第2話 婚姻話は突然に
王宮の南側、陽光射し入る国王の執務室でハンゲルは父親であるエムファントと対面していた。
フットウント王国国王エムファント。
年は34とまだまだ若い。
不似合いなヒゲを生やしたこのダンディーな国王はハンゲルに命令した。
「お前、結婚しろ。」
「はぁッ!?」
あまりに急なことで反応もできなかったが、予想されていた事態ではあった。
「父上、それはどうして急に、、、前の話では二十歳まで待つという話だったんじゃ?」
「本当はそうしてやっても良かったんだが、成人したら結婚だろって某辺境伯が圧力をゴニョゴニョ、、、」
父上が小さい声で言うものだからあまり聞き取れなかったが、要するに16才になったのだから結婚するべきだと言う話らしい。
この国では成人と結婚が同時になることが多いから当然といえば当然だろう。
「まあ、相手は自分で見つけといてくれ。嫁さん見つけるとこまで世話焼かれたくないだろう。」
「それは確かに。あまり母上には言わないほうがいいな。」
「隠しておこう。リューミラのやつが知ったら結婚相手が見つからなくなる。」
母上は心配性だから相手のことを全部調べそうだな、と思う。
実際、父上は経歴から好みから果てにはタンスの中の下着の種類まで調べられたらしい。
「とにかく、国王としては身分が高いに越したことはないとは思っているが、それ以上にお前が好きになったやつと結婚すればいい。」
やはり人と違うのだろう、この父親は。
父上はこの世界の価値観とは少し外れた感性を持っている。
俗に言う『転生者』といった類の人間なのだ。
この世界とは原理原則の異なる別世界、魔法のない世界からやってきたのだという。
小さい頃からよく父上の話を聞いていたから不思議だなぁ、くらいにしか思っていなかったのだがこの世界には結構そういう人間が存在しているということを後から知った。
というか、兄弟姉妹にも居る。
ただその『転生者』の中でも父上は特殊な手段でやってきたらしい。
らしい、というのは父上がその話について詳しく教えてくれなかったのだ。
ただ聞くところによると、女神様に会ったという話だそうだ。
そして、父上は別世界の『転生者』の中でも新しい時代、"現代"からやってきた。
なので、かなりリベラル、自由主義的な考えを持っている。
親が結婚相手を決めないというのでさえ、その数ある考えの一つに過ぎない。
時に先進的過ぎて周りが追いつけないこともあるが、大抵の場合この王国の益になることを考えて実行する。
それが俺の父親、エムファントという男だ。
その父上がただし、と付け加える。
「グルール辺境伯だけはやめとけ。」
「ウルスラさんが?いい人だと思うけど。そもそもあの人既婚者でしょ。」
ウルスラさん。
青みがかったロングヘアがきれいな彼女は俺にとってお姉さんみたいな人だ。
母上の姉に当たる人でグルール辺境伯家の当主を務める立派な女性。
俺の伯母でもあるので、小さい頃からよく面倒を見てもらっていた。
前当主の二人の娘の長女で婿をもらっていて、俺とそう年齢の変わらない子どももいる。
多分今三十歳くらい。
確か婿の方は亡くなったらしいけど、ウルスラさんは一人でもグルール辺境伯領をしっかりと治め続けている。
軍人としても超一流で隣国との戦争で一番の軍功を挙げたのが彼女だという。
自ら敵将を討ち取ったという武勇伝は吟遊詩人が盛んに喧伝していたから、フットウントの王国民全員の知るところとなっている。
カミズミから剣術指南を受ける前、俺にサーベルの振り方とか馬術なんかを教えてくれたのがそのウルスラさんだった。
ウルスラさんは競争して勝てた例がないくらい馬術に長けている。
そういえば一緒に乗馬の練習をしていたとき、ウルスラさんが妙に体をくっつけてきたり、落ちないようにといって締め付けてきたりしていたのはなんだったのだろう。
当時は服越しに当たるナイスバディな乳に気が向いてしまっていたので気にもしなかった。
温めてあげるね、なんて言って執拗に体を擦り付けてきたのは気の所為だったのか?
鼻息も荒かったし。
もしかしたら熱を出していたのか?
、、、きっとそうに違いない。
熱が出ても馬術の訓練に付き合ってくれるなんてウルスラさんはいいひとだなあ。
俺が能天気に考え事をしているのを見て、父上は話を続けた。
「とにかくあいつだけはやめておけ。うーん、そうだなぁ。お前の幼馴染なんかがいいんじゃないか?」
幼馴染というのはレン・シュタントのことだ。
こちらもまたシュタント侯爵家という高位の貴族家の当主を務めている。
シュタント侯爵家は貴族の中でも国王派閥のトップと言ってもいい存在で、王国騎士団の中枢を担っている武官の一家だ。
レンの叔父は王国軍の総司令に任じられているほど父上からの信頼も厚い一族で、当主のレンも師団長を務めている。
「レンと結婚、、、まあ考えとくけど。」
「まんざらでもなさそうだな。そりゃよかった。そういえば長らくお前が帰ってこなかったもんだからあいつが心配してたぞ。」
「ふーん。」
あいつも可愛いとこがあるんだなと思い直す。
レンとは物心がついた頃から一緒に遊んだり、剣の試合をしたりと仲が良かった。
とはいえ、俺は結構ちゃらんぽらんな性格で剣の鍛錬もサボってたからあの頃はまったく勝負にならなかった。
しかも、性格がめちゃくちゃ真面目だからなのか、油断も隙もない構えや攻撃をしてくるものだからマグレ勝ちすらしたことがない。
今はカミズミにしごかれにしごかれたおかげで勝てるようになったが。
そういえばレンもちょっと不思議なところがある。
最近何度かカミズミと俺とレンの三人で食事に行ったのだが、食事を食べ始めたあたりから記憶が度々なくなっているのだ。
それをレンに尋ねると、慣れないお酒のせいじゃない?、と言われるのだが俺は自慢ではないが結構飲める口である。
酔いつぶれなんてことはないと思うんだけど。
まあ、なにか不審なことがあればカミズミが教えてくれるだろうし、何もなかったのだろうけど。
「ちなみに心配と言うならあのグルール辺境伯、、、ウルスラのやつは毎日怒鳴り込みに来てた。仕事が終わらなくなるからやめてほしいんだが。」
それで父上はウルスラさんが嫌なのか。
流石に毎日はまずいですよ、ウルスラさん。
というか、毎日!?
想像してみると毎日怒鳴り込みって確かにヤバイ奴な気が、、、。
まあウルスラさんは母上の姉だから心配性なのも似ているのかもしれないな。
「ハンゲル、相手を選ぶ時間はまだある。じっくり考えておくように。」
「承知しました、父上。」
俺もついに結婚を考える時期か。
思っていたより早くなりそうだ。
もっとも結婚相手とは合意に基づいた対等な関係を築きたいという思いもある。
相手が納得してくれるように努めなければ早期に結婚というのは難しいだろう。
なにかいい案は、、、。
そういえば父上が言っていた別世界の風習に『デート』なんていうのがあったな。
ちょっと試してみよう。
そうして、ハンゲルはこの世界で初の試みに果敢に挑戦するのだった。
☆あとがき
ハンゲルの親父は転生者の特典が詰め込まれております。
①チート
②頭が良い(普通の現代人が知らないことも余裕で知ってる)
③超イケメン
欠点としては若干人の気持ちがわかりません。
異世界人の気持ちなんてさっぱりわかりません。
ちなみにこの特性は大抵ハンゲルに引き継がれています。
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