第14話「ロックマイマイ」

「ろっくまいまい~??」


 ベッキーも知らない生物のようだ。

 見た目は巨大な暗褐色のカタツムリ──気持ち悪さを除けばまるで無害にも見えるが、


「あぁ、こう見えてれっきとした魔物だよ!」

「げげっ! ま、魔物やて?!」

「あぁ、だから気をつけろよ」

「お、おう!」


 ただし人間に害を及ぼすことは滅多にない・・・・・奴だ。

 もっとも、直接的な害を及ぼすことはないが、一部では害獣として忌み嫌われてもいる。……見た目もグロイしね。


「げー。こんなんいる聞いてへんで?? そも、ジュリ姉そんなんゆーとらんかったし?!」

 つ、

 つーか……。

「んげげげ! ほ、ほな、さっき踏んだのコイツの糞かいな?!」


 エ、エンガチョー!


「……あぁ、多分な。それより気をつけろッ。コイツは、金属やら何やらが好物でな──それを扱うドワーフに惹かれる習性があるらしい。……おそらく、ベッキーの匂いに惹かれているんっだろう」

「は? ド、ドワーフ好きぃ?!」


 なるほど……。ジュリーが知らないわけだ。


 コイツは金属を溶かして捕食する生物で、普段は種類を問わず鉱物なら何でも食べる雑食性だが、ときにありとあらゆる金属を食べる変種が現れることでも有名だ。

 そのためか、とくにドワーフの棲家である鉱山に発生することが多いと聞く。

 そして、一度出現すれば、その地域の金属を凄まじい勢いで食い荒らしていくので、ドワーフたちは忌み嫌っているという。


 ……もっとも、長年の習性のせいか、ロックマイマイのほうでは、逆にドワーフを好む種族も出てきて、なにやらややこしいことになっているとかなんとか。

 『ドワーフあるところに金属あり』と覚えてしまったのだろう。いやはや……。


「──ちょ、ちょぉおお! そ、そんなはた迷惑な!! ウチは美味ないでぇ!」

 ひぇぇえ!

「おいおい、落ち着け──人間は喰わないから安心しろ。……多分、お前が直前に触ってた鉱石とか金属とか、竈の土の匂いとかにつられてきたんだろう」


 はぁぁ?!

 い、一個も落ち着けるか~い!!


「つーか、なんや? ウ、ウチ臭いか?」

「いや、別に体臭とかじゃなくてだな……」


 危険はないと判断してか、ロメオは棒を捨てると、

 ちょっと赤い顔のベッキーをナデナデしつつ、一応スメルチェック匂い確認──「うーん……」とはいってもロメオにもわからない。


 ……くんくん。

 

「って、嗅ぐな──アッホォ!」

 ばしこーん!

「いっだぁ! な、なにすんだよ!」


「あっほぉぉおお! こ、こここ、こっちのセリフや! ド変態がぁあ! ウチかて年頃の乙女やでぇ!」


 えー。くさいかって聞いたのベッキーじゃん。

 つーか、乙女って。……ぷっ。


「もっかい殴んでぇ」

「うっす……」

 すんまへん。


 ま、まぁ……。

 うん、実は、臭いというより、むしろ……ちょっと女の子特有のいい匂い・・・・がしたのはこの際黙っておく。


 ……変態っぽいし──。


「──っぽい、やのうて変態やわ! こぉの大変な変態めー。ジュリ姉にチクるでぇ」

「それはやめい!! つーか、誰が変態か!!」


 つーか口に出してねぇし! そもそも、ジュリー関係ないしッ!

 あーもー!


