王国編

第8話 王国 1

「おらぁ!」威勢のいい声と共に、モンスターが倒れていく。この道はモンスターが多いな。俺にはうってつけの場所だ。


「この世界は経験値とか無い。でも、モンスターを倒すと強くなるんだよな」この世界の仕組みに疑問を抱きながら、戦闘を重ねていく。


「一人旅はなんか寂しいな。ふざけても笑ってくれないし」改めて自分がいかに恵まれていたかが分かる。


「でも、アイツらを守るための力を手に入れるためだ。弱音なんて吐いていられない」倒しきったモンスターをばらしては、魔法空間に入れていく。


「あれ、もう入らないのか」モンスターを入れている中で、入らなくなった。どうやら容量の限界が来たみたいだ。


「いらないものは捨てていかないとな。ていうか、こんなの軽く入れていたブランってやばいんだな」限界を知って、強さを知る。


「ま、これは小さい頃から鍛錬を積んでいないと大きくならないから嘆いていても仕方がないか」要らない物を魔法で焼いていく。


「だいぶすっきりしたかな。これからは考えて入れていかないといけないのか」仲間がいない分、負担は全部一人で持つことになる。やれやれだぜ。


舗装されていた道もいよいよ獣道へと変わっていく。本当にこの先に街があるのか。貰った地図を疑いそうになる。


「なーんか見た景色なんだよな」木々が覆い茂っていて、日影が多い。これ道に迷ったんじゃないか?人に聞こうにも、人がいないしな。自分を信じて歩くか。


楽観的な考えで歩いて数日間。何の成果が得られなかった。あれぇ?地図だと三日以内に着くって書いてあるんだけど?じいちゃんの足が速すぎるだけ?それとも本当に迷ったのか?勘弁してほしいぜ。帰り道も分かんないんだから。


道に迷ってんなって思いながら森の中を歩いて数日、やっと人に出会えた。瀕死の状態だが。


「大丈夫か?いま回復してやる!」そう言ってポーションを掛けようとする。すると、フルアーマーを来た兵士が死にそうな声で「それより,,,あの方を,,,」とその人が入りである場所を指さした。


「あぁ!めんどくさいな!全員回復してやるよ!」覚えたての回復魔法を使う。詠唱をしないといけないんだがそれくらいはもってくれるだろう。


「母なる大地から与えられた命よ!今はまだ尽きる時ではない!奇跡を!神秘を!今その体で感じるがいい!エクスヒール!」


魔法を唱え終わると、俺の周り半径百メートルが緑色の光に包まれた。多分こいつの言っていた奴も回復してるだろう。


「感謝する!!礼は後にさせてくれ!今はお嬢様のほうが大事なんだ!」兵士はそういって森の中へ走っていった。


お嬢様!?気になる言葉やなぁ!行くしかないっしょ!!


俺はこっそりと兵士の跡を追う。ま、すぐ近くだから急ぐ必要もないんだが。なんて思いながら走っていると剣戟が聞こえてきた。誰かが戦っているのか?


そう思って茂みの中から覗くと先ほどの兵士が、赤竜と戦っていた。お嬢様らしき人はその後ろに居る。もしかして、モンスターも回復させちまったか。自分のケツは自分で拭かないとな。


「邪魔するぞ!」俺は声を上げて、天高く飛翔する。赤竜は地上においては驚異的な強さを見せるが、空中になると途端に弱くなる。この性質を使って頭上から攻撃を仕掛ける。


星砕ラーツレイ!!」俺の斬撃は赤竜の首に向かって放たれる。しかし、鱗が硬い。金属を叩いている感じだ。だが、俺のスキルの前にこんなものはおもちゃに過ぎない。


初撃に続いて大剣が空中から無数に落ちてくる。剣は俺の横をすれすれに落ちていき、赤竜の首に傷を入れていく。


ちょうど、全ての剣が落ち切ったころに、首が落ちた。赤竜は終始困惑した様子で、その場に突っ立ているだけだった。攻略方法が分かっていれば簡単なんだよな。


「大丈夫か?」さっき助けた兵士とお嬢様に聞く。


「おかげで助かりました。栄光兵団団長として、心より礼を言わせてもらいます」その場に片膝を付けられ、頭を下げられた。マジか。栄光兵団って俺が向かおうとしているグロリアの兵団じゃないか。案内してもらおう。


