第16話「装備をつくろう!」

 チュンチュン、チュン──。

  ──チュン、……チュンッ?!



  パタタタ……!



 良く晴れた日、

 朝の気配が、小鳥のさえずりとともにやって来るも──何かの異変に気付いた彼らが一斉に飛び立っていった。

 その異変とは──。



  ゴォォォオオオ!!



 ……本日、ロメオ達の工房では、珍しく朝の早いうちから溶鉱炉が稼働し、もくもくとしたタール由来の黒煙を吹き出し高温を生み出していた。

 工房唯一の溶鉱炉は旧式とはいえ、その燃料が燃え続ける限り轟音をあげて熱を蓄えていく。


「どやー?」

「もうちょいだなー」


 お、ベッキー帰ってきたか。


 溶鉱炉のある工房奥に、ひょっこり顔をのぞかせたのは、朝一番でロックマイマイを回収に向かったベッキーだった。

 少々土にまみれているところを見るに、かなり奮闘したのだろう。


「おー、ええ温度になってきとるな、臭いでわかるで──」

「ふっ、さすがだな。そっちも臭いで分かるぞ──大漁か?」


 ──おうよ!


 ニカッ! ッと、漢前おとこまえに笑ったベッキーが、揺すって持ち上げたズダ袋の中身を、ガラガラガラと音を立てて部屋にぶちまけたのは大小様々なロックマイマイの殻だった。


「おぉー! すげぇ量じゃん! どうしたんだ、これ? 中身は?」


 そう。

 ぶちまけられたロックマイマイは殻のみ・・・

 あのグロテスクな内容物はここには見当たらない。


「見ての通り、空やでぇ。中身入りはジュリ姉に任せてきた。ほんでこっちな──実はうまい事な、殻の捨て場みたいなとこ見つけてん」

「殻の捨て場??」


「せや」


 ……ベッキー曰く、なんでも川の方に向かうと、予想通りロックマイマイが大挙して押し寄せてきたそうだが、事前に準備してきた塩で撃退しつつ、回収していたそうだ。

 すると、何ということでしょう。

 脱皮の痕跡か……あるいはそれ以外の魔物による捕食のあとか、上流の方の砂地に無造作に積み上がった殻を発見したのだと言う。


「──結構な数でなー。まだまだあったでー。ほんで、急遽それを回収してきたんや、楽ちんやったでー」

「なるほどなー」


 殻の捨て場か……。


 確かに、

 殻だけを回収できるなら、実質鉱石がむき出して置かれているようなものだ。


「ほんで、プルートに見せたら、思った通り、銅とか錫含んでるらしいわ」


 ほほう!

 それはいい情報だ。


「やるじゃねーか」

「うっへっへっへー。もっと褒めてええでもー。まー、無限にあるわけちゃうしな、回収したらそれきりや」

「だろうな。だけど、十分な量だ」


 うん。

 いい色をしている。


  ズシリ……。


 ロックマイマイの表面にういた鉱石の色から、銅を含有したそれだとわかる。

 この量なら、装備をつくるには十分すぎる量の素材が取れそうだ。


「よーし! じゃ、さっそくやるか!」

「お! ええでー、ほな、ドンドン温度上げてんか」


 任せろ!


