第9話「発破チャレンジ」

「発破よーい」


 ステータスオープーーーーーン!!


 なんとなくポーズをつけて、ダンジョン出口に手のひらをピタッとなー。


 目標のダンジョンの出口は、蟻塚のような巨大な土盛り──ちょっとした小山のようになった箇所だった。一見して出口に見えない構造だが、ここで間違いがない。

 地図にもそう書いてあったしなにより、ステータスが──。



   ブゥゥンッッ!!


『目標──「ダンジョン壁」厚さ3500mm、使用魔力35』


 魔力が足りません。

 ……………発破しますか? Y/N




「げ……!」


 ま、魔力不足??

 なんと、ここにきて問題発生。

 マイトの最大魔力33にたいして、必要魔力が35……。


「ってことは……。おいおい、発破できねーじゃねーか!!!」


 な~にが「発破しますか?」だ!!

 そもそも押せねーじゃねーか!!


 一応、聞かれたので、「Y」を押してみたが、そもそも表示がグレーアウトしているのか、うんともすんとも言わない!!


「くっそー!! まぁ、いつかはこんなこともあるだろうとは思っていたけどさー」


 そう。

 今までは運がよかっただけ──当然、ダンジョンのことだから、壁の厚さも色々あるだろうことは予想していた。


 そしてマイトの魔力はゴミカス級!!


 だけど、まぁ……いくらなんでもこんなに早くこの壁ぶち当たるとは思っていなかった。まさに壁なだけにな、はっはっは──……って、うっせーわ!!


「……ふんっ、だけど、諸々準備してきているっつの!」


 こんなこともあろうかと準備は怠らないマイト。

 伊達に3年この世界で生き残ってねーよ!


 ……というわけで取り出したりますわ──じゃん!!



   マナポーショ~~~ン(低級)



 テーレッテテー♪


「ふっふっふ。皆さんおなじみ、MP回復の超アイテム、それがこちらマナポーションです!」


 誰に言うでもなくカメラ目線で語るマイト。


 ──なんとこちら~、不足する魔力を回復する効果があり!

 そして、な、な、な、なーんと!! 全快状態で仕様しても、多少は魔力の上限を超えて、付与してくれる仕様つき!


 RPG風に言えば、


  魔力 33/33 ⇒ 43/33 という風に、限界値を突破してくれるのだ。


 もっとも、突破した限界はすぐに元の数値に塗り替えられてしまうので効果は一時的なものだ。

 それでも、今のマイトにはありがたい。


 ま、欠点はお値段が一本金貨1枚とくっっっそ高いこと────!!


「てりゃ!」

 だが、覚悟を決めて一気に飲む!!

 

  ぶっほっ!!


「くっそまじぃぃぃいいいいい!!」


 そう、欠点はこのクッッッッッッッソまずさだ!!


 なんというかこう──ゲロとクソを混ぜて、生魚を絞って青汁とシェイクしたような味と言えばわかるだろうか!!

 まぁ、そんなもの飲んだことないからわからんが、とにかくまずい!!


 あまりのまずさに、戦闘中にも魔法使いが使用を躊躇うほどだと言うんだから相当だ。


「ぅおーえ」

 はぁはぁはぁ。


 ……ス、ステータスオープン!


  ぶぅぅん……。



 ※ ※ ※

L v:1

名 前:マイト

職 業:冒険者

スキル:発破Lv1

取得済:Lv1「壁面発破」


●マイトの能力値


体 力: 11

筋 力: 20

防御力: 14

魔 力: 45/33

敏 捷: 15

抵抗力:  9


残ステータスポイント「+0」


 ※ ※ ※



 うっしゃ!!

 きたぁぁぁあ!!


 のんだったー!!

 飲んだ介あったったわー!!


 これで+1とかだったらどうしようか悩んでたぞ! もう一本飲む気にはとてもなれないからな……まぁ、その時は飲むけどさ!!

 マナポーションも手作りらしいので回復量に幅があるのはよく知られているが、まぁ、概ね+10~+12くらいだな。覚えておこう。

 ……最悪、今後行くダンジョンの壁が滅茶苦茶分厚いことも想定しておかないといけないしね──。


 よし!

 というわけで改めて──ステータスオープン。


 そして、

「発破よーーーーーい!」



 ブぅぅうン……ッッ!!


『目標──「ダンジョン壁」厚さ3500mm、使用魔力35』


 ……………発破しますか? Y/N


「きた!!」


 きたきたきた!! きたこれ!!

 思った通り、「Y」がグレーアウトから白表示・・・


 押せる!!!

 押せるので────押す!!



 ……ぽちっとな!!



 ⇒「Y」 ピコン♪



 『カウントダウンを開始します』

  『危害半径からの退避を勧告します』



 っしゃ!

 成功ぉぉ!!



 そして、ここからの────退避ッ!!


