、

 少女が頭を掻くとフケがパラパラ……マジで頭くらい洗えよ、と。


「んー。ま、警戒する理由もわかるがのー。……実際、そうなっとる異世界人もおるわけじゃしのー」


 ぼそっ。


「をい!」


 それはそれでこえーよ!

 なんか、ぼそっと言うてるけど、けっこう衝撃的なこと言うてるね、この子!!


「じゃが安心せい、ワシはそこまではせん」

「それ以外する気満々じゃねーか」


 やはりここは漬けるか。


「じゃーかーら!! もー! ええい、埒が明かん!」

 ……うーむ。


 ──ぽんっ。


「そうじゃ、こうしよう!!」

「どうしてくれよう、やっぱり糠、」


 それを一回やめい!!


「ほれ!! 受けとれい」


 再び、

 ぽーい


「ん?……なにこれ?」


 再度胸をごそごそしだした少女は、

 懐から取り出した小さな紙きれ……というかカード(?)を投げよこす──……なんか生暖かいな、これ。


 つーか、どこにしまってた? しまうとこなんかペッタンコでなかったはず──。


「──殺すぞお主!! ったく、魔塔への推薦状じゃ──ま、推薦と言いつつ、ほぼフリーパス。それがあればいつでも主席研究員じゃぞ」


 へー。


「反応うっす!!……あー。トーダイのゴウカクツウチじゃゴウカク!! つまり、YOUはトウダイセイ!」

 セイヨー!

「……へー。東大生かか──」


 …………。

 ……。


「んなにぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 びっくりーーー!!


「うーわ、わっかりやすいのー、おぬしぃ。そっちの世界ではトーダイはそんなに凄いのか?」

「すげぇなんてもんじゃないわ! 東大卒は将来を約束されてるんだよ!」


 (注:そんなことは決してない)


「ふんっ、ならわかるじゃろ? 将来を約束という意味ではそれほど明確な物はないぞー。なにせ、所属しとるだけで給料ウッハウハで、衣食住は完全補償じゃ!」

 ──ふんぞり!

「な、なん、だと──」


 そんなん最高やんけ。

 え? いいの? バラそうとしたのに?


「……そこは許しとらんぞ」

「さーせん。足とか舐めればいいっすか?」


「きもいわ!!────あと、嘗めるなら足の裏までなめーい! カッカッカ」

「調子にのんなガキ」


 マジで舐めんぞ! ぺローンと!!


 ……ったく、まぁいいか。

 なんだかんだ言って殺すわけにもいかないし、監禁もできるはずもない。

 しかも、ちっこいガキンちょを監禁とか、絵面最悪。……元の世界に帰っても一生陽の目を見れんわ!!


「はー……。わかったわかった。まぁ、これはありがたく貰っとくけど──それよりも、こっちの事情はなんとなく分かってくれるか?」

「ふん。まぁな──お主ら異世界人の事情は複雑怪奇じゃ」


 それは同感、

 いきなり召喚されて、なんかやれって言われてもねー。ほぼ拉致ですよ拉致!!


「……オマケに俺は落ちこぼれでね。自分の身を守るのも覚束おぼつかないんだよ」


 そう言って、回収した鉄の槍を装備して見せようとするも、当然持てない。

 つまり、ステータス『筋力』ナッシング──。


「……おいおい、驚いたな──。異世界人はひ弱とは聞いておったが、ここまでとは──。ま、個人差はあるだろうが」

「だから、言ったろ落ちこぼれなんだよ」


 全部を明かす必要もないが、こうなった一連托生?……ちょっと違うか。まぁ、ある程度事情は話さないと秘密にしてくれと、これから頼んでも説得力がない。

 それになんというか──どうも、このガキ、マジで結構な有名人ッポイ。話せばわかりそうだし……。



 かくかくしかじか

  肝心なとこは伏せて──



「──……ふーむ、なるほどのー。たしかに、今のままでは『すきる』だけうまく使われて、飼いならされるかもしれんのー」

「そーいうこと」


 ふーむ……。


「わかったわかった。あい、わかった! お主の話──全面的に飲んでやる」

 は?

