第13話 4DX上映かよ
「……お、面白かったですねえ。デス・アナコンダ」
「そ、そうですね」
ラァ子さん……いや、『時止めのラージャ』と一緒に映画を見て、今はカフェで軽食を頂きつつ映画の感想を語り合うフェーズに入った。
ちなみに映画の内容は伝説の魔物『デス・アナコンダ』を撮影するためにエビルムーン帝国のジャングル地帯へ赴いた撮影クルーたちが次々と巨大なヘビに襲われて食べられてしまうというモンスターパニック映画だった。
「……え、映画は再現ですけど、実際にあった事件らしいですよ」
「ノンフィクションだったのあれ? 怖すぎるでしょ」
映画に出てきた『デス・アナコンダ』という魔物はナーガ族のラァ子さんよりも更に二回り、いや三回りくらい大きかった。
エビルムーン帝国にはあれが普通に生息してるのか……ずいぶんと過酷な環境なんだな。
「ラァ子さんは……あ、ラージャさんって呼んだ方がいいですかね」
「……ラ、ラァ子で大丈夫です。あ、あと、さん付けとかもしないでいいですよ。わたし、年下なので……むしろタメ口のほうが嬉しいです」
「そうですか? うーん、じゃあ……ラァ子で」
「はぅっ!」
「どういう反応?」
よく分からないがラァ子は喜んでいた。
というか、実はさっきからひとつ気になってることがあるんだが……
「なあラァ子、さっきからオレの足に尻尾が巻き付いてきてんだが」
「……え、えへへ」
「おい話聞けよ」
というか、隣の席で映画を観てたときからこんな感じで尻尾が絡みついてきたりしていた。
映画の中で主人公の仲間がデス・アナコンダに締め付けられてボキボキに骨折して死ぬシーンでオレの足に巻き付いていたラァ子の尻尾も締め付けが強くなったからめちゃめちゃ怖かったんだが。
4DX上映かよ。
「……す、すいません。魔眼と一緒で気持ちが昂ると勝手に動いちゃって」
そう言うとラァ子は、長い前髪を上げてぼんやりと光る第三の目……『石化の魔眼』を見せてくる。
ああ、この顔には見覚えがあるぞ…ナーガ族特有の縦長の瞳孔を持つ両目の上に、目よりも一回り大きい赤い宝石のような魔眼。
たしかオレを襲いに来たときは前髪を横分けして魔眼を見せた状態で、黒いマスクを付けていた気がする。
「む、無意識にオレを襲おうとしてるわけじゃないんだよな?」
「……ち、違いますよお。でも、ルイさんに巻き付いてるとどこか安心するというか、何故かノスタルジックな気持ちになるというか……興奮します」
「安心と興奮は共生できないだろ……」
なんだろう、オレを襲ったときの感覚的なのが残っているんだろうか。
あの時は全身鎧だったし、言葉も発してないからバレてないと思うんだが……
「お待たせいたしました、こちらチキンサンドのお客様」
「あ、こっちです」
「それからこちら、ボイルエッグ盛り合わせのお客様」
「……は、はい」
料理を持った店員さんが来たことで、オレはラァ子の尻尾巻き付けから解放された。
ありがとう、店員さん。
「それじゃあ食事にしようか」
「……そ、そうですね……い、いただきまぁす」
そう言うと、ラァ子は自身が注文したボイルエッグをひとつ取り、噛まずにパクッとそのまま丸呑みにした。
「ごっくん……ふう」
「そ、その食べ方って、喉が詰まったり息苦しくなったりしないのか?」
「……え? ええ、大丈夫です。ボイルエッグはのどごしを楽しむものなので」
いや聞いたことねえよそんなの。
普通マヨネーズとか付けて食べるだろ。
「ナーガ族って、普通に歯あるよな?」
「あ、ありますよぉ。ほら、あーん……」
「うおっ!」
ラァ子が口を開けると、そこにはオレたちと同じような歯に加え、一対の細長い牙のような歯が生えていた。
オレのような人狼族の発達した犬歯とはまた違って、牙の先に小さな穴が空いているのが分かる。
「……あ、この奥歯は毒牙になってて、歯の先に穴が空いてるのはそこから毒を注入するからなんですよ」
「そ、そうか」
どうやら虫歯じゃなくて毒が出る所らしい。
まるでさっき見た映画のヘビみたいだな……あのヘビは一対の牙だけで他の歯は無かったが。
「毒牙か、なるほどな……」
「はあ、はあ……な、なんだかルイさんに口腔内を見られてると興奮してきました……」
「おいやめろ」
「むぐぅっ」
オレは危険を感じてラァ子の口にボイルエッグをひとつ詰め込んだ。
「むぐ……うぐ……ごくん」
「す、すまない、ちょっと危険を感じて」
「……も、もうひとつ食べさせてください……無理やり口に入れて……」
「新手のプレイか」
こうしてオレとラァ子は少し危険な初デートを楽しんだのであった(?)
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