第11「開口して邂逅」

 ひーふーみー……


「う、うぉぉ、金貨10枚!!」

 金貨10枚!!


 きんか、じゅう、まい!!


「いやっほーい!!」


 すげぇ稼ぎだ。

 前にも言ったが衛兵の給料が月に金貨で2、3枚……。日本の公務員としてみるなら月収2~30万ってところか。


 つまり、これ!

 日本円で言えば100万円です!! そう、ひゃく、まん。えーん!!


 すごくない?!

 これすごくない?!


 100万円拾ったのよ!?

 一晩で!!


 やっべー!!


 しかも、残りの宝箱も中々に優秀。

 


 金貨袋は先ほどの通り10枚入り。


 他の箱にはなんと、

 『鉄の槍』×1、

 『ポーション(中級)』×2、

 無色の魔石(中)×1、

 未鑑定の巻物スクロール×2種類


 と、ザックザク!!


 ──うっひょう!!

 そして、壺と樽からはそれぞれ、

 『メグスリソウ』と『ルビー(小)』、

 『銀貨20枚』と『ローマンジュ・ワイン』×3瓶、『燻製スモークにしん(高級)』×5尾


 ──が入っていた。


 どうやら、壺には草系か、ちょっとしたお宝系が入っているらしい。

 そして樽には小銭(?)と食べ物系と──そういう構成になっているのだろう。まぁ検証不足で何とも言えないけど。


 いーやいや、ホクホクですよ!!


 それに謎の竹(?)も、3本GETしています。

 もちろん、ダンジョンの壁のあれです。もとからあった木の枝を指していたさや──……というか、枝用の落とし鞘にそれを差し替えておいた。


 ちなみに、回収した『鉄の槍』はやっぱり装備不可能で、もっぱら換金アイテムだ。

 なんか知らんが異世界仕様なのか、重いけど持つことはできるってやつ──装備はできないけどね!!


「いやー大収穫だぜ」


 ランタンの明かりを手に、速やかにリュックにそれらを詰め込み、『異国の竹やぶ』を攻略したことに気をよくして、ニヤニヤしながら次なるダンジョンへ向かうマイト。


 懐も心も温まったマイトは、上機嫌で夜の街をいく。


 もっとも街の中とは言え、ほぼ郊外なのでほとんど闇の中の大自然のど真ん中です。

 ほら、日本でいうなら、『なんとか市』といいつつも、地方都市田んぼのど真ん中とか山の中の県道とかあんな感じ?


 うん、なので実は今ちょっと怖いです、はい。

 …………あと、胃の調子もちょっと、ね。うん。


 まぁ、我慢だ。我慢。

 今日一日でかなりの稼ぎ。

 うまくアイテムが売れれば明日にでも別の街に行けると自分を叱咤激励する。そうでも考えなければ、またあの地獄ドリンクを数本飲まねばならないと想像するだに吐きそうになる。


 ううう……。


 せ、せめて次のダンジョン『微風の塔(推奨ランクC以上)』の壁が薄いことを祈るのみ。


 もっとも、残魔力は2しかないので、絶対数本は飲むことになるだろう……と、密かに諦めの境地──否、無の境地だ。


「さーて、そうこうしているうちに、次のダンジョンだけど────町、ちかいなー」


 暗闇にヌォーンとそびえているのは高さ50m級の巨大な塔だ。

 一見して吹き抜け窓だらけでがらんどう・・・・・のように見えるが、中は不可視の空間となっており、複雑な迷宮……となっているらしい──ギルド地図情報参照。


 そして、チラリと視線をよけると、

 キラキラとした街の灯り。


 ……うーむ、近い。


 昨日の墓場ほどではないが、街からかなり近いといえるだろう。

 つまり、デッカイ音でも立てようものなら、すぐに衛兵が駆け付けてくるだろう。


 まぁ、それ以上に塔という構造上、入口と出口が近いのも難点だろう。

 そして入口とくればギルド憲兵だ。


 衛兵より近くに詰めている彼らの存在も厄介だ。

 実際、遠目にではあるが、彼らの詰所がみえるくらいには、出口と入口が今までで最も近い。

これはよほど要領よくやらないと、バレるかもしれない。


 …………まぁ、バレたからと言ってどうということもないのだろうけどね。


 別にダンジョンを裏の出口から開けちゃダメという法律はないわけだし──そも、開けること事態が不可能だと思われているからねー。


 それよりも、こうしてコソコソしているのは、バレたたくないからだ。

 なぜバレたくないのかというと、それには明確な理由がある。


 なにせ、『スキル』というものは、召喚者たちにとっては命綱。

 それを、敵か味方かもわからないものにそれを明かすのは不用心もいいとこだ。


 それにマイトのこのスキル……うまく使えば、こうして無茶苦茶稼げるのだ。

 当然、知識がある者なら目を付けないわけがないし、

 そうでなくとも、ちょっと考えただけでも、ダンジョン攻略が容易になると思えば、利益を得るためにマイトを拘束監禁することくらい想像がつく。


 最悪、手さえ残っていればスキルは発動できるのだ……(もしかすると手もいらないかもしれない)、

 そうなると、四肢を落とし……ただのスキル発生装置としてだけ、一生飼われることにもなりかねない……。


 ──こわッ!


