第11話 優しいキス

―――――――――。


「流星。」

(誰?…)


周りがバタつき始める。


―――少しずつ意識がはっきりして行って、

眩しい光を向けられる。


「わかりますか?」

「はい。」

「お名前言えますか?」

「……。」

「お名前言えますか?」

「…流星。」

「苗字はわかりますか?」

「……。」



―――――――――――――――医師たちが帰って行った。


僕はフワフワとする中、起き上がろうとした。

だが力が入らない。全身が痛い。


誰かが僕に言う。


「もう少し寝てていいよ。」と。

「誰…?」

「え?」

「誰?」


寝たまま、女の人が三人いるのは分かる。でもわかる人は一人だけ。



「ミリヤ…」

「流星、わかる?」


僕は手を伸ばしてミリヤに触れようとした。

すると、ミリヤは僕の手を確かに握ってくれた。


「あたしだよ。ミリヤだよ。ママと千紗もいるよ。」

「…誰?」

「ママと千紗だよ?」

「…。」

「わかんないの?」

「僕は手を握った。」


するとミリヤは僕の口に耳を近付けた。


「あいつら帰らせて。」

「どうして?」

「あいつらに必要なのは父親。俺じゃない。」



ミリヤは点と線がつながった。


「ちょっとまってて。」


「ママ、千紗、本当にごめん。今日は帰ってもらってもいい?」

「なんで?」

「ふたりがいいって流星が。」

「…。」

「わかった。」


千紗は母を連れて帰って行った。


「ミリヤ…ミリヤ!…」

「なに?どうしたの?」

「ごめん…」

「失敗してくれてよかった。」

「ごめん…。」




―――――――――。


(千紗…。千紗……。なんで親父なの?なんで俺じゃないの?。千紗…こんなに大好きなのに…なんで千紗は違うの?…)



―――――――――15分後。


千紗だ…。千紗の気配が近付いてくる…。


「千紗!!…」


千紗がドアを開けて入ってきて僕を抱きしめた。


「カツシじゃない。あたしが想ってるのはあんただよ。ちゃんとあんたを見てる。それにあれが好きになったのも流星だよ。カツシは…ちょっと乱暴な所があったんだよね。でも不思議とあんたは優しかった。激しい時も優しかった。だからあたしは、流星だけを見てる。だから勘違いしないで。」


千紗は寝たままの僕にキスした。


「愛してるよ…。」

「僕もだよ…。」






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