第9話 王国 2
渡されたリストの情報を頼りにターゲットの屋敷に行く。今宵犠牲者となるのは魔法の名家と謳われるゲルマ家だ。この家は高速詠唱による落雷攻撃を主にして戦う。つい最近の戦争でも戦場を走る雷で敵陣を崩壊させたらしい。
リストを見ながら走っていると目的地に着いた。目の前には巨大な塔が立っていた。なるほど、魔塔と同じ建築ってことか。
魔塔とは、魔法を研究を主とする建造物の総称であり、見た目は一貫して塔を採用している。理由は飽くなき欲求が天まで届くからだとか。上に行けば行くほど地位も高くなっていく。ゲルマ家も同じだろう。
「どうすっかな」頭を掻きながらどのように殺すのかを考える。上まで登っていくってのはリスクがあるしな。正面突破,,,もあり得ないよな。俺は魔法に対してめっぽう弱いし。
狙うところを間違えたかな。リストを確認してほかの場所を狙うかを考える。ん?こいつらの魔法、屋内だと弱くないか?
大剣を担いで、入口に走っていく。警備にあたっているのは六人!すまんが犠牲になってくれ。
「アクセラレーション」加速をして背後に回る。ちっ、四人には気づかれたか。まあいい。二人は殺せる。
「うおらあぁ!」剣を横に思いっきり振る。こっちに気づいていなかった、二人の首は落とした。が、剣が刃こぼれしたな。こいつらのローブはどれだけ性能がいいんだ。
「侵入,,,!!」声を出そうとしていた警備に対して、咄嗟に魔法を飛ばす。簡単な風魔法だが、効果はあったようだ。
「古来より伝わる炎よ、今ここに顕現して,,,」くそっ、一番最初にに離脱した奴が詠唱を始めている。どうすればいいんだ?ここからじゃ殺せない。かといって俺がここから離脱をすれば革命が厳しくなる。
「構わず撃てぇ!!」考えている間に、拘束されてしまった。こいつら、ストロングを使っているな。引き剝がせない!!
「ファイアストーム!!」炎が俺に絡みつくように、うねりながら飛んできた。見切れてはいるが、どうにもできない。ここで終わりか,,,。
「マジックシールド!!」何者かが俺たちの間に入り、魔法を受け止めた。見覚えのあるフルアーマーだ。
「フェイン!お前は別のことをしているんじゃ!?」フェインとの計画では俺が処理をしている間に革命派を取り入れて戦争の準備をしているはずだった。
「リズ様に任せています!!」短い言葉だったが、真意は汲み取れた。
「了解!助かった」俺はそのまま拘束をしていた奴らを振りほどいた。「ストロング」が無かったらただの雑魚だ。地面に組み倒して、喉元を腕に隠していた、ナイフで掻っ切った。
残りは三人、投擲でもしてみるか。風魔法で吹き飛ばした奴に向かって、ナイフを投げる。
サクッ!!小気味いい音が鳴り首から血が噴き出た。命中した。案外やってみるもんだな。
あとは,,,フェインが一人殺したから、魔法を撃ってきたアイツだけか。「アクセラレーション」目にも止まらぬ速さで背後に回った。
スパァンッ!!はじけるような音が後ろから聞こえた。横切ったときに剣を振って、真っ二つにした。
べちゃべちゃ!背中に血が付いたのが分かる。この生暖かさに、どろりとした感触。何回も触れてきている。
「助かったよ」血を拭いながら、フェインに手を出す。
「こちらこそ」手を握り返してきた。その時に微かに古くなった血の匂いがした。
「お前,,,もしかして」俺が言おうとした言雄が分かったのだろう。口を手で押さえられてしまった。
「心は移り変わる季節よりも早く変わるんですよ」悲しみをこらえたような笑顔を向けてきた。
フェインも酷なことをしたんだな。お前たちの願いは叶えてやるからな。塔のほうを向く。待っていろよ、その首を取ってやるからな。決意を固めて、塔の中へと足を踏み入れた。
「侵入者が来たぞ!!魔法を撃ち込め!!」」まじか、アイツ声じゃなくて、魔法でも伝えていたのか。十数人から魔法が放たれる。
「ブレイクさん、ここは私が凌ぎます。攻撃の勢いが収まってきたら、反撃を」彼女は俺の前に立って、マジックシールドを構えた。
轟音が鳴り響く。魔法は俺達には届いていない。フェインがすげてを防いでいてくれている。こいつら、強いな。何もできないから、見に徹する。
見た感じ全員が上級の魔法を扱えるようだ。やるな、さすがは魔法の名家だ。それにしても一向に攻撃が収まらない。フェインも体が震え始めている。