「とにかく、安心しろ。気持ち悪い以外はとくに危険はないはずだ。……まぁ、もっとも食わないと言いつつも、人間の骨・・・・を食うこともあるから、注意するにこしたことはないけどな」


 おそらく、骨を金属の一種と捉えているのだろう。

 そのせいか、時には墓場に出没することもあるので、あまり気味のいい生物でもない。


「ほ、ほんまかいかいな? さっきから、ウチ狙っとらんかコイツ?──な、なんかこっち来よるでぇ」


  うごうご、うごうご、


 にじり寄るロックマイマイを遠巻きに、珍しく女の子座りでオドオドしているベッキー。

 さっきまでの頼もしさはどこへやら──。


「ドワーフ好きだっつったろ? でも、大丈夫。こいつに攻撃力はないよ──」


 ……しかし、おかしいな?

 鉱山や墓場ならともかく、こんなにもな~んもないとこにもいるなんて、ありえるか?


「骨や鉱石狙いにしては、ちょっと妙だな??」

「あぁ~。……そらぁ、あれちゃうか? 近くの山師の爺さんのとこから来よったんちゃうか?」


「……山師?」


 ──あぁ!


「そうか。ここって、村の鉱山の近くか!!」

「せや。村の離れで少人数で露天掘りしとる鉱山があるんやが、あそこの山師はドワーフが多いでなー。そっから来たんとちゃうか?」


 どーりでな……。


 そして、

 害はないと言われた途端、恐る恐る、にじり寄るとロックマイマイの殻をツンツンつつくベッキー。

 さすが田舎育ち。慣れてしまえばこんな化け物にも物怖じしない。


 しかし、なるほどなー。


 どうやら、こいつらは鉱山を追われてきた個体群らしい。

 山師に追い払われたか、同族の縄張り争いに負けたか──いずれにせよ、このあたりに鉱石の気配を感じて集まって来たのだろう。


「……とすると、ここら一体に鉱脈があるってことか?」

「多分そうちゃうかな? まぁ、勝手に鉱石掘りしたら重罪やで、ウチらには手ぇ出せんけどなー」


 そりゃそうだ。

 鉱山は領主の所有物だ。鉱石の一個二個なら目こぼしされたとしても、本格的に山を掘ったら、重罪なのは子供でも知っていること。


「じゃー、村長経由で領主に報告するか?」

「いや~止めといたほうがええと思うでー」


 ベッキーが言うには、領主の渋チン・・・には拍車がかかっているらしく、金一封どころか、口封じのために何をされるかわかったものじゃないという。

 とくに、鉱山などの新たな資金源が発見された場合、その土地の領主は王国に支払う税が増える可能性があるんだとか──。


「うぅ、そのことを隠ぺいするために暗殺もありうるってことか……」

「ま、そーいうことや」


 ……こっわ!!


 とんでもねぇ領主だな。

 まぁ、税金がエグイのは王様のせいでもあるけど。


「んじゃ、ここはスルーの一択だな」

「せやな──第一ここのこと ばらしたジュリ姉に殺されんでぇ」


 ……うん。ありうるな。


 帰って早々、黒い顔で「うふふ……秘密の場所って言ったわよねー?」と詰め寄るジュリーを想像してブルリと震えるロメオ。


「ま、まぁ、ロックマイマイのことにしても、なんにしても無害なやつだ。金属製品があれば溶かされるかもしれんが。俺たちには関係ないしな」

 うん、関係ない。

 決してジュリーが怖いというわけでは──。

「うけけ、顔がこわばっとんで──ロメ兄」

「うるせぇ」


 ジュリーは怒らせるとマジで怖いんだよ!


「しかし、なんやな……。無害だとしても、こっちに来よるんは気持ちよーはないな」


 うごうご、うごうご、


「──そういうときはこれ・・だ」


 ふふん。

 取り出したりますは白い粉ー。


?? なんやこれ……。ヤバい薬──って、しょっぱ!」

「うぉい!!」


 初手でいきなり舐めるなよ!

 ロメオが取り出した小袋の中身に指を突っ込んで顔をしかめるベッキー。


 つーか、びっくりしたわ!! 毒だったらどうすんだよ!


