第15話「バーベキュー」
ジュー♪
ジュー♪
久しぶりに外で食事をする4人は、工房の庭で、野外テーブルを囲んでいた。
「は~い、召し上がれー♪」
「「わーい、貝料理だー」」
「お、おう……」
上機嫌でジュリーが出してきたのは、様々な『
ソテーに、つぼ焼き、素焼き、スープに、香草詰め。
どれも見た目は素晴らしく、匂いも中々食欲をそそるもの。
う、うぅ……。悔しいけどどれもおいしそう。しかし、プルートたちのように素直に喜べないロメオ。
だって、あのロックマイマイだよ、これ──。
「──ふふっ、こっちはロメオとベッキーの分ね」
「わーい! ジュリ姉すっきやでー!」
ベッキーの前に置かれたのは、
ワーサビを添えて♪
わ、わーいセンキュ──…………。
「って、マジで食うの?!」
──メギャーン!!
「わ、ビックリした! ど、どうしたの?」
「……ロメ兄、何を今さら言おうとんねん──、あ、うま!!」
コリコリやでぇえ!
「うまぁ」と幸せそうな顔で、ロックマイマイの刺身を齧るベッキー。
う、うっそ~ん。
「……ええから、四の五の言わずい食うてみぃ。……まぁ、いらんなら貰うで──」
ひょぃ~……ペシッ!!
「だ、誰が食わないって言ったよ! ったく、油断も好きもねぇ──」
……とは言ったものの、こ、これを食うのかー。
ベッキーの手をはたき落とし、皿を確保したロメオ。
指でつまんで、繁々と見つめる。
なんか、汁っぽいのがとろ~っと垂れてるし、大丈夫かこれ?
まぁ、臭いは確かに貝っぽいし、なんなら牡蛎にもみえなくもないし──。
ごくり
「た、確かにうまそうだな……」
「うまいでぇ」
と、ベッキーが、あまりに幸せそうに食べるものだから、ついつい手が出そうになるロメオ。
しかし、口に運ぼうとすると、あの時のでっかいロックマイマイを思い出すし、
なにより、色合いが食い物に見えない────……ええい、南無さん!
「……いや、そんな覚悟決めて食べなくてもいいわよ────」
って、
「うっっっっっっま!!」
なにこれ、
コッリコリ♪
「は、歯ごたえ最ッ高ぉぉぉ! ぅ、う、旨味もすげぇ……」
──ジュワァ♪
沁み出る旨味に舌鼓を撃つ。海産物の貝を食べたことのあるロメオからしてもかなりの美味さだ。
あえていうなら、磯臭さのない、サザエだろうか?
いや、それよりもコリコリで────アワビ??
「なに言うとんねん、これがマイマイやで」
「うんうん。うまいうまい! 大型だし、もっと大味かと思ったけど、いけるね、これ」
モリモリと焼きマイマイを頬ばるプルート君。
うーん、そっちはそっちでうまそうだ。
「そうね、畑で取れる小さいのより、ロックマイマイの方がおいしいわね」
マジか……。
──コリコリ♪
ジュリーの口の中ではじける歯ごたえ抜群の音。
通な彼女は、チョンとワーサビをつけて刺激とともに鼻に抜ける香りを楽しんでいる。
「んー! 最高ッ♡」
「うむ……。びっくりだけど、旨いな、これ」
ロックマイマイ尽くしとなった食卓だが、恐る恐る食べていたロメオ含めて大満足。
やはり、滅多に食えないタンパク質だから特にうまく感じるのだろうか?
ぷひー。
食った食った……。
しばらくして、たくさんあった皿がすっかり空になる。残ったのはマイマイの殻のみ。
「……あ、そういえばプルート。殻が使えるってゆーてたなー?」
「ん? あぁ、食べ終わったし──やってみようか? せっかくだし、溶鉱炉で溶かしてみようよ」
おっふ……。
プルートはなんでもないようにいうが……。それはなかなかに冒険だと思うぞ?
