第6話「トライ&トライ」

 ホー! ホー!!

   ホー! ホー!!


 薄い月明かりの元、

 夜行性の鳥が静かに鳴く明け方近くの一番暗い時間帯に、マイトは起き出した。


 もちろん、宿の主人に怪しまれないように事前に通告済み。銅貨を置いておけば野外用のカンテラまで準備してくれた。


 いや、助かるわ~……。


 こういう時、冒険者って便利よね。モンスター退治とか適当に言っておけばそういうものかと誰も疑わないし──。


「……っと、いかんいかん、最近マシジで独り言が多くなってきた」


 というのがすでに独り言なのだが、本人気付かず。


 そのまま、深夜の街をブツブツと歩く怪しい人物となりながら、カンテラ片手にダンジョンに向かっていた。

 向かう先は、先日行った『牙ある野獣の巣』以外の別のダンジョン・・・・・・・だ。


 ちなみに……。

 なぜこんな時間なのかというと──昨日のチンピラの一件があったからだ。


 マイトは忘れていない……。

 恐怖とともに刻み込まれたあのセリフ。



  「……おい、ガキ──今度ここで勝手にモノを漁ったり姿をみたら……」

   すらんッ!!

  「喉を掻っ切るぞ!!」



「う~……ぶるぶる」


 くわばらくわばら


 そう。

 異世界に召喚されて以来、暴力的な世界にあってもろくな戦闘経験を積んでいないマイトにとってはチンピラの脅し文句と殺意は怖すぎた。

 それはもうトラウマ級に──。


 ……だから、今回は絶対に出くわさないようにしなければならない。


 たとえ、あのチンピラのいう縄張りが『牙ある野獣の巣』だけのことを指していたとしても、万が一ということがある。


 いや、多分。

 十中八九、万が一ではすまないだろう。

 あんな風に半グレ連中が縄張りにしているってことは、ああ言った連中界隈では、『乞食プレイ』はシノギの一つになっている可能性が高い。


 ならば、『牙ある野獣の巣』よりも手軽なダンジョンなら、余計にあのチンピラ連中か、他のアウトローな連中が縄張りにしている可能性がある。


 ……とはいえ、連中も四六時中ダンジョンを見張っているとは思えない。

 ギルド憲兵隊の巡回もあるし、なにより非効率的だ。


 実入りのいいダンジョンならともかく、街の周辺にあるダンジョンの報酬なんてたかが知れているし、

 なにより近いだけあって、わざわざアイテムを捨てるような真似をするものも余りいないというわけだ。


 結果として、乞食プレイをしているチンピラも、おそらくダンジョンに冒険者が入った時間を逆算して、張っているのではないか──と踏んだわけだ。


 そして、

 その予想は見事的中。


 あるいは深夜の時間帯のせいもあるかもしれないが……。

 まぁ、いずれにしてもマイト以外に不審者の姿はなし。


「よかった……」


 慎重に息をひそめて周辺を警戒していたが、これだけ待機していても、ダンジョンの入口に詰める憲兵が数名、不寝番に立っているだけだった。

 うん……一般人が不用意に入ってしまわないための入口監視ご苦労様です。


「さーて、それじゃ、ダンジョンちゃんのほうはどうかな……?」


 念のためカンテラの明かりを落として、月明かりだけで進むライト。

 別に犯罪行為でもないけど、ギルド憲兵隊に見つかってもいいことは無さそうだ。


 ちなみに、これから向かう先は、同じくDランクダンジョンの『暴かれた納骨堂』だ。

 名の通りアンデッド系の湧くダンジョンだが、人工物系ダンジョンのため、街の外──フィールドではなく街の内部にある珍しいタイプだ。


 なので、深夜でもレベル1のマイトがウロウロできるって寸法──。


 なんでそこまで知ってるかって?