 オマケにマイトには自衛能力すら危うい。

 ……今、無事でいられるのも、役に立たないゴミスキルで、貧乏。

 さらにはクソ雑魚認定されているからこそ、誰も手を出さないだけなのを、よーーーーーーく自覚している。


 当然、マイトのスキルに・・・・・・・・目をつけるような奴・・・・・・・・がいるとすれば、ソイツはダンジョンの壁を壊せる道具が欲しいのであって──喋るマイトではないのだから……。


「うぅ、そう考えると絶対にバレるわけにはいかないな……」


 改めて自分の置かれた状況と、異世界という倫理と法律無用の恐ろしい世界について震えがこみあげるのであった。


 ……うん。

 絶対内緒にしよう。


 そう心に決めると、今回はことさら慎重に──そして、予定どおり今日はこれで終了することに決めたのであった。


「さて、本日最後の一か所。慎重にいくぞ」

 ただでさえ街が近い。

 迅速の爆破、迅速にアイテム回収。

 そのまま一気に街へ向かって宿に籠る──っと、よし!


「そんじゃ、まずは必要マナポーションを探りますかね」


 ……くっそマズイマナポーションだ。

 出来れば好んで飲みたくはない。少なくとも、数は減らしたい……。


 なので、まずは壁の厚さを確かめるべく、出口付近の壁に手を当てるマイト。


 そのまま、ステータス画面を呼び出すとスキルを通して壁の厚さを確かめる。


「発破よーい!」


 空気の振動とともに現れた召喚者にしか見えないステータス画面が中空に表示される。

 そこに記載された壁の厚さをみて、マイトは顔を引きつらせる。


  ぶぅぅぅん。


『目標──「ダンジョン壁」厚さ5000mm、使用魔力50』


 ……発破しますか? Y/N


「…………うーわ。壁ぶあっっっつー……!!」


 えー? 何センチあるのよこれ??

 いや、発破しますか?──じゃないよ?!


 いつも通り、スキルを使用してまずは『微風の塔』の壁の厚さを確認するマイトであったが、なんと本日ぶっちぎりの壁の厚さ!


 なんとまぁ──脅威の5000mm!!

 ……つまり500センチ?!


「ってことは、5メートル?!」


 どんだけぇっぇええ!!


 改めて、その分厚さに思い至りクラリと眩暈のする想い。つまり、最低5本は飲み干さねばならないと言うわけ。


 そして、なんとということでしょう。


 今回持ち込んだマナポーションはちょうどこれで打ち止め。きっちり五本であった。


「マジかよ……」


 予備も含めてこれとは、まるで狙っているかのようだ。

「くっそ……。やるつもりではいたけどさー」


 いっそ足りないなら諦められたのに、無駄にきっちり5本とか、殺しに来ているとしか思えない。


 だが、ここまで来た以上、


「ええい、覚悟を決めろ!!」



 ファイトォォオオ


ごっホーン5本!!」


 キュポ!


 そうして開けたポーションの瓶をまとめて5本口に突っ込み、一気に飲み干す!!


 うおおおおおおおおおお!!

 グビッ、グビグビグビグビグビ!



「ぶはー!」



 ちなみにポーションのサイズは、オロ●●ンなんとやらとほぼ同サイズだと言えばわかるだろ──……おろろろろろろろろろろ!!


 ご、5本はきッッッつ!!


 ち、ちまちま一本ずつ飲んでたら余計に気持ち悪いとはいえ、一気飲みはマジできッッッつ!!


「うぉえ……」


 やっべ、はみ出そう。

 し、死にたいー!


「はけほ、はふなほへ(だけど、吐くな俺)」


 吐いたら終わりだ!


 どこまで我慢したら魔力が回復するのか知らんが、吐いたらゼロになることだけはわかる! 知ってる!


 だから、耐えろぉお!!


 ひっひっふー

  ひっひっふー

   ひっひっ……



  ……ぶぅぅん




 ※ ※ ※


L v:1

名 前:マイト

職 業:冒険者

スキル:発破Lv1

取得済:Lv1「壁面発破」


●マイトの能力値


体 力: 11

筋 力: 20

防御力: 14

魔 力: 2/35 ⇒ 54/35(UP!)