「そうかなー? うまく銅が取れれば、鉱山で譲ってもらうより純度も高いし、なにより安くつくよ?」
「そ、そうかもしれんが……」
うーむ。
プルート曰く、銅を含有したものは純度100ちかい、天然のインゴットなのだそうだ。
しかも、驚いたことに、銅を含んでいた殻だけでなく、
そのうちのいくつかは、何と……純粋な
つまり──……。
「あそこには、銅鉱床だけでなく、錫と亜鉛もあるのか……」
「そーなるのかなー」
プルートはわかっているのかいないのか軽い調子。
だが、その事実は大きい。
うまくいけば、鉱山を介すことなく天然の鉱石を大量に入手できるが、
ベルモント男爵領では、いまのところの主要鉱産物は銅鉱石のみ──となっている。
……つまり、ロメオ達はそれ以外の鉱石の痕跡を見つけてしまったことになるのだが、この情報をどうしたものかと思案しているのだ。
本来なら、村長を通じて領主に報告するところだが、実際のところ領主がこの情報を知らないのかどうか判別がつかない。
もし仮に知っていて、わざと放置していた場合はちょっと面倒なことになるかもなのだ。
ようは、何らかの事情──おそらく税金か開発コストの関係で秘匿している可能性が高く、
それを明け透けにしてしまった場合、領主がどんな対応を取るか全く読めないのだ。
…………最悪、口封じに消される可能性もある。
「うーむ……」
一人悩むロメオに、
「なんやロメ兄──そない、ちっさいこと気にしとるんか?」
「ちっさいて、お前な……」
ベッキーが楊枝でシーハーしながらロメオの肩を組む。
「ええがなええがな、溶かしたらわからんやんけ」
誰に聞こえるでもなし、ニヒヒと笑いながら声を落とす。
「そーそー。誰も鉱石の出どころなんか気にしないよ」
そこに悪い顔のプルートも合流。
こ、こいつ等……。
「──そーよぉ。金や銀ならともかく、銅よ?」
さらには、ジュリーまで加わって、イヒヒヒとウチの妹弟分どもが悪~い顔。
「む、むむー……!」
だが、確かに……。
そもロックマイマイの殻を溶かして金属を得るなんて方法聞いた事がない。
「……だけどなー。そも、それで装備を作れるかー?」
銅は銅だが、所詮は魔物素材。骨や皮を使うのとはわけが違う。
仮にできたとして、量が量だ。相当数を集めなければならないだろう。
それに──なんか、貝の匂いがしそうでちょっと嫌だ……。
「あはは! それはそれでいいじゃん! 食欲のわく鎧とかできそうだね」
「笑い事じゃねーよ!」
ただでさえ、ギルドで連敗して笑われてるのに、
食欲のする香りの冒険者ってなんだよ! 『食欲剣士ロメオ』──って、そんな二つ名勘弁してくれよ! 食いしん坊みたいじゃねーかよ!
「まーまー。冗談やて、冗~談! これで銅がとれたら儲けもんやんけ? それに、数が心配ならもっと
ドンッ!
そこでベッキーが胸を叩いて自信をズビシッと指さしどや顔。
「ほなら、ウチが現場行ったらええんやろ? うひひ、ウチの魅力に負けて、よーさんでてきよるでー」
それは確かに……。
ドワーフにだけ寄り付く集成を利用すれば、かなりの数が集まりそうではある。
「試しや試し。物は試しやでー。──それに、鋳造ならウチも手伝うしのー」
「そうだね。竈の方もできてきたし、僕もそろそろ手が飽くよ? いっそ、皆で手隙の時間に装備を作ろうよ」
さんせー♪
……う、うーむ。
「いいわねー。夜は食事が終わったら自由時間にしてるし、急ぎの仕事もないじゃない?」
「そーだけどなー」
やべぇ、
全員乗り気だぞ?!