 朝イチでロックマイマイの回収にむかったわりに元気なベッキーは、不満一つみせることなく、むしろ嬉々として精練作業に加わる。

 根っからのドワーフ気質で生まれついての職人なのだ。ロメオだって、実は朝からワクワクしっぱなしだ。


 今日のところは、お休み──というわけではないが、急ぎの作業もないので装備の作成日として、作業を割り振った。


  ロメオは朝から溶鉱炉を準備し、ベッキーが素材の回収。

  そして、ジュリーはポーションの抽出をしつつ、装備に向けた素材を開発している。

  プルートはといえば、竈の最終調整ということで朝からこもりきりだ。


 そんなこんなで、ベッキーと今日も一緒。


 幸いにも装備の──とくに剣を加工する準備はほぼ整っている。

 回収したロックマイマイの殻に、

 鋳型を作るための粘土もある。


 そして何より、腕のいい職人が二人もいるのだ。

 出来ないはずがない──。


「よーし! ええで! いい色になってきたでー」


 溶鉱炉ののぞき窓から見えるロックマイマイは混ざりあい、合金の様相を呈してきた。

 もともと回収したロックマイマイは、純度の高い銅が多かったが、錫や亜鉛を含んでいる殻もあってか、それらを組み合わせるとなんと天然の「青銅ブロンズ」になることが分かった。


 「カッパー」だけでは柔らかすぎて装備には向かないが、この合金のおかげで、いわゆる銅の装備が作れそうだ。


「あぁ、いい色──いい臭いだ」


 金属の溶けるイオンの香り──。

 貝の匂いだなんてとんでもない──純粋な金属の重くたぎる臭いだ!


 そうして、ほどなくして所定の温度に達したところでドロドロに溶けたそれを粘土の鋳型に流し込む!


  ジュゥゥウ!!


 年度に含まれる僅かな水分が蒸発する音が耳に心地よく、ドロリとした青銅が冷えて固まり、見覚えのある形に仕上がっていく。


「お、おぉー」

「ええやん、ええやん!!」


 二人して目を輝かせ、粗銅状態のそれを見つめると、

 おもむろにやっとこ・・・・で掴んで水に浸して────ジュォォオオオオオオオオオオ!!


 そうして、水──いやお湯から上げたところで出てきたのは、ロメオ達の工房、初作成の武具──「銅の剣」第1号であった……。




※ ※ ※




 ヒュン、ヒュン──。


  ヒュオン……!



 溶鉱炉の前に響く風を切る音。


「……どや?」

「うん、悪くない──初めてにしては上出来だと思う」


 ロメオの手には雑に形の整えられた『銅の剣(仮)』


 砥ぎも入っておらず、握りものまま。

 成形跡もそのままなので、なんちゃって銅の剣だが、悪くない……!


「いいね。……久しぶりに剣の感覚を思い出せたよ」

「ほー。さすがはBランク! ウチにはわからんが、なんや強そうに見えたで──」


 ぅおい!

 実際、強いっての!


「二人ともー、そろそろ、お昼……わ!」

「お、ジュリーか。飯はもうちょっと後で食べる……って、どした?」


 ぽけーっとして。


「ロ、ロメオ、かっこいー……」


 は?

 かっこいい?


「……あ、あぁー、ロメ兄、上着は着といた方がええで」

「ん? あ!」


 ムッキムキの上半身をさらしていたロメオを見て、顔を赤らめるジュリー。

 あまりにも暑いし、動きにくいしで上着を脱いで製錬していたところにジュリーだ。しかも、冒険者時代よろしく、剣を構えてちょっとカッコつけたポーズ……。うぉぉ、恥ずかしぃい!


「うっひひひ。ジュリ姉が惚れ直しとんでー」

「ちょ、ち、ちがくて──もー!!」


 プンプン。


 ベッキーに挑発されて、ようやく覚醒したジュリーがブンブン手を振って否定する。

 いや、まぁ、うん……すまん、服着ます。


 ──ちなみにベッキーちゃんも上半身脱いでますけど、ちゃ~んと胸にサラシを撒いてますよ。

 …………はみ出そうになってるけどね。何がとは言わんが。


「こ、こほん!……うまくいったみたいね」

「あ、あぁ! いい銅だよ──驚いた」


 銅の剣は昔作ったことがあるのでそれほど手順に不安はなかったが、それにしてもかなりの出来栄えだ。

 一本目のそれとは思えない。


「ただまぁ、さすがに重心とかが昔使ってたのに比べると大分感覚が違うな」

「あー。そこは厚みとか鋳型を変えて試していこか」


 うむ。

 まぁ、これはこれで悪くないんだけどね。


「よし! 試作品としては上出来だと思う──この分なら、俺の装備として使えそうだ」

「ほんと! よかったぁー……ロメオったら、その内またダンジョンいくつもりしてたでしょ」


 ぎくっ。


「わ、わかってるって……。今度、行くときはちゃんとした装備でいくから」

「ホントにわかってる?! 今度失敗したらギルドのお姉さん、降格するとかいってたわよ」

「げ……」


 ま、まじかー!

