第27話「よく見る顔なもので」
ズゥゥゥウウウン……!
残った両足だけが地響きを立てて倒れる。
その後を追うように、ベチャベチャと細切れの肉片が降り注ぎ、最後のその肉と血だまりの中に、褐色のエルフがドベシャァァア──と倒れるのであった。
だが、そこはさすがAランクと言うべきか、フラフラのまま、上半身をグググと起こしロメオを見やる。
「はーはーはー……。おい」
しーん。
「おい! おまえ──デカブツ!!」
「でかくねっての……」
ぺっ。
「てててて……起こせなんて言うなよ、俺も立ってるのが精いっぱいだ」
「ったく、気の利かん奴だ」
ヨロロと血だまりの中から立ち上がるダークエルフは、どう見ても先ほどまで共闘していたAランクだろう。
燃える剣の一撃でローブがはだけなかったら、ただの小さい剣士程度にしか思っていなかったが、これは驚きだ──。
「……なんだ? エルフが珍しいか?」
「いや、全然?」
は?
「……まぁいい。ほらっ」
「いや、ほらって、剣を投げ…………げ!!」
バキーん!!
バラバラバラ!!
「む……」
「む! じゃねーよ! 大事に使えつったろ!!」
あーあーあーあーあーあー、
もー……。
ロメオの目の前でボロボロバキーン! と崩れ去ったのは、愛用(?)の銅の剣。
それはもう、原型も残さないくらいににボロボロに、そして、のこった剣紐だけポトリと返されてもねぇぇええ!
「すまん──」
「すまんじゃすまねーよ!! どうやって帰るんだよ!!」
ボスは倒しても敵はまだまだいるし──。
「うぅ……」
あ、起きてきた。
「ふんっ。ちょうどよかったな──連れてきたお仲間は無事らしいぞ」
「いいタイミング過ぎんだろ」
ったく、
「いててて……」
ズボォォ──……!
まだまだ、状況がよくわかっていないリーダーやほかの決死隊はさておき、ロメオは腹に突き刺さったままの犬神の腕を引き抜くと、その瞬間、
血にまみれた腕に、なにか紋様のものが浮かんで──……一瞬で消えた。
今のは……?
「む、奴隷紋か……?」
「は?」
……奴隷、紋?
ポツリと呟いたダークエルフの声を聞き逃さなかったロメオであったが、彼女はそれ以上語る気はないのか、バサリとローブを被りなおすと、すぐに表情を隠してしまった。
「ふん、それよりもお前。──治療しないと死ぬぞ?」
「え?……うわ!!」
ドクドクドク!!
ち、ち、血がぁぁああ!!
「アホ。刺さっていたならそのままにしておけばいいものを──」
ほらッ。
「っててて……あれ?」
──パァァア♪
「……最低限の傷だけは塞いでおいたが──気休めだ。戻ったらちゃんと縫合するなり処置しておけ」
す、すげぇ、回復魔法も使えるのか?!
でも、なんで戦闘中に使わなかったんだ?
「ふんっ、ついさっき回復したもんでな────まったく、たいしたポーションだ。驚いたぞ」
「へ?……あー。ジュリーのやつか」
どうやら、ポーションで元気モリモリになったダークエルフさん。
「そのダークエルフってのをやめろ」
「いや、何も行ってないですけど」
顔が言ってるんだよ!!
「ったく──。メイベルだ。メイベル・カストール」
「え? あ、どーも、ろ、ロメオ、です」
なんとなく間抜けなタイミングで握手しようとして手を差し出したところで、血塗れないのに気付いて慌ててゴシゴシ。
「いい。慣れ合うつもりはない──。ただ、まぁ……借りはいずれかえさせてもらおう」
「へ? 借り??」
借りなんかあるか?
むしろ、助かったくらいだ。あのまま突入していたら間違いなく死んでいただろう。
彼女が生存して戦い続けていてくれたおかげでロメオも決死隊の面々も生き残れたのだ。
「……それを言うなら私もだ。お前が来なければどうなっていたか知れん」
「まぁ、それは──うーむ」
ポリポリ
「ま、まーお互いさまってことで────あ、でも、銅の剣は弁償してくださいね!」
これ気に入ってたんだからね!!
「む! それは不可抗力──…………あぁ、わかったわかった!!」
ガシガシと頭を掻きつつ、
「冗談ですよ。まぁ気に入ってたのは本当ですけど──……また作ればいいんですしね」
ゆーて、半日もかかってないし。うん。
「作る??……こ、これはお前が作ったのか?!」
「え? ま、まぁ……一人でじゃないですけど、ウチの工房製です」
「な! 工房って……。お、お前────まさか職人なのか?! てっきり戦士かと思ったぞ」
いやいや、
どっちも正解ですがな。
「冒険者 兼 職人ってとこです。今のところ──職人の仕事の方が多いですねー」
「け、兼務だと……。く、くくくく! あははははははは!! 兼職の冒険者に助けられるとは──あはははははははは!」
何がおかしいのかケラケラ笑うメイベルさん。
最初とっつきにくいかと思ったけど、そんなこともなさそうだ。
まー。ゆーてAランク。
そうそう接点もないんだろうけどね、聞けば、たまたま立ち寄っただけで、強力を要請されて調査に向かったのが事の発端らしいし──うん。まぁ、縁があればどこかで会えるだろう。
そう思った笑い続けるメイベルを尻目に、回復しつつある仲間を助け起こし、その場をあとにするのであった。
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