無茶だが、前に出て殺すか。そうしないとこの先どんどんきつくなるだろう。ろくな魔法を覚えていないから、魔法戦は不利なんだよ。ブランにもっとまじめに教わっておけばよかったよ。後悔しながら、フェインの後ろから、飛び出した。
「ブレイクさん!?」フェインが困惑をしている。あ、伝え忘れた。でもすぐに戻るから、安心しとけ。
階段を駆け上がって上に居る魔法使いを殺しに向かう。理由は一番数が多かったからだ。
「お前らに恨みはないが死んでもらうぜ」俺が言葉を発すると、背中の方から魔方陣が展開された。刹那、無数の剣が飛び出して魔法使いたちを、貫き、壁に刺さっていった。
運よく避けれた奴も居るのか。殺しておきたいが仕方ない、フェインのところに戻ろう。
二階から飛び降りてフェインの後ろの駆けていく。俺のすぐ後ろで魔法が炸裂している。危ないな、俺の足が遅かったら、死んでいたよ。
「ブレイク!なぜあのような無茶を!」盾を構え続けていた、フェインが切れていた。口調が変わるくらいに。
「すまん!お前の負担が凄そうに見えたからだ!また行ってくる!」謝ってまた俺は、魔法が飛んでくる、戦場に走り出す。
「あなたって人は!!」後ろから怒号が飛んでくる。でも構ってはいられない。今は目の前の敵のほうが大事だ。
隙が多かった魔法使いのほうに飛び掛かる。これで残るは、二人か。上に一人と、奥に一人。もう終わるな。
「かかったな!!パラライズ!!」嘘だろ、全部演技かよ!くそが、体がしびれて動けない。
「これで死ねェ!!」俺の心臓めがけて、ナイフが刺さる。痛ってぇ、これはもう死んだ、絶対に死んだ。だって血が噴き出て無いもん。
ゑ?噴き出てない?あ、そういえば黒月の体毛入れっぱなしだった。パラライズの効果も無くなって体も動く。こいつは死んだと思って喜んでいる。
「死んでねーよ」剣を後ろから、心臓めがけて突き刺す。血が剣を伝って手まで流れてくる。
「,,,え??」男は情けない声を出して絶命した。手間取らせやがって。
残りの人間はフェインが始末してくれていた。守りから攻撃に変えた辺り、団長の称号が似合っているな。
「ナイスフェイン。この調子で上に行くぞ」肩をゴンゴンと叩きて、上へ行こうとする。
「ブレイク、ちょっと待て」腕を掴まれた。ギリギリと音が出ているくらい、力がこもっている。正直めっちゃ痛い。
「な、なんですか?」痛みに耐えながら、フェインに聞く。
「これからは耳打ちでもなんでもいいから、伝えてから動け。こっちが困る」兜で顔が見えないが、キレているのが、手から伝わってくる。
「分かったから!離してくれ!剣が持てなくなるから!」
「分かったならいいだろう」やっと手を放してくれた。まじで痛い。掴まれたところが、青く変色している。この後の戦闘大丈夫かな。
青くなった腕をさすりながら、塔の上へ行ける専用階段を登りながら次の戦いについて考えていた。魔塔二階は誰も居なかった。恐らく俺たちを警戒して、上階に固まっているんだろう。
「どうするフェイン?アイツら上で固まっているぞ」団長の肩書を持っているフェインにどうするかを聞く。
「癪だがアイツらの土俵に上がるしかないようだな。目立ってしまうが仕方がない」俺の剣を見ながらそう言った。
「了解」剣を愛剣に取り換えて、スキルを発動させる。全て壊せばいいんだな。府さしぶりに使うか。溜めは無限にできるからな。
「
数分間、砂煙が上がっていた。視界が晴れ始めた頃、目の前には三人の影が立っていた。恐らくこの王国で一番強い雷使い達だ。
「お前らがゲルマ家のトップか?」目の前に居る人間に聞く。返事は無かった。代わりに数百の落雷が襲ってきた。しかし、俺らに当たることは無く、周りに落ちた。
舐めてるな。もう一回自由の咆哮を使うか。砂煙の中にスキルを撃ち込む。大きなが開いただけで、意味は無かった。
「ブレイク!上を見ろ!」フェインに言われて、空を見上げる。金の髪に目の下に涙のような模様が入った男たちがいた。
「君たちかね、私たちの塔を壊したのは?」一番年齢の高そうな男が口を開いた。
「そうだ」隠す気もない。殺す相手だからな。
「君たちは雷を見たことがあるかい?」別の男が口を開いた。次男か?
