第12話 時止めのラージャ



「せ、石化耐性……ですか?」



「……は、はい。もしかしたら、お持ちなのかなあって思って」



 ラァ子さんからまさかの質問をされて少しフリーズしてしまう。

『石化』というのは、文字通り身体が石になってしまう……というわけではなく、『麻痺状態の派生』とでも言えばよいだろうか。

麻痺状態と違うところは、石化の効果は使用者と目線が合っている間だけということ。



「……じ、実はわたし、『石化の魔眼』を持ってて」



「あ、なるほど……」



 そういうとラァ子さんは、前髪で隠したおでこの辺りを右手で抑える。

『魔眼』はいわゆる第三の目というやつで、ラァ子さんのような爬虫類系の魔人族や亜人族の一部に突然変異として稀に現れることがある。

『石化の魔眼』はその名の通り、目が合った相手を石化状態にすることができる力を持った特殊な瞳だ。

魔法を発動せずとも相手を石化状態にできるのはかなり強力だ。



 麻痺状態だと、動きにくくなるだけで全く身動きが取れなくなるわけではないが、石化は違う。

石化の間は、まるで時が止まったかのように瞬きひとつ出来なくなってしまう。

解除するには、相手が瞬きをしたり目線を逸らすか、誰かが魔法を発動して相手との間に視線を遮る壁などを作り出してもらう必要がある。



「……人狼族の方って、他の種族と違って石化に耐性を持ってたり、石化無効の人が結構いるじゃないですか」



「あ、あー……たしかに。そういえばオレは、石化は効かないですね」



 オレは昔、実際に石化の魔眼を持った敵と戦っている最中に魔眼で見つめられ、ガッツリ目を合わせてしまったことがあるが、全くもって効かなかった。

他の人狼族は知らんが、もしかしたら石化耐性を持っている奴が多いのかもしれない。

昔から時止め系の魔法は犬には効かないってよく聞くしな……まあ、人狼族が犬と同じ性質を持っているのかは知らんが。



「それにしても珍しいですね、石化の魔眼を持っている人なんて、オレは今までに一度しか……」



 ……ん、待てよ?

オレが以前戦った、石化の魔眼使い。

そいつはたしか、エビルムーン帝国の暗殺部隊に所属していたナーガ族の女で、その部隊の中でも最も危険だと言われていた。

諜報部隊のやつに聞いたところ、現在はその暗殺部隊の長になっており、ミラさん……ヴァンパイア族の『鮮血のカーミラ』と同じく、エビルムーン帝国の十三邪将と呼ばれる幹部の一人……



「時止めのラージャ……」



「……ル、ルイさん、今、わたしの名前」



「えっあっいや、ちょっと、エビルムーン帝国に住んでる知り合いから聞いたことがあって……」



「……そっかあ。アニスター共和国の方にも知られてるなんて、ちょっと驚きです」



 マジかよ、魔眼の話を聞くまで全然気が付かなかった。

爬虫類系の魔人族は匂いがほとんどしないからな……オレの自慢の嗅覚が記憶出来ていなかったらしい。



「す、すいません。聞かなかったことにします。ラァ子さんはラァ子さんですから」



 あ、あぶねえ、プロフィールにアニスター出身って書いといて良かったぜ……でもさすがに暗殺部隊の人の名前を知ってんのはマズいか……?



「……い、いえ、大丈夫です。十三邪将になってしまった時に公表はされてますから」



「そうなんですね」



 まあ、現在は暗殺部隊の長をやってるってことは、師団長になったオレと一緒で現場仕事からは遠ざかっているのだろう。



「……わ、わたし、この魔眼のせいで周りの男性から避けられることが多くて……ただ見つめ合っただけなら大丈夫なんですが、感情が高まると魔眼が発動しちゃうことがあって」



「それはまた、難儀ですね」



「……で、でも、人狼族の方なら耐性があるって聞いて、それでマッチング魔道具で人狼族の方を探してたら、ルイさんに出会って」



「な、なるほど?」



「……だ、だから、ルイさんはわたしの運命の人なんです。実際に会って分かりました。わ、わたしたちは運命の蜘蛛の糸で結ばれてるんだって」



「蜘蛛の糸なら結ばれてるんじゃなくて罠にかかってるだけじゃない?」



 ハチェット……やっぱりこの子、お前の言う通り地雷だったかもしれねえ。

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