2 二宮さんは惚れられる
あれは高校受験の冬だ。
僕は巻き込まれたんだ。倒れた白い犬を抱き上げただけなのに。
「白狐だ」
「あのときはひどくやられて、わざわざこの俺が天地風の力を補充せねば小娘は死ぬところだった」
「補充するにしても、もっと隠れてしてくれという話だよ」
ボロボロの姿をしていたから、今から思えば幻妖獣とやらと死闘を繰り広げた後で隠れることなどする暇も力も失せていたに違いない。
「だからおまえたちはニコイチになったんだ。ややこしい。今ではおまえがいなければ、彼女は幻妖獣を封じ込めることはできないし、自由に白狐になることもできない。敵を倒すための武器も使えないんだ」
塾から帰るとき、いつもの道ではなくて公園を抜けようとしたところが間違いだった。犬がブランコのところで伏していたので、何となく大丈夫かと話しかけたときだ。息も絶え絶えで、せめて抱き締めてあたためてやろうとした。気がつくとはえていた尾と頭に耳が飛び出した耳が消えていた。慌てて裸の彼女をコートをかけて、どうしていいものかとうろたえていると殴られた。
「あのときおまえにわたしの力が流れた。いくつもの白狐としての力もおまえに奪われたままだ」
「人の姿になろうとしていたところに悪い印象しかしない。早く狐に戻してあげてください」
「そもそもわたしは人だ。これまで二宮の女は白狐の魂を継いできた」
五穀豊穣の稲荷に使える彼女は人の世に迷い込んでくる、幻妖なる者を退治しているらしいのだが。
「おまえがもっと力を操れなければわたしは強くなれん。だからおまえに修行させる。おまえはどこぞの誰かの出した問題を紙の上で解いて喜んでいる暇はない」
「成績一番で喜んでいたくせに」
「まあそれはそれだ。二宮家のこともあるからな。簡単な試験くらい人としての振る舞いも学ばんと」
二宮は私立小学校から大学まで保証されていたところ、わざわざ高浜が入学した公立高校に転校してきた。入試のときに廊下で見たときは驚いた。他の生徒も美しさに驚いていたが、動揺して失敗した高浜は合格発表の日まで寝込んだ。
合格発表が行われ、晴れて高校に入学できたときのうれしさと二宮に見つけられたときの悲しさは今でも忘れない。せっかく華やかな高校生活を夢見ていたのに、こんなわけのわからないことに巻き込まれたくはないので必死で逃れようとした。
あれはGW前の合宿で起きた。
小学時代からの友人の定本が二宮に惚れた。バスケ部で一年で地区強化選手に選ばれ、しかも学力は優秀で容姿もいい。高浜は引き立て役にすらならない。そんな定本がばすけの大会に来てくれと二宮を誘おうと思うんだけどと話してきた。実際誘ったようだが、興味がないと断られたということだ。夏休みも花火大会も誘ったが断られたようだ。ただおそらく今でも惚れている。何でもできる奴は少々では折れない。学年二番に甘んじたとき、二宮に勉強のことで話しかけていたが流された。
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