第3話 デートのお誘い


「ないな、、、」


『デート』というハンゲルの新しい試みは最初の段階ですでに挫折を迎えていた。


「父上が言う『デートスポット』というやつがこの世界にはまったくない!!!」


それは当たり前と言えば当たり前であった。

ハンゲルが父エムファントから聞いた情報では初デートの失敗を防ぐには鉄板のデートスポットが不可欠だということだった。

しかし、思いつく限り女性が喜びそうな場所が悲しいほど少ない。

動物園、水族館などのアミューズメントパーク、図書館や映画館と言った文化施設は文化水準の高い他国にはあるのかもしれない。

この世界でさえ早くも大規模な植物園を建設した先進的な国もあるという。

されど、ここは魔獣が跳梁跋扈するド辺境、フットウントである。

その文化水準たるや、蛮族とほとんど大差ない。

王都でさえ田舎に毛が生えた程度のフットウント王国の辺境度合いを舐めてはいけない。

ましてや、某ネズミーランドのようなテーマパークの存在は調べるだけ無駄である。


そして、ハンゲルが導き出した結論は王都の大通りを散歩するという至ってふつーな案だった。

というか、考えてみれば王都にあるもの以外に碌なスポットもないのだからそれくらいしか選択肢が無かった。

多少、めぼしい店や景色の良さそうなところをざっと調べたハンゲルはこの世界初の記念すべき『デートプラン』を作成した。

もっともそれはプランと呼べるほどのものでもなかったが、とにかくデートの段取りはつけたのだ。


「よし、まあこれなら満足してもらえるのでは、、、」


プランは作った。

とはいえ、相手が居ないことにはデートはできない。

翌朝、太陽が顔を出した後。

淡い期待を抱き、記念すべき世界初の業績を共に達成するパートナーの元に向かった。


王宮の門を出たそばにそびえ立つお屋敷。

門も王宮のものと大差ない重厚で豪奢な大門が屋敷の正面にドン、と据えられている。


「ハンゲルが来たと伝えてください。」


ここも相変わらずだ、とハンゲルは思う。

建物に入ると、大理石の美しいフロアの上に不揃いな絨毯が無造作に敷かれている。

案内された客間も最低限のソファと絵画が飾られてあるだけ。

その割にここの執事やメイドは丁寧に対応してくれるから頭が下がる。


「ここも変わらないな。」


ハンゲルはは応接間で対面する相手に話しかける。

金髪碧眼、見るからにご令嬢という雰囲気を醸し出す齢16の女の子。

レン・シュタント。

この屋敷の主にして王国随一の武門、シュタント侯爵家の当主である。


「お久しぶり、、、かしら。」

「お嬢、ご無沙汰です。」

「なにその口調、、、よそよそしい。」


レンにそう言われるとさらにからかいたくなってしまう。

俺はさらに慇懃な態度でいかにも手揉みでもしているように言った。


「お嬢様、ご無沙汰しております。」

「普通にしてなさいよ。お嬢って呼び方もやめて。」


真面目なレンを困り顔にさせるのは楽しいもんだ

なんだか、こいつも変わっていないな。


「呼び方って具体的には。」

「レンって呼んで。ていうか、そろそろ怒るよ。」


ひぃっ、、、

睨み顔、怖い、、、

思わず身構えてしまった。


「冗談です。本当にあなたは冗談が通じないから困るよ。」


冗談が通じないのはお前のほうだろ、と思ってしまう。

あの眼は絶対冗談を言う人間の眼ではなかった。


「で、話があるって聞いたけど。」

「あっ、そうだった。」

「忘れてたの?私もそこまで暇人じゃないじゃないのだけど。」


ついつい忘れてしまったが、今日はデートのお誘いをしなければいけないのだった。

レンが呆れ顔で俺を見ている。

そんな顔することないだろ。


俺は一度、コホン、と場を整えてから精一杯かっこつけて言った。


「レン、俺と一緒に王都の美しい景色を見にいかないか?」


うわっ、なんか恥ずかし。

ちょっとキザ過ぎたかも。

てか、景色見に行くだけって、、、


「えっ、うん、、、。いいけど。」


案外あっさり了承された。

父上曰く、誘うところが一番の関門だという話だけれど。

付き合いが長いから気を使ってくれたのかもしれない。


「いつがいい。」

「明日。」

「あしたぁ!?」

「さっきも言ったけど、私一応当主なの!あなたほど時間を持て余してるわけでもないのよ!」


前言撤回。

こいつ、気遣いの欠片もありません。

やっぱりただただ虫の居所が良かっただけらしい。


「用事が済んだなら早く帰って。」

「エッ。」

「早く仕事終わらせなきゃ。」


このタイミングで仕事。

仕事熱心なのはいいことだけど。


俺はその後追い出されるようにして帰った。


「カミズミ、どう思う?」


振り向いて、誰もいない虚空に話しかける。

無言。


「隠れ蓑着て付いてきてんのはわかってるんだよ。」


少しの沈黙の後、見えないカミズミが小さく応える。


「、、、若様も罪な男ですね。」

「んん?聞こえない。まあいいけど。」




*あとがき

最近知ったんですが隠れ蓑って日本だけの発明品じゃないんですね。

覗きがしたいのも日本だけじゃないとわかって安心です。

しかし、世界に誇るHENTAIの国日本の民としてはさらに変態度の高いツールを登場させたいところです。

ところでドラえもんのひみつ道具は変態性かなり高い感じしませんか?

僕はそう思います。

あべこべクリームとかいうのあった気がするけど、あれって快感が不快に感じたり、不快なものが快感に感じたりしないんですかね。

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