 つーか、そんなこと言われてたのか……。ロメオさん聞いてねーぞ?!


 どうやら先日の大失敗の時に、ロメオのいないところで噂されていたらしい。

 まぁ、Eランクのクエストを失敗してちゃね……とほほ。


「うけけ、ロメ兄がCランク落ちか、そしたら融資の件とかやばないかー」

「「……あ!」」


 そこでようやくヤバさに気付いたロメオとジュリー。

 ぶっちゃけ笑い話どころじゃない!! なにせ今の融資は、Bランクの実力ありきで借りているのだ……それが降格にでもなったら──。



   「はっ・じ・め・ての、ギルド~♪」



 どっきーん!

 その融資のコマーシャルが頭に流れてきてゾッとするロメオなのであった。


 うー、やばいやばい。


「も、もっと改良が必要だな」

「そ、そうね……。ベッキーお願いね」


 青ざめた顔のロメオとジュリー。

 そして、

「え? おう? ま、まかしとき……?」

 自らの失言に気付かず、首をかしげるベッキーであった。


 そこに、

「あ、みんなここにいたのかー。かまど完成したよ────って、わ!」


 ここにて全員集合。


 なにやらデジャブを感じる「わ」だが、

 朝からずっと竈の仕上げ作業をしていたプルートが木づちで肩をトントンしながらやって来ると、ロメオの手にした剣に気付いて駆け寄ってきた。


「ふわぁー、兄貴かっこいいじゃん!」

「ん? おう、いいだろ? 試作品だけど、なかなかの出来だ」


 ひゅおん!


「す、すっげー……かっこいー!」

 ふふん。

 もっと言ってくれ──。


 さすがプルート。男の子らしく、武器には目がないようだ。

 いつも以上にキラキラの目でロメオを見上げるので、照れちゃうぜ──。


「……って、ちょ、ちょっと、あぶないわよ、ロメオ!!」


 あ……さーせん。

 調子にのりました──。


「まぁまぁ、姐御そのくらいで。……それより、これで試作品なの? 十分いい出来だと思うけど、研ぎとかまだでしょ? 僕やっていい?」

「お、いいのか?!」


 ──もっちろん!


 にー! と可愛らしい笑みを浮かべる弟分の頭をナデリコナデリコ。

 その手に「銅の剣(仮)」を渡してやると重さに負けそうになっているが、さっそく抱えて、スチャっと敬礼してみせると工房の作業台にかけていく。


  すたたたー


「あ、そのまえにご飯よー」

「(わかってるー)」


 プルートの背にジュリーの声。小さく帰ってきたその声は多分、わかってない。


 ……そうだな。

 ロメオとベッキーも残りの銅を使ってから、飯にすっか。


「ん。もう少ししたら俺たちもいくわ」

「わかったわ、今日は貝尽くしよー」


 ……今日、だろ!


「まーまー、貝はうまいからええやん」

「……カ・タ・ツ・ム・リ、な」


 貝と呼ぶのはいまだに抵抗のあるロメオなのであった。

 そして、




※ ※ ※




 いっただっきまーす!!


