第9話 副師団長と遊ぼう!



「団長! ほらこっちこっち~!」



「こら走るなハル、転ぶぞ」



 次の休日。

オレは前からの約束通り、部下のハルバードと一緒にアニスター共和国まで遊びに来ていた。



「そんなお子様じゃないよ~……うわっ!」



「ほら言わんこっちゃない」



 石畳の窪みに足を引っかけて倒れそうになるハルバードの肩を支えて受け止める。

こいつの無邪気っぷりは昔から変わらんな……戦闘になるとものすごい集中力を発揮するんだが。



「え、えへへ……ありがと団長」



「おう」



 今日はハルバードが身体を動かしたいということで、色々なスポーツや遊技が体験できる複合施設『ラウンドニャン』に行くことに。

ラウンドニャンはサンブレイヴ聖国にも店舗があるんだが、人狼族のオレはもちろん、人間族とダークエルフのハーフであるハルバードもあまり良い顔をされないので、わざわざアニスター共和国の店舗までやってきた。



 エルフ族はサンブレイヴ聖国にも住んでいて、どちらかというと魔人族よりも人間族の味方をしている亜人族だ。

しかし、ダークエルフ族はエビルムーン帝国に協力しているため、ハーフと言えど、ダークエルフの面影を持つ褐色肌のハルバードはサンブレイヴ聖国内では迫害の対象になってしまうことがある。



「それにしても、この国は良いね~。誰もボクに嫌な顔を向けて来ないんだもん」



「アニスター共和国の住民はもちろん、この国に遊びに来るサンブレイヴ聖国の人間族やエビルムーン帝国の魔族には種族に偏見のないやつが多いからな」



 国同士がいがみ合っていても、意外と国民は気にしていなかったりするもんだ。

まあ、中には自国万歳のガッツリ右翼みたいな連中もいるんだが、そういうヤツは自分の国から出てこないからな。



「そういえば団長、先週の土曜は結局なんの用事だったの?」



「ん? ああ、ちょっと人と会う約束があってな」



「ふーん? まあ良いや、今日は先週遊べなかった分までボクに付き合ってもらうから!」



「ほどほどにな」



 こうしてオレたちは、日ごろの溜まった鬱憤を晴らすように1日中ラウンドニャンで遊びまくった。



 ―― ――



「ふぃ~遊んだ遊んだ! 楽しかった~!」



「ボウリングを5ゲームもやる羽目になるとはな……」



「団長、ボウリング玉の指穴に指が入んなくてめっちゃおもろかった」



「人狼族用の玉を作って欲しいぜ……」



 昼食も食べずに遊び続けていつの間にか夜になってしまったので、さすがに切り上げて二人で飯を食うことにした。



「団長! ボクしゃぶ茎行きたいしゃぶ茎!」



「しゃぶしゃぶか、良いな」



「わ~い! 団長の奢りだ~!」



「おいそんなこと一言も……ったくしょうがねえな」



「だから団長って好き!」



 第8師団に入ってきたばかりのハルバードは、まるで上司の命令をこなす感情の無い冷徹ロボットのようなやつだった。

暗殺専門の弓使いとして、貴族の汚れ仕事を任されていたハルバードが師団にやってきて先輩後輩の関係になったオレは、同じような境遇で育った彼になんとなく共感を覚え、ゆっくりと彼の凍った心を解くように接していった。

それから月日が流れ、心を開いたハルバードがオレに懐いてくれて、気づけば二人で師団長と副師団長にまでなっていた。



 第8師団の部下たちには、なんとなく気恥ずかしくてオレがマッチング魔道具を使って女性と交流していることを隠しているが、相手が魔王軍の幹部だということだけバレないようにしておけば、ハルバードには話しても良いのかもしれない……



「なあハル、飯屋に着いたら少し話したいことが」



「あれ? ルイさん?」



「「えっ?」」



 そんな感じでハルバードと夜の街を歩いていたときだった。



「ルイさんですよね? そちらの方は……」



「ミ、ミラさん……」



 …………。



「団長?」



 ハルバードから少し、出会った当時の冷たい視線を感じた。

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