第3話 死線

「ところで皆さんはどうしてここにいるんですか?」キャンプの設営をしているときに、アクセルが聞いてきた。もう仲間だからな。話してもいいか。


「話せば長くなるんだが,,,」魔法空間から、物を取り出しながら、ことの顛末を説明をしていく。その間、ずっと黙って聞いていた、アクセルがちょっと怖かった。


「なんだ。そんなことですか」爽やかに笑っていた。あれ?こういうのって、ありえないくらい驚くとか、「パーティーから、脱退します!」とか言うんじゃないの?こいつなんで平然としているんだよ。こいつもなんかやっているのか。


「お前もなんか大罪を犯しているのか?」興味本位で聞いてみる。


「特にやっていませんよ。こんなことに驚いていたら、旅なんてできませんし」料理をしながら、答えてくれた。確かにそうかもな。あの量のモンスターを前にしても、落ち着いていたし。心臓はボーボーだろうな。


「変なこと聞いたな」焚火に木をくべながら謝る。


「仲間の素性は気になるのが当たり前じゃないですか」こいつ、中身もイケメンかよ。好きになっちまったぜ。


「あんた達、もう打ち解けたの?」俺たちの作業を見ていたブランが口を開いた。


「「男はすぐに仲良くなるんだよ」ですよ」まさかのシンクロ。こりゃ、大当たりですわ。


「お前となら、どこまでもいけそうな気がするぜ」アクセルが料理を持ってきてくれた時に、肩を叩いた。


「奇遇ですね。僕も少しは楽しくなりそうだなって思ってましたよ」


「少しだけかよ!!」関西人の様に突っ込む。どっと笑いが起こる。複数の旅もいいもんだ。二人には無い、楽しさがある。ま、始まって一週間も経っていないんだけど。


「冷めないうちに、料理をいただくわね」ブランが口に、狼の肉を入れる。これは、アクセルが倒したものを貰った。


「あ~。とっても美味しいわね」とろけた顔をしている。どっちのほうが、料理の腕が上か、いざ!尋常に勝負!!


はい。俺の負けで~す。口に入れた瞬間に、肉がしたの上でとろける。そのうえ、獣特有の臭さもほとんど無い。スパイスと完全にマッチングしている。ら、らめ~~~。おかしくなっちゃう~~。


気を取り乱してしまった。それほど美味しいのだ。お前らは食べれないからな。悔しいやろ。


「料理本当にうまいな。どっかで習っていたのか?」食べながら、アクセルに聞いてみる。


「私も気になっていたのよね。野性味の中に、気品を感じるし」ブランも追随して、質問をする。


「聞いてもあまり面白くないと思いますが」苦笑いをしながら、前置きをして話し始めた。


「僕の出身は貴族で14の頃に家を飛び出したんですよ」貴族か。この腕前なら納得だな。貴族の子供は幼い頃から、英才教育を施して、家をより強固にする、という考えがある。


「僕はいつも、狭い部屋の中で、妄想をしていたんです。冒険者になって、パーティーを組んで、強大な敵を倒していくということを。でも、貴族だって話をすると、皆さんは離れて言ってしまうんですよ」アクセルの肩が少しだけ震え始めた。


「そんな奴とは居れない、だとか、平民のことを下に見てるんでしょ。なんて言われて。思ってもないのに、信頼していたのに、すぐに切り離されてしまう!あなたたちもきっとそうなんでしょう?」泣きながら、声を荒げながら、教えてくれた。


こいつにはつらい過去があるんだな。俺たちにできることは。


「お前の出身とかはどうでもいい。今を全力で楽しんでいこうぜ。それに短時間で信頼してくれたんだ。見放すわけないだろ」


「私もよ。貴族だとか、関係ないわ。皆は平等であるべきよ」慰めの言葉をかけることくらいだ。


アクセルは泣きながら「ありがとうございます」と繰り返していた。


聞き始めた俺が悪い。罪悪感に押しつぶされそうだ。夜なのに、月は見えない。それどころか、雨まで降りだしてきた。


「今日はここまでにしましょう」ブランの声で各自がテントの中に入っていく。しかし、アクセルだけは、雨に打たれていた。黒い髪を濡らし、顔は前髪が張り付いていて、表情は分からない。


「そんなことしていたら風邪をひくぞ。俺のテントに来い」腕を引っ張ってテントの中に入る。お互いはずぶ濡れだ。風の魔法で水分を飛ばしていく。


「言いたくもないことを聞いて悪かったな」ある程度乾いたところで、アクセルに謝る」


「・・・」アクセルは無言で立っていた。


俺にできることは何も無いな。雨脚が強くなってきたころ、俺は外に出て、雨が止むのを待っていた。強い音を立てながら地面を濡らし汚れを落としていく自然のそれは俺のことを責め立てているような気がした。


