第8話「今後の目標」
「ふーむ……」
ギルドを出たマイトは、街の公園で夕飯代わりのホットドッグを齧りながら、メモに目を通す。
そこにはクセ字でいくつかのダンジョンが書かれていた。なんでも、特殊な装備がドロップすることで有名なダンジョンなんだとさ。……確かに言われてみればいくつか聞いたこともある。
●英雄たちの古戦場:推奨ランクA「魔法装備(中~大)」
●天空迷宮:推奨ランクS「ミスリル系装備、オリハルコン系装備」
●深海の揺り籠:推奨ランクS「魔法装備(大)」
●竜の墓場:推奨ランクS「ドラゴンボーン系装備」
●死霊王の寝所:推奨ランクA「魔法装備(中~大)」
●闇の森:推奨ランクA「ミスリス系装備、魔法装備(中)」
なるほどなるほど──……。って、
「──ぶほぉぉ!」
思わずホットドッグをぶっ放すマイト。
あ、あ、あ、
「あの親父ぃぃいい!」
ウチの召喚者上位の『聖剣』君とかがチャレンジするクラスだろうが!
マイトさんじゃ、そもダンジョンにすらたどり着けねーよ!!
こちとら万年レベル1で、ネタスキル持ちだっつーーーーーーの!
つーか、この手の有名なのは、ドロップ品とかじゃなくて、ヤバさで有名だっつーの!
「まったくもー。馬鹿にしやがって──……あ、裏にもあったわ」
ペラッ
●霧の谷:推奨ランクC「魔法装備(小~中)」
●悪鬼の牙城:推奨ランクB「ミスリス系装備、魔法装備(小)」
●白骨王宮:推奨ランクC「ドラゴンボーン系装備、魔法装備(小)」
●濡れそぼつ水路:推奨ランクD「魔法装備(小)」
●狼と猫の闘技場:推奨ランクD「魔法装備(小)」
●古代ドワーフの鍛冶倉庫:推奨ランクB「ミスリル系装備、オリハルコン系装備」
「……お?」
おおおお??
これは、これは……。
「ふむ…………」
ふむふむ、ふむ。
もぐもぐ
「……推奨ランクD、か」
ごくん
いいじゃん。
あるじゃん。
有名どころではないが、このあたりならなんとか行けなくもなさそうだな。
メモを見る限りだと、それ以下は見つからないけど──こうしてみるとあるにはあるようだ。
そして、無料で教えてくれた情報でこれだけあるなら、ギルドの有料情報を買えばもっとあるかもしれない。
「もっとも、どれも近場というほどでもないし、行くにはそれなりに時間もお金もかかるみたいだな」
さて、どうしたものか──。
「うん、よし!!」
しばし思案していたマイトであったが、
案ずるより産むがやすし──。日本には素晴らしい格言がある。……なのでまずは行動だ。幸いにも荷物らしい荷物はないしねー。
そうして向かった先は辻馬車がたむろする停留所こと──城門前広場。
グラシアス・フォートと外界をつなぐ玄関口だ。
てくてくてく
目標は、そこに
「ぅおーい。そこな、おっさん。馬車に乗せてくれー」
声をかけたのは、見るからに暇そうにタバコを
積載物の様子からして、定期便のそれだろう──。
ちなみに定期便とは、
町と街あるいは町からダンジョンをつなぐ馬車のこと。
それらの運航元は、主に前者は「街の議会」や「領主」。後者が「ギルド」のことが多い。
「……んあ? 何だガキ──これは要塞都市フォート・ラグダ行きだぞ?」
ジロリ。
じろじろじろ。どうやらマイトの恰好をみて値踏み中──金が無さそうだと判断したらしい。……それに装備だって木の棒だしね!!