「君たちは魔導の極みを知っているか?」最後の男が口を開いた。
「何を言っているが分からんが、ここで死んでもらうぜ」剣を向け、宣言する。
「「「君たちのようなものは、魔導の前に屈することが決まっているんだよ」」」
三人が声を合わせて喋った。そして、昼が来たと思わせるほどの光が放たれた。
「くっ」「っ!」思わず目を閉じてしまう。
眼前に現れたのは、黄金の光を纏う龍がいた。見た目は完全にライ〇クスだ。
「さぁ、戦争を始めようか」重々しい声が辺りに響き渡る。そして幾千もの雷が地上に降り注ぐ。これが戦場を変えることのできる人間たちなのか。
先程までの牽制の雷とは違い黄金の雷が俺たちに向かって放たれている。それは、激流のような勢いで、俺達を飲み込もうとしていた。
当たらないように必死に走ったり、フェインがガードをしてくれたりして、何とか攻撃を凌いでいる。
「おい!フェインあんなのリストになかったぞ!!」龍の姿になったゲルマ家を見ながら、クレームを入れる。
「すみません!!このような姿になるとはこの家の者も言っていなかったので!!」そいつ裏切者なんじゃないのか?
「ああそうかよ!何とか倒してやるよ!!」威勢よく啖呵を切ったはいいが、天を舞いながら攻撃してくるあいつらに対抗する手段がない。
「フハハ!!所詮は雑種!!生まれからこうなることは決まっているのだよ!!」貴族はすぐに人を見下すから嫌いなんだよ。空に居るゲルマ家を睨みながら心の底から思う。アクセルは全然違ったから好印象だったな。
「ちょこまかと逃げていても勝てはしないぞ!!」上から馬鹿にするような声が聞こえる。あの野郎絶対に倒してやるからな。
逃げ回ること数分、俺たちは完全に疲弊しきっていた。避けなければならない雷に、悪くなっていく足場。完全に不利な状況だ。
「そうかそうか、我が地に降りないと対等ではないのか」ゲルマ家は俺たちが疲弊しきったタイミングで地面に降りてきた。
この瞬間を待っていた。あいつが完全に油断する、この一瞬を!!