結局雨が止んだのは朝方だった。綺麗な朝焼けは見えなくて、どんよりとした雲が空を覆っていた。濡れ切った服を魔法を駆使して乾かしていく。


焚火は消えていたが、移動するので問題は無いだろう。それよりも、問題なのはアクセルのほうだ。あの後、テントからは物音が一切聞こえなかった。


「あれ?おはようブレイク、今日は早いのね」テントから欠伸をしながら、ブランが出てきた。


「あぁ、おはよう」俺もつられて欠伸をしてしまった。


「アクセルはまだ寝ているの?」心配するように、アクセルのテントを見ていた。


「アクセルは俺のテントに居るよ。あの後、雨にあたりっぱなしで心配だったからな」俺のテントのほうを指す。


「だから、魔法の痕跡があるのね」何もない大気や、地面を観察している。


「それよりも、アクセルの奴大丈夫かな。この調子だと、数日はここに留まることに,,,」遮るように大きな声が聞こえてきた。


「おはようございます!」昨日の様子とは打って変わって、元気な様子を見せていた。何か変化でもあったのだろうか。ま、元気になっているならそれでいいか。


「体調は大丈夫か?」アクセルに聞く。


「大丈夫です。出発の準備をしてきますね」答えるとともに、自分のテントのほうに歩いて行った。


「なんか、昨日とは別人のように見えるわね」背中を見ながら、ブランが俺の肩を叩く。


「そうだな。もしかしたら、あれが本当のアクセルなのかもな」キビキビと動くアクセルを見る。


「俺らも準備するか」自分のテントに戻って、魔法空間にしまっていく。無論、今は必要ないもの以外だ。全てが片付く頃には、鳥が鳴き始めていた。


「それじゃ、出発しますか」全員が準備が整ったことを確認する。


「今度はどこに向かうんだっけ?」ブランが目的地を聞いてきた。


「場所は、この森の最深部に居る「深淵樹しんえんじゅ」だ」緑が濃くなっている方向を指す。こいつは名の知れたモンスターで、この辺りに住んでいる町の人たちは絶対に近寄らない。近づいたら最後、深淵の中に入ってしまう。


「深淵樹というと、暗闇くらやみ魔法を使うトレントのことですよね?」アクセルが確認を取る。


「そうだな。正確には闇魔法で、視界を奪うのが特徴だな」アクセルの情報に俺が補足をする。


「そのモンスターって私たちが、倒すのを断念した奴よね?」話をしているときにブランが、口を開いた。


「前は二人だから、断念をしたんだ。火力が足りないからな。でも。今はアクセルがいるからな」バシバシと肩を叩く。


「そうなのね。なら、そいつを目標に行く方針ね」俺とアクセルは大きく頷いた。俺たちは、暗い森の中に、足を踏み入れた。


パキパキと地面に落ちた木の枝を折りながら、前へと進んでいく。最深部には程遠い。何回かは、野営をする必要があるだろう。焦らなくていいんだ。信頼できる仲間がいるからな。


ある程度歩いたところで、ブランが音を上げた。


「今日はもう無理かも,,,」息を切らしながら、報告してくれた。なんかエロイな。


「色気がありますね」アクセルがちらちら見ながら呟く。ポコッ。ブランがアクセルを叩く。小動物みたいだ。


「今日はここまでにするか。このペースで行くと、一日二日で辿り着くな」足りなさすぎる脳みそをフルに使って計算をする。


「そうですね。いいペースです」アクセルが否定をしないんだ。合ってるだろ。今日のキャンプの描写は、特になんもないからカット!!


「久々に見た気がするわね」お茶を飲みながら、ため息を吐いている。


「なんですかそれ?」


「こうすると、すぐに夜がすぐに終わるんだよ」アクセルの疑問に対して、笑いながら回答する。


「なんですかそれ。超常現象じゃないですか」


眼を覚ました俺たちは、昨日の動きに習って片づけを始めた。アクセルは俺の言葉が本当だったことに驚いていた。


「今日こそは、討伐したいな」片づけが終わり、携帯食料を食べる。料理とかはしないのかって?早く倒したいから、そんなもんに時間は割いてられないんだよ!!


「昨日のペースで行くと、厳しいかもしれませんね」アクセルが顎に手を当てている。


「私の体力的に厳しいわね,,,」しょんぼりと俯いてしまった。この死線は何度もくぐってきたんだ。正解を出してやるよ。


「お前は俺が背負うよ。軽いだろ?」これが完全回答、抜かりなし、死角なし!!


「そうさせてもらいたいけど,,,あんたは大丈夫なの?」心配してくることも予想済み!


「疲れたら、アクセルと交代で行くから」アクセルに視線を向ける。


「任せてください」黒い髪を揺らしながら、頷いてくれた。


「今日で討伐も見えてくるな」さらに暗くなった森の中で気合を入れなおす。


「ほら、ブラン。乗れよ」しゃがんで、おんぶの準備をする。


「し、失礼します?」困惑しながら、乗ってくれた。


「ブランたんのいい匂いがする。」


{本当に軽いんだな}


「逆になってる!きもい!やっぱりアクセルにする!」そう言って、俺の背中から降りた。本当のことを言っただけなのに。


「ブランさん。やめた方がいいですよ。僕はもっと凄いことを言うので」気を利かせてくれたのか、乗車拒否をしてくれた。


「ほら、勘弁して乗るんだな」上下に動いてアピールする。


「もう、最悪,,,」ぼやきながら、背中に乗った。


「それじゃ、行きますか」最深部を目指してひたすらに歩く。森がざわめいているのが分かる。喋らないのかって?音が大事な情報だからな。よっぽどのことじゃないと、喋らんよ。