「なんだよ!」
「……乗るのは勝手だが──先払いだ」
実は、この通り──街から街へいくのはそれほどハードルは高くない。
マイトはまだ経験はなかったものの、なにも昔のRPGのようにレベルを上げてエッチラオッチラ歩く必要はなく、こうして定期便に便乗し、次の街へ向かうのが一般的なのだそうだ。
とくに召喚者が最初に集まる「はじまり街」とも呼ばれるこのグラシアス・フォートから先への旅程はそのパターンが常習化しているらしい。
そして、道中の安全は馬車側で保証してくれるため、暇を持て余しているうちにとうちゃくという寸法だ。
必要なのはお金だけ──そういう意味では、お金さえあれば遠方の街や。AやSランクのダンジョンの近くにいけなくもない。
──そう、お金さえあればね。
「いくらだ?」
「金貨15枚」
たっか!!
「たっか!!」
あ、声に出ちゃった。
「当たり前だろ。……護衛代、飯代、途中の野営だの宿泊管理だのと、タダじゃねーんだぞ」
「ぐ……」
そりゃそうか。
それも、ぎゅうぎゅう詰めに乗っても、15、6人程度の馬車だ。そこに荷物を牽引しつつ、魔物だらけの道を通るために護衛付き。
もちろん、モンスターのレベルの応じて、高ランクの護衛の腕も必要になるので、その分、割高──……。
「まけ──」
「まけねぇぞ。これでもウチは良心的な値段だぜ? いやなら
タバコを咥えつつ、興味なさげに、
そこには…………見るからに貧相な馬車。そして、どっかで見たようなモヒカンの御者に棘付き肩パットの柄の悪そうな護衛──。
(※注:この世界の標準的チンピラファッションらしい)
そして、なんと──お値段銀貨5枚、超特急。若い女性は無料……と。
……うん、無いな!
(つーか、怖いわ!!)
なんやねんあの馬車!!
なんか
しかも、女性がタダとかおかしいだろ!!
超特急でどこに連れていく気だよ、バーカ!! 地獄か?! 地獄への特急か?!
そこに、
「あ、見てみて! あの馬車やすぅい!」
「いいね、あれにしようか! よーし僕たちの冒険はここから始まるぞー」
「「さんせー!」」
…………あ。
なーんもわかって無さそうな田舎出の新人っぽい冒険者が乗り込んでったぞ?
護衛と御者が「へへへ」とか言ってるけど、おかしいでしょ?! な~んで武器を取り上げてんの?! な~~んで、馬車の中に檻があんの?! そして、あの子らは何で疑問ももたないのー! 警戒しろよ!
乗った時点で、君たちの冒険は終了だよ!!
「……どーする?」
「あ、また後日来ます……」
あいよー。
タバコをふかした御者のあんちゃんと分かれて、マイトは再び街へと引き返す。
どのみち、宿代がもったいなかったわ!! まだ数日分あるしね、うん!
…………え?
馬車に乗った子らは、ど-したかって?
どうもしねぇよ!!
いや、
……どうしろっていうのよ??
まぁ、強く生きるんじゃないの? 知らんけど──。
「しかし参ったな……。馬車があれほど高いとは」
どーりで同期のアタリスキルの成功組は、徒歩で他の街に向かったわけだよ。
今まで馬車とかに縁がなかったから気にしてなかったけど、納得だわ。
レベルも上げつつ、徐々に別の街に向かった方が結局効率がいいんだな。RPG理論納得──。
まぁ。そもそも、金に飽かせて高ランクのダンジョンや遠方の街に行ったとして──そういった町やダンジョンの周辺は、そのランク通りに魔境クラスのモンスターがウジャウジャいるので、安全地帯から一歩でも出たら死ぬけどね。
「──とはいえ、俺の場合は魔法装備とかミスリルの装備がないとレベル上げもできないんだよなー」
木の棒でどうやってモンスターと戦えってんだよ。
他の手段としては、ステータスアップ系の「薬」とか「アイテム」をゲットして使うという手もあるが、結局のところそれも高価。もちろん金貨1枚2枚の世界ではない。
なにせ、基本はドロップ品か、高価な薬草などを組み合わせて作るしかないのだから当然と言えば当然──。
「しゃーねぇ、当初の予定通り、魔法装備をなんとか手に入れよう」
……それからだ。すべてはそれから。
そして、
人を雇うと言う手もないではないけど、異世界の人って超怖いのよね……。
金を払って雇ったとして、夜に寝首を掻かれない保証はどこにもない。
だから最低限倫理観を持ち合わせている元の世界の人間と組んでいたわけだが──(※ もっとも、最近ではそれも怪しくなってきている。)。
よし!