「
青い雷と衝撃波が龍に向かって飛んでいく。
「無駄だ!!」俺の雷は奴が作り出した金の雷に負け。衝撃波はいなされ、曇り空に大きな穴を空けただけだった。
「雑魚が考えることは単純で楽だな」馬鹿にするように、頭を上下に動かしている。
「今度はこちらの番だ。」辺りに散っていた小さな雷が一点に収束し、線を作り出し剣の形になっていく。まるで神話に出てくる、エクスカリバーの様だ。
「ゲルマカリバー!!」奴が翼を振り下ろすと雷の剣が俺めがけて落ちてきた。
これは避けられない。すべてがゆっくりに感じる。視界に懐かしいものが浮かんでくる。これ走馬灯や。本当に死ぬんだ。俺は悟った、この物語からいなくなると。
「ブレイク!!」視界が大きく揺れたかと思えば、地面に倒れていた。何が起こったんだ。とりあえず俺は生きているんだな。体を触って確認をする。奇跡的に避けれたんだな。
そう思って周りを見渡す。フェインの姿は無く、龍がいるだけだった。もしかして,,,そう思って、ゲルマカリバーが通った場所を見る。
そう、代わりに攻撃を喰らっていたのは、焦げたフルアーマーを着ていた人物だった。
「フェイン?嘘だろ?フェイン?フェインーーーー!!!」フェインを揺さぶりながら発した、俺の叫びはグロリア王国全域に聞こえるほどだった。
フェインが死んだことが受け入れられない。あそこまで覚悟を決めていたのに。なんで俺なんかを庇ったんだよ。なんでなんだよ。
「たかが人間一人が死んだだけだろう?なぜそこまで感情を昂らせる?」龍が俺の仲間を愚弄している。
「お前だけは、絶対に許さねぇ!!」龍に向かって吠える。
「感情に振り回される時点で、お前は雑魚なのだよ」
「じゃあ、その感情の,,,力ってやつを,,,みせてやるよ!!」辺りに青の雷とオーラが満ち始める。
「ほう,,,感情というくだらないものでそこまでの力を引き出すとは。面白い男だ」どこまでも人間を、俺たちを馬鹿にしやがって。
「くだらないものじゃ無ぇよ!!これは、命あるものが全てが、自由に表現することが許されているものなんだよ!!」青い閃光が辺りに走る。
「自由,,,か。くだらん!!我の雷は自由すらも支配するものなのだよ!!」黄金の雷が俺に直撃した。様に見えた。直前で青雷が俺のことを守ったのだ。
「覚えておけ。これが自由だ。『
「これだけじゃあねぇぞ!!今まで支配されてきた人間の力,,,味わってみろ!!」龍を囲むように魔方陣が展開される。
蒼のオーラに包まれた剣が魔方陣から龍に向かって放たれていく。その数は幾千、幾万を超える。それほどこの人間は自由を縛っていたのだ。全ての攻撃が終わり跡を見る。そこには瀕死の人間が三人いた。
「まだ生きていたのか。もう死んでくれ。顔も見たくない」俺は背中を向けて蒼のビームを男たちに向かって放つ。
情けない断末魔が後ろから聞こえた。腐った人間は最期も終わっているんだな。
「フェインさん。終わりましたよ」涙を流しながら彼女に伝える。あなたの死は無駄じゃなかった。革命に一歩駒を進めたということを。
気付けば朝になっていた。泣くのに夢中で感情を放つのに必死で分からなかった。
「ブレイク,,,ってなんて顔してるのよ!」聞いたことのある声に顔を上げる。リズレットだ。護衛も連れている。
「すまん,,,俺,,,弱いから,,,死なせちまった,,,」フェインを抱きしめながら伝える。護衛の人たちは、涙を流して地面に倒れた。
「そうなの。早いわね」リズレットは興味が無い素振りを見せていたが、声が震えていた。護衛も居るからだろう。強がっているんだ。リズレットは本当に強いな。
革命は必ず成功させる。胸にある想いを受け取ってまた、覚悟を固める。空は青く、果てしなく続いていた。
「リズレットがここに居るってことは,,,」思考が止まった頭を回転させる。
「革命派をほぼ全員、団結させることが出来たわ。ゲルマ家が龍になったことで王国の不信感を仰いだからね」淡々と冷静に、今の状況を教えてくれた。
「そうか、次はギルガ家行く。俺一人でいい」革命派をほぼ団結できたのなら、日中に戦闘しても大丈夫だろう。それに、内戦は始まっているんだから。