「当たり前のことをしただけだ。頭も上げてくれ。こっちが困るからよ」笑いながら、頭を上げるように促す。これは本音だ。誰かにこうやって頭を下げられるのは嫌いなんだよな。


「赤竜の討伐が当たり前のことですか。どうやら凄腕の冒険者の様ですね」こいつの討伐ってそんなに難しいのか?じいちゃんは簡単って言っていたから分からないな。


「俺なんかまだまださ、自分に負けてしまうくらいだからな」笑いながら、兵士に言う。


「謙遜もするのですね。おっと、申し忘れていました。私の名前はフェインと言います。そう言って、兜を外した。


声から予想が対いていたが女性だった。しかもとびっきりの美人。短髪の金の髪に青色の目。すっと入っている鼻筋。俺の鼻の下も伸びてしまうなこりゃ。


「フェイン!私も居るわよ!」彼女の後ろから聞こえてきたのは元気いっぱいの女の子の声だった。


「これはお嬢様申し訳ありません。命の恩人でしたので」そう言って彼女は横に動いた。目の前に居るのは十歳くらいの女の子だった。可愛いな。どっかの貴族かな?


「俺の名前はブレイクって言うんだ。君の名前は?」しゃがんで目線を同じにする。


「私の名前はリズレット・ホープ・グロリアよ。以後お見知りおきを」この優雅な立ち振る舞いに名前。そして、誰もが目を引く銀の髪に紫の瞳。もしかして,,,


「王族の方ですか?」恐る恐る聞いてみる。王族だったら死刑確定だ。めちゃんこ無礼な態度をとっているからな。


「そうよ!私はグロリア王国の王女よ!候補だけどね!」はい死んだ。ブレイクの次回作にご期待ください。なんでこんなところにありえないトラップが仕掛けられているんですか。


「もしかして、死刑確定ですか?」ここまで適当なことをしたんだ確定に決まってる。


「そんなことはしないわ!私を救ってくれたもの!」セーフ、何とか助かった。また牢屋に行くのは勘弁だからな。


「でも、条件があるわ!」へ?なんかやばいこと言ってきそうなんですけど!ここで切腹しなさい!とかか?死んじゃうよ俺!


「私をグロリア王国まで護衛して頂戴!」ふんぞり返って言ったのは簡単なことだった。


「それだけで許してくれるんですか?」


「そうよ。護衛がフェインしか残っていないからね」言われてみれば確かに、王族を護衛するって言うのに、人があまりにも少なすぎる。何かあったんだろうか」


「なんでって顔をしていますね。私が説明をしますね」彼女が馬鹿な俺でも分かるようにかみ砕いて教えてくれた。ここに来るまでの間に赤竜の群れに襲われて、残ったのがこの二人というわけだ。


「なんか,,,大変そうですね」かける言葉が分からなくてそんなことしか言えない。本当に情けないな。


「皆が分かって行ったことです。それに、お嬢様も無事で喜んでいるはずです」フェインはそういうと、晴天を仰いでいた。涙が見えたのは気のせいだろうか。


「事情は分かりました。護衛します。ていうかしないと死ぬので」笑いながら言うと、「本当に処すわよ」何て恐ろしい言葉が返ってきた。王族は怖い。


王国に向かう途中で竜に遭遇した。この辺りは本当に竜が多いな。戦闘になると、俺がダメージディーラー兼タンクとして前線を張る。後衛ではフェインがリズレットを守るように動いてくれていた。


「ブレイクさんは本当に強いんですね」戦闘が終わるとにフェインが言ってくる。護衛なんだから倒せなきゃ意味がないだろ、なんて思いながら、「まだまだです」と謙遜しておく。


リズレットのほうは、戦闘を見るのが面白いらしく、声を上げていた。こっちは命がかかっているのに、呑気なお嬢さんだ。


ここからだと、四日はかかるらしく、お嬢様のことを考えると一週間はかかる見込みの様だ。野宿とかしたことあんのかな。そんなことを思いながら、フェインとリズレットの後ろを歩く。向かい始めて初めての夜が来た。童貞どもそっちの初夜とは違うからな。