「それに、ほら! 魔物駆除の一環ってことでいいじゃない。うふふ、私も
いや、どうって……。
今は『銅』の話してるんだけど──……まいったな。
どうやら皆乗り気らしい。ジュリーまでもあれやこれやとアイデアを練り始めている。
「ええやんけ! ウチとロメ兄で鍛冶でおおよそのところ作るやろ?」
「あ、それで僕が砥ぎをしたり、鞘とか作るんだね!」
「そーそー! 剣の滑り止めの部分とかとか、ちょっとした符呪なら私もできるし──」
む、
むむむ……!
「おー! おもろそうやんけ! ドワーフの鍛冶に、ホビットの細工。それにエルフの符呪かー。ええやんええやん。ウチらの得意分野生かして一品ものの武器作るんか! ええやーん!!」
「もちろん、武器だけじゃないよ! 量が取れれば、盾とかもできるんじゃない?」
「あ! 素敵! ロメオには自分の身くらい守ってほしいから、私は鎧
おいおい。
みんな目ぇキラッキラじゃねーか!!
そんなに作りたいのか! ロメオさんの装備を作りたいのか!!
「「「やりたーい♪」」」
……ええい、畜生! 可愛い妹分どもめ!
そして、ねっからの職人どもめー!!
「よーし! いいだろう!!」
ここまでくれば、ロメオも腹をくくるしかないだろう。
それに、装備品だけに限らず金属が取れれば、受けれる依頼も作れる品も、やれる幅は広くなるしな──。
「おっし! 決めた!!」
なーに、少々入手経緯がグレーなだけで、別に鉱石を盗掘してるわけじゃない!!
ならば何を遠慮する必要がある!
腹を括れば、なんだかロメオもやる気に満ちてきたぞ!
それに、いずれ装備は整える必要があったのだ。
工房の売り上げだけではどうにもならなくなったとき、ロメオのBランクの腕が必ず役にたつ。そして、その腕を活かすためには装備が欠かせない……。
「明日は作業を一端中断して、いっちょ、やってみっか!」
パンッ!
気合を入れたロメオに、全員がもろ手を挙げて、
「「「おぉー♪」」」
こうして、素材のアテがついたところで、ロメオの装備作りが本格化していくのであった──。
※ ※ ※
リー
リー
畑の隅で、羽虫が耳に心地よいとを立てて鳴いている。
──突如降ってわいた鉱石バブルに工房のみんなが沸き返った後、まずは素材集めを先行させると言うことで、明日、ロックマイマイを中心にベッキーが狩りに行くと言うことでひとまず落ち着いた。
ドワーフ狙いの奴らが集まってきたところを一望打尽にして、殻を集めるのだそうだ。
うまくすれば、明日の午後には素材のめどが尽きそう打という所で、残ったメンバーはそれぞれの得意分野のために、金属以外の素材を収集することとなった。
そうして、未知なる装備にロメオが年甲斐もなくワクワクしていると、
「あら、ロメオ?」
「ん? ジュリーか?」
大騒ぎの食事の後、
片付けを終えたロメオが風呂の順番をまってぼんやりと空を眺めていたのだが、そこには、小さな盃を持ったジュリーがそっと立っていた。
その髪はしっとり濡れており、お風呂上りを思わせる。
「ふふっ、お風呂からロメオが黄昏てるのが見えて、来ちゃった──」
てへっ。
と小さく笑うジュリーは盃の他に
「お、いいの持ってんじゃん!」
「うふふ、あの子たちがお風呂に入ってる間に、ね」
──コツンっ。
「はい、ロメオも──」
「センキュ」
自然に渡された盃を受け取りつつ、ジュリーからお酌を受ける。
ココココ……。
白く濁った液体が静かに注がれた。
──乾杯。
「…………うまいな」
ごくり。
滋味深い味が五臓六腑に染み渡る。
そういや、久しぶりの酒だ──。
「ふふっ。なんだかんだで母さんが亡くなってから緊張しっぱなしだったものね」
「……そうかもな」
きゃははは! と風呂の方で激しい水音と、ベッキーとプルートの笑い声が聞終える。
その声を聴くともなしに聞きながら、最近のことに思いをはせる。なんだか数日しかたっていないのに、随分長い時間を過ごした気分だ。
実際は、まだ何も解決していないし──今日に至っては銅貨1枚の稼ぎもない。
だけど、旨いものを食って、皆で作業を分担して、装備をつくる素材も手に入れた──……だからだろうか?