「護衛もなしで行くつもり?死ぬわよ、あそこは剣聖を何人も輩出しているわよ」リズレットから、厳しい指摘が飛んでくる。
「フェインの二の舞にしたくない。仲間が死ぬのは,,,力が無いって自覚すんのがつらいんだよ」俺は、泣きそうな声で、リズレットに訴えかけた。
「そう、あなたの意見も分かるわ。でもこの革命に必要なのはあなたのその力なのよ」手を握られて、優しく諭された。
「それに、今回の護衛はネクロマンサーと呼ばれる人間が集まった、ダリア家を付けるから、安心して」ネクロマンサーは死体を操り戦場の流れを変える職業だ。また、自身の体に再生や強化を掛けることで、生存能力も高い。そいつらが付くのなら、問題は無いな。
「分かった」目を見て頷く。
「そいつらはどこに居るんだ?」まずはダリア家と合流しないといけないからな。居場所を聞かないと。
「もうギルガ家の前に居るわ。今回のような革命を長い間待っていたからね」リズレットはギルガ家のある、方角を見て教えてくれた。
「了解、行ってくる。フェインのことは,,,すまない」俺はそう言い残して、路地裏に入り、目的地に向かう。ここからだと時間がかかるな。今いる場所とリストを照らし合わせて計算する。
「大通りに出るしかないか」隠密行動もする必要もなくなった。最短のルートで行こう。
俺は家の上に駆け上がり大通りに出た。案の定、道はデモ隊で埋め尽くされていた。
「家の上を走っていくか」下に居る人間たちを見ながら走る。暴言や暴力がぶつかり合っている。保守派の貴族たちは我先にと逃げている。
「この国は本当にしょうも無いな」青のレーザーで、保守派の貴族を撃つ。ダリア家と合流する前に人数を減らしておくか。
「どこからの攻撃だ!?警戒しろ!」あんな奴らの護衛とかかわいそうだな。大きな盾を構えて貴族を囲んでいる騎士たちを見るとそんな感情が出てくる。
「あそこだ!上に居るぞ!青髪の人間だ!!」青髪の人間か。珍しいなしかも同業者か。協力を仰げないかな。此処の下級貴族を殺すという作業を。
周りを見ても誰も居ない。それに俺に向かって攻撃が飛んでくる。もうハイドスキルを使ったのか。腕の立つ野郎だ。
「鬱陶しいな!!吹き飛べ!!」護衛には申し訳ないが死んでもらおう。革命には,,,必要なことなんだ。
簡易的な爆発弾を魔力で作り爆発をさせる。隙が出来たところ、見えない同業者にやってもらおう。
って、あれ?なかなか攻撃をしないな。まだ窺っているのか?そんなことを思考していると、あっという間に陣形を組み直されてしまった。
勘弁してくれよ。こんなチャンスもう作れないぞ。はぁ,,,諦めて、ダリア家と合流するか。路地裏に戻って、目的地に向かう。大通りじゃ完全に捕捉されてしまっているから、家の上も走れない。
狭く汚い路地裏を走っているときに大きな鏡に映った自分を見た。その姿に一瞬立ち止まってしまった。
「これ,,,本当に俺なのか?」顔や体を触って確認していく。まぎれもなく俺だった。
「代償として、失ったはずじゃ,,,」青い髪と、青い目を見ながら、つぶやく。瞬間に、俺は謎の虚脱感の襲われ、地面に倒れ込んでしまった。
「何が,,,起きてんだ,,,」周りを見る力も残っていない。視界の端では何かが蠢いている。『それ』は俺に被さると、意識を奪っていった。意識が戻ると、いつもの空間に居た。調停者の空間だ。
「強引なことをしてすまないね」いつもの調子で調停者が言ってくる。
「どうせ、この見た目のことだろ?持って行けよ」ここに連れてこられたのは、見た目が大きく変わったからだろう。
「別の要件で、呼んだんだよ」
「なんだ。この話じゃないのか」ちょっとがっかり。
「見た目はまぁ,,,気になるけど、それどころじゃないんだ。別軸の君が暴れているんだ。ジェノサイド・ブレイク。と言うべきかな」調停者は言葉を選びながら話しているように見えた。
「その,,,なんだ?ジェノサイド。ブレイクって?」素直な疑問を投げかける。