 そりゃ、ここ・・こそ、むか~しにゲンキ君たちとクリアしたダンジョンだからだ。


 内部の宝物庫のことも、ダンジョンの空気もここで知ったというわけ──街中ということもあり、ここはお試しダンジョンの要素もあるのだ。

 そして、今回……特にここを選んだのは、そう言った事情 プラス 検証も兼ねている。

 つまりは、クリア後のダンジョンに再トライして宝箱を入手できるかということ。


 ま、それを疑問に思ったのは、ゲンキ君たちに追放されて間もないと言うのに、『牙ある野獣の巣』の宝物庫にマイトが侵入したときに宝箱が健在だったからだ。


 二回続けての宝をGETできない仕様なのは先に述べた通り。


 もっとも、前回の場合は、マイトがパーティを追放された直後と言うこともあって、完全に別パーティ扱いだった可能性もある。

 ──つまり、たまたま・・・・そうだった・・・・・ともいえるのでグレーな状態。

 なので、今回はその検証も含めて、というわけだ。

 もし、内部に突入し宝がなければ、二回続けてのトライは不可能だと立証できたことになる。それと同時に追放は別パーティ換算にもなることも検証できる。


 そして、もし? もしも……であるが、宝箱が復活していた場合──マイトのスキルはこの世界のクリア得点は二回目はなし、という法則を無視できることになる。

 それはつまり、無限にダンジョンの出口を破壊して、お宝だけGETできるという非常に美味しい・・・・・・・ことになるのだが……はてさて。


「まぁ、そんな美味しい話何と思うんだけどね──」

 

 あはははー。


 ……とはいえ、

 検証はしてみる価値はある。


 なので、

「おし……。不審者なしっと、」


 『お前や!』とツッコミが来そうだが、それを完全にスルーしたマイトさん。


 この分だと、他のダンジョンでも『乞食プレー』をしている連中は、冒険者がダンジョン内で夜を越して深夜に出口に到達する──というイレギュラーについては端から除外しているらしい。

 まぁ、夜通しずっと見張ってるのも苦痛だしね──費用対効果って奴だな。


「……っと、そろそろだな。え~っと、こっちだったっけか? 出口は──」


 ポキ、パキ!!


 冒険者の踏み跡らしき獣道をかき分けていけば、あるわあるわ……。

 墓地らしく野犬が掘り出したのか、人骨が散らばる不気味な道──。


 それらの気味の悪さに怯えつつも、視線の先にはうっすらと見えてきたのが白い大理石つくりの──納骨堂だ。


 大昔の納骨堂が満杯になり──訪れる者も少なく管理がおろそかになったとかで、気づけばダンジョン化していたとかなんとか…………うん、よくわからんけど、まぁ、そういうもんだろう。


 ダンジョン遍歴は、あまり深く考えないマイト。

 とにかく、それ・・が自然発生すると覚えておけばそれでいい。


 いずれにせよ、古い墓地の並ぶ巨大霊園の端にこのダンジョンはあった。

 入口部分はギルド憲兵が厳重に見張る納骨堂入口。


 そして、今マイトが向かっているのは、出口となっている・・・・・・・・かつての通風孔の

 『跡』というだけあって、今やダンジョン化したこともあって、この出口もしっかりと閉ざされている。


「……あった」


 その出口を発見。


 月明かりのなか、不気味に沈む墓地の奥にそれはあった。

 一見してただの土盛りだが、その周囲には不自然なくらい多数の踏み跡の残っている。


 間違いない、ここがそのダンジョンの出口だ。

 ──足跡の正体は、内部から数多の冒険者が生還した時に付けたものだろう。


「はてさて……」


 目論見通り出口に到着したマイトは、念入りに周囲を確認しつつ、

 そっと出口付近に全身を擦り付けると、感触を確かめるように、スリスリとその壁を撫でるてみる。


 当然だけど、びくともしない──。



「……ステータスオープン」



 ぼそっ。

 小さく目立たぬように唱えると、思った通り、



  ブゥゥゥゥウン!!



