第31話 脳破壊
「なっ!? ミミミ、ミラさんにかかか、彼氏……?」
「ほれよく見ろ、この間貴様に送ったツーショット写真に写ってたろ」
「……!! こ、この人狼族の男!! 見たことある!!」
何かを思い出したようにマッチング魔道具『デスティニー』を取り出し、カーミラから送信されたであろう写真とオレの顔を見比べるガルリック。
「そ、そそそ、それじゃあ本当にこいつがミラさんの想い人……?」
「だから最初からそうだと言っておろう。貴様なんかより何億倍も素敵だろ?」
「お、おいミラ、あんまり煽るなって……」
右腕にギュッと抱き着いたまま、オレの胸元に顔を寄せるカーミラ。
そしてそれを見て今にも爆発してしまいそうな表情のガルリック。
これ、逆の立場だったらつらいなー……
「というわけで、今後はもう我に絡んでくるのはやめていただきたい。あまりにしつこいようだと最終手段を使わなければならなくなるのでな」
「ぐ、ぐぬぬぬぬぅ……!!」
カーミラの最終手段ってなんだろう……?
もしかしてあれか、普段オレたち聖国軍に向けられるような力でドラキュレル伯爵一家もろとも消滅させるとか。
「まあ、ガルリック様が恋人のいる女性にしつこく迫って……」
「ミラ様とやら、お気の毒ですわ……」
周りにいたパーティーの参列者がオレたちのやり取りを聞いてざわざわと騒ぎ出す。
さすがにこの状況でガルリックの味方をする人はいないようだ。
「そ、そそそ、そこまで言うなら証拠を見せてみろ!」
「証拠?」
「こ、恋人の証拠だ! どどど、どうせぼくをだますために雇った偽物の恋人なんだろう!?」
お、意外と真実が見えてるじゃないかこのオーク……じゃなかった、ヴァンパイア。
まあでも仮にオレが偽物の恋人だったとバレたとしても、そいういうのを準備してこの場に来てるカーミラが自分に対して拒絶の意を表しているとは察せられないのだろうか。
「それじゃあ、何をしたら恋人の証明になるのだ?」
「キ、キキキ、キッスをしろ! ぼくの前で二人でキッスをするんだ! ほら、出来るもんならやってみろ!!」
「わかった」
「へ?」
「ほれルイ、少し屈め」
「ああ」
小柄なカーミラに合わせて背中を丸めて彼女の前に顔を近づけ、そのままキスをする。もちろん唇と唇で。
「っ!! な、な、な……!!」
「まあ!」
「あらぁ~!」
突然のキスシーンを目の当たりにして、ガルリックだけでなく周りでオレたちのやり取りを見守っていた貴族のご婦人とお嬢様方からも黄色い声が上がる。
まあこの展開も元々想定済みで、ガルリックがオレ達の仲を疑って証拠を見せろって言ってくると踏んで、そしたら動揺せずに自然とキスをしてやろうということで……少し、いやかなり恥ずかしいが。
「ん……ちゅろぉ……」
「!?」
ちょっと待て……この吸血鬼、オレの口に舌入れてきやがったぞ……さすがにそこまでやるとは聞いてないんだが。
「ん……ふぅ……」
「まあ……! まあまあまあ!!」
「あらあらあらあらぁ~!!」
「あ、あ、あ……うあああああああああああああああああ!?」
きゃあきゃあ騒ぐご婦人とお嬢様方、そして発狂するガルリックお坊ちゃまの声が聞こえてくる。
「んっ」
ちゅぽっと音を立てて舌を抜くカーミラ。
さ、さすがにちょっと息が苦しい……血を吸うヴァンパイア族だから肺活量があるんだろうか? とか変な事を考えてしまった。
「……ふぅ。さあガルリックさん、これで我とルイが恋人同士だと証明できたかな?」
「あああああああああああああああああ!!!!」
頭が真っ白になってしまったのか、大声を上げながら抱き合うオレたちに向かって突撃してくるガルリック。
カーミラがオレを守ろうと前に出ようとするが、それを制止してガルリックの突撃を受け止める。
「ああああああああああああああああフゴガァッ!?」
カーミラを抱き留めたまま、片手で突撃してきたガルリックの顔面を掴んでそのままこめかみをギリギリと締め上げる。
「ルイ、お前……」
「彼女に守られてるようじゃ男が廃るからな」
オレのとっさの対応に驚くカーミラと、ギリギリと頭を絞められて悶絶するガルリック。
「い〝た〝い〝! い〝た〝い〝! い〝た〝い〝いいいいいいいいい!!??」
「おいクソ豚吸血鬼。汚い手でオレの女に触ろうとすんじゃねえよ」
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