『カウントダウン開始──……60 59 58』

「しゃッ!」


 気合い十分! 脱兎のごとく駆け出すマイト。

 さすがに3回目ともなれば慣れてくる。

 爆破の瞬間、腹がキュッとなるようなあの感覚はすぐには慣れそうにないが、今この瞬間、恐怖に足がすくむことはなかった。


 なにより、おおよその危害半径は把握した。


 そよによれば、

 最初は魔力30

 昨日は魔力25

 そして、今回は魔力35!!


 なので、いつもより遠くに逃げる必要あり──そして、その距離は概ね35m!!

 肌感覚だが、魔力の量と危害半径は概ね合致しているらしい。


  (※ つまり、魔力1で危害半径1mということ!!)


 もっとも、破片とは違って、爆風はどこまでも飛んでいくので、35m地点に突っ立っていれば無事と言うわけではない!


「え~っと、一歩でだいたい75cmとして────概ね、このあたりか!」


 歩数で大雑把に距離を計算したマイトは、そこからさらに安全距離をとりつつ、そのまま伏せる!


 ほんとうは遮蔽物があればいいんだけど、このへんにそれらしいのはちょっとした低木くらいなもの──なので、その木を盾にしつつもキチンと距離をとって……。


  『3 2 1──いま!』



   ズバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!




 びりびりびりびり!!


「うっはー……耳にキーンときたぁ」


 頭の上をゴウ!! と爆風が流れていき、肌が熱く炙られる。


 そして、おなじみの破片がバラバラと降り注ぐが、それは殆んど小石程度──。

 なるほど、危害半径35mというのは、おおよそ大型の破片の飛翔距離。それが35m以内ということか。


 そして、破片が収まったのを見るに、おそるおそる顔をあげてみれば──YES!!


「……よっしゃ、成功!!」


 人知れずガッツポーズ。

 濛々と黒煙吹き出すなら、ぽっかりと開いたダンジョンの出口が見えるではないか。

 それは緩やかな下り逆となっており、地下へと続く道──そして、その先には、



  宝箱発見!



「うおっしゃぁぁあああ!!」

 今回の宝物庫は箱3つ!!


 おーけい、おーけい!

 3つでも、十分な成果だ!


 そして、概ね予想していた通り、



● 金貨袋(中身は金貨8枚)、

● ポーション×5、

● 緑の魔石(中)×1



「おっしゃ!! いーい稼ぎだぜ!!」


 ガッツポーズをきめるマイト。


 ──いいねいいね! いいじゃないか!!

 魔石は売れるし、ポーションは予備を残して、あとは売ればいい。

 ダンジョン産のポーションは効果が安定しているので、需要が大きいのだ。

 そして、金貨はそのままで嬉しい!!


 ……やはりお金!!

 お金は全てを解決する!!


「ひゃっほー!」


 ダンジョン内で小躍りするマイトであったが、闇の奥でヌラリと何かが動く気配。

 しゅー、しゅー! と息遣いのようなものも聞こえれば、なにやら光る2つの目────わーぉ。……ボスモンスターがこっち見てるぅ。


 ここも宝物庫を隔てる扉がないタイプのダンジョンらしく、ボスと目が合っちゃう。

 ……多分、ここまで来れないはずだけど、こっわ!!


「大蛇かー……。これを倒して、この報酬が割に合うのかはわからないところだな」


 金貨8枚程度とこの大蛇を倒すコストが見合うかはほとほと不明だが、

 まぁ、ボスを倒してのドロップ品や、道中の宝箱も合わされば最終的な収支は上になるのかな?……マイトには関係ないけど。


 なにやら、恨めしそうな視線を感じつつ早々に退避するマイト。

 ボスが宝物庫に入れるかどうかは不明なので、長居する必要はないだろう。君子危うい気になんとやらだ──。


「さて、いきなりいい感じにゲットできたけど──次はどうするかな」

 予定のダンジョンはまだ二つ。

 同じ町の中なので、夜の間には回れるだろう。まぁ、街と言ってもむかーしの人が作った城壁の中に大きな集落と小さな集落が点在しているだけなんだけどね。

 なので、中にはダンジョンや、無人地帯もたくさんある。

 それくらいに滅茶苦茶広大なのだ。


 なので、街中とは言え電動バイクが欲しいぜ……。


 ちなみに、転生者が自転車・・・の知識を持ち込んで売ろうとしたけど、いまいち反応は良くなかったらしい。


 ……まぁ、道がこれじゃね。


  とんとん


 踏みしめる先──土の道。

 この世界、アスファルトでもないこの凸凹の土道がデフォルトだ。もちろん、街道でこれなので、それ以外はもっとひどい、実質ほとんど荒れ地みたいなもんだ。

 そこに、ゴムタイヤもサスペンションもろくにない自転車で走る?……冗談だろ──というわけで、今のところ一部の好事家に売れている程度。


 ……っと閑話休題。


 そうこうしているうちに、そろそろ、騒がしくなってきたかな。

 向こうの方で人の気配と声がする。


 多分、爆音に気付いたギルド憲兵のおっさんが右往左往しているころだろう、

 幸い、昨日の「墓」と違って、街の中でもないので、市街地所属の衛兵隊が異変に気付くまではまだ時間がかかる────なので、次は、やはり街から少し離れたダンジョンに挑戦だな。

 この様子からして、町に近いダンジョンは最後のほうに回すのが無難だろう。

 最悪、バレてもそのまま宿まで逃げればいいのだ。


 うっし──!

