第8話 見える地雷を踏みに行け



「ラァ子さんか……」



 食事を済ませて自室に戻り『デスティニー』に届いていたスタンプを確認する。

スタンプを送ってくれたのはエビルムーン帝国に住む『ラァ子』という二十歳の女の子だった。



「まあ、100%本名ではないだろうな」



 職業は清掃業、種族、年収は非公開……まあ、デスティニーの利用者だからこの辺りは大丈夫だろう。



「『他人と視線を合わせるのも苦手なくらい人見知りですが、勇気を出してマッチング魔道具を始めてみました』……なるほど、オレと同じでマチマド初心者なのか」



 プロフィール写真には、前髪を目の下辺りまで伸ばしたバングヘアの女の子が載っている。

恥ずかしいのか、俯きがちの自撮り写真でちょっと微笑ましい感じ。



「向こうも初心者で、勇気を出してオレにスタンプを送ってくれたんだ。せっかくだし少し話してみたいな」



 オレはスタンプを送り返し、メッセージのやり取りを承認した。



「さてと、風呂に……」



 ピピロンッ♪



「うおっ!?」



 部屋から出ようとした瞬間『デスティニー』からメッセージの通知音が。

マジかよ、今さっき承認のスタンプ送ったばかりだぞ。



「あっと、もしかしてミラさんからか……?」



 『ルイさん承認スタンプありがとうございますわたしはラァ子っていいますよろしくお願いします……!』



「いや勢いすごいなおい」



 句読点が無いせいで、なんだか読んでて息が詰まりそうになる。



「こちらこそ、よろしくお願いしますっと……よし、送信」



 ピピロンッ♪



「わぁっ!?」



 『ルイさんの横顔マズルがシュッとしててとってもかっこいいですほんとに好きよかったら今度お会いしませんか……?』



「展開はええなおい」



 本当にマチマド初心者か……?

いや、むしろ初心者だからこそのこの勢いなのか……



「まずはメッセージのやり取りで親睦を深めましょう……っと」



 ピピロンッ♪



「…………」



 『わかりました』



「賢者タイムかよ」



 急に大人しくなったな。

少し落ち着いて、さっきまでの自分のメッセージ読み返して恥ずかしくなってるとかだったら申し訳ないが……まあ、悪い子ではなさそうだ。



「お兄様~! お風呂の準備が出来ましたわ~!」



「はいよ~! ……とりあえず、続きは風呂に入ってからにしよう」



 ラァ子さんの勢いに少し戸惑いつつも、オレは新しい出会いに胸を躍らせた。



「お兄様遅いですわ! わたくし先に入ってますからね~!」



「いや一緒に入らねえよ!?」



 ―― ――



「ルイソンくん、この子は止めといたほうが良いよ」



「へ? なんで?」



 翌日。オレは新たな出会いをハチェットに自慢する為、スラム街の『喫茶ハロゥ』を訪れていた。

仕事終わりに寄ったため、今は夜。酒場の営業時間だ。

昼の喫茶店営業を終えたハチェットが彼女の父親であるマスターと交代し、オレがいるカウンターの隣に座ってくる。



「このメッセージの感じはさあ……多分めっちゃ重いよ」



「そういうもんか? ただ魔道具の使い方に慣れてないだけだろ」



「はあ、これだから恋人いない歴イコール年齢の武闘派師団長はダメだね~。軍人なのに見える地雷を踏みにいくとは」



「お前だって彼氏できたことないだろ」



「ふっ」



「おいパパ、なんで今笑ったのかな?」



「すまん」



 カウンターの内側でグラスを磨いていたマスターが娘のハチェットに凄まれてシュンとなる。



「あっマスター、プラムリキュールのロックひとつ」



「私は火酒のストレートをダブルで、塩とライム別皿でちょ~だい」



「……はいよ」



 相変わらずエグい酒飲むなあコイツ。

小柄で幼く見えるリトルフット族のハチェットがライムを齧りながら度数の高い火酒を飲んでいるのを見ると、なんだかすごい倫理的な違和感がある。



「ルイソンくん、お酒強い割にはリキュールばっかりだよね~。女子みたい」



「50度もある火酒をカパカパ飲む女子に言われたくないんだが」



「それで? そのラァ子ちゃんとはこれからどうしてくの?」



「ああ、もうしばらくメッセージのやり取りをしてだな……」



 こうしてオレと悪友の作戦会議(笑)は、二人が酔いつぶれるまで続いたのであった。



「お兄様! 朝帰りだなんて不純ですわ!」



「あ、頭いてえ……」



 作戦会議の内容、なんも覚えてねえや。

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