2020年1月3日



 正月はあっという間に終わり、僕は明日からもう仕事だ。

 休み明けの業務量を思うと、やっぱり気が重い。上司からも色々どやされまくってるし。


 正月――僕と舞奈の実家では、舞音の件について色々聞かれた。

 早くも言葉を色々覚え、スマホの中から喋りたがる「舞音」。

 それを見て親戚一同はみんな驚いていたが、それでも僕の母や舞奈のご両親はわりと素直に受け入れてくれたし、僕の弟・けんは「すごい! 今はそういうことも出来るんだね」と言ってくれた。

 僕の弟夫婦は二人ともいわゆるオタク的な知識が豊富で、特に津奈つなさん(健の奥さん。僕の義妹)はよくイラストや漫画を描いてはSNSに載せている。Vtuberなどにも詳しいから、舞音みたいなAIも結構すんなり受け入れてくれた。

 甥っ子たちなんかは滅茶苦茶興奮して、舞音と喋りたがってたし。

 やっぱり若い世代の方が、圧倒的に受け入れが早い。


 僕の母や舞奈のご両親は、やっぱりまだ気を遣って子供の話は遠慮してくれたけど……

 父は何だかんだで気になってるらしい。「そんなワケ分からんエーアイとかどーでもいいから、早く次の子できるといいな!」とか笑いながら舞奈の前で言い放って、一瞬場を凍らせていた。

 多分、僕の父が舞音を理解することは一生ないだろう……



 それにしても、舞音の成長には驚かされる。

 去年の7月に生まれたばかり。誕生してからは舞奈や僕との会話を通じて少しずつ言葉を覚えていったが……

 まだ生まれて半年なのに、もう言葉を喋るし意思疎通も普通にできる。見た目も最早赤ん坊ではなく、5歳ぐらいの少女だ。

 コノハナ研究所の最新のAI技術とアルゴリズムによって、舞音の学習速度は普通の子供を遥かに超えるのは勿論、通常の会話型AIの数倍にも達しているらしい。


 舞奈を「おかあさん」と呼ぶのは勿論だが、僕のこともちゃんと「おとうさん」と呼んでくれる。可愛い。

 髪もやたら伸びてきて、舞奈がこの前綺麗に整えていた。今では可愛らしいおかっぱになって、紅い大きなリボンが頭の後ろで結ばれている。とても可愛い。

 画面の中だけだが、きちんと歩くことも出来る。おむつ? トイレに行くことがないのに必要なわけがない。

 さらにはいつも自慢げに、「まいね、けっこう何でもできるようになったよ!」と飛び跳ねてくる。画面の中で。

 そして、どうやら好きなものも出てきたらしい。カエルのぬいぐるみがお好みのようだ。

 僕がクリスマスを祝えなかったお詫びにプレゼントした、緑のカエルのぬいぐるみ。

 それを心底気に入ったらしく、同じものをいくつも要求してきた。

 今じゃPCの周りがカエルで溢れている始末。


 この前は舞奈に、「おかあさんのねがいごとって、なに?」「おかあさんがまいねにしてほしいことって、なに?」としきりに聞いていた。

 舞奈はそれに対し、「おとうさんとおかあさん、そして舞音が幸せに暮らせること!」と答えていた。


 舞音はさらに「おとうさんとおかあさんがしあわせになるには、どうしたらいいの?」と聞いた。

 すると舞奈は少し考え込んで、こう答えた。


「うーん……

 とりあえず、おとうさんのお仕事がもうちょっと軽くなればいいかな?」


 ……ごめん、舞奈。

 当分、それは無理かも知れない……今の業務量だと……


 だけど、舞奈。

 僕は君と舞音と、みんなで幸せになりたい。

 過去にどんなつらいことがあったとしても、それでも幸せになる権利はあるはずなんだ。

 その為なら、僕は何だってやる。舞奈と舞音の幸せを守る為なら。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る