『目標──「ダンジョン壁」厚さ2500mm、使用魔力25』


 ……………発破しますか? Y/N




「……わーお」

 でたよ。




 な~にを当たり前のように発破指示だしてくれとんねん……。

 

 すげぇわ、びっくりだわ──。

 ……つーかこのスキルって、やっぱ「ネタスキル」か?


 外れというか、これ絶対ネタスキルだよね!?


 Lv1で『壁面発破』とかあるけど、他にどうなるねん?!

 どう考えても全部『〇〇発破』とかだろ?! 壁以外に何を発破できるっちゅうねーん!!


 ネタはネタやけど、チート級のネタじゃねーかよ!


「……って、それは置いといて」


 置いといて──の仕草を、暗闇の中で一人でやりつつ、

 ある意味、チート過ぎるこのスキルであるが、そのスキルがいうのだ。


 ……僅か、魔力25程度の消費でダンジョンの壁ぶっとばしたげるよー、って。


「ふっ、冗談きついぜ──」


 …………ま、試すけどね。

 仮にだ。仮にもし……もしも、これがうまくいけばマイトには、なんというかドエライことになる予感があった。


 そう。

 ほんっと、ドエライことになる予感……。いや、わりとマジでね?


 だって、




   『発破しますか?』 Y/N



 おっと、考えてる場合じゃないね。

 発破するかだって?


 ふ……。

 そんなの、とうぜん、YESだ。

 何のために夜中に墓場くんだりまで────。


「……というわけで、ポチっとなー」



 ⇒「Y」 ピコン♪



「……っしゃおらぁぁああ!」


 押したったわぁぁ!

 どうなっても知らんぞ─────ッて来たぁぁ!!


  ピー。


 『カウントダウンを開始します』


  『危害半径からの退避を勧告します』


 おお~~っと、いつぞやの警告。

 そして、

 選択した瞬間、ステータス画面の表示されるカウントダウン!


 『カウントダウン開始────60 59 58』


 うわうわうわ!

 は、はやいはやい!


 カウント始まるの早~い────!!

 なぜか知らんが、カウント表示をみたその瞬間、ブワッ! と体中の血の気が引く。


 これは本能?

 それとも、爆破に対する本能的な恐怖がそうさせるのだろうか?


 自分のスキルだというのに、

 容赦も滋味も許容もなく、スキルに詰め込まれたニトログリセリンがごとき破壊力が、ダンジョン壁をぶっ飛ばすというのだ────……って、たたた、退避ぃぃい!!


「あわわわわわ」


 ポエムしてる場合じゃねぇ!



『──42 41 40 39』



 だから、はやいはやいはやい!!


「1分は、早いって!!」


 わかっていたのに、足がもつれる! 息が上がる! 目がかすむ!

 つーか、これやばいかもしれん!! 今気づいたけど、こーれ、かなりやばいかも!!


 昨日の『発破』の破壊力を思い出してゾッとするマイト。


 いやいやいや、これやばいかも!!

 ──だ、だって、昨日使ったときの威力って相当なものだったもんよ?!


「や、やば! マジでよく考えてなかった!!」


 これもしかして、平地だとめっちゃやばぁぁああいのでは!!

 そして、ここは開けた墓地────……!!


 つまりは、ほぼ平地──────!!


 あ、あ、あ、ああああ……。

「……あ、ああ、あわわわ! あわわわわ!」


 やばいやばいやばい!! これはやばいかもしれん!!

 自分のスキルで自爆なんてシャレになんねぇぇええええええよぉぉおおおおお!!



『──23 22 21 20』



 ……って、おおおおいい! まだ退避してねぇっつーの!!


 早いはやい! 早いよぉぉおお!!

 まだマイトさんまだ全然隠れてないよおぉぉおおおお!!


 タンマタンマ!!

 ……タンマしてくれないと、この世界に召喚された異世界人初の自爆野郎になっちゃうよぉぉお!!



