2019年6月16日


 舞奈が再び働く意思を見せてから、そろそろ2週間。

 ちょうど自宅から近い会社「ユリノキ情報システム」に、勤務が決まった。正社員ではなく派遣としてだけど。

 歩いて行ける距離だから電車に乗る必要もないし、9時17時勤務ではなく10時から16時までの勤務。しかも週3の勤務でいい。

 朝が弱く、満員電車も大の苦手だった舞奈にとっては願ってもない職場だ。


 そして今日、コノハナ研究所でも嬉しい報告があった。

 ずっとパソコンで育てていた僕らの子供は、とても順調に育っているらしい。

 定期的に舞奈と僕は研究所で医師の面談を受け、その後血液を採取されていたけど、それも子供を「育てる」プロジェクトの一環らしい。両親のデータを可能な限り濃く、子供に反映する為の。

 それも今のところうまくいっているようで、この調子ならあと2か月で「生まれる」そうだ。


 AIで作られた僕らの子供が、「生まれる」――

 本当は喜ぶべきことなんだろうけど、僕はやっぱり実感がわかない。

 舞奈は今やもう無我夢中で「パソコン上の」子供を育てているけど……


 1年前、舞奈のお腹に宿った子供。お腹を触ってみた時の、あの感覚。

 僕がこの子の父親になるんだと思った時の、あの感覚。

 それが未だにわかない。

 だけど舞奈が喜ぶなら、僕はそれでいいと思う。


 舞奈はこっそり教えてくれた。もう名前も決めてるそうだ。

「舞音」。「まいね」と読むらしい。

 とてもいい名前だ。その名前どおり、音楽のように自由に舞ってくれればいいと思う。

 ――パソコンの中だけでも。




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