え?寝てるときはどうしてるって?モンスターよけのお香と、テントで対策をしている。俺の口からいうのもなんだが、熟練の冒険者だからな。少しでも異常があったら気が付くさ。


下からはパキパキと枝が折れる音が、上からは、葉っぱが擦れる音と、鳥の鳴き声が聞こえるだけだ。


「少し様子を見てきます」アクセルがそういうと、前へと走り出した。偵察、探索は盗賊の役目だ。何かに気づいたら、真っ先に確認をする。ここで優秀かどうかが決まる。


暫くすると、アクセルが戻ってきた。しかし、なんだか様子がおかしい。雰囲気というか、アクセルじゃない。恐らくは偽物。だが、確証が持てない。どうすれば確証が,,,ブランに聞くか。


「なぁブラン。魔法で作った偽物の見分け方ってあるのか?」剣を構えながら聞く。


「あるわよ。もうしたけど、あれは偽物よ」ナイス。これで斬れる。スパンッ!気持ちの良い音と共に、胴体が真っ二つになった。


「これ、本当に偽物だよな?」あまりのリアリティにビビってしまう。


「本当よ。よく見てみなさい。根っこで出来ているでしょ」言われたとおりに、凝視をする。先端がうねうねしている。本当に根っこだった。本物はどこに居るんだろうな。


「とりあえず、アクセルを助けに行くか」俺たちはアクセルが向かった方向に走り出した奥に進むにつれて、寒くなってくる。視界も暗くなってくる。


「ブラン。魔法で照らしてくれるか」頼むと辺りは光で包まれた。これで少しは探索しやすいはずだ。痕跡の見落としが無いように、くまなく探す。


「ブレイク。この短剣、アクセルのじゃない?」彼女が持ってきたのは、アクセルが使っていた短剣だった。


「本当だな。戦闘に大事な剣を落とすなんて」最悪の事態を想定して、行動しなければ。とりあえず、短剣は魔法空間に収納しておいた。


「あと、この白い帽子はアクセルのじゃないわよね?」短剣の傍にあったであろう、純白の白い帽子を見せてくれた。


「おそらく、ここに迷い込んだ人を助けるために戦ったんじゃないか?アイツの性格ならやりそうだ」本当に短い時間だが、アイツは正義感が強い。多分、貴族時代のときに培われたものだろう。


「それで、魔法を受けてドボンってわけね」


「その可能性が高そうだな。抵抗のアイテム持ってなさそうだしな」抵抗のアイテムは名前の通り、魔法や斬撃なんかの攻撃を、軽減または無効にしてくれるものだ。


「でも、トレント系はすぐに捕食するわけじゃないから、焦らなくてよさそうね」トレント系の特徴として、対象を拘束して、生命力を吸い上げる。死ぬのは三日間くらいだ。


「それでも、早く見つけないと後遺症が残るぞ」生命力は吸われ続けると、身体能力の低下や、知能の低下が起きる。これは、治らない。


「そうね。大事な仲間だからね。動けなくなったり、死んだら困るわ」普通のパーティーだったら、すぐに見捨てるだろう。でもアイツは俺たちのことを、信頼してくれている。なら答えなくちゃな。


「よし、アイツに料理を作ってもらうか」


「もう討伐した気でいるのね」ブランがフフッと笑う。俺らの旅はこのくらいゆるくてもいいのかもな。


そのあとは無言の時間が続いた。なんていうか普段とは違う雰囲気が漂っていた。進んでいくたびに、暗くなっていく。それに加えて寒くもなってきた。日が当たらないせいだろう。


「ここらへんで、痕跡が途絶えているな」かろうじて見えていた、アクセルの痕跡が無くなった。


「トレント系の変異種だったら、動くのかもしれないわね」その線があったか。なら、ここらで捕らえられたのかもしれない。


「もしかしたら、敵陣の中かもしれない。気を引き締めろ」大剣を構えながら、周りを見渡す。奥の木が揺れたように見えた。


「ブラン、解除の魔法を使ってくれ。それか光魔法で浄化してくれ」魔法をかけてもらうと、視界が明るくなった。バフもかけてくれたのだろう。


やはり、奥に見える木が揺れている。傍には人影が見える。アクセルだ。


「ブラン!!深淵樹を捉えた!!援護を頼む!」深淵樹に疾走しながら、オーダーをする。


「任せて!」ブランが詠唱をする。後ろからは火炎魔法が飛んできている。速度は遅い。俺のことを信頼しているからできることだ。


「アクセルを返せ!」深淵樹の枝を斬り落とし、アクセルを抱える。直後、火炎魔法が炸裂した。眩しい光と熱気が、離れている俺たちにも伝わる。


「アクセル!大丈夫か!?」地面に横たわらせて、容態を確認する。


「何とか,,,」手を挙げながら、意識があることを教えてくれた。


「ブラン!アクセルを見ててくれ!ケリをつけてくる!」アクセルをブランに預け、深淵樹の方向に向かって走る。


弱っている今が好機だろう。そんな浅はかな考えを見透かすように反撃をしてきた。


「あぶねぇ!」地面からは、全てを貫くかのような、鋭い根が、俺にめがけて突っ込んできた。どうしてだ?火炎魔法が当たったはずじゃ。困惑しながら、敵を見る。


表面が焦げているだけで、ピンピンしている。証拠に、枝を振り回しながら闇魔法で攻撃をしてくる。


後衛に攻撃が行かないようにいなしていく。


くそっ、暗黒弾ブラック・バレットも使ってくるのかよ。一人で捌ける量じゃないな。どこかで見切りをつけて、離れないと。視界奪取だけなら、ごり押しするが。


「ブラン!もう少しで離脱する!準備を始めてくれ!」後ろに向かってオーダーを出す。


「その心配はいりません」横から声が聞こえたと思ったら、アクセルが前線に参加していた。


「アクセル!お前もう大丈夫なのか!」


「はい!ブランさんが回復魔法を使ってくれたので!」後ろを見ると親指を立てているブランが見えた。援護射撃しながら、回復魔法かよ。俺の幼馴染は強いな。


「このまま押し切るぞ!」使い捨ての大剣を奴の顔面目掛けてぶん投げる。突き刺さったのか大きくよろけたのが見えた。すかさず火炎魔法とバフが飛んできた。


アクセルは戦場を疾駆して、敵の攻撃を引き付けていた。ダメージディーラーは俺か。任されたら応えなきゃな。愛剣を取り出して加速をする。よろめいている今の瞬間にとどめを刺したい。


「すまん!エンチャント行けるか!?」聞いている途中にもうかかっていた。流石だな。俺は本当に恵まれている。


「うおおおおぉぉぉぉ!!!」紅く染まった愛剣を深淵樹の脳天にめがけて振り下ろす。


バキバキバキバキ!!木が砕けていく音が聞こえる。


この手ごたえ,,,まだ終わっていない!!


「お前らぁぁぁ!!今すぐ離れろおおおぉぉぉぉぉぉ!!」嫌な予感が的中した。奴は死ぬ寸前、ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、自爆をした。


終わりが見えないほどの黒が森を包む。金属同士を引っ掻くような不快な音が鼓膜を揺らす。本命は俺か,,,薄れていく意識の中で死にたくないと思った。


冒険を生業とする者の最後と理解をしているが、少し早いんじゃないか?まだ、やり残したことがたくさんあるのにな,,,


「ブレイク!!」「ブレイクさん!!」


遠くから聞きなじみのある声が聞こえた。あいつらは無事か。よかった。俺一人の命で二つの命。安いもんだ。


「なぁ、俺の墓は,,,海の見えるところに,,,」この言葉を最後に、俺は意識を手放した。


目が覚めるとなのも無い空間に居た。なのも無いというと語弊があるな。白い空間で、暗い光を放つところと、強い光を放つところがある。今分かるのは、ここが俺が暮らしていた世界じゃないということだ。


「なぁ、作者、ここはどこだ?」とりあえず、この物語を綴っている、作者に問いかける。普通は神とかだろって?見たことないからな何とも言えない。その点作者は返答してくれるからな。


【そこは生と死の狭間だよ】


え?つまりは俺は瀕死ってことか?


【そうだね。生きるか死ぬかは君の意思によって決まるよ】


oh,,,まじか。それは生きる一択だろ。


【生きる選択肢でいいのかい?】


当たり前だろ!やり残したことがたくさんあるからな。


【でも、君の先祖が呼んでいるよ】


「おーい、お前もこっちにこいよー」


声がした方の見ると、確かに先祖がいた。それも俺が大好きだった、じいちゃんたちだった。


一人は、俺の愛剣を作ってくれた、俺が思う世界一の鍛冶師。もう一人は、気ままに旅をしていた、自由の象徴だった俺の憧れの人だ。


「いまはまだ行けない。向こうでやることがあるから」


「そんなことを言わないでくれよ。わし達はブレイクとこっちで話がしたいんだ」


「でも、また会えるだろ?」


【分かんないな。魂が消えてしまうかも】


作者が驚きのことを言った。どういうことなんだ?魂が消えるとどうなる?


【簡単なことだよ。この物語から消えてしまう】


嘘だろ,,,まさか、作者が敵だなんて。


【敵じゃないよ。この物語のことを教えているんだ。設定で決まっているだろ】


そうだとしても,,,あんまりじゃないか?俺の大事な人達を見捨てろってのか!?


【そう怒んなよ。もとはこうなるはずだっただろ】


だけど、もっと後半じゃなかったか?


【君たちが自由にやりすぎたからね。調整をしないと】


それは、俺が悪いけどよ、代償は十分に払ったじゃないか!


【確かに貰ってはいるけど、足りないよ】


俺はある程度自由にやらせてもらうにあたってある程度の代償を払っている。


青かった髪は赤に、生まれは貴族から平民に、騎士からニートに、と言った具合で、俺が不便になるようになっている。これは俺が決めたのではなく、世界が決めたものだ。


次はお前は何を取るんだ?覚悟を決めて、問いかける。


【アクセルかブランの命。それで君は生き返れるし、二人の魂は残ったままになる。悪くないだろ?】


お前、まじで終わってんな。そんなのを選ぶくらいなら、ここでくたばってやるよ。そうすれば、このくだらない茶番劇も終わるだろ?


【君らしい回答だね。気に入ったよ。今回は特別だ。魂は残しておくよ】


お前もこの物語が終わるのが嫌か。


【違うよ。君が君を保てなくなるのが嫌なんだ】


どういうことだ?


【教えるにはまだ早い。それよりも、じいさんたちと話して来たら?なぁに、死んだりしないよ】


納得できないが、仕方ない。それよりも、大好きなじいさんたちと話せることを喜ぼう。そこからは。じいさんたちと昔の話をしたり、亡くなった後の話をした。


じいさんたちは、反応が良い。俺もしっかりと遺伝している。気の許せる人たちと話せるのはこんなにも楽しくて心が躍るものなのか。笑われないし、むしろ応援をしてくれる。このままでもいいのかもな。


おっと、そうしたら本当に死んでしまうな。ある程度のところで切り上げないとな。名残惜しいが。俺のことをよくわかっている二人だ。俺が帰ろうとしているのが分かったのだろう。


「もう行くのか。次はいつ会えるかの」しわだらけの顔を歪ませながら、二人は笑う。泣きそうだ。こんな何もない空間で、俺をまた待つなんて。


「ブレイク、そんな顔をするな。お前は笑顔が良く似合う」頭を撫でられる。ごつごつとした岩のような手。この手で、俺の愛剣を作ってくれた。今もあの光景を鮮明に思い出せる。


真っ赤に光る金属を、一心不乱に叩く、叩く、叩く。小さな、小さな金属が、俺の想いにこたえるように大きくなっていく。


「ブレイクは大剣が好きなのか。わしと一緒じゃな」当たり前だろ。あんたの背中を見てきたんだから。


「そうだぞ、ブレイク。泣くのは息を呑む美しい光景を目にした時だけだ」そう言って、一枚の地図を渡された。とても見覚えのあるものだった。


俺が今も持っているものと同じ地図だ。俺が十歳の誕生日を迎える前に渡された一枚の紙。そこにはロマンのすべてが詰まっていた。


世界地図。前人未到の地ですらも踏破している幻の地図。これを見て、愛剣を持って旅をするという妄想をずっとしていた。理由は、憧れの軌跡をなぞりたかったから。


「ありがとう。今までも、これからも」二人に抱き着いた。泣き顔ではなく、とびっきりの笑顔で。


「おまえはその顔が良く似合う」「気を付けていくんだぞ」


激励の言葉を貰う。


「行ってきます」振り返って、光が強い方向に向かう。声が聞こえるけど、振り返らない。振り返ったら、足が止まってここから出れなくなる。


次に会うときは、もっと立派になって帰ってくるよ。光に包まれながら、強く、強く誓った。


~ブラン視点~

「ブランさん。ブレイクさんの状態はどうですか?」私たちは深淵樹との死闘を繰り広げ、見事勝利を収めた。しかし、仲間であるブレイクが瀕死の状態になってしまった。回復魔法で、傷はすでに癒したのだが、一向に目覚める気配がない。



「駄目ね。ここまで回復しても起きないなんて」何時までも起きないブレイクを見て泣きそうになる。昨日まではあんなに元気でいたのに。


「近くの町には事情を伝えて、宿を借りる準備が出来ています」戦いが終わった後、アクセルが助けた少女と共に、近くの町に向かって私たちを受け入れる準備をしてくれた。


その間私はお香を焚いてブレイクの回復に努めた。


「準備は出来ても、起きなきゃ意味が無いわよ」弱々しい口調で、文句を言うことしかできなかった。矛先は誰にも向いていない。ただ、口に出しておきたかった。


「このまま森に居るのは危険なので、少しづつ、街に近づきませんか?」こんな中でも、アクセルは冷静だった。どうすれば、助かる確率が高いのかを考えている。


「分かったわ。ここからはあんたの指示の任せるわ」ブレイクのことでいっぱいの私には冷静な判断が出来ないだから、アクセルに判断を委ねることにした。


「では、ブレイクさんは僕が担いでいきます。索敵も僕が担います。ブランさんは、攻撃を担当してください」アクセルは、車輪のついた担架を取り出して、ブレイクを乗せた。


「行きましょうか」ガラガラと音を立てながら、森の中を進んでいく。たまに、アクセルが足を止めて、周囲を見渡す。近くに敵がいる証拠だ。すかさず、私は杖を構えて、攻撃に準備をする。


「ブランさん!!十時の方向、数は六です!!」敵の位置と数を聞いた後、魔力を開放する。


「アイス・ブレイク!」詠唱を短縮して、氷の弾丸を六発撃ちこむ。一撃必殺、この言葉が適切だろう。私が放った魔法は、モンスターの頭部をすべて消し飛ばしていた。


「流石ですね、ブランさん」死体を回収ながら、アクセルが褒めてくれる。


「普通よ。それにブレイクの隣に立つにはまだ青いわよ」謙遜ではなく、心の底から思っていたことだった。タンクにダメージディーラー、索敵に探索もこなす、ブレイクを知っているから。


「ブランさんは、ブレイクさんのことをとても慕っているのですね」


「当たり前よ。小さい頃から、一緒に育ってきたもの」過去を思い出しながら、歩きながらアクセルに話していく。


「今日はここまでにしますか」ある程度歩いたところで、アクセルが休むように指示を出した。


「この調子でいけば、どのくらいで街に着くの?」


「そうですね,,,四日ほどでしょうか」ブレイクが持っていた地図を頼りに計算した答えを教えてくれた。


「行きよりもやっぱり遅くなるわね」いまだに起きないブレイクを見ながら言う。


「ブレイクさんが心配でしょうが、しっかりと休んでください。警戒は僕がしますから」


「ありがとう。でも、負担が凄いから、交代で警戒をしましょう」正直ありがたい。ただでさえ慣れていない行動に、ブレイクが回復しない状況。


少しでも現実から、目を背けたかった。アクセルと作った料理を食べて、立てたテントの中に入る。


「おやすみなさい。時間になったら声をかけて」何もないテントの中を見回す。誰も居ないことを確認する。私は静かに泣いた。アクセルに聞こえないように。


このまま起きなかったらどうしよう。私の実力が無いせいで死んじゃうかも。そんな考えが、頭の中でいっぱいになる。


それを、涙という形で、外に出していく。アクセルに言えば早いだろうが、私にはそんな勇気はなかった。ただただ、一人で耐えるしか無い。アクセルはどう思っているのだろう。


すすり泣きだけが聞こえるテントの中で、アクセルから声がかかるのを待っていた。


「ブランさん。交代の時間です」外から、アクセルの声が聞こえる。


「分かったわ。今準備するわね」自分の近くにある道具を取って、警戒の準備を進める。お香やスクロールの効果がまだ有効かどうかを確認していく。


「終わったわよ。ここから、朝まで警戒しておくわね」アクセルと確認を取って、キャンプ地の真ん中に行く。


「三時間ほどですが、お願いします。おやすみなさい」彼はそう言うと、テントの中に入っていった。


今の時間は五時くらいだろうか。東の空が赤く色づいていくのが見える。空は雲が多く見えるが、雨雲では無いので、行動に支障はないだろう。


お香を焚いて、モンスターが近寄らないようにする。ある程度、お香の煙が広がった。ブレイクは、今も起きていないのだろうか。


起きていてほしいな。なんて思いながら、ブレイクのテントの中を覗く。すやすやと眠っているブレイクが見える。昨日と変わらないな。がっかりしながらお香の近くに戻った。


勝手に期待をして、勝手に絶望をした。何時までも自分勝手な人間だな。なんて思いながら、時間が来るのを待つ。こんなことを繰り返すことを数日、街にたどり着いた。


ブレイクは最初よりも痩せ細っていた。それは私たちにも言えることだった。日に日に悪くなった天候。何時まで経っても目を開けないムードメーカー。


笑える日はいつになるのだろうか。そんなことを思いながら、第二の町、グレイ・スカイの辿り着いた。晴れの日がほぼ無いとされているこの町。理由は常に分厚い雲が空を覆っているからだ。


しかし、天気とは違って、街に住んでいる人たちは、活発に行動をしている。理由は、年に数回、雲龍が山から下りてきて、祝福をしてくれるからだ。その姿は見る者全てを圧倒するほどの巨体で嵐を身に纏う。


祝福のあとは、太陽が見えるようになる。この光景を、畏敬の念を込めて、雲龍の大穴と呼ばれている。もし、立ち寄った時は、数日留まってみるのもいいかもしれない。君たちの旅路に祝福を。

著・ワールド


アクセルが門番と話を付けてくれたおかげで、すんなりと通ることが出来た。私たちが指名手配犯だと気づいていないようだ。本当に絵がへたくそみたいね。


「ねぇアクセル。私たちが借りてる宿はどこなの?」ブレイクを早く安全なところに連れて行きたかった。


「あそこの宿ですよ。雲海亭というところです」視線の先を見ると。こじんまりとした宿が見えた。うーん。正直名前負けをしている気がするわね。


「早く行きましょう」そんなことは気にしてはいられない。私たちは早速中に入る。外装は少しボロボロだったけど、内装はしっかりと手入れがされていて、綺麗だった。


「予約をしていたアクセルですが」受付の人にアクセルが、説明をする。


「今日は貸し切りですので、一番の部屋に案内します」びっくりした。私たちのためにここまでしてくれるなんて。


案内された部屋は、地味だったが素人目でも分かる程の、高いものが使われていた。なんで、派手なものを使わないのだろう。なんて疑問がよぎったが、ブレイクのことが最優先だ。


「ここに寝かせましょうか」恐らく、一番柔らかいであろう、ベッドの上に寝かせる。


「ブランさんはブレイクさんを見ていてください。ギルドで換金や物資を買いに行くので」そういうと彼は部屋から出ていった。ブレイクが目を覚ましたのはこの数分後だった。


~アクセル視点~

この街のギルドはどこにあるのだろうか。周りを見ながら探すが、見えない。仕方がない、上に登るか。家の壁から屋根まで、羽が生えたように軽々しく登っていく。


「見つかったら何か言われるな」スキル「隠密」を使う。これは、自分のことを視認しづらくなり、音も小さくなる。また、気配も最小限になる。


そのあとは、屋根から屋根へと移って行き、この近くで一番高い家の上まで来ることが出来た。ギルドはこの町の中心にあるのか。


見つければ簡単だ。家から下りないで、最短距離を狙う。屋根を思いっきり蹴って加速をする。


加速、加速、加速。周りの景色が置き去りになる程、速く走る。家が続いていなかったら、跳躍をして、飛び移る。


そんなことをしているうちに、ギルドの前まで来ていた。いきなり出たら、怪しまれるだろうか。そう考えた俺は、裏路地に回って隠密を解いた。


ギルドに行こうか、と思って矢先後ろから悲鳴が聞こえた。男なら自分で助かるだろうが、聞こえたのは女の声だった。


助けに行くか。今度は、深淵樹の二の舞にならないようにしないとな。隠密を使い、悲鳴が聞こえたところに向かう。確かこの辺りから聞こえたんだが。仕方がない、痕跡を辿るか。


このスキルは隠密を解かないと使えないから嫌なんだよな。スキル「狩人の目」を使う。


黒色の瞳が赤く光る。それに伴い、視界が赤くなる。足跡は三つか。女の靴は一つで、残りは男か。足跡はくらい路地裏の先に続いていた。デジャヴが凄いな。そんなことを思いながら、中に入っていく。


案の定治安は終わっていて、薬物中毒者や家無し、物乞いチンピラなんかがいる。この国がいかに終わっているのが分かる。


まぁ、世界皆平等は叶わないのだが。


一般人が入れば、すぐに絡まれるだろうが、今の俺は赤目で、剣を握っている。誰も喧嘩なんかは売ってこない。


俺も、こんな奴が歩いていたら、避けるだろうけど。だいぶ奥まで来たが、痕跡はまだ、奥の方に続いている。


もしかしたら、拉致されて奴隷館に連れて行かれているのかもな。もしそうなら、かなりの手練れだな。あんな短時間でここまで来ているのだから。


最悪負傷するな。気を引き締めていくか。数十分歩いたところで、突然痕跡が消えた。どこかに隠し扉でもあるのか。


周囲を見渡して、見落としが無いか確認する。その時、背後から攻撃を受けた。視界が揺れる。


痕跡を辿っていたのがばれていたのか。スキルを解いて、視界を確保する。数は七人。


俺はブレイクみたいに多数対一に慣れていないからな。どうするかな。何か利用できるものは,,,利用できそうなものを探していると、家の上に縛られた女がいた。


ってアイツ俺が助けた女じゃねぇか!!トラブルメーカーすぎるだろ。この辺りには、チンピラしかいないから、スキルを使うか。


「てめぇ、俺らの痕跡を辿るとは度胸があるな。だがな、その度胸がお前を死に導くんだよぉ!」


「そうですか。でも死ぬのは僕じゃなくて、あなたたちです」剣を、一番偉そうなやつに向ける。


「生意気なガキだな。お前ら、殺しちまえ!!」


「うおおぉぉぉ!!」集まっていたチンピラが声を出して、突っ込んできた。


好都合だ。俺は高く飛んで、スキルを叫んだ。


「餓狼!!」黒の髪と眼が銀色になる。体の一部からは、白い毛が生えている。このスキルは一定量の血を浴びないと、解除することが出来ない。


七人もいれば、解除まで行くだろう。届かなかったら、ブレイクさんにでも殺してもらうか。


「お前らビビんな!見た目が変わった,,,あえ?」


七人の間を疾走して、顎や首を斬った。斬られた奴らは何が起こっているか分からないだろう。そして、そのまま倒れ込むように死んだ。辺りが血の匂いで染まる。俺を祝福するように血が付着する。


「残るはお前一人か」一人だけ傍観に徹していた、男に向けて、剣を投げる。


キンッ!男は目にも止まらぬ速さで、腰に差していた剣を抜いて、俺の攻撃を弾いた。こいつが親玉か。そう思った瞬間に間合いを詰められ、斬られた。


血が吹き上がる。男の勝ち誇った顔がよくわかる。後ろからでも。


ザクッ。俺は背後から、心臓刺した。


「それは偽物ですよ」スキル、分身を使って、男の後ろを取ったのだ。徐々に白い毛が落ちていく。解除の量まで行ったのだろう。


この世界は残酷だな。持つものが頂上を目指せて、持たないものは諦めるしかない。赤く染まり始めた空を背に、ギルドに向かった。俺が追いかけていた女は相当な手練れか、いつのまにか消えていた。どこまでも謎な女だ。


この町に入れたのもあの女のおかげだしな。しかしなんで深淵樹になんかに絡まれていたんだ?考えれば考えるほど、頭の中がこんがらがっていく。


「もう着いたのか」思考しているうちに、ギルドの前まで来ていた。血の付いたままでもいいのだが、汚いままなのは嫌なので、浄化魔法で綺麗にする。


ギルドの扉を開ける。中は賑やかな声で包まれていた。どこのギルドも変わらないな。二階に向かって、換金と物資を買うか。二階に上がる階段を探していると、金髪のチンピラに絡まれた。