「あわわわ! あわわ────がっ!!」



 ズッテーン!!


「……ってぇぇええええ!」

 文字通り右往左往してると、肝心な時に足を引っかけて転ぶマイト────!!


『──15 14 13』

「って、ちょぉぉおっとぉ、だからタンマって言ってんだろぉぉおお!!」


 つーか誰だよ! ボケッ!!

 墓穴掘り起こして、棺桶開けっ放し・・・・・・・にしてるやつ──!


「罰当たりだっちゅうの!!」


 閉めとけ!

 チャックと同じで、墓穴あけたら閉めとけぇぇえええ!!


 この世界来てからなぁ、この手の盗掘は見慣れたけど、

 せめて、掘り起こしたら埋め戻────。



「────って、ここ・・だぁぁぁああああああ!!」

 


 まさに僥倖!

 退避場所がここにある!!


  『──7、6、5』


 うっせぇえ!! あと十秒もないやんけ!!

 カウントに文句を垂れつつ、ここぞとばかりに穴に飛び込むマイト。


「……って、うわ、くっさ!!」


 まだ、死体残っとるやんけ!!


 そりゃそうだわな!!

 盗掘した人の目的って副葬品とかですもんね!

 よっぽど変な趣味でもない限り死体には興味がないだろう。


 つーか、もー!!


 盗掘するんなら、もってけ! それかちゃんと埋めとけ────。


  『3 2 1──いま!』


「……とか言ってる間にぃぃ!!」


 はい、カウントゼロ!!

 あーもう!


「──南無さん!!」


 色々もたもたしたせいで、昨日よりも相当に近い距離で、発破が──────。




   ズバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!




「どぅわぁぁああああああああああ!!」


 ──ビリビリビリビリビリ!!


 凄まじい爆発が轟音となって棺桶の中のマイトを盛大に揺らす!

 それも、なぜかほぼゼロ距離で、絶賛土に帰る途中の死体と抱き合いながら────……!


「あばばばば! あばばばばばば!!」


 埋まるうまるうまる!

 土が降って来る、墓が崩れる──!!


 あかん、このままだと自分で墓穴に入る用意のいい死体になってしまう!

 そして、この名も知れぬ死体さんとご一緒に埋まるってしまうー!!



   …………しーん。



 ガラガラガラ、パララ……。


「……お、収まった?」


 壁面が半分崩れたところで振動が収まる。

 どうやら、発破の揺れは限定的にすんだようだ────ほっ。


 抱き合っていた死体を「せぃ!!」と引きはがして、棺桶から顔をだしたところで────ひゅるるるるるるるる……。



「……おう、じーざす」


 風きり音に気付いて振り仰げば、マイトの隠れる墓穴目掛けて、うなりをあげて降り注ぐ巨大岩石。


「なーんでピンポイントで降ってるかなー!!」


 よりにもよって、真上!!

 そのうえ、あのぴったりのサイズ感よ!!


 当然、今さら躱す時間もなく、

 伏せたところで、あの巨大岩石の前に「どうせいっちゅうねーん!」────……という諦めの境地に達したところで、



  ……ドスンッ!!



「ひょわぁぁ!!」



 しゅー

  しゅー

   しゅぅぅぅ……。



 ギリギリ……。


 もう、ほんとギリギリのところに降り注いだ巨大岩石が、シュシュウと硝煙を噴き上げる。


 あと数センチずれていれば、マイトが隠れた墓穴にすっぽりダイレクトインしているところであった。


 ごくり。


「あ、あっぶねー……」



 何ちゅうミラクル。

 何ちゅうフィット感……。何ちゅう──。


 ……いやもう、

 ちょ~うど埋まっているマイトさんの真上だよ?!


 いやさもう。


 あと少しサイズが小さかったり、降って来る角度が横向きだったりしたら、ダイレクトインして、ダンジョン壁にぶっ潰されるとこだったよ!!

