第33話 家出少女、拾いました



「の、飲み過ぎた……頭いてえ……」



 ガルリックによるマッチングストーカー事件を無事に解決することが出来たあとに二人で朝まで飲み明かし、ヘルゲイトの駅前で別れたオレとカーミラ。

カーミラは家が近いということもあってそのまま自宅に直帰したが、オレは今いるエビルムーン帝国からアニスター共和国を経由してサンブレイヴ聖国に帰らないといけない。

さすがに眠気が限界なので、アニスター共和国まで行ったらどこかのカプセルホテルにでも泊まって仮眠したい。

いやまあ、カーミラから『我の家に泊まっていくか?』とか言われたんだがな、それはちょっとな……



「ヘルゲイトからアニスター共和国行きの始発はあと20分後か……とりえあず解酔ポーションでも買って……ん?」



 人気のない早朝のヘルゲイト駅の隅っこに、ハチェットくらいの小柄な女の子がひざを抱えて座り込んでいた。

背中に生えたコウモリのような翼でヴァンパイア族かと思ったが、耳の後ろから生える巻き角と『→』みたいな長いしっぽを見るに、カーミラのお仲間では無いようだ。



「リトルデーモン族か? いやでも、あいつらは一本角だったような……」



 リトルデーモン族であればあの子くらいの見た目でも成人している可能性があるが、そういうわけではない気がする。

多分、見た目通りの子供だろう。



「こんな時間に1人でなにやってんだ……?」



 ここはエビルムーン帝国の帝都ヘルゲイト。

孤児が多く暮らすスラムエリアでもないし、座り込んでいる女の子は見た感じだいぶお高そうなしっかりした服を着ている。

もしかすると、どこかの貴族の屋敷から家出してきた子とかなんだろうか。

まあ敵国のお家事情とか気にしても仕方ねえんだがな。



「とはいえ、こんなところで女の子が一人でいるのは普通に危険な気が……あ」



 そんなことを考えながら遠巻きに観察していたら、案の定ガラの悪そうなお兄さんたちに絡まれていた。



「あのブタ鼻は……本物のオーク族だな」



 ガルリックもヴァンパイアのくせにだいぶ太ってブタみたいだったが、こうやってオーク族と比べてみるとだいぶ違うな。

オーク族は普通にガタイが良くて筋肉質な体型をしている。

ガルリックと一緒にしてすまん。



「おっと、なんかヤバそうだな」



 嫌がる女の子の肩を掴んでニヤニヤしながらしつこく話しかけているオークのお兄さんたち。

助けに入る警備兵も近くにはいないようだ。

……あ、女の子と目が合った。



「はあ……なんでこうもトラブルに巻き込まれがちなんだオレは……」



 今にも泣きそうな女の子の顔を見て、オレは自分からトラブルに巻き込まれることを決めたのであった。



「おいあんたら、その子嫌がってるだろ」



「あ? なんだよお前、関係ないだろ」



「すっこんでろよケモノ野郎」



 いやブタ鼻野郎には言われたくないんだが……



「俺たちはお腹空いて困ってそうな子がいたから善意で声かけただけだっつーの。奢るからメシ食いにいかなーい? ってよ」



「まあ、メシ代は奢るから代わりに君を食わせてよ~とは言ったけどな!」



「がはははは! おいバラすなって~!」



 どうやらただのナンパ目的みたいだな。

ったく、聞いてて余計に二日酔いが酷くなってきた気がするぜ。



「……っ」



「おっと」



 話しかけられたオークたちが肩を掴む力をゆるめた隙に、その場から離れてオレの背後に逃げ隠れる女の子。

怖かったのか、袖をつかむ手が震えている。



「なあお嬢さん、良かったらオレと一緒に朝飯食わねえか? 大丈夫、こいつらと違って〝メシ代〟は貰わねえから」



「あっおい! そりゃあねえだろお!? 俺たちが目を付けてた獲物だぜえ!」



「女の子は獲物じゃねえよ」



「チッ、めんどくせえなあ……おい」



 どうやら力ずくで女の子を奪うつもりなのか、臨戦態勢をとるオークたち。



「痛い目見ねえと分かんねえのかよっ!」



「お前がな」



 ボギィッ!!



「ボウ〝ァァッ!?」



「なっこいつ強」



 ドゴォッ!!



「ウウ〝ェエ〝ッ!?」



 殴りかかってきたオーク二名を返り討ちにして吹っ飛ばす。



「これで一対一だな。どうする?」



「く、くそっ!!」



 結局、残った一人はワンパンで気絶した二人を引きずりながら尻尾を巻いて逃げていった。



「まったく、朝っぱらからしょうもない事やってんなあ……ん?」



 くい、くいと袖を引っ張られる感触。



「た、助けてくれて感謝するのだ」



「おう。それで、どうする? 本当に腹減ってんなら朝飯くらい奢って……」



「お礼に朝食を奢らせてほしいのだ」



「えっあ、おう……」



 何故かオレが女の子に飯を奢られることになった。

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