第13話「遠出をしよう!」

 チュンチュン、

  チュン────。


 今日も晴れたイイ天気!

 全員仲良く、食事を終えてお茶を飲んで一息ついたあとおもむろにロメオが話し出した。


「──さ~て、今日はどうするかな」


 ずずー。


 この空気にも慣れてきたのか、

 ロメオ以外の3人もゆっくり茶をすすりながら、それぞれの得意分野からできることを考えていく。


「んー。今日は新規の依頼なかったし、素材集めとかかいな?」

「そうだな。俺もそれでいいと思う」


 依頼がいつ入るかわからないし、今はどんな依頼にも対応できるように、まずは環境を整えていくのがいいだろう。

 集める素材もたくさんある。


 木材、藁束、粘土にタール、その他諸々。

 サルマンさんのところに顔を出してもいいだろう。


「んー。あー、そうだ! 僕はそろそろ、日干しレンガも乾いた事だし『竈』を作りにかかるよ」

 お、そういやそんなこと言ってたな。

「あー、ほならウチも手伝うでー」


 おぉ!


 どうやら昨日今日で、材料を揃えたベッキーとプルートはついに『竈』造りを開始するらしい。

 なんでも、完成すれば色々できると言うので反対する理由はない。


「よーし! じゃあ二人にはそれを任せる」

「あいよ~」「まかしときー」


 ついでに、空き時間を見つけてロメオの装備にも着手するという。


「おう、期待しとくぜ」

「「了解~」」


 妹分たちの返事にほっこりしつつ、


「じゃー。私は、昨日冒険者ギルドに当面の依頼を受けたからそっちに掛かるわね」

「お、いつの間に? もう依頼を受けてたのかー? 了解了解」


 さすがジュリー。昨日の今日で、さっそく依頼を貰っていたらしい。

 聞けば、どうやら冒険者ギルドではポーションが慢性的に不足気味──とにかく量を優先して山のように必要とのこと。


「……というわけで、ほぼ無制限でポーションの依頼を受けたわよ? あればあるだけ買うって──ただ・・、」


 うん??


「ただ? ただ・・、どうしたんだ?」

「いえ……。いくらでも買ってもらえるのはうれしいんだけど、じつはそろそろ畑の薬草も心もとないのよねー」


 ちらっ。


 ジュリーが窓越しに見ていたのは、工房の裏の畑にある薬草園だ。

 もっとも、名前負けしているが、園というほどの規模はない。


「あー……そういや、大量生産をする前提の畑じゃないしな」

 うーむ。

「そうなのよ。もともと自家消費程度のそれ・・だったし──このあたりで、遠出して採取しないとまずいかも」


 ま、それ以前に畑も差し押さえ中だしね……。


「ふむ。……そうすると、次からは薬草採取も視野に入れないとな。場所教えてくれたら俺が行くぞ?」

「ええ……ロメオがぁ? うーん、群生地はある程度予想がつくんだけど──ちょっと危険なのよねぇ」


 じー。


「ちょ! お、おいおい! なんだよその目ぇ。……さすがにこの辺の魔物にやられるロメオさんじゃないぞ」

「まーまー、今日のところはウチと一緒にいこやんけ」


 ぺしぺしと気安いベッキー。


 ……えー。

 ベッキーに護衛されちゃうのー。


「そうね。ベッキーと一緒なら安心かも」

 おぉぉい!

「──どういう意味だよ、ったく! じゃあ、プルートとの作業をササっと終わらせて一緒いくか?」

「オッケェイ♪」


 ……ったく、調子いいやつ。


 しゃーねーなー。

 心配性のジュリーの意見も取り入れつつなんだかんだで方針決定。


  ロメオ&ベッキーは薬草採取の遠征

  ジュリーはポーション作成などの屋内作業

  プルートは日干しレンガっと。


  あ、ロメオとベッキーは、力仕事もあるのを忘れずに──。


 んなとこかな?


「じゃー今日も張り切っていこ―!」

「「「おー!」」」



 そうして、今日も今日とて各々作業を開始するのだった。



※ ※ ※



  よいしょ!

   うんしょ!!


 ──結局、朝いちばんの午前中は工房での力仕事をベッキーとペアで行うことにして、薬草採取は午前の後段から実施。

 なんでも竈に使う日干しレンガを運んでくみ上げるだけでも結構な重労働なのだという。


 ぷひー。


「いやー助かるよ。僕、細かい作業は得意だけど、こういうのはどうしてもねー」

「お前は、もやしっ子やもんなー」


 うひひひ!


