第22話「フルアーマー」

「はぁ、はぁ、はぁ──間に合ったー」

「え? え? 御者さん?? ど、どうしたんです?! 村から来たんですか?」


 もちろんそうなのだろうが、我ながら間抜けな質問だ。

 ……っていうか、わざわざこんな危ないとこまでどうしてこの人が──。


「どうしてって、そりゃおめぇ、ジュリーちゃんらに頼まれたからに決まってんだろ?! まだ薄暗いうちに急いで村を出たのよ」


 そう言って肩で息をするに、

 本当に朝イチならぬ、夜明け前の薄暗い中をあの荷車で爆走してきたらしい。


 全身汗だくで、今もホカホカと湯気が出ている。

 しかし、一体そんなに急いで何事だ? ジュリーたちの頼みっていったい……?


「詳しくは知らねぇよ? ただ、急いでコイツを届けてくれって言われてよー。いつもの定期便じゃダメかって言ったら、出来るだけ早くって言われてな」


 そう言って、シュルリと荷車に積まれていたものをお披露目するように、固定していた紐と帆布を取り去り、け始めた陽光の元にさらした。

 そう。


 ……そう。



  ──バサァ!!



「こ、これは────」

「へへ、いい娘っこたちじゃねーか。苦労して運んだ介があっただろ?」


 鼻の下をこすってニヤリと笑う御者の兄さん。


 ……そう。

 彼が無理を押して運んできたもの──それは、


「最高じゃねーか」



 ガチャ!!



 そこにあったのは、ロメオの体格に合わせた様々な装備の数々であった。

 ジュリー達が、しつこいくらいに語っていた物──彼女らの得意分野を生かした装備の数々……。


「く、くくく。アイツ等らしいや」


 兜、盾、鎧──手袋に鎧下にレガース、補強材入りにブーツに、予備の銅のナイフ。

 そして、ポーションや包帯、携帯食料──それらを容れるポーチと、剣の鞘や様々な装備。



 さらに、でっかく書かれた全員のメッセージボード!!




 『『『がんばれ、ロメオ』ロメ兄』兄貴』




「あぁ、」


 あぁ……あぁ!!

 あぁ!! ありがとう皆。


 そして、

「──まかせろっ!!」


 ガシャンッ!


 装備を通して、ジュリー達の気持ちを汲んだロメオは、重々しい音も頼もしく装備を身に着けていく!


 ジュリーらしい丁寧な仕上げで作られた皮製のブーツを履き、

 手袋をはめ、鎧を着こんで、盾を構えると、片手に持った骨製の兜をガキャン!! と被る。


 くっくっく。

 どこの蛮族だよ!


 おそらく鏡を見れば、かなりアレな恰好のロメオが移っていることだろう。

 周囲にいる冒険者も衛兵たちも隊長も顔が引きつっているのは多分そう言うこと──だけど、構うものか!!


 ──どんどんっ!!


「……最高だ」


 ● ボーン&ウェットレザーアーマー(ゴム緩衝材入り)


 具体を確かめるために胸を叩けば、着込んだ鎧の頑強さに驚く。

 なにかの動物の肋骨を編み込むようにして、急いて硬化処理した革を張りつけたもの。

 しかし、この頑丈さと衝撃吸収力は、二重構造らしく──見れば、なんと湖の傍で取れた生ゴムが接着剤として流し込まれている。

 なるほど、溶かしたゴムでボンド代わりにしたのか、しかも副次効果として──ゴム由来の衝撃吸収効果付き。


 ──ずしっ。


 つぎに持ち上げたのは体を覆うほどの巨大な盾──。

「……これは、アイツ・・・だな?」


 くっくっく。


 ● ラージタートルシールド(スパイク付き)


 いかにもなつくり・・・・・・・・の盾は、おそらくベッキーのアイデア満載。

 もともと盾に適しているであろう湖原産の大亀ラージタートルの甲羅を使った逸品で、正面には一角兎の角がドリルのように無数についている。なるほど、スパイク代わりか。いいね。

 ついでに、何かメモが裏側に貼られており、なぜか彼女の似顔絵付きで、「ヤバなったら、これ押しやー」と注釈付き。

 取っ手の傍にはその『ボタン』がついているらしい。……うん。ホントのピンチまでは避けといた方が無難だろう。


 ──ガポッ!