「な、なんやこれ──し、塩か?!」

「そうだよ……なんだと思ったんだよ。ったく、ほれ、見てろ」


 果たして小袋の中身は岩塩のくだいたもの。

 ジュリーがお昼にと、お弁当を持たせてくれたものなかにあったのだ。

 多分ん。力仕事を見越して持たせてくれたのだろう──なにせ汗かくからね。


「えぇー、せやけど塩なんてどないすんねん?」

「そりゃー、その辺のカタツムリと同じで──こうして、だな」


 ベッキーにすり寄るロックマイマイめがけて──パッパッ! と一振り。

 すると……。



  『ウジャァァァアア!』



「うわっ、きッもー!!」

 思ったよりも過剰に悲鳴を上げて小さくなっていくロックマイマイ。

「はは! まぁ、こういうことだ──ナメクジなんかと同じで、塩が苦手みたいだぜ──ほらよ」


 ベッキーの手に乗せてやると気を良くしたのか、近づくロックマイマイめがけて塩をかけまくる。


「お。おぉー! な、なんやなんや、大したことないやん!」

「さっきまでビクビクしてたじゃねぇかよ」


 まったく調子のいいやつだ。


「うっさいなー。ええやんけ!!」

 はっはー!

「こらええわ! どやぁ、ウチの本気みしたるでぇ!」


 食らえッ!

 白き旋風──!!


  ──ヴジャァァアア……!!

     ミギャァッァアアア……!


「おぉ、効いとる効いとるぅ!」

 ……あはは。

「効果は抜群だな」


 せやろーせやろー!


「わっはっは! 見たか、ウチの本気を」


 あっさりと逃げていくロックマイマイを見ちゃったベッキーたら、これまた調子に乗って追いかけまわす始末。


「おーい、塩は昼飯用なんだぞ──ほどほどになー」

「わかっとるわかっとる!……へへ、これでウチも冒険者かぁ?」


 大きい個体も小さい個体もお構いなし。

 数匹を見事討伐して自慢げに鼻の下をこするベッキー。


「──はいはい……言ってろ。こんなのはモンスターの中でも雑魚中の雑魚だ」


 どのみち今回は駆除のクエストは受けてない。

 実際、ロックマイマイの討伐依頼というのも、ないでもないのだが……。都市部の墓地で被害がでることもあるのだ。

 もちろん、クエスト難易度はぶっちぎりのEだけどね。つまり、依頼もなく倒したところで銅貨1枚にもなりはしない。


「ちぇ~。なんや、ロメ兄の手伝いできるかと思ってたのになー」

「……はは、可愛いこというじゃないか」


 ポンポン


 「──ぶっちゃけ、十分助かってるよ……」その言葉を、そっと飲み込むロメオ。


「ん? なんか言うたかー?」

「……いや、ほどほどになーっていったんだよ」


「わかっとるわかっとる!」


  ──うおりゃぁぁああああ♪


 そうして、さらに追撃じゃー! と叫んで、どこか楽し気にロックマイマイを追いかけまわす妹分。

 それをほっこり眺めながら、ロメオは今日の作業に取り掛かるのであった。


「さっきもいったけど、ほどほどになー」


 あと、それ昼飯用の塩なー。


「あーはははー♪ ロックマイマイ死すべしッ!!」



 ……う~ん。

 ありゃ、聞いてないわ──。



※ ※ ※


 カーカー!


 カラスが鳴くころ──。

 思わぬモンスターの出現から数時間が経過していた。


 その頃には、ようやく落ち着いたベッキーを含めて、再び薬草採取に取り掛かっていたロメオであったが、

「よーし、こんなもんかな?」


 ボキボキッ。

 うー、中腰で作業してたから、腰が……。


「おーいてて。……そっちはどうだ?」

「なんやなんやゃぁ、歳かぁ、ロメ兄ぃ」


 うっせー。

 こちとらまだピチピチだっつの!!