 今日も今日とて食卓に並んだ貝……もといマイマイづくし。


「やー。まぁうまいっちゃ美味いんだけど、」

 モッチャモッチャ。

「食いながら喋んなや」

「そーよ、お行事わるいわよ!」


 さーせん。


 ちなみに昼飯時。

 プルートは案の定、作業部屋にこもりっきりになって出てこない。

 作業台のほうで足漕ぎ式のグラインダーを使った激しい研ぎの音が聞こえてくるから絶賛作業中なのだろう。

 

 音だけのせいじゃない、

 ……あーなったら、他のことに耳が入らないんだプルートのやつは。


 職人気質だねぇ──。


 (※ もちろん、このあとジュリーに怒られるセット付きなのは言うまでもない)


「しっかし、なかなかこれ・・って感じのしっくりくるのができないな」

「そらぁ、今まで使ってた剣みたいにはいかんやろ? 材質からして違うんやしな」

 残った銅で、都合5本ほどの剣を仕上げたロメオ達であったが、本人的にはイマイチのできらしい。

「それでも、店売りのよりはよさそうだけど?」


 ご飯をモリモリ盛り付けながら、ジュリーが首をかしげる。

 センキュ。


「んー……。素材の良さはピカ一だからな。そこらの粗悪な数打ち・・・よりはいいだろうさ」

 この辺の武器屋と言えば、領主が販売許可を出しているウールプランツの鍛冶屋とギルドの艘くらいだが、

 先日ギルドで剣を見ていたジュリーには、ウチの工房の方が質が良く見えたのだろう。

「そーよ。あんな剣で銀貨をとるなんてぼったくりよ、ぼったくり!」

 ぷんぷん!

「おいおい、そんなのギルドでは言ってくれるなよ?」


 ギルドの職人が切れたらブチ切れそうなことを平気な顔でいうジュリーちゃん。

 ……まぁ身内びいきなこともあるだろうが、ぶっちゃけ、あの程度・・・・の品と比べられては困る。


「それにだ。……銅の剣なんかは、弟子どもの練習用なんだよ。──質の高い剣を作るなら中堅どころの職人でも普通は鋼のそれ・・をつくるからな」


 わざわざ質の劣る剣を、忙しい職人が手を出すはずがない。

 そもそも、ぼったくりと言いつつも、銅の剣ではいくら作っても銀貨1枚が相場なのだ。

 上級の職人が作ったとてその価格帯から出ることが無いのだから、自然──銅の剣は見習い程度の職人の手によるものとなる。


 ……そりゃ、ウチの工房の方が質がいいのは当たり前。


「な~るほどなー。……ん? ほなら、ウチラの試作品でも十分売れるか?」

「む……。そう、だな」


 いきなり銀貨1枚で売るとなると色々問題もありそうだし、武器の販売には一応許可がいるのだが……。

 数本程度でうるさく言われることもないだろう。まー、大々的に作り始めると色々面倒なことにはなるだろうけど──しかし、ギルドの一度持ち込んでみるのはあり、か。


 うむ……。


「──売ってみるか」

「お、ロメ兄話せるやん!」


 そりゃなー。

 当初の予定でも、武器の販売は視野に入れていたわけだし、原料の方さえ目途が付けば量産してもいいかもしれない。

 うまくすれば、一本銀貨1枚程度の儲けになる。


 ま、その辺はギルドの顔色を見てからだな──。


「──で、それはさておき皆の今日の作業はどんな感じだ?」

 皆って言うか、

 今日のところはロメオさん、ベッキーと一緒だったので、今はジュリーの話かな。

「そうねー。ポーションの抽出が上手くいったし、納品分だけで3ダース。あとは、畑の世話もしてたから、午後も残りをやって今日中に全部で5ダースくらいかしら?」


 おぉ!

 す、スゲェじゃねーか!