「二人はテントをもっているのか?」一応持っているかを確認する。二人とも手ぶらだから、魔法空間は持っていると思うんだが。


「持っていないですね」フェインは申し訳なさそうにしている。リズレットは「持っていないわ!」と何故か誇らしげにしていた。王族だから、なんも言えない。くやちい。


「王国に着く間は俺のテントを使ってくれ。二人だと狭いと思うが」俺は魔法空間からテントを出して、組み立てる。一人旅だと思っていたから、全てが一人用だ。予備でも持てくればよかったかな。


「助けてもらって、その上ここまでのことをしてくれるなんて」フェインは神を崇めるように、感謝をしていた。リズレットはちょっと顔を赤らめて「ありがと」と小声で言っていた。可愛いところがあるじゃあないか。


「料理とかはできるのか?」俺は料理をする気でいるが、念のために聞いておく。やってくれるかもしれないからな。美人の料理、あぁ!そそるぜ!!


「私は戦闘一筋だったので,,,その,,,」もじもじしながら、口をもごもごさせている。可愛いな。


「早く言いなさいよ!私と同じで、料理が出来ないって!」oh,,,美人が料理が出来ないことを恥ずかしいと思っているなんて。


「クッソかっわいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!」バサバサッ!!近くにいた鳥たちが、一斉に飛び出してしまった。俺の声にびっくりしちゃったのかな?


「ブレイクさん?大丈夫ですか?」顔を近づけてくる。これはどっちなんだ!?声のほうか!?料理のほうか!?ま、声のほうか、急に冷静になってきた、賢者になった気分だ。


「あぁ、ちょっと取り乱してしまいました。料理は俺がしますよ」何もなかったように、料理の準備を始める。


お嬢様を満足させられる料理は出来るかなー。適当な肉を魔法空間から取り出して、熱したフライパンの上に放り込む。ジュー。気持ちのいい音が鳴る。


きゅー。可愛いおなかの音も聞こえる。


「そろそろ出来上がるので、もう少し待ってください」丸太に腰を掛けて、焚火と俺を眺めている二人に言う。肉がそろそろ焼ける頃だ。サラダも出しておくか。皿とサラダを出して、適当に盛り付ける。見た目より味重視だから、目を瞑って欲しい。


「できましたよ」そう言って、二人の前に、料理を出す。赤竜の肉に、マンドラゴラのサラダ、あとパン。野宿の料理にしては、いい出来だ。


「おいしそう!」「いただきますね」料理を前に二人は、涎を垂らしている。


「冷めないうちに食べましょうか」俺の言葉で、食事が始まった。誰かと食べる飯はやっぱ美味いな。二人のことを思い出しながら食べる。味付けが少し濃かったかな。


新しく出会った二人はそんなことを気にしないでがつがつと食べてくれた。三人前以上あった料理は綺麗に平らげられた。


「ふあぁ~」大きな欠伸をして体を伸ばす。昨日の夜は二人を寝かせて、俺は警戒に回った。慣れていない野宿だろうし、疲れているだろう。俺なりの配慮だ。


寝込みとか襲ってないからな!?本当だからな!?俺はヤる時はヤるが、正々堂々、トロフィーを掲げるタイプだかんな!?まじだぞ!?


っていうことで、眠たい。いつもは交代で警戒していたから、楽だったんだが、一人だと本当につらい。仮眠もできないし。こんなんで一週間は飢餓狂っちまうよ。何とか、二人にも警戒してもらいたい。


色々なことを考えながら、朝の食事の準備をする。こんな呑気な奴が団長って、グロリア王国大丈夫なんか?心配になってきた。俺一人で攻め落とせるかもしれない。


「お前ら、起きろ。飯だぞ!」フライパンをリズムよくたたいて、音を立てる。かんかん、かかん。おっ、いいリズムや。こいつらが起きるまで躍るか。


十分たったが、テントから、出てこない。返事も来ないし。まだ寝てるのか。中に入って起こしちゃうぞ~~。


勢いよくテントを開くと、そこには幻想郷があった。金と銀の美しい対比。それらをより美しく見せるための薄い色のついた布。そして何よりもよかったのが、速攻で飛んできたダブルグー!あまりの強さに、吹き飛ばされてしまった。


「本当にすいませんでした」起きてきた二人に土下座をしている。怖くて上を見れない。ただ、見なくても分かる。鬼のような形相をしているということが。


「今回は私たちも悪かったから許すわ。フェインもそれでいいわよね?」リズレットがフェインに確認を取っている。


「お嬢様の言うとおりにします」許された!やったーーーー!!