「マジか?!」


 全面的にって……。

 え? まだほとんど核心のところは話してないけど──全部理解したの?! とすると、さすがに地頭は相当いいのかもしれない。


 しかも、全面的にということは。

 一応ギルドや同じ召喚者のほか、できれば、この少女の信頼できる人以外が話してほしくないとは言ったものの、まさかあっさりOKとは。


「ただし!!」

「……う」


 びっくりしたー。


「な、なんだよ──」

 ──ジロリ。

「そりゃ……決まっておろう──」


 じろじろ


「だ、だからなんだよ? 脱ぐか?」

「いるか!! 脱ぐな!! そうでなくての~。ワシがこんな田舎くんだりまで来たのは、ダンジョンの異変を察知してのことよ」


 異変?


 何のことかわからず首をかしげるマイトに対して、

 マイトの腰に下げていたそれ・・をひょいっと持ち上げると少女は言った。

「あ、こら!」


 それはちょっとまずい──。


「ふふふふ~ん。思ったとおりじゃ──これもダンジョンの一部じゃな?」

「……まーな」


 ぐ。大正解だよ。


 それを聞いてニヤリと笑う少女。

 ……どうやら、それら・・・に興味がある様子。


「ふっふっふ。気に入った……! 気に入ったぞ!! 実はのー、先日この街から『とある破片』が見つかっての、それ・・の調査にきたのじゃよ……。しかし、先日、肝心のその破片も跡形もなく消えてしもうて途方にくれておったのよの」

「は、破片……?!」


 ……って。


 げっ。

 それって、


 たらーり。思わず冷や汗の流れるマイトさん。


 だって、

 おそらくあれ・・だもん。


 ……そう。

 『牙ある野獣の巣』か『暴かれた納骨堂』のやつ!!


 しまったー。

 やべーな……ギルド憲兵隊とかが漁ってると思ったけど、回収されてたのか。


 しかも、もう、魔塔とかいうとこにまで行ってたとは……。

 異世界の調査力おそるべし。


「その反応。やはりお主か。……んふふふ。じゃが、そう警戒するな。ワシはただ知的好奇心を満たしたいだけよ。それでいくと、なぜか知らぬが、ほれ、この通り──お主が持っておると、なぜかこのダンジョンの破片もこうしてまだ原型を保っておるようじゃのー」

「あー。それは俺にもわからないよ、そも、消えたのも知らなかったし──」


 実際、吹っ飛ばしたあとも見た限りでは破片は残ってたので、ずっと残留する物だとばかり。

 だが、この子の話を聞く限りでは、いつの間にか消えていたと──。


 ふーむ。


「ってことは、もしかして──」



   すてーたすおーぷん……♪




  ぶんっっ……!


『目標──「ダンジョン壁」厚さ4000mm、使用魔力40』


 ……………発破しますか? Y/N




 わーお。


「でちゃったよー」

「は?」


 いやいや、は? じゃなくて──これ、まぎれもなくダンジョン壁だわ。

 しかも、ここまで持ち歩いてなお、厚さ4000mm扱いです──つまり、これ。ダンジョン壁です、大事なことなので二回──。



「──って、うぉぉおおおおおおおおおおい!!」



 やっべ!!

 ここで「Y」押したら、あぼーん!! じゃん!!


 ……こっわ!!


「あ、こっわぁぁ!」

 ぁあー、でも魔力足りないから大丈夫か──って、それでもこっわ!!


「な、なんじゃ?! 変な顔しおって!」

「しっつれいだな!! 個人的にはモブ+αでそこそこいい顔だろぷうが──モテたことないけどさぁ!!」

 ぷんぷん!

  激おこぷんぷんですよ!

「お、おうおう、わかったわかった。いーじーいじー……おちつけ──。あと、微妙に古いぞ」

「ぶるま履く奴に言われたかねぇよ」

「それは関係ないじゃろ!…………しかし、」


 ふーむ。


「……なるほどの。その顔を見るに、何かが『すてーたす』画面に出ておるようじゃのー?」

「まーな」



 ──ブンッ



 さすがトーダイの教授『魔塔主』──察しがいいぜ。


 なので、一応ステータス画面は閉じておく。

 見えてはいないけど、この少女──魔塔とかいう東大級の研究機関の偉いさんらしいから、何でバレるかしれたものじゃない。そーいう魔法があるのかもしれないし。


「ほうほう、やはり『すてーたす』画面か! そうかそうか、いいぞー。お主、いいぞー」

いく・・ねーよ。あんまし言いふらすなよ?」


 あんましっていうか、基本的に全部だけどなー!


「そこは安心せい! ゆーて、信頼するような奴もおらんしのー。友達なんぞ、とっっっっっくに死んでおるか行方知れずよ」


 カーッカッカッカ!