決めた!!
「まずは、近場のダンジョンを徹底的に漁るか!」
……もちろん裏の出口からね!
そうして、今は金策重視とそう決心したマイトは、宿に引き返し早めに休んで夜を待つことにした。
なんで夜限定かって?
──そりゃ、昼間はチンピラどもがいるからだよ……。
もう殴られたくないのよ、
衛兵隊だってアテになんないしね。……賄賂とか上等の世界なんですよ、ここ。
そんなわけで、わりと情けない理由で昼間の探索は諦め、早めに就寝するのであった。
そして──。
かー!
かー!
夕方……。
早めに寝ついたせいで夜にもならない、微妙な時間に目が覚めてしまったマイト。
まだまだ町は起きており、外はガヤガヤと騒がしい。もちろん、宿のほうでも宿泊客や店主らの声が響いている。
そして、ドアの前には、食事が一人分。
……なるほど。寝ついて起きてこないマイトのためにルームサービスが取り置きされていたらしい。
高いだけあって気が利くわー。
ちなみにメニューは、黒パンにラードとジャム。冷めた野菜のスープに乾燥野菜のサラダ。味はまぁまぁ。
もぐもぐ
すっかり冷めきった食事を口に運びながら、ギルドで買った地図をバサリと広げる。
お高いギルド謹製世界(?)地図と、この町周辺の地図だ。
値段は張ったが、今後の活動に必要なのでそこは妥協せずに払ったよ? おかげで現在の残金金貨3枚……。とほほ。
「さて、そんなわけで──まずは魔法装備を手に入れるために、Dランクダンジョンの『濡れそぼつ水路(推奨ランクC以上)』か、『狼と猫の闘技場(推奨ランクC以上)』を目指すわけだが、」
書き書きッ
世界地図に目標地点を注記する。
前者が商業都市『エンバランス』、後者が古都『グラン・シュタット』だ。馬車の料金はどっちもだいたい金貨15枚~20枚ほどかな──いや、乗り継ぎで行けばもうちょっと掛かるかも。
一応、今のマイトなら少し稼げば払えなくはないけど、その後の滞在のことを考えるともう少し懐に余裕は欲しい。
最悪、むこうで何も稼ぎが無くても、この街に戻ってくるだけの金は必要だ。
……なんの魅力もない、初心者ご用達のこの街だけど、魔物があまり狂暴じゃないので、金さえあればとりあえず生きていける環境なのだ。
吹き溜まりともいえるが……。
そして、運よく向こうでダンジョンの
ちなみに、手に入るのは『エンバランス』も『グラン・シュタット』も「魔法装備(小)」だ。
その(小)というのがいまいちわからないが、まぁ大きさのことではないだろう、多分、魔法効果的なもののハズ──。
その後、魔法装備で攻撃力の壁をクリアして、モンスターを倒してレベルアップする!