「でも、次あのようなことがあったら、命が無くなっちゃうかもしれないわね」さらっと言ったけど、すんごい怖いこと言わなかった!?まじで、今度からは気を付けよう。


飯も昨日の残りを温めるだけだから、テントなんかの片づけを始める。フェインは何かできることは無いかとしきりに聞いてくる。可愛い。それに比べてお嬢様は、黄昏ている。王族は余裕が違うな。


「これから、さらに進んでいくんだろ?モンスターの生態は変化するのか?」ここら辺の知識に疎い俺は、フェインに聞く。何かあったときに対応するためだ。


「特に変化はありません。ただ、赤竜から、青竜になっているモンスターもいるので、手ごわいかと」地図を見せながら、教えてくれた。


竜は龍と違って、成長しながら、形態が変化してくる。一番下は赤竜だ。正直弱い。青竜はちょっと強いくらいだ。


「了解。隊列は変えないで、そのまま、前へ進んでいこう」俺の素地で、皆が動き始める。さらに暗くなった森の中。特にイベントは無かった。


のんびりと歩みを進めて、五日が経過した。あと一日で着くらしい。やっとふかふかのベッドで寝れる。なんて考えていた矢先、俺らが考えうる最大のピンチに陥った。


黒竜が現れたのだ。三段階目とは言え誰かを守りながら戦うのは厳しいな。


「ここは俺が足止めしとくから、先に王国に戻ってろ。心配すんな、俺の強さはここ数日で分かっているだろ?何なら倒してやるよ」泣きそうなリズレットが見えたので、フォローの言葉をかける。


「フェイン。お嬢様は任せたぞ」彼女はコクリと頷いて、王国のほうにリズレットを抱えて走っていった。


見栄を張ったはいいが、倒せるかな。大きさは二十メートルくらいだ。急所である頭に攻撃を仕掛けないとな。


「があああぁぁぁ!!!」咆哮と共に、戦いの火蓋が斬られた。


初撃は黒竜のブレスだった。ここからのブレスは属性が混ざり始めているからな。いなすのは難しいな。大剣でブレスを斬りながら、前へと走っていく。俺の周りには、黒い火の粉が纏わりついている。


闇属性。浄化しなくても行けるか。闇は身体と精神に影響を及ぼす厄介な属性だ。早く終わらせないと。


「うおおおぉぉ!!」頭めがけて跳躍をして、斬撃をお見舞いする。硬い!たやすく弾かれてしまう。自由の咆哮も溜めが必要だから、使えないし。どうするか.,,,


って考える時間もくれないか。黒竜は飛翔し、辺り一面を燃やし尽くす、広範囲ブレスを放ってきた。


「マジックシールド!」俺が魔法を唱えると、透明のバリアが俺のことを包んだ。多少はダメージを軽減してくれるだろう。


ゴオォォォ!!周りが黒い炎で包まれる。俺はかろうじて無事だ。火傷はなんかはしているが、関係ない。あとで治療すればいい。優先すべきは黒竜の討伐だ。


「死んでいないのが不思議か?」黒竜に向かって、言葉を放つ。


理解をしているのかは分からないが、先程よりも威力の高いブレスを吐いてきた。これはいなせないかもな。剣を下から、振り上げて、かき消そうとする。が甘かった。多少炎が残っていたみたいだ。全身軽いやけどを負ってしまった。