敏 捷: 15

抵抗力:  9


残ステータスポイント「+0」


 ※ ※ ※




「っしゃおらぁぁああああああああああ!!」



 きた!!

 きたきたきたぁぁぁあああ!!


 そして、


 耐えた!!

 耐えたんだ俺はぁぁああ!!


 しかし、マナポーションそのものはまだ腹の中に留まっているのが分かる!!

 ……分かるが、ここまで耐えればどうやらマナポーションの不思議ぱぅわ~は、魔力を回復してくれるらしい。


 相変わらずの謎仕様だがそれでいい!!


 そして、

「よーし、今だ! 間髪入れずに破壊するぞー!」


 そしめ、さっさと宝を回収して、今日はもうぐっすり眠るんだ、俺! がんばれッ──おれ!



「──発破用意ぃぃいいい!!」



 異様に気合いをいれて──ブゥゥゥゥウン! とステータス画面を呼び出すと、そこには、先ほど同様。


『目標──「ダンジョン壁」厚さ5000mm、使用魔力50』


 ……………発破しますか? Y/N


 と来たので、ろんのもち!!

 すかさず・・・・──……!!


「ぽちっとなー……」




   ──ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!




「……ふーむ、なんじゃ? タダのダンジョンであったかー。おっかしいの~、街の近くのダンジョンと聞いておったが、どこにも壁破壊・・・の形跡など──……ん??」




    ⇒「Y」 ピコン♪




「む……?」

「ふぁ……?!」


 ………は?

 ……え?


「だ、誰?」

「お、お主こそなんじゃ?」


 え? お、女の……子?

 え?……げ、幻覚??


「……つーか、え? な、なんで開いたの?」

「つーか、お主こそなんでそこにおる?」


 いや、なんでっていわれてもそりゃ壁を爆破するためだけど……。


 つーか、押しちゃったぞ、俺!?


 目の前でせり上がり開いていくダンジョンの出口であったが、それと前後してマイトも、発破スイッチ・・・・・・を入れてしまった。


 どっちが先かは微妙なところだが、

 まさにマイトが発破スイッチを入れたそのタイミングで、ダンジョンの出口がグランドオープン。


 そして、なんということでしょう~♪


 絶妙なタイミングで現れたのは、出口から顔を出した女の子♪


 って、


「ええええええええええええええええええええええええええええ?!」


「ど、どわぁっ!! な、なんじゃお主?! 急に奇声をあげよって! しかも、こんな時間、そんなところで何をしておる──……はっ、まさか!!」


  ズザァ!


 不意に距離を取る少女。


 どうやら、マイトも混乱しているが、向こうもマイトの出現を予想していなかったのか、体を庇うように素早く離れて、警戒心をあらわにする。


 そして、何を思ったか硬直するマイトを尻目に自分を抱きしめると──きゃー!


「ま!……まま、まさか!! ワシがあんまし可愛いから誘拐のつもりか?! いや、もしかするとストーカーか!! つまり、待ち伏せぇぇええ?!」


 ズルッ。


「誰がストーカーじゃぁぁああ!」

 っていうか、

「なーーーーーーーーーーんでこんな時間にダンジョンの出口から出てくるんだよぉぉぉおおおお!!」


 おかしいだろ?!



 ……っていうか、ブルマの美少女?!



 え? 幻覚?!

 え? 妄想?!

 え? 昭和ぁぁああ?!


「あ、見間違いか」

「んなわけあるか、おるわここに!!」


 おるんかーい!!


 混乱するマイト。

 そして、困惑する少女。


「いやいや、待て待て!! おかしいだろ! 夜中だぞ夜中!! え?真夜中ですよ?!」

「お主に言われたくはない!! それで言うなら、お主こそおかしいだろ! なーんでダンジョンの出口におるんじゃ?! そんなんワシ狙い以外に何があるんじゃ! 言うてみぃー!!」

「だれが狙うかばーか!」

「バカっていったほうがバカなんじゃーい!」

「ばーか!」「バーカ!」


 ばーーーか!


 両者ともに至近距離での罵り合い。

 互いに頭に猛烈にクエスチョンマークを浮かべながらも一歩も引かずお互い指をさして、

 「あーでもない!」「こーでもない!」


  ぎゃーぎゃーぎゃー!!


 そして、しまいには、二人して「「あーあー!!」」言ってる間に、今回の秒読み開始・・・・・・・・





   そう。



   『カウントダウンを開始します』




 ついに、

 カウントダウンが始まったのであった……。

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