「君が人を殺したが故に生まれてしまった軸なんだ。発見した時は、大した脅威にもならなそうだから、後回しにしていたんだ。でも今になって、片鱗を現してきたんだ」
「というと?」流れがいまいち掴めていない。
「別の軸の君や、仲間を呼び出しては、殺害しているんだ」は?どういうことなんだ。俺が皆を殺している?あり得るはずがない。それに別の軸の人間を呼ぶのは調停者以上じゃないとできないんじゃないのか?様々な疑問が浮かんでくるが確認したいことがあった。
「軸に呼ばれる条件は?」無条件で呼ばれるなら諦めるが、調停者も俺を呼ぶのに、めんどくさい手順を取ってる。
「猛者とみんなから、認められるようになってから」調停者は半分諦めているように言った。
「俺は大丈夫なのか?」
「革命が成功してもしなくても君は呼ばれるだろうね」確定で呼ばれるのか。勘弁してほしい。
「それで呼び出したのkkkk」突如世界が曖昧になった。どうやらここまでの様だ。くそっ。まだ、知りたいことがあったのに。
「健闘を祈る」調停者の最後の声が、やけに耳に残った。
眼が覚めるのと同時に辺りを確認する。どうやらあの空間にいる間は、自分の軸の時間が進まないようだ。
ジェノサイドの俺のことも気になるが、ダリア家と会わなければ。俺はいつもよりも早く、迷路のようになっている裏路地を駆けていく。
此処が、ギルガ家か。目的の家にたどり着いた。見た目は神殿に近いな。城を基調とした清潔感のある見た目の中に、厳かな雰囲気を感じる。周りにはたくさんの警備がいて、いかに権力を持っているのかが分かる、証拠に、誰も此処にデモに来ていない
「お待ちしていました」地面の中から人間が生えてきた。
「うおっ!」当然のことに、思わず声を上げてしまった。なんで人が土から生えてくるんだよ。
「驚かせてしまって申し訳ないね。ダリア家の家主をしている、ロー・ダリアだ。今回はよろしく頼むよ」爽やかな声で挨拶をして手を出してきた。
「ブレイクだ。見た目が若そうに見えるが何歳なんだ?」冗談を言いながら手を握る。
「ははっ。初対面でそんなことを聞くのか。リズレットが気に入る理由が分かるよ。歳は三百を超えてからは数えていないよ」黄色の目を閉じて笑っている。オレンジ色の髪の色もつられて揺れている。
「三百からって、ネクロマンサーは長寿なんだな」正直な感想を言っておく。変に敵対心を持たれても困るからな。
「ま、こんな話は革命が終わってから、ゆっくりとしようか」彼はそういって、ギルガ家のほうに足を進める。
「ダリア家はあんただけなのか?」一人で向かう彼の背中に言葉を掛ける。
「そうだね。ほかの人間は保守派の下級貴族を殺しに行っているよ」振りかえって自信に満ち溢れた顔で教えてくれた。
「オーケー。悪いが先陣は切らしてもらうぜ」ローのことを追い抜きギルガ家に向かってオーラの塊を飛ばす。
「て、敵襲ぅぅ!!」警備の声によって、ギルガ家との戦いが始まった。
迫りくるギルガ家の四方から飛んで来る剣技。いなすのはそこまで苦ではなかった。むしろ楽しいくらいだ。舞踏会で踊っている感覚だ。
俺、しっかりと強くなっているんだな。剣聖にも今なら立ち向かえるかもな。大剣を振り回して、そんなことを考える。
「な、なんだ!なんでお前は俺らを,,,ぐああぁぁ!!」悲鳴が上がっている方向を見ると、俺が殺した警備の人間が動いて、攻撃をしていた。
ここからが本領発揮か。ネクロマンサーはこうでないとな。死体を喜々として操るローを見ながら、状況を確認する。このままで行けば全部任せられそうだな。
「俺はお前の後ろで休んどく。剣聖がいるからな」ローの後ろに行って横になる。でも剣だけは握りしめたままだ。
「全任せですか。あなたって人は本当に面白い!!」ローはそういうと、体を強化し始めた。腕が赤黒く変色し、巨大化している。所々から、骨や肉がはみ出している。
「まるで死体の腕だな」その光景の異様さに笑ってしまう。
「よく言われます。私の二つ名は
死体の腕を振りながら攻撃する様は圧巻で、まるで地獄から這い出てきた悪魔が殺しを楽しんでいるように見える。