 先日薬草を大量に仕入れてきた介もあってか、ジュリーちゃんのポーション作成大作戦が成功したらしい。

 ロメオの掛け値なしの誉め言葉に照れ照れ。


 今のところ、1ダースで銀貨6枚の売り上げ、つまり、午後も順調にいけばジュリー一人で銀貨30枚稼いだことになる。


「ジュリ姉やるなー。バイトしてるより遥かに儲けがあるでー」

「うふふ、ほ、ほめ過ぎよー」


 きゃーん♪ と可愛らしく頬を抑えるジュリー。

 うむ、可愛い。


 っと、

「すると、今日のところは、それの納品もしないとだな」

「あ、そうね──日持ちしないし、早めの方がいいかも」


 町売りしたいところだが、

 御者さんのところに今から行っても、間に合うかどうか微妙なところだな。下手すると、街で一泊になる。

 すると、向こうの宿泊費で無我な出費がかさむ──むむむ。


「あ。そいや、プルートはの状況は?」

 研ぎはともかく、午前中はどうなんだっけ?

「え? あぁ、午前中に竈が完成して────そして今は、」


 チラリ──。


 ……ギュィィィイイイイイイイイン!!


「うん……」

 激しい研磨の音が聞こえる。

 どうやら、随分熱を入れているらしいが、ぶっちゃけ、荒砥でも十分に使える質なので、あそこまで熱を入れる必要がないんだけど──……相変わらずの凝り性っぷりを発揮しているらしい。


「あ、止まったみたいやで?」


 お、噂をすれば──。


「お待たせー」

 ヘロヘロになったプルートがようやく食堂に顔を出すと、テーブルにさっそく突っ伏してお茶をゴクゴク。

「ぷはー!」

「こら!ご飯っていったら、早く来なさい! あと、手を洗う──もー銅くずだらけじゃない」

「はーい」


 素直に手を洗い、

 ついでに顔を拭いてサッパリしたプルートが復帰。


「──で、竈の話が聞こえたけど?」

「あ、おう。進捗確認をな」

「せや、完成したんやて?」


 んー。


「一応ね。試運転を兼ねて今は丸太を放り込んでるよ。うまくすれば炭になるかな」


 そんな風にいいつつも、器用にヒョイヒョイっと放り投げた貝料理をぱくつくプルート。


「もう! お行儀悪いわよ!──でも、炭かー」

「うん。タールよりも煙は少ないし、姐御ならうまく使えるでしょ?」

「そーね。料理には炭の方がありがたいかも」


 今のところ我が家の火力はタールのそれか木材をそのまま使っているが煙が出るのが難点と言えば難点。

 燃焼効率もいいとは言えない。


「でしょ。順調に行けば、安定して炭をつくれるよ? まー、次のレンガ作成が上手く行ったらだけど」


 おぉ、ついに焼成レンガとやらに挑戦か。

 プルート曰く、レンガが完成すれば、それをつかって別の窯を作るらしい。そして、今の窯は炭焼き専用になると、


「いいね、炭は買うと高くつくからな」

「でしょ──それに、レンガの窯の方が色々できるよ。竈の口を複数作って、こんな風に──」


 書き書き書き。


 相変わらずのテーブルに雑な設計図を水で書くプルート。

 それによれば、陶器作成用の竈口のほか、小さな口をいくつか作って、そこで料理もできるらしい。


「熱が効率よく使えるからね。陶器はもちろんのこと、こっちの小さい口のとこでパイとかピザも焼けるよ! もちろん、パンもね」

「わ! ほんと?! 素敵ー!」


 ジュリーが目を輝かせている。


「パンかー」

 いいね。ジュリーの焼くパンは絶品なんだ。

 もちろん、ピザもパイも楽しみだ。


 そして、

「……ふむー。プルート。これは、こういうの付けてもええんか?」

 そこにのっかるベッキーちゃん。

 なにやら、プルートの設計図に付けたし付けたし、記入したるわ──……小屋??


「ん? 出来るよ。熱の排出孔をずらせば──ほら」

「お! ええやんええやん!」


 にひっ。


「……なんだこれ? 燻製小屋か?」

 それにしてはなんというか──熱だけが籠りそうな設計。

「お、燻製小屋もええな。……せやけど、それやったら今の竈に併設すればええやん」

「たしかに──」


 じゃあ、これは──…………あ!!


