転生者の息子は苦労知らず〜ド辺境王国はどこもかしこも敵だらけ〜
ななお
第1話 狩りの時間
カチリ、と引き金を引くと勢いよく弾丸が飛び出す。
火薬の爆音が山々に響き渡る。
タァーン、タァーン。
ハンゲルの発砲を合図に狩人たちも撃ち始めた。
獲物は魔獣の群れ。
ざっと40匹ほども居るだろうか。
対するこちらは熟練の狩人たちが20人ほど。
そのほとんどが前装式のライフルをもって参戦している。
一匹も逃すなよ、と言うのだがもとより逃がすつもりもない。
魔獣の群れはライフルのクロスファイヤを食らって散り散りになっている。
このまま殲滅できればいいんだけど、と思ったがどうやらそうもいかないらしい。
「ハンゲル様、なんかでかいの出て来ました。」
「群れのボスらしいな。とりあえず撃ってみるか。」
効かない気もするが、と呟きながらも弾丸を再装填する。
撃鉄を起こし、銃を構える。
ふぅ、と息を吐く。
っ、、、ゴオッ!
放たれた弾丸は空を裂き、魔獣の脳天に突き刺さったかに見えたがどうも致命傷に至らない。
近くの狩人たちも引き金を引くがダメージにならない。
「でかいしかたい、どうなってんだ?」
「魔力で身体能力が上がってるようです。」
「厄介だな。」
実に厄介だった。
その後も仲間と共に弾丸を1ダースぐらいはおみまいしてやったのだが、いたずらに興奮させるだけで効果がなかった。
そうこうしているうちに群れは狩人たちのいない風上に逃れようとしている。
すでに群れは半分以下になっていた。
しかし、課せられた使命は魔獣の全滅である。
「包囲しろ。」
俺は命令し、狩人たちが風上に向かおうとする。
すると、そのデカブツは俺めがけて突っ込んできた。
「指揮官が俺だと理解したのか。」
「殿を務めるつもりなのでしょう。」
「獣のくせに生意気だな。」
持っているライフルは前装式だからリロードに時間がかかる。
俺はとっさにライフルを捨てる。
「カミズミ!」
「承知。」
その魔獣は近づけば近づくほどにバケモノだった。
バケモノは眼の前で跳躍すると右の爪を振りあげる。
カミズミがすんでのところで振り下ろされる右腕を切り落とす。
俺も剣を抜き、右肩から袈裟斬りした。
さすがのバケモノも怯む。
その隙にカミズミが心臓を貫いてやっとのことで退治した。
「助かった。怪我はないか。」
「我は若様の従者、気遣いは無用です。」
「そうか。」
日本刀を納刀するこの風変わりな剣士はカミズミと言う。
その反応はいつもながらそっけないというかなんというか。
人の心配を無下にしているとしか思えない。
もっともカミズミは俺の知る中で指折りの強い剣士だからそこまで心配しているわけでもないのだが。
同じ頃、俺達が魔獣のボスに気を取られている合間に狩人たちは群れの始末を終えたらしい。
このあたりで一番の実力派ハンターグループだという話は嘘ではなかったようだ。
「にしても、かなりの獲物だった。こんなのがうろちょろしてるのか。」
「前はそんなでもなかったんですがね。どうも南の方から移ってきているようで。」
狩人集団の長を務めている男は苦々しそうに語った。
「南というとナルナ侯爵家領か?」
「いえ、ウムル公爵領らしいです。あちらのハンターギルドは手一杯らしく、どうやら冒険ギルドの方にまで応援を要請しているそうで。」
「ウムル公爵はハンティングのプロと言ってもいい貴族だ。それが悲鳴をあげるようなら相当な事態だな。父上にも一報入れておこう。」
「ありがたいです。この分だとうちのギルドにも要請が来るでしょうから。」
魔物の増加か。
今の魔獣の数でも村落は頻繁に損害を被っている。
これ以上ともなれば被害の増大も免れないだろう。
しかし、魔物の出現も悪いことばかりではない。
「ハンゲル様、魔導石の回収が済みました。」
魔導石。
魔力の結晶である。
長い年月をかけて魔獣の体に溜まった魔力が死後に固体化してできる。
普通、保有魔力が大きいほどサイズが大きくなり、時間をかけて生成されたものほど質が高まる。
「これはかなり質がいいですね。それにサイズも大きい。」
ハンターが指さしたのはカミズミが倒した群れのボスの魔導石だった。
「他のもそれなりです。いい値段が付きそうですね。」
魔導石は市場で高く売れる。
ハンターがそれなりと言った魔導石でも一般の庶民の賃金の10日分くらいになるから結構な大金である。
売られた魔導石は大抵海外の魔法学院や魔術師、研究者に売られていく。
最近は動力としても利用されているのでさらに時価が上がった。
うちの国はほとんどこの魔導石産業で食っていると言っても過言ではない。
他にろくな産業もないので王国はほとんどモノカルチャー経済。
他国では産業革命が起こっている時分なのだが。
「では約束通り成功報酬に上乗せしておきます。」
報酬の確認も済み、狩りは終わった。
領内を巡るために始めたハンターとしての生活なんだかんだ何ヶ月も続いていた。
初めはライフルの扱いにも慣れていなかったが、今では王国の卓越した狩人にも認められるほどの射撃の腕前になっている。
ハンターギルドの証書をもらうという目標も達成した。
親父どのに報告することもあることだし、そろそろ王都に帰るべきだろう。
「カミズミ。」
「はっ。」
「帰るぞ。」
こうして俺は王都に帰ることになった。
慣れ親しんだ王宮。
そこには狩り場など比較にならないほどの修羅場が待ち受けていた。
☆あとがき
もう何度書き直しているかわからなくなってきた話を性懲りもなく書き始めました。
3度目の正直。
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