浅川瑞樹の備忘録 4
2024年12月15日
結論から言うと――
情けないことに、俺は辿りつけなかった。心瀬家に。
パソコンに保存されていた心瀬家の住所。まさかあれが間違っていたとは……
単純にマンションの部屋番号が違っただけならまだいい。マンションの管理人に突撃すれば解決だ。
しかし番地やマンションは勿論、市区町村名まで違う可能性が大となると一気に難しくなる。
その足で役所に突撃し、昔の知り合いのつてまで使って半ば強引に調べてもみたが、出てくるまでに何故かやたら時間がかかった上、心瀬家は開も舞奈も、地域内に居住記録はなかった。過去に住んでいた記録もないらしい。
自転車まで使って散々心瀬家を探し回った挙句、何の成果も得られず事務所に帰ってきたが――
その時ふと思いつき、関口に命じて戸棚の奥から顧客ファイルを引っ張り出させた。
関口は「今時なんでこんなもの」とぼやいていたが、いざこの状況になると頼りになるのは本人直筆の書類だ。それも関口は「直筆が必要ならタブレット端末で書いてもらうでいいじゃないですか、さっさと導入しましょうよ」と言っていたが、俺はタブレットなるものをそこまで知らない。知らないものを迂闊に導入など出来ん。
それはともかく、心瀬開が顧客情報の用紙に手書きした自宅住所はすぐに見つかった。
何とか本当の住所データを探り出すことは出来た。
――そしてやはり、パソコンに登録された住所とは全く異なる住所が書かれていた。
自分の迂闊が悔やまれたし、さんざん走り回った末に一日を棒に振ってしまった。気づくのがもっと早ければ……
いくら鍛えていたとはいえ、そろそろ70が見えてきた身体にこいつはキツイ。
だがここでまた、何ともしょうもない事案が発生した。
開本人も字が下手と言っていただけあって、書かれていたあらゆる数字が0か6か8かもよく分からんお粗末さだったのである。つまり、「7丁目」が「9丁目」にも見えるし「10」は「16」にも「18」にも見える。じっくり見ていると「1」すら「7」や「9」にも見えてくる。
しかもマンション名は省略されている。書かれた当時にきちんと注意するべきだった。
何とか判明したのは、横浜市のどこかということぐらいだ。電話帳にも掲載されていないし、こいつは骨が折れる……
それにしても一体何故、パソコンのファイルに登録されていた住所と、開本人が書いた住所が全く違っていたのか?
俺か関口が間違えて別の顧客のデータを上書きしたのかと思い、念のために直近顧客の全データと書類を照らし合わせたが、特に異常は見られなかった。そう、心瀬家に関するもの以外は。
関口は「浅川さん、心瀬舞奈の案件にやたらお熱ですからねぇ。ファイル調べ過ぎて上書きしちゃったなんてこともあるんじゃないですか? 俺もありますよ、夢中になってるゲームほどセーブファイル上書きやらかしたりとか!」などと呑気に言っていたが……
お前と一緒にするなと言いたい。
その間にも何度か開に連絡を取ろうとしたが、一向に繋がらなかった。
仕方がない。あと数日したら開と会う予定もあるし、また日記の提出を約束してもいる。その時に色々聞くことにしよう。
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