……わるくない気分だ。
「えぇ、私も──……。それに、ロメオが帰って来たから、ちょっとずつ、ちょっとずつ、何かが進んでいる気がするの」
「そうか? そうだといいけど──」
ジュリーが盃に小さく口をつけて、ホッと熱い吐息を吐く。
工房で作った自家製の酒は度数は少なめだが、甘くコク深い風味がしてこんな夜によく合う味だった。
「そうよ……。だから、私たち皆ロメオに感謝してるわよ」
はは、急に照れるな──。
だけど、
「……何言ってんだよ──それを言うならこっちこそだ」
帰る場所があって初めてロメオは冒険者としてやってこれたのだ。
辛い時も、苦しい時も、全てを投げ出したいときだって、いつだってこの工房とジュリー達の笑顔を思い出せたらばこそ、だ。
……がむしゃらにランクを上げたのだって、
この場所があって、ここに皆がいると心のどこかに感じていたからできたこと。
「だから、感謝するのは俺のほうさ──」
「ふふっ、そう言うことにしておきましょうか──」
あとは二人で静かに語らいつつ、用意された小さな小鉢のオツマミを、ワーサビとサン・ショーで楽しみながら、小さくも心地よく酔うのであった。
ぷはー。
「…………あ、この酒も売れるんじゃね?」
「ぷっ。ロメオらしいわねー。そんなにたくさんの量──作れないわよ」
どうやって作っているのかは、なぜか
「いやー、実際すごく美味いぞこれ」
「あ、ありがと──でも、ちょっと恥ずかしいわね」
ん??
なんで恥ずかしい────?
よくわからないロメオが顔にハテナマークを浮かべていると、なぜかジュリーが顔を赤くして笑っているのだが、なんでだろう?
「あー! 二人で飲んどるぅ!」
「あ! ほんとだ、ずるいずるい!」
ちっ。
ワンパクどもが来たか──。
「はいはい。二人ともまずは頭を良く拭きなさい、風邪ひくわよー。あと、ベッキーはちゃんと服を着る!」
おっさんスタイルで、首からタオルを巻いただけのベッキー……。
「ぶっ」
お前みえてるぞ、色々と!!
「ええがな、減るもんちゃうし」
「そういうもんだいじゃないの! あーもー、こっちいらっしゃい!」
……まったく騒がしいことだ。
結局、風呂から上がって来た、ベッキー&プルートによって残った酒もツマミを強奪されてしまったが、まぁ、それはそれで楽しい夕涼みの時間となった。
……それもこれも皆がいて、この工房があったればこそ──。
さぁ、今日も夜が更ける────。
そして、明日が来る。
4人の工房の新しい日が始まるのだ!
※ ※ ※
【現在の工房の状況】
【資金】(本日の稼ぎ含む)
金貨400枚(冒険者ギルドからの融資:ちなみに融資額は金貨1000枚)
と
金貨11枚、銀貨5枚、銅貨7枚
【収支報告】
なし
【入手アイテム】
各種薬草
・アーロエ + 一籠
・ユーキノシタ + 一籠
・ヨーモギ + 一籠
(それぞれの株も多数)
・日干しレンガ + 一山
・ロックマイマイの殻 未選別(おそらく、銅、錫、亜鉛)+5個
※ ※ ※
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