「サウナか!」

「ビンゴー。へっへっへー、ウチの風呂も毎度湯ー沸かすよりこっちの方が安上がりでええやろ!」


 なるほどー。

 確かに無駄のない設計だ。

 プルートの竈から色々なものが派生して作られる。


「いいわね! サウナなら、薬草の端材とかでアロマとかも作れるわよ!」


 おー! 薬草風呂!

 最高じゃん!


「いいね、いいね! よし! じゃあ、プルートは引き続き、新型竈のほうを頼むぜ」

「まっかせってよー……あ、そうそう。新型で思い出したけど、はい。これ──」


 ん?

 なんだ、布に包まれた長物────……っ!


「これは──!」

「ふふ、どうかな?」


 持った瞬間わかった。



  シュラン……。


 そして、

 食卓なのも忘れて、ロメオが布型抜き放ったのは──「銅の剣」そのもの。


   ヒィィィィイン……。


 窓から入ってきた陽光が、刀身をすべり剣先で弾ける──。


「……す、すげぇ」

「おぉー……やるやんけ、プルート」

「きれー」


 いつもなら食卓よ! と怒るジュリーもそれを忘れて見惚れるそれ──。

 ブラウンゴールドの輝きに、細見でありながらも繊細さとゴツさを兼ね備えたアンバランスな一品……だが美しく、ちから強い。


「へへ、どうかな? ちょっと凝り過ぎちゃったけど、多分、兄貴の体格にぴったりかなって」

「……うん」


 うん……。

 うん────すごい。


「凄いぞ……プルート。驚いた……」

 しっくりくるとはこのことだろうか?


 正直ここまでに仕上げるとは──。

 今まで使っていた鋼の剣とほぼ同じ重量とバランス感をもった剣がそこにあった。


 もちろん、姿かたちは全く違うのに、

 ギルドのにしてしまったあの鋼の剣がそこにあるかのような錯覚さえ覚える一品だ。


「気に入った?」

「おう! 最高だ!」


 なでなで!


「えへへ、そう言ってくれると苦労した介があったよ、二人の作った元の剣がかなり良かったからね──いくら研磨してもし足りないくらいだけど、」

「いやいや! 十分だ! ありがとよ!」


 これならちょっとしたクエストをこなすには十分だろう。

 チラリとジュリーをみると渋い顔をしていた。どうやらロメオの言わんとすることをわかっているのだろう。

 かわりにため息ひとつ──。


「はいはい。わかってるわよ──……ロメオは冒険者だもんね」

「あ、あぁ、悪いな──だけど、ちゃんと稼いで見せるからさ」


 ふぅ……。


「それよりも、私としては無事でいてくれる方がいいんだけどね────わかった。その代わり、」


 ビシィ!!


「ちゃんと防具もそろえること! いいわね! ダンジョンはそれから!」

「う。……そ、そうだな」


 たしかに剣だけでは心もとないのも事実。

 先日も一角兎ホーンラビットにやられかけたばかりだ。


「なははは! 任せとけ、ウチがいくらでも防具くらいこさえたるでー。ギミックモリモリでな!」

「うん! 僕も自信が出てきた! 細工物とか、研磨とか仕上げなら任せてよ!」

「はぁ……。手袋とか鎧下ギャンベソンもいるでしょ? 作ってあげるからそれまではお預けよ」


 お、おう。


「ありがとな……」


 なぜかみんなの期待と優しさが沁みるロメオ。

 まだ剣だけしかないと言うのに、なぜだかどんなクエストでもこなせそうな気がしてきたのであった。


 そして、ようやくそろった4人の食卓で、午後の予定をあーでもない、こーでもないと検討しながら和気あいあいと食事をおえて、さぁ、食後のお茶──と、ジュリーが籍を立ったその時、


 ──バンッ!!



「ロメオ!! ロメオはおるか?!」



 突如、

 異変が舞い込んできたのであった──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る