 その次は、ちょっと身為の不気味な頭蓋骨──のような兜。

「おいおい、獲り立て・・・・かよ──!」


 ● ベアーズスカルヘルム(フルフェイス仕様)


 赤い血の跡が生々しい兜は、どうやらまんま・・・クマかなにかの頭骨をそのまま使ったもので、ちょっと匂うくらいだ。

 骨格からして地羆グランドベアのそれだろう。

 ボウガンすら跳ね返すというかのモンスターの骨なら、それだけで鉄より頑丈かもしれない。

 ご丁寧に、目の部分はそのまま利用してそこから覗ける仕様。さらには、下半分に切り取られた牙付きの顎は、革紐でつなぎ合わせているので、きつく縛ればちょうど上と下の部分でフルフェイスのようになるらしい、だけど、……この見た目はどうなんだ?!

 どこの蛮族だよ!! ヤバすぎるだろ!


 さらに、

 靴に手袋、その他の小物はジュリーとプルートの細かい手作業の一品だ。


 ● レザーレガース

 ● 革の鋲打ち安全靴

 ● 旅人のベルト(補強ポーチ付き)


 それぞれに補強材が入っており、靴の裏側には板材とびょうが打ってあるし、

 ポーションを収めるポーチは衝撃で、中の瓶や竹筒が割られないように、補強と緩衝材入り。


 そして……。


 シュルリ。

 最後に小さく『頑張って!』メッセージカードの添えられたものは一見してただの革紐だ。

 だけど、触れてはじめてそれを理解──。

 あぁ、そうか──。

「……ありがとうな」


 ● ジュリーのお手製レザーグリップ剣の滑り止め


 ロメオが小さく呟くものは、ジュリーらしい丁寧な仕上げの──精霊紋様いりの剣の滑り止め・・・・・・だった。


 今まさに、ロメオが必要としているモノ。

 じっとりと緊張で濡れた手に馴染む滑り止めは、長さ感触──どれをとっても完璧だ。

 それ・・は、ギシィ──と。剣の握りに編み込めば、ついに完璧な『銅の剣』が仕上がった。


 最後に、ガキンッ! と腰に落とし込んだ予備にナイフにも巻かれている滑り止めにも、ジュリーが施した精霊錬金の気配が微かに漂っている──おそらく何らかの加護入りだ。


 ● 予備の銅のナイフ(ジュリーのグリップ付き)

 ● ジュリーのポーション

 ● みんなのお手製包帯

 ● 工房製の薬草小包

 ● 竹の水筒


 ふっ。


「──完璧だ……!」


 あぁ、完璧だよ!


 ほぼ、全てがモンスター素材から作られている。

 それもおそらく、サルマンさんの素材穴から回収したもの──なるほど、ジュリーたちが宝の山だと言っていた意味がよくわかったぜ。


 ……いいね。

  ──実にいい。


「待たせたな」

 ガキンッ! と銅の剣を肩にして不敵に笑うロメオ──。

「……あ、ぁあ、いや、ちょうどいいタイミングだ」


 ロメオの装備一式が揃うのを待っていたかのように、隊長らが大きく頷く。

 そして時刻はちょうど作戦開始のその時であった────。




「…………みんな、ありがとう──」




 ロメオは開け始めた空に──その先の工房に向かって礼を言うのであった。

 そして、


「さぁ行こうか!!」


 皆と一緒に!!

 ジュリー、ベッキー、プルート!!!



  ────ジャリィィイイン!!



 ロメオが剣を鞘引かせて構えると同時に、ついにダンジョン入口の封鎖が解かれた!

 

 ──刹那!!


「ってぇぇえええええええええええ!!」


 バババババババッバッン!


 隊長が腕を振り下ろす!

 その瞬間、昨夜から準備した多連装のスコーピオン(※ 機械式ボウガンのお化けみたいなやつ)や、傭兵たちが持つ大量のボウガン!

 そして、衛兵隊の弓矢に、冒険者の攻撃魔法が一斉に炸裂!!


 まさか、こちらから開くと思っていなかったモンスターは不意を突かれてろくな反応もできなかったのか唖然としている。

 そして、そこに容赦なく降り注ぐ攻撃の嵐!!


『『ギエッァアアアアアアアアアア?!』』


 バタバタと折り重なるようにして倒れるモンスターを尻目に、ロメオ達は一気に突入開始!!


「GOGOGOGO──GO、AHEAD!!」

「MOVE、MOVE、MOVE!!」


 うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!


 あとはもう、脇目もふらず一気呵成に突撃あるのみ!!

 背後からビュンビュンと援護射撃が飛ぶが、それをあてにしつつも、突撃突撃突撃!!




 「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」



 ロメオ達、決死隊の戦いが今始まった!


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