第3話 父そっくり

あの滑り台の出来事から紗里にも少しずつ話をするようにした。


でも話したあとは疲れていた。

嫌われないように、驚かせないように、

小出し小出しにしていたから。


捨てられない自衛の為ならなんでも出来た。


でも、母の仕事で疲れた顔を見ると会話なんて要らない、大人しくご飯を食べ、風呂に入り寝る。


これで全て上手くいくと考えていた。

全て母の為。


わがままも、甘えも極力抑えていた。



でもそんな日が続くとやはりまた擦り切れてくる。

だからと言って千紗にも悲しい顔はして欲しくない。





そんなある日、勝手に出ないと約束して以来初めて勝手にベランダに出た。


そして、柵の間から下を見下ろしていると、



「流星、どうすんの?落ちんの?」と後ろから声がした。

「迷ってる」と答えると、


「一旦こっち。」と言われた。


僕は仕方なく部屋側に戻ると、


「そこ、座って」と千紗に言われて大人しく小さなコンテナを裏返したものに向かい合って座る。


「もういいわ。アタシとあんたの会話は紗里には内緒にしといてあげる。だから話しな。…今もまた前と同じ理由?」


「そうだよ。」


「最近は?話してんの?紗里と。」

「話してるよ。」

「なんでここ来たの。あんた、ここ立ち入り禁止でしょ?」


千紗は少し不思議だった。僕の奥の奥と話をしてくれてる。そんな気がした。



「誰にも迷惑かけたくなかった。」

「じゃあそのあんたの間違った考え方をどうにかしな。あんたは生きてなきゃいけない。死なれるほうが迷惑。…理解出来る?」

「できる。」


僕はまた千紗の方に近寄って、座ってる千紗を抱きしめた。


「流星、あんたが居なくなったらあたし悲しくて立ち直れない。それでも死にたい?」

「もういい。千紗ちしゃが泣くのは嫌。」

「ならもうやめて。」

「わかった。」


「流星、大好きだよ。」

「僕も。千紗ちしゃが大好き。」


僕は彼女を包んで、頭の匂いを嗅ぎながら頭を撫でた。


僕はもうこの時既に、家族の中で一番千紗を好きになっていた。




―――――――――暫くして部屋の中に戻った。


この日、母が千紗に合鍵を渡した。


「ごめん。あたしは、たまに男入れたりするから」と千紗は渡していなかった。


一瞬空気がピリついたのがわかった。



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