そんなこんなで戦場は見る間に変化していき一人、また一人とアンデットに変わっていった。初めは聞こえてきた悲鳴も今はうめき声に変わっている。
「終わりましたよ。さぁ、行きましょうか」数百のアンデットを連れて、こっちのほうにやってきた。
「アンデットの維持に魔力をたくさん使うんじゃないのか?」平静を装っているけど本当は怖いから消してほしいからです。だって内臓とか飛び出してんだよ!まじで目に悪い。
「そうですね。それにアンデットより僕の方が強いですからね」ローは魔方陣を展開してアンデットを全て焼き殺した。ほかに方法は無いのかよ。
「おいおい、俺らの家を荒らしたのはお前たちか?」神殿の中から、一人の人間が出てきた。腰に太刀を佩いていて見るからに強そうだ。見た目は長い黒い髪を一本にまとめていて、強気な眼をしている。
「そうだけどなんか文句でも?」俺はローの前に出て挑発を始める。
「ここが剣聖の居場所だと知っているのか?」男は佩いていた太刀を手を掛けた。
「知っていてやってんだよ。馬鹿」俺はさらに挑発を重ねていく。このままいけば相手は冷静に判断が下せなく,,,
キンッ!!金属同士が強くぶつかった音が響く。あっぶな!!急に間合いを詰めて斬りつけるとか無礼すぎるだろ!俺じゃなかったら、確実に今ので死んでたぞ。
「ほう、今のを見切るか。面白いな。俺の名『ギルガ・レン』そし、剣聖に誓ってお前に決闘を挑ませてもらう」男は太刀を戻し、胸に拳を当て、宣言した。
「そういう感じか」俺も剣を地面に突き刺して、同じような態勢をとる。
「勝負はどちらかが死ぬまで。異論はないな?」男が問いかけてくる。俺は無言で頷く。
「それでは、始めよう」男は太刀に手を掛ける。また抜刀術か。簡単に見切ってやるよ。地面から剣を抜いて構える。ローは後ろで観戦をしている。死体で作った椅子に座って。
数秒間無音の時間が続いた。先に仕掛けてきたのは向こうだった。思った通りの抜刀。だが、先程の物とは比べ物にならないほど速く、美しかった。
俺は間合いを完全に読み切って紙一重で交わした。青髪がはらりと舞い落ちる。一撃目の横薙ぎを回避すると二撃目がすぐに飛んできた。下からの振り上げか。
俺は大剣の腹を使ってしっかりといなす。そして反撃を狙ってレーザーを撃ち込む。
「ふっ!」レンは俺のレーザーを太刀で切り裂いた。まじか。剣聖は魔法を立つとは聞いていたが、ここまでとは。
またお互いに距離が出来る。向こう防御の構えをとっている。攻守交代ってことか?なら全力で行かせてもらうぜ。
大剣にオーラを纏わせて突進をする。間合いに入った瞬間に大剣を振り上げる。レンは俺の大剣を太刀で軽く弾いて軌道をずらした。そして、カウンターまでしてきた。
咄嗟にレーザーを固めて攻撃を抑えることにし成功した。これ思ったより使い勝手がいいな。
「なかなかやるな。こんなことしなければ、剣聖の称号を貰えたのにな」男は残念そうに俺のことを見ている。
「仕方がないさ。革命をしなければ自由が得られないんだからな」俺はまたレンの懐に切り込んでいく。剣は激流の如くレンを後ろの方に追い込んでいく。
「本当にもったいない」目の前から消えて、俺の後ろに居た。縮地か。寸前で受け身を取ったが、左腕がいかれてしまった。大剣を振るのは厳しいな。
「ぐっ!縮地をこんなところで見れるとはな。極東の人間か?」黒髪と言い縮地と言いこの大陸育ちで無いのが伺える。
「よくわかったな。俺は極東で生まれ、強者を求めてここに来た」太刀を鞘に納めて、攻撃の構えをとった。
「なら、革命に協力をしてくれよ」ここまで外部の人間を受け入れているのなら、協力をしてほしいものだ。
「答えは生きていたら教えてやろう」一閃。その言葉が一番似合う。気づけば太刀が引き抜かれ、俺を横切り後ろに立っていた。
「お見事」拍手が後ろから聞こえる。何とか俺は耐えきった。レーザーを応用して鎧にした。一か八かの賭けだったが同たらうまく行ったようだ。
「生きているから答えを教えよう。その革命とやらは外交の話だろう?なら、ギルガ家は革命派だ」レンが驚きの一言を言った。