 な~んで異世界くんだりまできて、知らん人の墓に生き埋めにならにゃんならんのよ、マジ勘弁しろよ──……。


「──だけど、助かった……。今度は、もうちょっと使い方考えよ……」


 ぶっつけ本番もいいところだった。

 嫌な汗をぬぐいつつ、脱出するマイトは大きく息をついたが、次の瞬間────!



   「(おい、何の音だ!?)」

   「(わからん! 雷か? しかし、月がこんなに見えているのに?)」

   「(イイから警戒しろ! 総員、警戒態勢ぃい!)」



 ……げー!!

 ギ、ギルド憲兵隊に感づかれた────って、そりゃそうか。


 ここ、お墓とはいえ街の中だったわ!

 それによく見れば、なんか町が騒然とし始めてるわ!!


   ざわざわ

    ざわざわ


「うーわ! マジかよ!」


 まだ遠くの方だが、明らかに、喧騒が涌き始めている。

 街の所々にも魔力由来の明かりがともり始める。


「この格好とかやべぇよな……」


 何がヤバいと言うか、もう色々ヤバい!!

 スキルのことがバレるのもそうだが。この格好が、もうかなりヤバい!!


 墓荒らしにしか見えないし、

 そんな姿を見られたら外聞が悪いどころの話じゃない! 問答無用で逮捕だ!!


「あわわわ……」


 慌てて墓穴から這い出すマイトであったが、

 幸いにも突然の出来事にギルド憲兵隊も事態を掴みかねているようだ。


 音だって、突然のことだとハッキリとした場所もわかるまい────よし!!


(い、今ならいけるか────??)


 キョロキョロ。

 墓から顔だけを出して、右見て、左見て、上と下を確認……って、下には死体しかねーよ!


「……って、そんなんいいから、今はせめて回収と検証くらいはやっておかないと!」


 ここまで来て何の成果もなかったら無駄骨もいいところ!……墓場なだけに!!


 ──というわけで、ダッシュ!


 右往左往するギルド憲兵隊を尻目に、

 隙をついて、ダンジョン出口・・・・・・・に向かうマイト。


 すると、そこには予想通り、開いてる開いてる。


「イエス!!」

 イエス、イエス!!


 ──よっしゃー!!


 人知れずガッツポーズを決めながらも、

 そ~っと除きこむと、出口の箇所には予想通り大穴がポッカリと──!!


「やった……! 先日のはやっぱり偶然じゃない!」


 どうやら、マイトのスキルにはダンジョンすらぶっ飛ばせる威力があるらしい。


 それさえわかれば十分!

 この分だとどこのダンジョンの壁もぶっ飛ばせるだろう。

 そう確信できたことこそが一番の収穫だ。


 ……あとは宝があるかどうか。



  『おぉぉおおおおおん…………??』



 っと、

「……うわ。この声、ボスモンスターか?」

 どうやら、宝物庫の先。

 中のモンスターが感づいたようだ。


 マイトの方に向かって不気味に響くアンデッドの声。

 ……とはいえ、今のところ無問題もーまんたい──!

 なぜなら、宝物庫とダンジョンの内部は基本的に隔離されていたはず。


 宝物庫に行くにはボスを倒すしかないはずで、

 逆に言えばボスも宝物庫には侵入できない仕様のはずだ。


 ……まぁ、どこまで正しいかはしらんけど──。



  「(おい、こっちで音がしたぞ!)」

  「(馬鹿言え、そっちは出口だぞ? 夜になってから冒険者はひとりも──)」



 くそ!

 もうこっち来た?!


(……ギルド憲兵隊も、仕事が早い!)


 ダ、ダンジョン内はともかく、こっち・・・はそうはいかない……!

 こんな時間に怪しい動きをしていたら問答無用で拘束されるだろう。別に悪いことをしているわけではないんだけどね、スキルのことは出来るだけバレたくない。


(なので、回収だけでも急がないと──!!)