「……うん! 行けそうな気がしてきた」
長期目標は、もちろん、元の世界への帰還もしくはその方法の確立だ。
しかし、
なので、マイトとしては
ま、いきなり欲張ってもいいことはない。
というわけで──。
「よーし、当面の
次は──小目標。
この街のダンジョンで稼ぐ方法だ。
……陽が沈みつつあるのを横目で見ながら、部屋のランタンに火をともす。
ボンヤリとした灯りがつくと同時に、逆に周囲の薄明りが逆に暗闇に沈んでいく。
うん。逢魔が時の時間がきた──もう少しすればダンジョン周辺の
そして、その狙い目のダンジョンは──。
バサリ
今度は、街の周辺地図を取り出し、目星をつける。
最初に侵入した──ランクDの『牙ある野獣の巣(推奨ランクD以上)』と、次に入った同ランクの『暴かれた納骨堂(推奨ランクD以上)』はパスしておこう。
とくに『暴かれた納骨堂』のほうは、派手に爆音を出したせいで騒ぎになりかけたからな。
とすると──。
つつつ、地図上を視線を泳がせていく。
その地図には、いくつかのダンジョンが記載されている。ギルド謹製のお高いやつなので、情報もばっちり。
「ふーむ……。郊外のダンジョンは、道中に魔物の危険性があるから──いまは除外するとして、」
もちろん街郊外のダンジョンも後々は行ってみたいが、今のマイトでは街の外をうろつくゴブリン一匹でも命とりなので、街の中から行けるやつが一番望ましい。
街の周辺をぐるっと囲む城壁はボロボロのところもあるので100%内部が安全とは言えないが、少なくとも衛兵の巡回がある分、外よりはマシ──。
……まぁ、その分、今言った衛兵に見つかる可能性ばあるわけだけどね。ギルド憲兵隊もダンジョンの入口を見張ってるだろうし。
(※ 街の郊外のダンジョンは基本的に無人。安全地帯から接続しているダンジョンは、子供などが入らないように見張られているのだ。なにせ、ダンジョンが入口を施錠することもできない不思議構造なので……)
「──とすると、
郊外に出ずともダンジョントライ可能な、街中に存在するダンジョン──。
●「毒蛇の坩堝」推奨ランクD以上、ただし、回復薬と毒けし草必須 『入手アイテム:毒牙、蛇皮、魔石(紫)』
●「異国の竹やぶ」推奨ランクD以上 『入手アイテム:ゴブリンの装備、魔石(無)』
●「微風の塔」推奨ランクC以上 『入手アイテム:モンスター素材多数、魔石(緑)』
ふむふむ……。
むかーし、どれも一度は下見にいったことがあるな。
中には入ったことないけどね──死ぬし、
たしか、
『毒蛇の坩堝』は、地面に開いた穴──いわゆる洞窟タイプ。
『異国の竹やぶ』は、森の一個区画で、木々に覆われた壁がある限定型のフィールドタイプ。
そして、
『微風の塔』はまんま塔だったはず。
外から内部が見えない不思議仕様の、ピサの斜塔をシャキっとした感じの塔が街外れにポツンとた建っていたっけな。
ちなみに、ダンジョンは基本Dランクからで、推奨もD以上だ。
Eランク(※ルーキー)の挑戦は、一切推奨されてはいない。……死ぬから。
「よし……!」
ま、ここは、
せっかくなので一個二個と言わず、全部回ろう!!
なにせ、薬草だの毒消し草必須だのと書かれているが、マイトには関係ない!!
「なにせ、裏口からはいれるからねー!」
はーっはっはっは!!
……そして、高笑いするマイトは今──。
件のダンジョン『毒蛇の坩堝』に来ていた。
宿にはいつもの言い訳で、弁当とランタンを用意してもらって準備万端。
周囲は暗闇に包まれており、ダンジョン化した穴の前には小さな番兵小屋があった。そこには生あくびをかみ殺したギルド憲兵がひとり暇そうにしている。
しめしめ
どうやら、ここはまだ目をつけられていないらしい。
いやー、よかったよかった。
昨日の今日で、ドカンドカンと
ほんと、発破の威力はスゲーけど、欠点は音がデカすぎる事だよなー。
ま、
さて、そんなわけで申し訳ないけど、今日も騒がしくさせてもらいますよっと。
(──うるさいだけで、害はないのでご容赦してよ?)
そんなことを考えつつ、
足音を殺して、入口とは逆方向に向かうマイト。
ギルドで買った地図にはご丁寧に出口まで記載されている親切仕様だ。
これでわざわざ足跡を探して出口を探る必要もなくなった────っと、あったあった! これこれ!
正確な地図に大感謝。
そこには、はっきりくっきり足跡が残されており、よくよく見ればアイテムも少し散らばっている。
どうやら、ものぐさな冒険者がちょっとの距離を惜しんで『ファスト・ラン』を使ったのだろう。
タイミング的にチンピラどもが帰った後なのだろうか?
無造作にぶちまけられた消費期限間近の薬草や、ポーションの空き瓶、毒蛇素材の肉や皮なんかが落ちているものの手が付けられた形跡はない。
……本来はこれを狙って金を稼ぐつもりだったが、今のマイトはこんなものには目もくれない──なにせ、それよりもこの先のお宝の方が十分に価値があるのだから!
って、わけで──、
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