「冗談はよせよ」俺も薄々気づいてはいたが、まだ確信は持てない。
「本当さ。じゃなきゃ極東に人間がここに居るわけないだろ。それに保守派はお前の後ろに居るダリア家だろ」レンは後ろに居たローめがけて短剣を飛ばした。
「計画が成功しそうだったんですが,,,まぁ、足止めが出来たのなら、それでよしとしますか」ローはそういうと、短剣が心臓に刺さったまま、地面の中に消えていった。
「お前の言ってたこと本当だったんだな」俺はレンのほうを見て言った。
「情報がまばらなこの世界、間違いは起こる。大事なのはそのあとの行動じゃないか?」レンは納刀をしながら神殿のほうを向いた。
「決闘はどうなるんだ?」
「なかったことにしよう。俺はこの家の者でもないしな」レンはそういって、家の中に戻って行ってしまった。何を信じればいいんだ。わかんないな、とりあえずリズレットのところに戻るか。王宮に居るんだもんな。
王国の真ん中に建っている城のほうを見る。ここからだとちょっと遠いんだよな。仕方ない。ギルガ家から、乗り物を貸してもらうか。
「邪魔するぞー」俺はそういって中に入った。中身も外観と同じで、城を基調に作られていて、厳かな雰囲気を感じ取れる。
「お前、どこから来たんだ?」上の方から声が聞こえた。上を見ると誰も居ない。
「どこを見てんだよ」後ろから声が聞こえた。振り返る。誰も居ない。
「お前もしかして盲目なのか?」馬鹿にされている気分だ。
「ちげぇよ。姿を見せろ」俺は腹を立てて、大声をあげてしまった。
「そういう男は嫌われるぞ」目の前から現れたのは露出度の高い、お姉さんだった。褐色の肌に最低限の部分しか隠していない装備。暗闇を織ったような黒い髪は、腰のあたりまで伸びていて、妖艶だ。いけません!エッチです!!
「その見た目,,,盗賊か」俺が観察をして女に聞く。
「正解だよ。で、あんた何が目的なんだ?」女は短刀を向けて聞いてきた。刀身は紫に染まっていて毒が塗られているのが分かるが、どんな毒なのか分からない。
「乗り物を貸してほしくて来た」正直に言った方が、得をする気がする。
「その言葉信じていいんだね。レン!こいつの乗り物を出してあげな!」女が大きな声を上げて、乗り物を持ってくるように命じた。
レンって聞いたことのある名前だな。
「ラシル姉さん人の使いが荒い,,,ってさっきの人間じゃないか」あー、レンてさっき戦っていた奴の名前か。思い出した。
「なんだあんた達知り合いかい」女はそういうと、姿を消してしまった。まるで霧の様に。
「あー、決闘の後で悪いんだが、乗り物を貸してくんないか?王宮に急いでいかないと行けなくてさ」レンに事情を説明して、貸してもらえないか交渉をする。
「それくらいのことならいいぞ。ただ条件がある」体を売れってか?ERO同人みたいに!!
「たまに手合わせをしてくれ。お前の戦い方はどこにも属さない面白い型だからな」なんだ。そのくらいで行けるなら簡単だな。
「そんなんでいいのか。なら王宮まで頼むぜ。道が分からんからな」二つ返事で了承する。
「図々しいやつだな。まぁいい、来い」言われるがままに後ろをついて行った。ここの家主に会ったらやばいな。周りを警戒しながら、進んで行く。
「着いたぞ」案内されたのは、モンスターが飼育されていた場所だった。四角く空が区切られていて、自由を取られた気分だな。ていうか、もしかして乗り物って,,,。
「ほら、こいつに乗れ」目の前にいたのはワイバーンだった。こいつの上か,,,高いとこはあんま得意じゃないんだよな。こいつに乗るくらいなら、向こうの狼とかのほうがいいんだけど。仕方がない。
「失礼しまーす」俺はそういって、レンの後ろに乗った。
「行くぞ」レンがワイバーンを叩くと翼を広げ飛翔をした。
「最高速で行くからな」え、嘘だろ!?聞いてない、聞いてない。
ワイバーンは、レンの声と共に、最高速まで加速をした。
「ママああぁぁぁぁぁ!!!」情けない声が、空に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます