第2話 解放

ギルドの中は外観とは違い、賑やかな雰囲気を持っていた。もっとも、出店のようなものではなく、色々な人間が交流を深め、様々な言語が飛び交っている。


また、中は四階建てで、一回は酒場のようなもので、様々な情報が聞こえる。山のほうでドラゴンが出たとか、パーティーの一人が迷宮の中だとか、そういったものだ。お前らの世界の本も、こんな感じだろ?


二階は依頼の受注や報告ができる場所になっている。冒険者はここから、依頼を受け取って、戻ってくる。内容は多種多様で、探索や捜索、討伐に撃退、採取や運搬などがある。


また、ここではモンスターの買取と、日用品や必需品が販売されている。今日はここで、モンスターを査定してもらい、金を受け取る。ブランは俺の説明が長いからと言って、査定をしてもらっている。


俺,,,頑張ってるのに。グスン。おっと、話が逸れそうだから戻そうか。三階と四階は宿泊施設になっている。普通の人間も泊まれるが、冒険者割引があるのでほとんど埋まっているから、なかなか見ない。


俺たちは別の空いている宿に泊まる予定だ。


此処での説明はこんなところだ。ギルドによって、見た目、文化、施設に違いがある。これも旅の醍醐味の一つだろう。


【上の二行は、ブレイクがニートの時に見ていた本の一部だ】


おい、作者!!余計なの入れるな!俺の主人公感が無くなるだろ!!


まあいいか。俺たちがいるのは作者のおかげだもんな。


「お~い」どうやら金がもらえたようだ。


「どのくらいになったんだ?」見たところ、金額は大きそうだが。


「十万四千リルだったわよ」リルとはこの世界のお金の単位で、お前たちが済んでいる世界のお金と等価だ。等価の理由はわかりやすいからだ。


「ここから、日用品とかを買うから、余らなそうだな」足りない脳みそをフルに回転させて考える。


このスピードは黄金の回転といっても過言ではない。


「そうね。考えながら買いましょ」必需品はあらかた揃っているので、俺たちは日用品の棚を見ていく。


洗剤やテント、フライパンに薄い本。本当にたくさんの物が売っている。異世界コンビニだな。なんて思いながら、かごにものを入れていく。


「必要なものは全部買えたな」指さし確認を二人でしていく。まるで夫婦みたいだな。将来はこんな風に,,,なんてな。


こんな夢は儚く散ると知っている。理由はシナリオがあるからだ。俺達は舞台で踊る人形と変わらない。叶わない物を追いかけるのなんて惨めで滑稽だろ?でも少しは思い描きたいんだ。


不意に頬に一粒の雫が流れ落ちていく。


「あれ?ブレイク泣いているの?」心配するように彼女が顔を覗き込んでくる。


「いや、目にゴミが入っただけ」強がってこの気持ちを誤魔化す。俺の悪い癖だ。こんなの早く無くしたいよ。


「そう。先会計して収納しているわね」俺の気持ちを知らないまま、彼女は会計をしに行った。


言ってしまえば楽なのに。言葉にするのがこんなにも難しいということは、馬鹿な俺でもはっきりと分かる。


パンっ!!乾いた音が鳴った。音の出所は俺の濡れた頬。何がシナリオだ、何が設定だ。そんなのまた自由に動いて変えてやるよ。見てるかお前。お前の思う通りにはならない。


自由はいつでも俺の手の中に眠っている。こんなクソなシナリオは名前の通り、自由に書き換えてやるよ。外では、強い風が旗を大きく揺らしていた。


決意を固めた頃に彼女は戻ってきた。とてもうれしそうな顔をしていた。いつもの様に、俺は声を出す。


「なんかいいことあったか?」声が裏返ってしまった。


「あんた面白い声をだすわね」彼女はころころ笑った。この笑顔は咲き誇る花も、金に光る太陽も敵わない。


「う、うるせー!のどの調子が悪いだけだよ!」いつもの様に誤魔化す。


「それより、たくさん買ったから、割り引いてくれたわよ」リルの入った袋を見せてくる。


「本当だな。今日はいい宿に泊まろうか」袋を見ながら提案する。


「そうね。私は慣れない野宿だったから、体が痛いわ」体のあちこちをさすっている。するとちらちらと腋が見える。ERO!!WOW!!宿にして正解だぜ。父さん。絶景はこんなにも身近なところにありました。


「あまり無理はするなよ」他愛の会話をしながらギルドを出る。外は、夕焼けで赤く染まっていた。


「時間が経つの早いな」夕日を見ながら、小石を蹴る。


「早く宿を探さないとなくなるわ」速足で彼女が前を行く。


「ポレポレでいこうぜ」対して俺はゆったりとした歩調で歩く。


「ポレポレってなによ?」


「向こうの世界でのんびりって意味だ」


「駄目じゃない!さっさといくわよ」急かす様に、彼女が足踏みをする。


「はいはい」頭を掻きながら夕日に向かって走る。ここから宿を見つけるのはたいして時間がかからなかった。


今日は「黄昏の時間」という宿に泊まることにした。見た目は、大きな屋敷という感じで、綺麗だ。


「こちら、203号室と204号室の鍵です」受付から各々の鍵を受け取る。リルは先払いで、三食付き。俺らは朝ここを出るので二食にしてもらった。


「準備が出来たら声をかけてくれ。お休み」部屋の前で別れる。飯は運ばれてくるので、プライベートの時間が確保することが出来る。コンコン。早速飯の登場だ。


「どうぞ」中に入ってきたご飯は豪華だった。パンにどでかい肉、スープにサラダ。二人分くらいの量がある。腹が減っていた俺は、早速食べ始めた。


まずは肉だ。圧倒的な存在感を持つこいつを手で掴み食べる。行儀が悪いかもしれないが、ワイルドな方が美味しいに決まっている。口に入れた瞬間、肉の中からこれでもかというくらいの肉汁が出てきた。この、波に乗っかってきたのは、スパイスたちだ。


ピリッと辛く、それでいて、優しいハーブの香り。たまらん。この口の状態のまま、パンを口に入れる。もちもちの触感と、ほのかに甘い生地。合わないわけがない。これらを飲み込んだら、スープだ。見た目は、素朴だが、匂いは誤魔化せない。


たくさんの野菜の出汁が混ぜられているのが分かる。一口飲む。体が温まる。もう一口飲む。心が温まる。優しい味だ。ブランも今頃食べている頃だろうか。出来るなら、アイツと食べたかったな。


【朝食なら、一緒にできるけど】


あれ?作者から、話しかけてくるなんて珍しいな。てか、いいのか?設定からずれない?


【ブレブレだから良いよ。君の頑張りで未来が変わるから。それじゃ】


まじか!!もしかしたらブランと付き合えるかもしれないのか!!なら、自由にさせてもらうぜ!


そう決めた俺は、飯をすぐに食べ終え、外に向かう。訓練だ。ブランを守れるくらいには強くならないと。


舗装された道を歩く。目的地はここの近くの森だ。


その森には強いモンスターがいるという話をギルドから聞いた。俺は単独で討伐をする。強さの証明というやつだ。そのモンスターの特徴は、二つの黒い角。全身を包む、銀の体毛。そして、夜行性。


このことから、二つ名は「黒月くろつき」と呼ばれている。二つ名とは、強大な力を持つモンスターに尊敬と畏怖の念を込めて、冒険者が付けるものだ。


有名なところは、世界で最も高い山に居る、黒の鱗に金の瞳を持つ、「黒龍こくりゅう


大海原に巣食う、神出鬼没の「おぼろ


大地を揺らし、モンスターを産み落とす「災禍さいか


この三体は発見から数百年経つが、いまだに目撃されている。話が逸れてしまったな。俺はこの情報を頼りに探す。どのような姿なのかは、はっきりとはわかっていないらしい。


交戦して助かったのは一割に満たない。数少ない証言の中から、関連性のあるものだけが、飛び交っている。お前らと話しているうちにうちに、門のところまで来ていた。門をくぐり、森を目指す。


今日ははっきりと満月が見える。月明かりが俺を薄く照らしてくれる。


森の入り口はまだ緑が濃くない。中に入れば、暗闇になるだろう。


頼れるのは自身の力だけだ。一歩、森に足を踏み入れる。全身が震える。武者震いだ。待っていろ黒月。俺が討伐してやる。


歩くこと数分。夜目が効くようになり、周囲がよく見える。痕跡は見当たらない。まだ奥の方に潜んでいるのだろうか。なんて考えていると、血の匂いが風に乗ってきた。


それは、森の中心からだった。「奴」は向こうにいる。血の匂いを辿りながら、森の中を歩いていく。まだ、姿は見えない。しかし、強い気配を感じる。


恐らく近くにいる。警戒をしながら、前へと進む。少し歩くと、人の形をしたものが目に入った。


近づいてみると、体が大きく抉れていた。それにまだ、熱を持っている。


違う。これは穴だ。何か鋭いものが、貫通している。辺りには、銀の毛が落ちている。黒月がこの辺りに居る。刹那、全身に衝撃が走る。


「グハッ!」咄嗟に魔法空間から大剣を取り出し、受け流したが、数メートル先まで飛ばされ、大木にぶつかり止まった。視界が霞んでいる。集中しなければ。


息を吐いて、攻撃に備える。先程とは打って変わり、足音がする。舐められているのか。攻撃態勢に入ったのか。


どちらでもいい。俺の目的はこいつを殺すこと。それだけだ。警戒をしていると、突如、目の前が揺れた。そして、黒月が姿を現した。情報通りの見た目だった。


しかし、違っているところがあった。毛の色だ。銀ではなく、黒色をしていた。擬態の能力でもあるのか?


「キイイイィィーーン!!」考えていると、耳をふさぎたくなるような咆哮が聞こえた。金属の板を鋭いもので引っ搔いたような不快な音だ。


咆哮に顔をしかめていると、奴が突進をしてきた。俺は身を翻し、攻撃を避け、反撃をする。


ガキン!硬いものにものが当たった時の音がした。まさかと思って毛を見ると、銀色に変化していた。


そういうことか。状況によって毛を変えるのか。


今分かっているのは、黒が通常で、銀が硬化している。どうすれば、ダメージを与えられる?何か弱点は?


暗い森の中を疾走する黒月を、観察する。観察している最中に何回か攻撃をされた。そのたびに傷が増えていく。完全に防ぎきれないのは俺の地力が足りていない証拠。だが、血と肉を与えてやったおかげで弱点が分かった。


毛の色は二種類しかないこと。そして、アイツの最大の武器の角が弱点だ。角、というよりは顔の周りだ。そこだけは毛が生えていない。


狙うところは決まった。だが、どうやってそこに攻撃をする?避ければ、当てることはできない。


考えるのは面倒くさいな。突進を受け止めよう。そして、もう一本の剣で脳天を突き刺そう。


息を一気に吐き、集中をする。失敗すれば死ぬ。それでもいい。ここで死ぬのであれば、俺はそこまでの人間だったてことだ。覚悟を決めたとき、黒月が突進をしてきた。


時間の流れが遅く感じる。アイツの体の動きが分かる。全身に力を入れて、受け止める準備をする。


さぁ、来い。殺してやる。


ドオオオォォォンンッ!!とてつもない衝撃に、剣が、地面が、森が悲鳴を上げる。すまん。もう少しだけ耐えてくれ。


地面が大きく抉れていく。木々が薙ぎ倒されていく。俺の愛剣にヒビが入っていく。限界だ。そう思った時に、黒月が止まった。ありがとう。魔法空間から、剣を取り出し、脳天に突き刺す。黒月は声を上げず、その場に倒れ込んで、死んだ。


俺は、勝ったのだ。死線を潜り抜けたのだ。俺は、死体を魔法空間に入れる。安堵して上を見る。


木が倒れたおかげなのだろうか。月が俺を祝福するように照らしてくれる。俺は少しは強くなったのだろうか。


明るくなった道なき道を歩き、街を目指す。月はいつの間にか隠れていた。


「もう朝か」門に着いた頃には太陽が昇り始めていた。赤く染まる空。俺の体も真っ赤だ。ギルドに行く前に、綺麗にしないとな。浄化魔法を使って、汚れを取っていく。


冒険者であれば、必須と言って良い程便利な魔法だ。いつもの様に、列に並んで、待機する。出るのは簡単なんだがな。今回は、顔見知りの門番がいたので、顔パスだ。


楽でいいな。俺も名を売っていけば、全部顔パスにならんかな。朝は人の通りが少ない。理由は、出店が出ていないからだ。混み始めるには、もう少し陽が出てきたときだ。


ギルドに行く前に、宿に戻って、飯を食べよう。ここで、ブランと一緒に飯を食べないかと誘う。着くと、朝食の準備をしているのだろうか。香ばしい匂いが漂っている。今日のご飯も美味しいの確定!!


さてと、ご飯に誘おうか。ブランの部屋の前に行きドアを叩く。


「ブラン。朝食を一緒に食べないか?」


「いいわよ。私の部屋に持ってくるように手配しておいて」だった。


イヤッホううぅぅぅ!!成功したぜ!早速受付のところに行って、食事がブランの部屋に来るようにしよう。階段を下りていく。すると下から騒ぎ声が聞こえた。


「お前が悪いだろ!手ぇ切り落とすぞ!!」おぉ、物騒だな。荒くれ者に絡まれているのは誰かな~。余裕そうだなって?当たり前だろ。二つ名を単独討伐してるんだからな。肝は据わりまくってる。


「ご、ごめんなさい」泣きながらスキンヘッドの男に謝っていたのは、十歳くらいの女の子だった。何があったのかは分からないが、間に入るか。


「朝早くから、大声出すのやめてくれないか?」女の子の前に入る。男の服には水がかかったのか、染みができていた。


「あ?なんだお前。文句あんのか?」男が俺の胸倉を掴んできた。


「文句しかねぇよ。どうせお前がいちゃもんつけてるだけだろ」図星だったのか、男は俺を地面に倒そうしてきた。しかし、鍛えられた俺の体は、大木の様に、動かなかった。


「舐めやがって!」男は腰に差していたナイフを抜き、心臓に刺してきた。


「グハッ,,,」俺はそのままの勢いで、後ろに倒れた。痛い。いや、熱い。俺,,,死ぬのか?目の前が霞んできた。すまん、ブラン。俺はここまでの人間みたいだ。


なんてな。


懐に黒月の銀毛を仕込んでおいて正解だった。伊達に俺の愛剣を受け止めただけはある。それにしても,,,うーん。ここからどうしようか。男は俺を殺したと思っているみたいだし、女の子の方は、死んだと思っているみたいだ。


ま、油断する方が悪いし、先に刃を向けてきたのはあっちだ。すまんなおっちゃん。ここで死んでくれ。魔法空間にある剣の出現場所を、男の真上に指定する。


轟音と血飛沫が一階を包む。目の前に半分になった男と、床に突き刺さった剣があった。


「すまん。賠償金はすべて俺が払う」奥から出てきた店主に言う。


「その必要は無い」あれ?もしかして命の恩人とかで、許されちゃう感じ!?やったぜ!!


「お前は今から豚小屋だからな」ガチャン!気が付けば牢屋に入れられてしまった。うせやん。こんなのってないブレじゃん。あっちの方が悪いやんけ!?


確かに俺もやりすぎたか、なんて思ったよ!?なんであんな見た目の奴がお偉いさんなんだよ!?貴族うぜー。てか、絶体絶命ですやん。


DTで死ぬま?勘弁してくれ。はぁ、助けが来るまで待つか。でも、企画段階で助けに来る奴、仲間にしとらんやん!!


頼む!神様、仏様、ブラン様!僕のことを助けてください。ん、待てよ。パーティー登録してるから、アイツも捕まっているか。


笹喰ってる場合じゃねぇ!早くいかないと、ブランがエロ同人みたいにされてまう!幸い、魔法遮断の牢屋じゃないから、魔法空間が使えるぜ。


この国のお偉いさんは、魔法空間に武器が入ってないと思ってるからな。ささっと、脱獄しますか。


魔法空間から、剣をとりだして、鉄格子を切り刻む。バラバラになった鉄の棒を見て思う。案外斬れるものなんだな。


「さて、ここは地下何階だ?」連行されるときに、目隠しをされたから、あまり情報が無い。分かるのは、下に降り立ってことくらい。


俺の地位はもう最底辺なのにな。ガハハッ!自分で言って悲しくなるな。てか、派手に音を立てたのに、誰も来ないなんて、警備はどうしたんだよ。俺みたいなやつに時間は割きたくないのか。


まぁ俺としては、都合が良いんだが。石で作られた、通路を歩いていく。明かりはほぼ無いから、魔法で照らす必要がある。


他の牢屋の中を見てみると、剣士や、武闘家なんかの格好をした、死体があった。恐らく、ここは、近接職を閉じ込める牢獄なんだろう。ま、俺は魔法を使えるから、関係ないな。


30歳DTじゃないぞ!?それにしても臭いな。腐敗臭やカビの匂いが充満している。警備が無いのは必然か。ここは健康に悪そうだから早く上に行くか。


とりあえずは、階段を探していくか。え?天井を壊せばいいって?バーロー。看守と鉢合わせたらどうすんだよ。


もう一人殺しちゃったけど、本当は被害を出したくないんだよ。だから、なるべく隠密に徹する。俺は今日から忍者だってばよ!


こんなことしてないで、早く行こう。ブランが心配だ。なんかあったら、教えていくぜ。地下五階は特に何も無し。どうやら、ここが最下層っぽい。


地下四階は、看守がちらほら居るくらい。イベントは何もなかった。なんたって俺は忍者だからな。


えー。現在地下三階。見つかって追われています。後ろから、ありえないぐらいの怒号と罵詈雑言が飛んできます。怖いです。助けてください。今は逃げれているが、挟まれたらやばい。


って思った瞬間に挟まれたよ!


why?俺なんかしました?したからここに居るのか。って自己解決して遊んでる場合じゃない。天井に穴をあけるか。すまん、ここの建築に携わった人たち。


剣を振りながら、壊していく。


パラパラと上から瓦礫やらなんやらが降ってくる。建築破壊は気持ちいいZOY!だけど、俺は止まらない。団長に言われたからな。


壊していくたびに、明るくなっていく。外はもうすぐだな。最後の一振りだな。渾身の一撃!!


爆音と共に青い空が俺のことを出迎えてくれた。


「ふぅ、シャバの空気は美味いな」深呼吸をし、汚れた空気を肺から出していく。あぁ、浄化されていく。イってしまいそうだ。


辺りを見回す。何も無いな。別の建物か?ブランは可愛いからな。可愛い?もしかしてアイツ、俺が殺した貴族の家に攫われたか!?


俺が殺しちゃった貴族の名前はハゲ何とかだったかな。この町じゃ有名な奴らしいからさぞ良い家に住んでいるんだろう。


「ここからだと遠いな」丘の上にある、立派な屋敷を見る。配管工の気持ちはこんな感じか。今行くからな。


クラウチングスタートの態勢をとって、加速する。目の前にいる人間がどうなろうと関係ない。全てを敵に回しても、アイツは俺が守る。


「止まれ!」「犯罪者が!」周りから聞こえるが、知ったこっちゃ無い。先に手を回したのはあっちだ。さらに加速していく。


眼にも止まらぬ速さで、館に続く道に入る。そこから、また加速する。風を切る音が、俺の耳を支配する。景色は目まぐるしく変わっていく。


木にぶつかっても、直線の動きは変えない。最速を目指して、最短距離だ。屋敷が見えてきたところだった。


足が悲鳴を上げた。もう上がらないって。もう少しだけ、踏ん張ってくれ。心臓が破裂しそうなほど、鼓動している。寿命を削ってもいいから、血液を回してくれ。


今回は本当にやばいかもな。でも、休んではいられない。ブランを守れるのは俺だけだ。決意を固め走る。屋敷の前に来た。


足はパンパンで動かない。心臓が痛み出すほど、鼓動が高い。息が出来ないくらいに切れている。


関係ない。あいつのためなら、安いもんだ。もう少しだけ待っていてくれ。


愛剣を取り出して、扉を斬る。そして地面に輝きを持っている石を埋める。


そういえば、助けた女の子はどうしているのだろうか。無事だといいな。あわよくば仲間になってくれんかな。


【ならないです】


ならないか。そうだよな。俺にはブランがいるもんな。


「ブラーン。どこだー?」広い屋敷に俺の声が木霊する。ザッザッと急いでこちらに向かってくる足音がする。


お出迎えかな?


「お前,,,貴族であるハーゲン・マックリー様の息子を殺したブレイク、」


「長い。ブランはどこだ?」長々と喋る騎士を、床に押し倒し、ブランの居場所を聞く。


「お前なんかに,,,」ドンッ!!騎士の顔の横に大剣が刺さる。兜には浅く傷がついている。


「次は、手元がずれて、当たっちゃうかもな」殺意を込めながら威圧する。剣を収納し空中に浮かしてやると、騎士は顔を青くした。


「地下に、マックリー様と一緒に先程下りていきました」目線の先には何もなかった。恐らく隠し扉のようなものだろう。


「早く言えよ。お前は見逃してやる」頭部を殴って気絶させる。兜には拳の跡がくっきりと残っている。鉄だから痛いな。


勇敢にも立ち向かってきたのはこいつだけだった。他の騎士たちは傍観をしているだけだ。そんな腰抜けは生きている価値が無い。


宙にある剣を掴み、三回振る。ゴトッという音が、六回なった。まだ手は使えるな。情報を提供してくれた奴の目線の先にあった、壁を見る。


よく見ると、ここだけ周りよりも色が薄い。甘いな。壁を力いっぱい蹴ると、大きな穴が空いた。目の前には地下へと続く階段があった。


微かに血の匂いがする。あの野郎、ブランに手を出していたら、数回は殺してやる。手には血が滴る程、力が入っていた。


暗い階段を下りていく。終わりがなかなか見えない。ただ、血の匂いが強くなっている。どうせ、くだらない貴族のことだ。拷問でもして楽しんでいるのだろう。本当にクズだ。


時折、後ろから足音が聞こえてくるのが鬱陶しかったので、魔法で埋めておいた。軽く時間を稼ぐことはできるだろう。


暫く下りていくと、木製の扉があった。色は、木の色ではなく、血が固まってできたような、赤黒い色をしていた。


もっと早く来れていれば、被害は少なかったのかもな。ノブに手を掛けるが、鍵が掛かっていた。


こんなもので俺を止められるわけないだろ。


思いっきり捻ると、簡単に砕けた。ブランの声がする。声というよりは悲鳴だ。


許さねぇ。声が聞こえた部屋に向かって、剣を投擲する。そして、部屋に走り込む。


ブランには当たらない。何故なら、拷問部屋は被害者を真ん中に置くからだ。斜めから投げれば、当たることは無い。


埃が舞う。人影は三つ。二つは、趣味の悪い貴族だろう。段々と視界が晴れていく。オークの様な醜い顔の人間がいた。


一瞬で二人を押し倒して、猿ぐつわを付ける。このプレイはブランとしたかった。


「ブラン。無事か?」Xの形をした石に括られたブランを見る。


「何とかね」彼女は笑いながら、石を砕く。


「そんな厳つい魔法が使えるなら、俺いらなかったな」砕けた石を見ながら言う。


「そんなことないわよ。そこに倒れている魔術師が、魔法を封印していたんだもの」床に倒れている二人のうちの一人を指さす。


「そうか。お前は俺がいないとだめだな」頭を撫でる。いい匂いがする。


「あ、あんたが出来すぎているのよ」顔を赤らめながら、俯いた。可愛い。


「それより、こいつらどうする?殺すか?」


「物騒なこと言うわね。だからこうなるのよ」


「ごもっともです」正論パンチは痛いぜ。


「ま、このまま放置でいいんじゃないかしら?」何かを思いついたように笑っている。さながら悪魔だ。


「お前に合わせるよ」本当は怖いからなんも言えないんです!


「それじゃ、外に出ましょ。あんたのことだから、転送石を置いてきてるでしょ?」ブランに言われて、手をつなぐ。そして懐に入っていた石を砕く。視界が暗転すると、屋敷の外に出ていた。


「本当に便利だな、この転送石」地面に埋まった光を失った石を見る。


「一回だけなのがネックだわね」


「それより、逃亡しなきゃな。行くぞ」マントを翻す。


「あ、ちょっと待って」彼女がそういうと、頭上に巨大な土の塊が現れた。


「お前,,,それを屋敷に撃つのか?」恐る恐る聞く。


「当たり前でしょ。あんな奴埋まっておけばいいのよ。働いてたやつもね」笑いながら言っているのが怖い。


「それに、地下には私しかいないから大丈夫よ」そう言って、彼女は土の塊を、屋敷の飛ばして埋めた。


母さん。今日から俺は立派な犯罪者です。快晴の下、泣きながら謝る。そして森の中に走り込む。


「おいおい、俺たちこれからどうするんだよ」俺たちは深い緑に覆われた森の中を歩いている。


殺してしまった?貴族はどうやら、有名な人間だったようだ。というよりはこの町を統治していた人間だったようだ。まじで犯罪者だ。


「どうするもこうするも無いわよ。逃げるか、正当な理由を言うしか無いわ」当たり前の答えが返ってきた。それか名前を売っていくしか,,,


これだ!各地の二つ名を倒していけばいいんだ名前が売れれば発言力が上がるし!俺の目標にも近づくしな。


「顔を売っていかないか?幸い、指名手配の顔は全然違ったし」思いついたことを、ブランに説明する。


「それは,,,いい案ね。そうしましょう」ブランは快く受け入れてくれた。


「ここからだと、倒せそうな二つ名は,,,」話していると、右斜め前から、戦闘の音が聞こえた。剣の音は二つ。獣の声が十数。一人なのか二人なのか。どちらにせよ不利なのには変わりはない。


「なぁ、ブラ,,」


「助けに行こう。でしょ?」言おうとしたことを、被されてしまった。こいつはたまに勘が鋭いんだよな。速足で、戦闘をしている場所へと向かう。着いた頃には、戦闘は終盤だった。


「見た目からして盗賊か。なかなかのやり手だな」戦闘を観察する。


「そうね、この調子なら、助けもいらなさそうだし。あとイケメンね」


あれ?今褒められたのってアイツ?俺は無いのに?おんぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


「赤ちゃんになるな!」


「でも、グサッて来るんだぜ?」涙目で訴える。


「はいはい、あんたはイケメンこれでいい?」


「やった!褒められた!うれしい!」


「あんた、どんだけ私のことが好きなのよ」冗談交じりの言葉だったが、口が反応した。


「大好きに決まってるだろ!!」気づいた時には遅かった。告白していた。


「あ、あ、あ、あんた,,,,本気,,,なの?」顔を真っ赤にしながら確認をしてくる。こっちも恥ずかしくて、顔から火が出ている。


「本当だ!一生をかけてでもいい!お前を必ず幸せにする!!」ブランの肩を掴み、顔を見て、目を見てはっきりと言う。この思いが伝わるように。


アクセル「健やかなるときも、病めるときも、互いが支えあうことを誓いますか?」


「私たちがのそのそしてるから向こうから来ちゃったじゃない!名前も出てるし!」


「誓います!!」はっきりと宣誓する。


「勝手に誓うな!」大きな声で、否定されてしまった。


「やっぱり俺とは嫌なのか?」肩を落とす。ため息も出てしまう。それほどショックだった。


「べ、べ、べつに,,,そんなわけじゃ,,,」ブランが帽子で顔を隠す。


アクセル「今のは萌えますね」


「お前も分かるか」後ろから聞こえてきた声に同調する。


「あんた達何言ってるの!?ていうか名前出てるし!」


アクセル「出てきたら駄目でしたか?」


「いいんじゃないか?そんなことよりブラン返事を聞かせてくれ」今はアクセルよりもブランのほうが大事だ。


「あ、えーと,,,お付き合いからにしましょ」もじもじしながら、答えてくれた。


「よろしくお願いします」頭を下げる。これからは、ブランと思い出を刻んでいける。


アクセル「あの、割って入るようで悪いんですが、自己紹介してもいいですか?」イケメンがおずおずと、手を挙げている。


「いいぞ。名前も出っぱなしだしな」


「メタいこと言うな!」蹴られた。


「アクセルと言います。職業は盗賊で、二刀流です」剣を腰にしまい丁寧なあいさつをしてくれた。拍手。


「盗賊って危ない人なんじゃないの」ブランが俺に隠れて質問をする。


「盗賊は何でも屋だぞ。偵察、料理、金銭の管理とか出来る奴を指すんだ」誤解が無いように、しっかりと説明をする。


「そうなのね。なら安心だわ」一応俺らのことも言っておくか。


「俺の名前はブレイク。剣士をしている。こっちがブラン。かなりの凄腕魔法使いだ」指名手配のことは言わない。捕まるかもしれないからな。


「見たところ強そうですね。同行してもいいですか?」


「いいも何も、着いてくる流れだろ?」笑いながら、肩を組む。


「それもそうですね。よろしくお願いします」


「それよりもあんた、喋りすぎじゃないの?」ブランが突っ込む。


「皆さんが自由に動いていたので、僕もそうしようかと」苦笑いをしながら、教えてくれた。


「なんかすまん。本当は作中でほとんど話さないで、終わる予定だもんな」罪悪感が凄い。


「そうですね」考えるように顎に手を当てている。


「今から、修正しましょ」ブランが提案をする。


「いいな、それ。早速独白頼むぜ」


「分かりました」引き受けてくれた。こんなキャラだっけか。


俺の名前はアクセル。目的もない旅をしていたところ、強そうな剣士と魔法使いに出会った。このまま一人で旅をするのは寂しいので、同行させてもらうことにした。


「こんな感じでどうですか?」感想を求めてきた。


「もっと自分のことを出した方がいいな」


「そうね。なんか薄いわ」駄目なところを、しっかりと伝える。


「了解です、修正しますね」


俺様の名前はアクセル。一人旅をしている。シコシコ一人旅をするのも飽きてきたころに、様子のおかしい萌え豚剣士と、おっぱい魔法使いにあった。


こいつらがどうしても付いていきたいと言ったので、小間として使ってやることにした。最終的な目的はハーレムを作ることだ。このおっぱいは加えてもいい。


「どうでしょうか?」


「お前怖いよ!!」


「人格を疑いたくなるわね」二人で正直なことを言う。こいつ、俺らと同じで設定から離れすぎている。


「もう少し抑えめで行こう。今回は、そこで終わるから」


「頑張ります」


俺の名前はアクセル。世界で名前を轟かせるために、一人で世界を旅している。そんな中、腕が立ちそうな、萌え豚剣士と萌え萌え魔法使いに会った。狩りの効率も上がりそうなので、パーティーを組むことにした。どんな旅路になるかは分からない。だが、一人旅よりも楽しいものになりそうな気がしている。

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