 そうと決まれば、次は、やや遠くの『異国の竹やぶ』……ここに決まり!


 次なる目標に目星をつけたマイトは戦利品を手に、いそいそと立ち去るのであった。

 そのあとでは、ボロボロになったダンジョンの出口がス~っと一人でに塞がっていくところえお見届けずに──。



※ その頃── ※



「っかー、田舎じゃのー」

「そういうこと大声で言わないでください!!」


 突如、最初の街ことグラシアス・フォートの街中に出現した美少女と、ローブ姿の青年。

 どうやらファスト・ランを使ったらしく、直後はその突然に出現にびっくりした町の人も、なんだ──と言った表情ですぐに興味を失う。

 もっとも、数名の男どもは、突如現れた美少女に目を奪われていたが連れの男がいるみたいなので、チラチラ見る程度。


 それにしても、一体彼女等は──……。


「どうします? もう夜みたいですけど──」

「ああん? 知ったことか。ワシは忙しいんじゃ、とっとと調査を済ませるぞ──ほれ、案内せい」

「いや、案内って言っても──ちょ! ひっぱらないで!! ま、まずはギルドに寄って、それから、ホテルにいきましょうよ! 暗いとなんもわかりませんって!」


 そうやって少女を押しとどめるのは、魔塔のエリート、『大魔導士アークメイジ』の青年であった。

 そして、もちろん美少女の正体は世界最高峰の魔術研究機関の長──『魔塔主マスター』である。


 まぁ、そうは見えないんだが……、

 それはさておき──。


「ホテルぅぅうう……? うひひ、お前、ワシを連れ込んでなにするつもりじゃー。あ、ナニかー?」

「何もしませんよ! ナニも! なに言ってんですか全く──セクハラですよ、そーいうの」


 かっ!


「なーにがセクハラじゃ! 異世界人召喚者どもしょーもない知識ばっかり持ち込みおって。そんで言うなら、お前なら、セイショーネンホゴイクセイジョーレーとかいうのに引っかかるじゃろが、おーい、おまわりさーん」


 んが!!


「や、やめてくださいよ! ここは魔塔がある土地じゃないんですから、衛兵の融通が利かないんですよ!」

 まったくもー。

「だいたい、まずはギルドでしょ!! 情報を持ってきた魔術師もギルド経由だったんですから──」

「ギルドかー。ワシはあんまし好かんのよなー、あそこ。……ま、ええわ。そっちはおぬしに任せるゆえ──ワシは先行して現場あたりを探らせてもらうぞい。どうせ田舎じゃ、ダンジョンゆーても数えるほどじゃろて」

「いや、場所知らないんでしょ?」

 っていうか失礼だね、チミィ。

「アッホか!! ワシを誰じゃと思っておる。この街が出来る前から知っとるわ!!」

「いや、何年前の話ですか! そも、出来る前の話じゃ、よけい場所わからないでしょーに……って、もう行ってるし」


 はぁ。


 マイペースな魔塔主に項垂れつつ、ギルドに寄ってからホテルとらないとなーと、庶民くさいことを考えるエリート様なのであった。

 あ。もちろん、宿の部屋は二つである!! あしからず!!


 ……あと、風呂はきっちり準備しておこうと固く決意するのであった。


 でないと、魔塔の沽券こけんにかかわるからね。あの体臭はもはや兵器です。はい。

 あと、服はもうちょっとなんとかならなかったのだろうかとシミジミ思う青年。


「はー。こすぷれ・・・・って奴ですかねー?」


 異世界人の持ち込んだ衣装。それらを研究と称して一時期集めたり開発したりとしていた物のひとつらしいが……。


 なんだっけ?

 たしか「ぶるまー」とか言うんだっけ?

 それを履いて、頭には辛うじて耳を隠せる運動帽をひとつ──……うーん、いいのかあれ?「動きやすいんじゃ!」とか言ってたけど、色々アウトじゃなかろうか。


「……ま、いっか。どーせ言っても聞かない人なんですしねぇ──」


 嘆かわしいと首を振りつつ、

 モワモワ~……と、瘴気の様な悪臭を放ちながら、ドン引きの街の人々の間をのっしのっしと歩く──我が魔塔主殿を苦笑して見送りる大魔導士の青年。


「……っていうか。もう、向かう方向違うし」

 なんとまぁ、言ってる傍から全然違う方角。

 すでに、報告のあったダンジョンとは明後日の方に向かう我が主を見て、苦笑するしかない。


「……ま、大丈夫です。あれでも『魔塔主』。滅多なことでどうにかなる人じゃないですしね」



 はぁ……。

 マイペースな上司に振り回されるエリート様は、大きくため息をついて、とぼとぼとギルドに向かうのであった。

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