 さすがは荒れくれどもを取り締まるギルド憲兵隊。かなり練度が高い。

 足音も高くこちらに近づくその気配を感じつつ、慌ててダンジョンの出口から内部に侵入するマイト。


 ひやりとした空気の変化を感じる間もなく、ダンジョンの宝物庫に侵入すると、慌てて宝を回収!


「よっし……宝箱をGET!」


 なんなく侵入できたマイトは、デカイ収穫に小躍りする。


 ──つまり検証は成功!!

 マイトのスキルで侵入した場合──初回クリア得点を完全に無視できるらしい。


「……もしかして、ボスを倒してないからかな?」


 仮説だけど、

 宝物庫の侵入にはボスを倒す必要あり。

 そして、ボスを倒さず宝物庫に入れば、宝だけ無限にGETできる──とか?


「はは、まさかそんな……」

 ないない。

 適当にこの場ででっちあげた仮説なんて、あてになるもんか。

 それよりも、自分のスキルの思わぬ有用性に気付いて手が震えるマイト。


 発破時の危険性さえ、なんとかできればこれほど儲かるスキルはないかもしれない。

 なにせ、無限に宝物庫の宝を漁れるチートスキルだ。


 もっとも、まだまだ検証は必要だろう。

 例えば、連続で宝箱を入手できるとして、果たしてその間隔は?

 ……直ちになのか、それとも日数を要するのか。


 もしかすると、宝がリポップするのに一定の時間が必要なのかもしれないし、

 あるいは個数制限や、なにか特殊な条件があるかもしれない。


 他にも考え出せばいくつも検証すべき事項はあるだろう。

 だが、今回の結果に限ってだけ言えば大成功だ。


 ……あまりにも簡単すぎて拍子抜けする思いのマイト。


 ちなみに、内部は先のDランクダンジョン『牙ある野獣の巣』と似たような作りになっている。

 違いは、先日のが土づくりなのに比べて、こっちは不気味な骨作りなくらいだろうか。


 ……って、

「うーわ……。よく見れば、宝物庫の先──な、なんかボスの背中がみえてるし」


 なんとまぁ、宝物庫の先のボス部屋では、なにか異臭を放つ巨大なモンスターがズシンズシンと歩き回っているではないか。


 あのシルエットからして──なんだっけ、あいつ──?

 昔見た覚え馬あるけど、たしか……ジャイアントゾンビだっけ??


 ……知らんけど。


 まさか裏口から侵入されると思ってもいないボスも、異変を感じてうろついているが、それだけだ。


「悪いけど、お前さんに用はないんでね──」


 マイトの言葉が聞こえるはずもないが、心なしか、ジャイアントゾンビの背中が哀愁に満ちているようにも見えたがまぁ気のせいだろう。


 ──というわけで、御開帳~!



 パカー。




 あっさりGETできた宝箱の中にはなんと!


「おぉぉ!」


 金貨袋  ×1、

 『鋼の剣』×1、

 『ミドルマナポーション』×3、

 そして、魔石!!

 今回は青の魔石(中)×1、


「いいのかよ、こんなに簡単に手に入って!!」

 我ながらドン引きのマイトさん。


 そして、さらにはそれだけでなく、

 なんと、壁際にあった壺からは『薬草』と『毒消し草』と『銀の指輪』と『ガーネット(小)』まで回収できてしまったのだ!!



「──さ、最高かよ……!」



 人知れず感涙するマイトは、と白み始める空に、飛び上がって喜ぶ!


 こうして、

 まんまとギルド憲兵隊からも逃げおおせたライトは戦利品を抱えて宿に帰還。



 そして……。

 明け方にも関わらず、轟音で街の人々の安眠を妨げたにも関わらず本人はさっさと宿に帰還して、遅めの二度寝を貪るのであった。


 ぐごー

  ぐごー



 ……しかし、惰眠を貪るマイトのあずかり知らぬところで、その現場検証をしていたギルド憲兵隊は奇妙なものを発見する────。

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