「いや、笑うとこなのかそれ? むしろ、悲しくって──……う、俺泣いていい?」


 友達いないとか、エルフかなしーね。

 まぁ、寿命の差があるとそうなるわな。ファンタジーのお約束だよね──……。


 ……って、俺も友達いなかったわ!!

 ド畜生ブルシット


「まーそういうわけじゃ。基本はワシのところで情報は止めてやる──その代わり、」

「どういうわけだよ──……つーか、条件ありかよ」


 少女が悪戯っぽい顔でマイトをのぞき込む。

 そう、情報を秘密にする条件を提示したいというのだ。


「当然よ」


 それが彼女がこの街に来た目的であり、

 偶然とは言えマイトに接触した真の目的────そう。


「まぁ、そう身構えるほどでもない。ただ、その~なんじゃ──お主を研究させてもらおうかのーと、な。……なーに、四六時中拘束はせんよ、必要な時に連絡してくれればいい。それに有用な情報なら高値で買ってやるぞーい。例えばこういう破片とかな」


 にひひひ。


 そう言って、マイトの竹──もといダンジョンの破片の代わりに、再び懐からジャラジャラとお金を鳴らしながら、無造作にとりだす少女────うん、大金もってるね、やっぱりここは……絞めて奪って、


「ちょぉぉおお! こわいこわい!! その目をやめーいい!」

「はっ!! つ、つい──」


つい・・で少女を絞めて金を奪おうと言う発想になるんじゃないわぃ────まぁ、ほれ。コイツの代金というわけでもないが、今回の仕事量として、少しくれてやる」


 チャリーン!


「うぉ、マジか!!」

 えー。

 あんな破片が金貨になるのかよ?!

「カッカッカ! 遠慮するな──多くはないが、これはほれ。お主が入ろうとしていたダンジョンの『なんとかの塔』から回収したものじゃて、回収したかったんじゃろ?」

「あー」


 あれか。

 そう言えばせっかく爆破したのに、回収できてなかったわ。


 貰った金貨は合計15枚──わーお。

 予備含めて、ダンジョンの壁を二つ渡してその金額なら大儲けだ。マイトさんは一本あれば十分だし。


「ちょっとは色を付けておるぞ。塔のアイテムは無視してきたしのー」

「なるほどな」


 金持ちっぽいし、路銀が取れればそれでいいみたいな感じか。

 つーか、連絡の手段とかも確認しとかないとな、お金貰えるなら望むところだし──なによりどっかで話したりしてないか、マイト自身がこのガキをある程度監視しないといけない。


 まぁ四六時中はこっちこそ無理なので、連絡時の反応とかでね。


「それならほれ──コイツに向かって話すとええぞ」


 ぽーい。


「うわ! だ、だから放るなよ────って! こ、これはスマホ?!」

「おーよ。お主ら異世界人どもが持ち込んだ『つーる』じゃな──ま、見せかけだけで中身はただの魔導機器じゃよ、『ちっぷ』とか『きかい』とかは入っておらん」


 へ、へー。


 矯めつ眇めつ、

 どう見ても安物のスマホに見えるが、なるほど……充電の穴とかSIMカード入れるとこがないな。


「使い方はおおよそ分かるじゃろ?」

「まー多分」


 タップすると、予想通りに画面がついた。

 これならいけそうだ。

 ロゴの代わりに、魔塔らしきシンボルと少女の顔がデフォルメされてドアップで表示されたのはイラッと来たけど、我慢我慢。


 ふむ……。


 今のところセキュリティっぽいのはないけど、初期設定ならこんなもんか?──しかも、すげーなこれ。充電いらずかよ!


「ふふふ、それも魔塔の機密のうちよ──どうじゃ、こうしてお互いの秘密を共有すれば、少しは信用できそうかの?」


 ベッドの上で胡坐をかきつつ、ニヒヒと笑う少女。


 どうやら見た目以上にかなり優秀なのは間違いない──こんなものを作れる技術を持っているとか、オーバースペックにもほどがある。


 マイト以外の召喚者で、初期に成功した優秀な連中ならもしかして持っていたりするかもしれないけど、少なくともこの街では見たことがない。

 ……かなり貴重なのは間違いないだろう。


「お、おう、センキュな」

「よいよい、持っていけ持っていけ」

 恐る恐るポッケにしまうマイト。

 そして居住まいを正し、

「──で、俺はどうすりゃいいんだ? それにお前の目的って……」

「おう、そうじゃったそうじゃったな。コホンっ」


 キラリと目を光らせた少女は言う。

 その目的とはいったい……。


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