「自分でピチピチ言うなや──それより、見て見ぃ! いやー大量大量♪ ウチの魅力につられて出てきた奴を根こそぎやでぇ!」

「お前まだやってたのかよ……」


 ゴロンゴロンと、転がるロックマイマイの残骸。

 大型種はともかく、小型種はベッキーの『白き旋風塩ぶっかけ』によって溶けてピクリとも動かない。


「ちゃ~んと薬草も採取しとるって」

「ほんとかよ……」


 だが、言うだけあって作業中もロックマイマイを見つけては駆除していたらしいベッキー。


「ほーれ、見てみぃ」


  ドーン!!


「おぉ……すげぇ量だな」


 なるほど、言うだけあってベッキーの籠には、はみ出るほどに薬草の株がギッシリ詰まっている。

 根っこごと持っていく必要からも、見るからに重そうだ。


 いつの間に……。

 やるなー……。


「だけど、こんなに持って帰れるか?」

「んあ? これくらい余裕やでよゆー!」


 むんッ! と相変わらずのパゥワーを見せつけるかの如く、力こぶ。

 さすがドワーフだぜ、すげぇ。


「はは、頼もしいなベッキー! よし、俺のほうもだいぶ集まったし、今日はこのくらいにしとくか──」

「せやなー。そろそろ帰らんと日ぃ暮れてまうわ」


 ロックマイマイが生息するくらいでとくに危険な生き物はいないだろうが、さすがに夜道を変えるのはよろしくない。

 ロメオだけなら、まだしも、こっちはベッキーとはいえ一応女の子連れだ。


「──なんやぁ、気にしとくれとるんかー」


 うりうり


「当たり前だろ──お前も年頃の女の子なんだからな」


 ぐりぐり

 脇をつつくベッキーにお返しとばかりに頭を撫でまわす。


「う、うひひっ、ロメ兄は時々ド直球やで照れるわー」


 マジでちょっと赤い顔のベッキーをみて、ロメオも頬をポリポリ。

 まぁ、なんだかんだで可愛い妹分だしな。


「ほれ、帰るぞ」

「ういうい」


 陽がだいぶ傾くなか、二人は連れ立って工房に帰るのであった──。




※ ※ ※



 りーりー……。

 道端の草むらで羽虫が心地よいなき声を立てるころ。


 工房にて、薬草の手入れをしていたジュリーに本日の成果を報告するロメオ。


「「ただいまー」」

「あら、おかえり──お風呂沸いてるわよ……って、ロメオったら凄い量じゃない!」

「おうよ、大量だぜ」


 ウィンクを返すロメオの籠には、すぐに使う用の薬草がギッシリ。

 これだけあれば、当面のジュリーのポーションや湿布作成が捗りそうだ。


「へへ、ウチもちゃ~んと株ごともってきたでぇ」

「あらあら! ベッキーもありがとね」


 そう言うや否や、

 ドスンドスンと、株わけした『アーロエ』に『ユーキノシタ』、そして『ヨーモギ』をそれぞれジュリーの前に並べていく。


「わぁ! さすがベッキーね。とくに株ごとなのは、助かるわ!」

「へへ、それだけやないでぇ」


 え? それだけ・・・・じゃなかったっけ?

 身に覚えのないロメオは首をかしげる。


「あ、あら、これってもしかして──」

「ふっふ~ん、こっちのほうがジュリ姉、喜ぶんちゃうかぁ?」


 株を取り置いたベッキーの籠の中身にはまだまだ余裕があるらしく、その中から出てきたのは──!



  じゃーん!



