違和感を異物と排除し、小馬鹿にして嘲笑う人たち

星咲 紗和(ほしざき さわ)

本編

私のバッグには、小さなマスコットチャーム複数がついている。動物の形をした愛らしいデザインで、手のひらに収まるその存在たちは、私の日常にささやかな癒しを与えてくれる。カフェでコーヒーを飲むとき、電車の待ち時間、ふと目に入ると、なんだか心が軽くなるような気がする。


しかし、そのチャームを見た他人の反応が、しばしば私の心を曇らせる。視線を感じる。電車で目の前に座った人が私のバッグに目を向けて、それから私の顔を見て、ふっと笑うのがわかる。その笑みには好意も共感もない。ただの「冷笑」だ。声に出さなくても伝わる。「男なのにそんなものつけてるの?」という無言のメッセージが、あの表情に宿っている。


遠くの席から小声で交わされる会話の中に、自分のことが含まれているのを察することもある。「ああいうの、ありえなくない?」という、他人を小馬鹿にする笑い声。直接言葉を投げかけられるわけではないが、背後から投げられるその嘲笑が、胸に刺さる。何も悪いことをしていないはずなのに、私の選んだものが笑いの種にされている。それが悔しい。


なぜ、違和感を覚えたものに対して、人は攻撃的になってしまうのだろう。なぜ、人と違う選択をしただけで、そこに「おかしい」との烙印が押されなければならないのか。


固定概念というのは、時に恐ろしい力を持つ。

「男性のバッグにはかっこいいものをつけるのが普通」

その「普通」はいったい誰が決めたのだろう?


こうした固定概念は、長い時間をかけて社会の中に根付いていく。それは文化や歴史、価値観の積み重ねから来るものかもしれない。でも、それが絶対に正しいわけではない。「普通」とされているものの外側にある価値観や選択を否定するのは、ただの狭量だと思う。


例えば、昔は男性がピアスをしていることも、女性がパンツを履くことも「普通ではない」とされていた時代があった。しかし、今ではどちらも当たり前だ。人々が「普通」の枠を少しずつ広げ、多様性を認め合うことで、社会は進化してきた。だからこそ、違和感を感じたとき、それを「排除すべき異物」として扱うのではなく、「自分と違う考え方や価値観があるのだ」と受け止める姿勢が必要だと思う。


それでも、私のような人間は少数派だろう。バッグにつけたマスコットを見て、「かわいい」と思う人は少ないかもしれない。むしろ、「男なのに」と眉をひそめる人が大多数なのだろう。それはわかっている。それでも私は、これをやめるつもりはない。なぜなら、私はこのチャームが好きだからだ。


嘲笑は不快だし、腹立たしい。正直言って、何度もバッグからマスコットを外してしまおうかと思ったことがある。視線や笑い声を気にしすぎて、周囲に合わせたほうが楽ではないかと思ったこともある。でも、そのたびに自分に問いかける。「好きなものを持つことをやめることで、本当に幸せになれるのか?」と。


答えはいつも同じだ。そんなことをしても、自分の心は空っぽになるだけだろう。他人の評価を気にして、自分が本当に好きなものを捨ててしまうなんて、そんな人生はあまりにもつまらない。私は私が好きなものを選び、それを誇りに思いたい。それがどれだけ些細なものでも、誰かに理解されなくても、私がそれを好きでいることに意味がある。


ただ、私も完璧な人間ではない。嘲笑や否定に対して心が折れそうになるときもある。そんなときは、ひとりで自分に言い聞かせる。

「彼らが笑うのは、彼らが自分の枠から出られないからだ。あなたの選択が間違っているわけじゃない」

何度も何度も、自分を励ましながら生きてきた。


違和感を抱かれることは、決して悪いことではない。むしろ、違和感があるからこそ、その人らしさが際立つのだと思う。そして、誰かが嘲笑することで、その価値が失われることはない。違和感を排除しようとする人々にとって、世界はきっと窮屈だろう。それに比べて、私はもっと自由でありたい。他人の視線に縛られない自由を、私は選び続けたいと思う。


このエッセイを読んでくれる誰かに、ひとつだけ伝えたい。もしあなたが、自分の好きなものを持つことに躊躇しているのなら、どうかその気持ちを大切にしてほしい。あなたが好きなものを選ぶ権利は、誰にも奪えない。そして、その選択を嘲笑する人々がいたとしても、それはその人たちの問題であって、あなたの価値とは何の関係もない。


「普通」という枠の外にある世界は、案外楽しいものだ。その世界で一緒に生きていこう。あなたも、私も。

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違和感を異物と排除し、小馬鹿にして嘲笑う人たち 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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