マッチング魔道具で知り合った子が魔王軍の女幹部だった。

第32話 名誉の出禁

「一体何事か……っ！？　ガ、ガルリック！！」

「パ、パパアアアアアアアアア！！　た〝す〝け〝て〝え゛ええええええ！！」

「おっと、お父様の登場か」

　突撃してきたガルリックの顔面を片手ヘッドロックして止めていたところに、このパーティーの主催者であるガルリックの父親、ドラキュレル伯爵が現れる。

「貴様！！　私の息子になにをしているか！！」

「アンタのバカ息子がいきなり発狂して突撃してきたからパートナーの身を守ったんだ。なにか問題があるか？」

「と、突撃？　それは本当か？」

　うんうんと頷く周りにいた野次馬貴族たち。

どうやらこの事態をドラキュレル伯爵からの圧で隠蔽する気は無いようだ。

「い、い〝た〝い〝い〝た〝い〝いいいいいいい！！　もうやめてえええええええ！！」

「お、おい君！　わかったからもう放してやってくれ！」

「ドラキュレル伯爵とかいったな？　あんたの息子がデスティニーでストーカー行為を働いてブロックされたにも関わらず、ディスティニーの開発元に圧力をかけてブロック機能を改造し、ストーカー行為を続けさせていたと聞いた。それは真実か？」

「ぐっ……そ、それは……」

「我はそこの男にしつこくつき纏われて精神を消耗し、もう限界だ……」

　オレの胸元に顔を埋めて『わたし傷ついてます』アピールをするカーミラ。

いや絶対顔隠しながらあっかんべーしてるだろこいつ。

「ドラキュレル伯爵、あなたの息子に今後一切彼女に関わることが出来ないような処置を取ってくれ。それから、今回のようなストーカー被害を他に出さないようにするためにマッチング魔道具を禁止させろ」

「き、貴様になんの権限があってそのような戯言を……」

「まあ、オレにはなにも権限はないかもな。でも彼女ならどうかな？」

「え？」

　オレの胸元で顔を伏せているカーミラに視線を向ける。

実は彼女はこの会場に来てから本当の正体を明かしていない。

今回のパーティーにはガルリックから招待を受けて『ミラ』というデスティニーのプロフィール名で参加しているからだ。

　オレが戦場で相対した帝国軍十三邪将『鮮血のカーミラ』は素顔を晒すことはせず、目元を隠す仮面を付けていた。

その仮面をいま、この場で取り出してドラキュレル伯爵の前に掲げる。

「そ、その仮面は……！！」

「彼女は十三邪将『鮮血のカーミラ』……と、親しいヴァンパイアだ。今回それの証明としてカーミラ様が愛用している仮面を借りてきた。帝国軍の紋章入りの本物だぜ」

「カーミラ様のお知り合い……？」

「ガルリック様はそのような方に狼藉をはたらいて……」

　ミラがカーミラの知り合いだということを聞いたドラキュレル伯爵は、一瞬にして顔面を青ざめさせた。

まあ知り合いっていうか本人なんだけどな。

エビルムーン帝国の有名な貴族といえど、帝国軍の幹部には逆らえないようだ。

「今回の件、誠実な対応をしないというのであればカーミラ様に報告させてもらうぜ」

「そそそ、それは困る！！　分かった、そちらの要求を全面的に了承する！　この度は私の愚息が申し訳なかった……！！」

「グベェッ！？」

　ドラキュレル伯爵の謝罪を聞き、掴んでいたガルリックの顔面から手を離す。

「今後、ガルリックによって再びオレの彼女がされたような被害が出た場合にはカーミラ様に報告がいくと思え。それじゃあな」

　オレは最後にそう言い残し、カーミラを抱き上げてお通夜状態のパーティー会場を後にした。

　………………。

「…………」

「おい、いつまでしおらしい演技してんだ」

「……くくくっ。いやあ、まさにスッキリ爽快な気分だよ」

　会場の外に出てしばらく歩き、ドラキュレル伯爵からの監視も外れた分かったところで抱き上げていたカーミラを下ろした。

「はあ、疲れた。顔も覚えられちまったし、もうドラキュレル伯爵のパーティーは出禁になっちまったな」

「そんなもの、今後参加するつもりもないだろうに」

「まあ、それはそうだな……それにしたっておまえ、軽くキスするだけって言ってたじゃねえか」

「すまんすまん、少々盛り上がりすぎてしまってついな」

　あんな濃厚なキスをされたのは初めてだ。

まさかこのタイミングで経験することになるとは……しかも相手が敵国の幹部って。

色々ダメな気がする。

「というわけでルイよ」

「ん、なんだ？」

「ホテルに行ってキスの続きをしようか」

「しねえよ」

　このあと堅苦しいパーティー衣装から着替えたオレたちは、カーミラの行きつけだというエビルムーン帝国の酒場で二人きりの祝勝会をあげたのだった。

　――　――

作者メモ：1,2話前のガルリックがめちゃめちゃカーミラって呼んでたのでミラ呼びに修正してあります。