「・・・・・・こ、これって! 『ワーサビ』に『サン・ショー』じゃない! よく見つけたわね」

「えへへ。苦労したでー」

 嬉しそうに顔を染めるベッキー。って、おいおい。

「す、すげーじゃねーか。それって超高級野草だろ──!」


 い、いつの間に……。


 ロメオも気付いていなかったが、

 群生地でベッキーがやたらと走り回っていたので、てっきりロックマイマイを追いかけ回していたものだとばかり。


「あっほぉ、仕事はちゃんとするでぇ」

「や、やるなーベッキー。全部、旨いやつじゃん!」


 ひーふーみー……。

 数は少ないけど、それなりの量だ。


 しかも、ワーサビに、サン・ショーの野生種は、香辛料や香りづけとして実に優秀で、

 市販されているものを買うと目の玉が飛び出るほど高いことでも有名。


 ……もっとも、日持ちしないので、販路がない状態での換金は難しい山菜でもあるんだけど。


「へっへっへー。ジュリ姉──こう見えてこっちも好きでなー」


 クイッと一杯やる仕草のベッキー。

 どうやら、ジュリーの晩酌用の薬味もGETしてきたということらしい。


 ……なるほど。

 まさか、あの群生地で『ワーサビ』まで採取できるとは──どーりでジュリーが内緒にしてるわけだ。


「ちょ! そ、そんなには飲んでないからね! それに別に内緒ってわけじゃ──ごにょごにょ」


 なぜか赤い顔で否定するジュリーだが、


「はは、いいじゃないか。せっかくだし、コイツで今日あたり一杯やるか?」

「むぅ…………。で、でも──お、お酒飲む女の子、ってやっぱあれ・・じゃない?」


 あれ・・


「いや、あれが何か知らないけど──別にいいんじゃないか? 冒険者なら大抵飲んでるぞ?」

 飲まない冒険者の方が珍しいくらいだ。そこに男性女性の違いはない。

 むしろ、後衛職で魔法使いが多い女性は、とくに嗜好品しこいひんにうるさいくらいだし、なんなら魔力と休息には密接な関係があるので、お酒はとても重視されているといえばわかるだろうか?


「そ、そうなの──。えへへ、じゃ、じゃー今晩は一緒に、のむ?」

「お、おう」


 なんで顔赤くしていうねん。

 照れるがな──。


「うひひ、こらぁ、採ってきたかいあったちゅうもんやで──……あ、ウチも飲んでもええかな?」

「「子供はダメ!」」


 んが!?


「こ、子供って──そない歳変わらんがな」

「ばーか、まだガキがいっちょ前に酒を飲むには早い」

「そーよ。それにベッキーが飲みだしたらウチは明日にも破産しちゃうわよ」


 ドワーフの酒豪っぷりは有名だ。


「ちぇー。せっかく、こいつも・・・・採ってきたのに──」

「ん? ワーサビのことか?」


 たしかに、ワーサビは美味いけど、

 まだまだベッキーにわかる味とは──。


「いや、それやのうて、コイツ・・・コイツ・・・──。ほれ、刺身・・にしたら美味いんちゃうかなー思うて……」


 どんっ。



  ──ウジャァァァアアアアアア!!



「ど、どぅわぁっぁああ! お、おお、おま、おまぁぁ!」

「きゃ、きゃー!! な、なになになに?! ま、魔物ぉ!?」


 一同大パニック。それというのも……。


 な、なんということでしょう。

 ベッキーちゃんたら、あの群生地から、ロックマイマイを数匹、生きたまま持ち帰ってござる!


 ……ってうぉぉおおおい!!


「ば、ばばっば、ばかー! な、な~んか荷物多そうだなーって思ったら、捕獲しとったんかーい!」

 前部で5匹も……!

 って、多いなおぉい!!

「いやー。そら、マイマイいうたら絶対旨いやん?」


 ええ?

 うまいか?! カタツムリやぞ?!


 ──悪びれないベッキーはむしろ胸を張る。


「あ、あぁー、なるほどー。魔物じゃなくて、おっきなカタツムリなのねー」


 そして、

 それにあっさり乗っかるジュリーは、食べられると聞いてホッと胸をなでおろす。


 ……って、いやいや!

 な、納得するの早いな、ジュリーちゃんやぃ! 食材を見る目になっとるやん!


「つーか、それはれっきとした魔物だって言ったろ!」

「え?! やっぱり魔物なの?! きゃー!」


 いや、キャー! って、情緒どうなってんのよ、ジュリーちゃんてば。

 まぁ、魔物言うてもほぼ無害だし、実質デカイだけのカタツムリといっても過言ではない──────いや、まて、刺身いうたか?


「せや? ウチらの庭の野菜につきよるカタツムリは、時々、焼いたり煮たりして食うとるでー」


 お、おいおい、マジかよ。カタツムリやぞ?!

 いや、まぁ……食えるって聞くけど──。



  ウジャァァァア!!

   ウジャァァァアア!



「……いや、だけど──これ・・はないだろ……」

 しかも刺身──。

 絶対、寄生虫いるからね?


 (※ よい子は真似しないように!)


「ワーサビで食えば行けるんちゃうんか?」

「いけねーよ!」

 

 ワーサビをどんだけ信頼してんだよ!!


「そうよ。刺身はだめよ。ちゃんと調理しなきゃ」

「そうそう!──……って、調理するとかの問題じゃねーから!」


 つーか。見てみぃ!

 威嚇しとったロックマイマイ、大人しくなっとるがな! 食われる気配察して、小さくなって殻に逃げようとしとるがな──……。 


「えー? そうかなー? 肝を出して、ぬめりをとってー、塩振って焼いてー、あとは香草で殻ごと焼いてもおいしいわよ」


 おーい!

 具体的だな?!

 もう食う前提かよ──!! 手順知めっちゃ的確やんけー!


 ……お、おれは嫌だぞ?!

 確かに、ダンジョン産の肉を持ち帰ろうとしてたけど──カタツムリはいやぁッぁああ!


 HELP、へるぷみー。


 だ、誰か……誰か味方はいないのかぁぁぁあ!


「あ、おかえりー、早かったね」


 おぉ、そこに居わすは救世主のプルート君!

 君なら、こんなの食べないよね────。


「わぉ、でっかいカタツムリ!! 今日はこれがメイン?!」


 ……おっふ。


「プルート、お前もか」

「え? なにが──?…………っていうか、これ」


  ──ひょい。


 いや、何がじゃなくて!


 食うとかおかしいから……って、

 どうしたプルート君? 怪訝な顔して──。


 何の気なしに、小型のロックマイマイを持ち上げたプルート君が、矯めつ眇めつ検分すると言った。


「──え? いやさ、どうしたって言うか、これ、素材用? 食材として持って帰って来たんじゃないの?」

「は?」


 素材──食材??


「YOUは、何を言っとるのかね?」

「ん? いや、ロックマイマイは食べてもおいしいけど、」



 こんこんっ。








「……これ────殻にの成分含んでるよね?」






※ ※ ※

 一口メモ


 ●《ロケーション4》ジュリー秘密の群生地


 ビタースプリング村から離れた無人の草原地帯。

 周囲に人影はなく、所々に湧き水が涌く半湿地。


 小川や沼地が点在するため、居住には向かないが、大規模開拓すれば農地が作れそうで、過去には何度か入植の話もあったと言う。

 しかし、水運の発達した湖との距離や、街道を整備するには向かない土地のため、とん挫している。

 

 そのせいもあってか、動植物の宝庫となっており、地元の猟師ほか、近隣の住民が山菜採りなどに入ることがある。


 アーロエ、ユーキノシタ、ヨーモギなどの標準的な薬草から、

 ワーサビ、サン・ショーなどのスパイスも採れるため、採取地や群生地はその一家秘伝の採取地として守られているともっぱらの噂。



 なぜか、ロックマイマイが多数生息しているが──その理由は……。


※ ※ ※

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