「おいおい、ここはガキの来るところじゃないんだぞ。家に帰ってママの乳でも飲んでな」どっと笑いが起こる。こいつがここのギルドで一番強いのだろうか。見たところ大きな斧を担いでいるだけで、あまり強そうに見えないな。


「悪いですが、僕もあなたたちと同じ冒険者なのですが」争いごとは勘弁したい。さっきので疲れているからな。


「冗談がきついぜ。お前みたいな十数のガキが俺たちと同じだぁ!?あんま舐めんじゃあねぇぞ?」背中に担いでいた斧が俺の真横に振り下ろされた。木製の床はバキバキッ!と心地の良い音を上げて亀裂が入った。


「粗暴な人間は嫌われますよ」床に刺さった斧を持ち上げて、男に返す。男は困惑をしながら、受け取った。何がしたかったのだろうか。


「それよりも、二階に上がる階段はどこでしょうか?」チンピラは指を震わせながら、階段のあるところを指してくれた。


「ありがとうございます」お礼を言って階段に向かう。


途中、「あの雲切を一蹴か」「強いな、あのガキ」という声が聞こえた。本当に強かったのか。俺からすれば、ただの雑魚なのだが。そのあとは、換金をして物資を購入した。


俺は、仲間と違って、魔法空間が小さいからな。考えて購入をしないと、手荷物になってしまう。そんなこんなしていると、手持ちは八千リルになった。


必要経費ってことで。←本当は小さいものを買ったから高くついただけ


帰りは、大通りを歩いて帰る。昼間の様に戦いにはなりたくはないからな。外はもう暗くなっていて、人の通りも少なくなっていた。


街灯も少ないから、不気味な雰囲気を醸し出している。隠密を使って帰るか。気配を消して、道の端を歩く。行きは家の上からだったから分からなかったが、町並みは綺麗なものだった。


舗装された石の道、規則的に並んだ店と民家。こんないい街でも、裏側は汚いものなんだよな。すっかり日が落ちて月が雲の間から阿古を見せてくる頃に宿に着いた。


ブレイクは目を覚ましているだろうか。淡い期待を抱きながら、ドアを開けると飯を食べている二人がいた。


「目を,,,覚ましたんですね」泣きそうになりながら、抱き着く。男に抱き着かれるのは嫌だろうが、無事だったことの喜びをどうしても伝えたかった。


「お前たちのおかげで何とかな。ちょうどお前がここまで運んでくれたことをブランから聞いていたんだ」頭を撫でられる。ごつごつとした手には、優しさと温もりがあった。


「迷惑をかけたな」目を見て、謝罪をされる。悪いのに俺なのに。


「僕が女に気を取られていなければこんなことには,,,」


俺の言葉を遮るようにブレイクが、「お前が正しいと思ったことを貫けば正しいんだ。誇っていいんだぞ」その言葉には優しさが詰まっていた。


この日、二人について行って良かったと思った。


~ブレイク視点~

「そういえば、お前が助けた女はどこに行ったんだ?」疑問になっていたことを、アクセルに聞く。


「路地裏で見かけたのですが、煙の様に消えたんですよ」冗談で言っているのではないのだろう。


「ま、この街に居るってのが分かればいいか」


「そうよ、それよりも久しぶりのご飯冷めちゃうわよ」


「あなたたちが先に食べているから、もう冷め始めてますよ!」鋭い突っ込みが入る。


「悪い悪い、腹が減っていたからな。お前も食べろよ」取り分けておいた皿をアクセルに渡す。


「ブレイクさん,,,あなたって人は,,,」肩を震わせている。


「ん?俺がどうかしたか?」何か地雷でも踏んだかな?


「俺たちがどんなに心配していたか分かっていないみたいですね!!」そこから、アクセルの説教が小一時間続いた。


「分かりましたか?」


「はい,,,もうこんなことはしません」とりあえず、反省の色を見せておく。本当は反省していないよ~んwwこの俺が反省すると思ったかアクセル。お前はまだまだ甘いぜ!


「アクセル、こいつまだ反省してないわよ」くそっ、ブランがいるんだった。こいつは俺の心を見透かしてくるんだよ。


最悪だ。こんな時は,,,「ダッシュ!!」急いで出口へと向かう。


「止まらないと斬りますよ?」後ろから短剣が飛んできた。俺の顔を掠めるように横を通り、壁に刺さった。ピタッとその場に止まる。


「おとなしく説教を受けます。なので、斬るのはやめてください」正座をして、覚悟を決める。怒られている間は何を考えていようかな。


「こいつ、まだ反省する気が無いわよ」あれ?なんかブランも怒ってるんだけど!?


「ブレイクさん。今日は覚悟してくださいね?」後ろにはなぜか、狼が見える。


「ぶ、ブラン!助けてくれ!?」何とか助けを貰おうとする。


「この際怒られときなさい、こんなことが[二度と]起きないように」が、駄目。退路は無し!しっかりと反省しますか。怒られる原因は死にかけた俺にあるだろうし。


結局説教は明け方まで続いた。俺、仮にもけが人だったんだぞ?この扱いは酷い。でも、それだけ心配してくれたんだな。感謝感謝。そして俺は朝焼けを見ながら眠いと思った。

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ワールド・ジェイル 遊者 @liberalarts

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