「あんま俺を舐めんなよ?俺からしたら、今までのは茶番だぜ?」黒竜に向かって剣を投げつける。キィン!いとも簡単に弾かれてしまう。


「なかなかやるな。ならこれはどうだ?」辺りに魔方陣が展開されていく。大小、形は様々、しかし、出てくるものは変わらない。剣。これだけだ。


「頑張って耐えてくれよ。流星剣ラルグ・ブレイド!」剣を振りかざすと、魔方陣から、一斉に飛び出してきた。その数は、おおよそ、百本。それは、頭めがけて飛んでいく。


黒竜は避けようとと、空中に飛んで、逃げ回る。しかし、このスキルは、狙った対象には必ず当たる。コスパは最悪だがな。


ザシュ!ズバッ!肉が骨が切れていく音がはっきりと聞こえる。此処数日怠けていたわけじゃない。時間があれが素振りに瞑想、スキルの考案。できることすべてをやってきている。


今更、こんなのに負けるつもりはない、負ければ、別軸の奴に殺されてしまうからな。剣が百本ちょうど体を貫いた頃だろうか、黒竜は空を飛ぶのをやめて、地上に降りてきた。


「俺の土俵に来るとはな。勝算でもあるのか?」黒竜に剣を向けて、攻撃の態勢をとる。アイツの体はボロボロだ。欠けた全身の鱗、穴が空いた翼、赤く染まり始めている肉体。どう出てくる。


「ギャオオオォォ!!」咆哮をしたかと思えば、俺めがけて突進をしてきた。重さでものをいわせようってか?受けて立つぞ!


剣を横にして、盾の様に構える。耐えきれば俺の勝ち。出来なければ負け。単純明快だ。


ドオオオオオオンンッッ!!轟音と共に、両者がぶつかり合う。飛び散る金属と鱗。抉れていく大地と肉。辺りに響くは互いの雄叫び。


「うおおおおおお!」やべぇ、もう持たないかもしれない。体が痙攣を始めちまってる。踏ん張りが効かない。だが、向こうも同じだ。威力が下がり始めている。


お互いの激突が完全に停止した。黒竜には、もう反撃する力も残っていないだろう。今まで出会った中でも指折りの相手だった。


「次も負けないからな」俺が不敵に笑って、剣を首に振り下ろした。黒竜は、最後に、次は殺してやる、という顔をしていた。こうして、死闘は幕を閉じた。


あれ?二人を先に行かしたけど、道わかんないんだよな。安否の確認とかで、来てくれるかな,,,


多少の焦りを覚えつつ、日が暮れ始めていたので、その日は、さっさと寝ることにした。黒龍の傍で寝ていたら、モンスターもよっては来ないだろう。


なんだか、どっと疲れた。連日の警戒に今日あった死闘。知らず知らずのうちに疲労がたまっていたのだろう。今日はしっかりと休むぞ!!


黒龍に体を預ける。死んだばかりだからか、まだ暖かい。焚火はしなくていいか。面倒くさいし。火によって来る奴もいるかもしれないからな。


あぁ、今日も何とか生き残れたな。青く光る月を見ながら、生きていることに感謝をして、眠りに入った。


眠りに入ってすぐだろうか。変な夢を見た。あまり覚えだせないんだが、変だということは分る。体中から滲み出ている冷汗がそのことを物語っている。


なんて表現したたらいいんだろうか。まるで、存在が無くなっていくかのような,,,いうなれば透明人間っていうやつだ。誰からも認知をされない、孤独な毎日を送っていた気がする。あぁ!思い出せないからイライラする。


「はぁ、疲れが本当に溜まっているんだな」昇り始めた月を見ながら呟く。ここ最近は慣れないことばかりで体も心も参ってしまっている。でもこんなところで止まるわけにはいかない。


「もうひと眠りするか」時間はあるだろうし、少しでも体を休めたい。そんなことを思いながらまた俺は寝息を立て始めた。


暖かい日差しと共に目を覚ました。昼くらいまで寝ていたんだろうな。太陽が真上まで昇っている。さて、この黒龍はどうしようか。俺の魔法空間に入らないし、持って行ったとしても、ボロボロだから、使い道も無いだろう。


よし、ここに放置しよう。自然の物は自然に還るのが一番だ。ありがとな、黒龍。礼をして、その場を後にする。


この後どうしようかな。グロリア王国も行きたいけど、道が分からんからな。適当にふらつくか。適当に歩いていると、遠くから声が聞こえてきた。


「ブレイクさん!!生きていますか!!返事をしてください!!」フェインの声が聞こえる。それに、別の人間の声や、馬の足音も聞こえる。迎えに来てくれたんだな。


「ここに居るぞ~~!!」腹の奥から、大きな声を出す。ぐっすり寝たから元気だ。


「動かないで待っていてください!」返事が返ってきた。やっと目的地にたどり着ける。嬉しいよ、本当に。


少ししてやってきたのは総勢数百名の兵団だった。ここまでして俺のことを探しに来てくれるなんて、思いもしなかった。来ても三人くらいだと思っていたからな。


「黒龍の死体とかって保存してますか?貴重なサンプルになるので、欲しいのですが」フェインは俺を連れてきた馬に乗せて、そんなことを聞いてきた。


「あぁ、魔法空間に入らないから置いてきた。場所は分かるから、連れて行こうか?」一度行ったりしたところは戻れるんだよな。


「是非、お願いします。この人数は黒龍を運ぶために連れてきたんです」後ろの兵たちを見ながら教えてくれた。


「なるほどな。俺のことをどこまで信じてんだよ。倒せるって言ったけどよ」ここまで人を信じていけるのは才能だな。


「ブレイクさんなら、やれると思ったので」フフッと笑う彼女を見て、顔が赤くなる。か、可愛い!って俺にはブランがいるんだ。浮気はしないぞ。


「この辺で倒したはずなんだが」戦闘の跡が色濃く残る場所まで来て、辺りを見渡す。


「団長!こちらに黒龍の死体がありました!!」一人の兵士が見つけたようだ。優秀なんだな。俺ほどじゃないが。


「もっとボロボロなのを想像していたが、原形を結構留めているな。流石はブレイクさんですね」フェインは死体を見て、俺のことを褒めてくれる。まじで、俺のこと誘ってんじゃないかって思ってしまうよ。


どうやって運ぶかと思っていたら、台車のようなものを出し始めた。その上にのせて、馬に引かせるんだな。考えているな。


黒龍の死体は数百人の力によって台車に乗せられて、ドナドナしている途中だ。俺のライバルが、あんな姿になるなんて。


「ブレイクさん、申し訳ないんですが、王国まで護衛を頼めますか?ここに居るのは、戦闘要員じゃないので」上目遣いで頼んできた。断れる奴いる!?いねぇよなぁ!!


「喜んで!!」胸をドンと叩いて、引き受けた。最近はずっと誰かを守っているな。自由には遠いな。


パカラパカラと音を立てながら、道を進んでいく。道があるってのもなんかいいな。いつも道なき道を歩いていたからな。


「リズレットはどうなんだ?」王国に向かう途中で気になることを何個か質問した。


「リズレット様は王宮に戻られました」無事なのか。それは良かった。


「王国を守るのは栄光兵団だけなのか?」これは気になっていた。仮に王女候補を護衛するのにも関わらず、人が少なすぎる。


「違います。リズレット様を守るのがこの栄光兵団です。王国に事情があるのでこれ以上は言えません」だから、護衛する人数も居ないのか。考えてみれば、少数精鋭でもないのに森の中に居るのは危険すぎる。王国に何かあるのだろう。俺の知ったことではないが。


「では、こちらからも質問させてもらいますね。こちらの手配書。あなたですよね?」そう言われて向けられた、一枚の紙。そこには俺の顔が写っていた。そうです。指名手配書です。呑気にしてたけど、俺犯罪者だった。ブランは違うらしいけど。


「俺で間違いない」はっきりと肯定する。ここで、変にこじれるのも嫌だからな。俺の言葉で、辺りの空気が一変する。引き絞られた弓のような緊張感。息をするのもきついな。周りの兵士たちも、つらそうにしている。


「ここで殺すか?」魔法空間から、剣を取り出して構える。ここに居るのは、戦闘要員じゃないらしいからな、苦戦はしないだろう。とはいえ数百人がいる。時間がかかりそうだ。


「そういうので見せたのではありません。あなたも私たちと同じではないかと思ったので見せました」フェインが、両手を上げて、弁明を始めた。


「グロリア王国には二つの派閥があり、今の鎖国状態を維持するという考えを持っている保守派。外交を活発化させるという考えの革命派の二つがあるんです」


「それで、俺と何の関係があるんだ?」関連性が全く見えてこない。


「保守派には、革命派であるリズレット様を疎ましく思っている貴族たちがいるんです」拳を震わせながら、教えてくれる。事情は大体わかった。


「分かった。もう言わなくていい。殺せばいいのは誰だ?」単刀直入にフェインに聞く。


「王国にリストがあります。それよりもなんで,,,」驚いた顔で何かを聞きたそうにしていたが、俺が遮った。


「そういう宿命を背負ってるんだよ。それが邪魔されそうでね。お前もそうだろ?」笑いながら、フェインに声をかける。


「そうですね。私にもあります」そう言って、鎧で覆われた胸をコンコンと叩いた。


「これで俺は貴族殺し,,,か。あいつの家が無いといいな」ある一人の男の顔が浮かぶ。もしアイツの家族を殺したら、ifが出来上がっちまうんだろうな。


「アイツとは誰のことを指しているんですか?」フェインに独り言を聞かれていた。恥ずかしい。


「いや、なんでもない。それよりも手伝った方がいいんじゃないか?待機しとくからさ」後ろで、黒龍の死体を落としそうになっている兵士たちを指す。


「そうですね。行ってきます」フェインはそういうと、馬から降りて、走っていった。オーバー家、リストに入っていないといいんだが。


アイツは過去のことは多く語らなかったからな。多分嫌いだろ。知らんが。ま、オーバー家であの見た目なら、嫌われていただろ。そんなことを思いながら、王国へと向かった。


「やっと着いたか」あそこから、ここまで来るのに、二日かかった。グレイ・スカイを出てから、一か月が経ちそうだな。


「検問はこちらで通しているので、ブレイクさんはそのままでいいですよ」フェインは門を前に教えてくれた。グロリア王国とはどんな所かを、教えてあげよう!


大陸の端に位置するこの王国は、森と海で囲われており、自然が大きな壁の役割を担っている。しかし、辿り着けば敵だった自然が味方に見える。四季折々の森の変化に、海が恵んでくれる海産物。ここでしか得られないものがたくさんある。鎖国状態をどうにか解いてほしいものだ。著ワールド


ってなわけで、もともとの目的は、ここの海に居る、激流とか言う竜の討伐だったんだが、急遽貴族を殺すことになった。物騒だね。


「国に着いて早速で悪いんですが、私の家に来てくれますか?」ま・さ・か・の・お誘い!!なんてこったい!罪な男だブレイクよ!だけど断れよ、ブランがいるからな。


「リストを渡したいのと、宿の受付をしたいので」知ってた。業務連絡だって。だ、だから、か、悲しくないぞ!?まじだかんな!?強がりじゃねーぞ!?


「了解」門の前で、みんなと別れて、フェインと二人っきりになる。話すことも無いから、気まずいな。ブランたちとは、こんな風にはならなかったんだが。


ボーとしながら、フェインの跡を追っていたら、いつの間にか路地裏に来ていた。本当にここに家が在っるのだろうか。少しながら不安を覚える。


「そっちに行くとえらい目にあうぞ」どこからか、俺に似た声が聞こえた。


フェインには聞こえていないみたいだ。俺にだけ聞こえてるのか?幻聴か?


「幻聴じゃねぇよ。選択はお前に任せるが」俺の心を読んで、返事までしてきた!?お前何者だ?すっかり暗くなった空を睨む。


「とxLIBraK。聞こえないだろ?教えられないんだ」最後の部分しか聞き取ることしかできなかった。何が教えられないんだよ。それに謎の上から目線だったし。でも、忠告は聞いといた方がいいか。


「なぁフェイン。今どこに向かっているんだ?」ピタッとフェインの足が止まった。


「どこって、私の家に決まっているじゃないですか」笑いながら彼女は振り返る。眼の奥が笑っていない。はぁ、こいつも敵ってことか。


「冗談きついぜ?俺の第六感がやばいとこに行くって教えてくれてるぜ?」ばれないように魔法を構築していく。ブランに教えてもらっといてよかったぜ。


「本当に勘が鋭い方なんですね」ため息を吐いて、剣を向けてきた。


「おいおい、今ならまだ引き返せるぞ?やめとけ」これは心からの言葉だ。美人だから、攻撃したくないとかじゃないからな!?


「本当に強い人なんですね。でも、これを耐えられるかしら?」彼女が影に身を落とした。影使いか。思った通りだ。あんな距離を短時間で移動できるわけがない。


「対策済みだよ。フラッシュ」パンと手を叩くと、眩い閃光が路地中に走る。数秒間世界から影が無くなった。


「その攻撃は初見の奴にしか有効じゃないぞ」地面に伏せた彼女を見下ろして教える。影に潜っている最中にその影が無くなると、使用者は数分間は動けなくなる。バランスがしっかりと取れているよな。


「な、なんで、わ、たしが、影、使い、だと,,,」フェインがつらそうにしながら、口を動かしている。


「ちょっと頭を使えば分かる話だよ。ここまで短時間で来ているし、常に日影にいただろ?分かりやすいんだよ」前髪を掴んで、顔を前まで持ってくる。


「本当の目的はなんだ?言わないと,,,分かっているよな?」辺りに金色の髪の毛が舞って、月明かりと乱反射を起こしている。


「実、力を、測るため、です」何言ってんのか全然聞こえないな。少し待つか。


「硬直が解けるまで待っててやるよ」俺はその場に座り込んで、フェインを睨みつける。何を考えているんだ?まったくと言っていい程わからない。


とりあえずまた、フラッシュの準備をしておくか。練習は大事だからな。おっ今回は結構スムーズだな。三年後のブランはどうなっているんだろうか。もっとすんごくなっているんだろうか。


とか、考えているうちにフェインの硬直が解けたようだ。逃げられないように縛っておいた方が良かったかな。


「あなたの実力を測るためです。貴族には厄介な者もいますので。大変申し訳ございませんでした」頭を垂れて謝罪された。


「その言葉、家に誓えるか?ゴルディン家によ」家の名前を言うと彼女は、驚いた顔をしていた。俺の情報量を舐めんなよ?じいちゃんにしこたま仕込まれてるからよ。


「ち、誓います」彼女は震えながら答えた。そこまでしてするものだろうか。


「ていうか、震えて言うくらいの嘘ならやめちまえ。こっちも萎えるから」正直嘘ってのは堂々と吐くものだ。こんなにビビってやるものじゃない。


「何があるかは知らんが、やれることはやってやるからよ」俺が彼女に言うと、泣きだしてしまった。俺なんかしたか?ってしてるやん。がっつりと。


「今回のリストに、私たちの家も入っているんです。だからあなたを殺したかったんです」あー。なるほどな、フェインも自分が殺されると思っているのか。


「お前だけ見逃してやるよ」俺だってひどいことを言っていると分かっている。だけどこれはこいつが選んだことだ。俺の知ったことではない。


「なんで私だけ?」泣きながら彼女は聞いてくる。眼が晴れてるよ。この短い間でどんだけ泣いてんだよ。


「ここまで道案内してくれただろ?その礼だよ。お前の家は俺に何もしてないから殺すけどそれでいいよな?」確認を取っておく。禍根が生まれたら迷惑だからな。


「私が望んでいることなので」泣きながら言われたらな,,,,殺す気が失せちまうだろ。


「いいよ、本当に厄介な奴だけのリストをくれ。そいつらを殺すだけでもましだろ?」人を殺すのは抵抗があるしな。できれば血で染めたくはないんだ。


「本当ですか?」フェインの顔が希望の満ちた顔に変わる。多少の犠牲でこの顔があふれるようになったらいいな。


「あぁ、だから、さっさとリストを渡すなり、口で教えろ」善は急げだ。早く行動しないと。これは善か分からないが。


「少しだけ待っていて下さい」そう言うと彼女は影に潜った。影を使えるって便利だな。今度習得しておくか。


「お待たせしました。こちらがリストです」数分もしないうちに戻ってきた。早いな。


何々、ギルガ家、ゲルマ家。ゴルディン,,,はパスで。という具合でパラパラとめくっていく。重要な人間のところには、付箋が張られている。最後の付箋には、オーバー家の名前があった。


マジか、アクセルすまねぇ。グロリア王国の自由を優先させてもらう。今日この日、歴史に名を残すことになった、グロリア革命の計画は始まった。誰も知らない路地裏で。

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