 ベッキーの下品な挑発に、ムゥ! と頬を膨らませるプルート。


「まぁまぁ、それぞれの得意分野ってやつさ。竈だって、俺とベッキーは大雑把に組めるけど、細かいところや、内部に入っての作業はプルートにしかできんかなら」

「へへ、でしょ」


 今度はエヘヘと鼻の下をこすって得意そうな顔のプルート。

 う~ん……チョロいぞ、マイ弟分よ。


「ほな、ウチらでできる作業はこんなもんか?」

「う~ん、そうだね……。あとは、粘土とかこの辺に運んどいてくれると助かるかな?」


 あいよー。


 二つ返事で、粘土や残りの日干しレンガを干場や倉庫から運ぶベッキー。

 それを内部のプルートに運ぶ手伝いはロメオの仕事だ。


「ほい」

「センキュー」


 すでに建造中の『竈』の中で作業中のプルートが、ひょいひょいと器用に中に運び敷き詰めていく。


「これでレンガができるんのか」

「まぁ、お試し・・・だね──。そんなにすぐに成功するとは思えないけど、うまくいけば普通の日干しレンガより頑丈なレンガになるよ?」


 ほほー。


 プルート曰くそれをさらにくみ上げてもっと高性能の竈を作るらしい。

 あえていうなら、今の日干しレンガと粘土の『竈』をⅠ型とすれば、次に作るのはプルート謹製『竈Ⅱ型』といったところか。


「うっし、こんなもんか?」「ほな、あとは任せたでー」

 パンパンッ。

 手を払いながら内部を覗くと真剣な表情のプルート。

「うん、ありがとー」


 竈のなかから返事をするプルートに、見えないと知りつつ手を振り、

 仕上げを任せると、さっそく遠征の準備に取り掛かるロメオとベッキー。


「じゃ、俺たちは次だな」

「はいなー」


 ……もっとも、遠征といっても、ジュリーの秘密の薬草群生地に行くだけだ。

 武器らしい武器もなく、主に持っていくのは大きな籠と小さなショベルとナイフだけ。


「弁当は?」

「(テーブルにあるわよー)」


 お、ありがたい。

 地獄耳のジュリーちゃんが、工房の錬金台のほうから叫ぶ声。


「(地獄耳じゃないわよー)」


 いや、聞こえ取るやん。

 まぁええけど。


「──それじゃ、夕方には戻るから」「じゃー行ってくるなー」


 いってらっしゃーい♪


 てブンブン手を振って工房をあとにするロメオとベッキー。

 その姿を窓からほっこりと見つめるジュリーに背を向けて、二人は一路群生地に向けてゆくのであった。


 そして、

 数時間ほど歩いたところでジュリーの秘密の群生地に到着するロメオ達。


 地図で言うと確かにこのあたり──。

 村の郊外の山地で、深い森と水系があるだけの名もなき地域だ。



   チョロチョロチョロ──



 しかし、入植者がいないこともあってか、綺麗な小川のせせらぎが耳に心地よく、天敵のいない上空には猛禽類がげっ歯類を探してカン高い声で鳴いていた。


  ピ~~~~、

   ヒョロロロロロロ……♪


「ん~!」

「草のいーい臭いやでぇ!」


 のび~!


 いわゆる、田舎の牧歌的雰囲気とでもいうのだろうか?

 きっとピクニックにでも来れば楽しい場所だろう。思わず背を伸ばして胸いっぱいに空気を吸い込むロメオ。


「話には聞いてたけど、綺麗なとこやん!」

「ほんとだな!」


 ニカッ! と笑うベッキーに同感。

 まさに長閑のどかそのものの空間だ。


 人気ひとけはないが、踏み跡程度の小径こみちも所々あるところを見るに、山菜採りか何かでたまにではあるが人通りはあるのだろう。

 おそらく、ジュリーも山菜採りのついでにこの群生地をみつけたのかしれない。


「──で、なんやったっけ?」

 ガサガサとポケットを漁り、貰ったメモを確認。

「ん~っと……。低級ポーション用の材料だから、『アーロエ』とか、『ユーキノシタ』『ヨーモギ』あたりだな」


 うん、場所もあってるし──採取してほしいリクエストもばっちりだな。


「おー、アーロエとかか! そんならよー食うし知っとるでぇ」

「だから、ベッキーを行かせたんだろうな」


 つーか、食うんかーい。


 食欲に振られつつも、ちゃんと知識はあるらしいベッキー。

 ……もちろんロメオも冒険者の駆け出し時代はよく薬草採取をしたものだ。当然、そこそこに知識はある。


 それでも、ベッキーを同行させたのは、モンスター云々もあるだろうが、

 この辺の植生かつジュリーが必要としているものは普段使い・・・・しているベッキーの方が詳しいと踏んだのだろう。


「……で。その辺の薬草を採取するのと──あとは、できれば何株かは根っこごと欲しいってさ」

 多分、移植・・用だな──。

「株ごとやな? おう、まかしとき──」


  フンッ!!


   ──ブチブチブチッ!


「どやー!」

「お。おぉー……」


 ずぼぉ!と、土を滴らせた巨大な株がベッキーの手に!


「す、すげぇな、ベッキー……」


 根っこが深く分岐している『アーロエ』の株を早速ゲットだぜ!


「がはは! せやろ~?? まかしとき、まかしとき!──……っと、なんやこれ?」


 ぐにゅっ、と奇妙な色の泥のようなものを踏んづけるベッキー。

 それは小川の方に点々と続いており────……「はっ!」



  あ、あれはまさか……!



「──危ないベッキー! 川から離れろッ!」

「へ? なんや……って、どわぁぁ!」


 バシャァァ!!


 ロメオがはっと気づいた時には、時遅し!

 川から突如出現した、奇妙な生物が水中から躍りるッ。


「ひぇっぇえ、何やコイツ! 何やコイツぅぅう!!」

 そいつはヌラ~リと水中から上ると、ベッキーめがけてユラユラと接近する。


  こ、コイツは──!


「大丈夫だ! 俺の後ろに隠れろ!」

 サッと、足元から枯れ枝を拾うと構えるロメオ。

「ひ~ん……。な、なんやねん? コ、コイツごっつうキモイデぇ!」


 ──ぬるぬるやでぇ!


 ……おいおい、

「なんてこった、こんなとこにもいるのか──」


 ジリジリと距離を取りつつベッキーを庇うロメオ。


 そう。ベッキーの足元ににじり寄ろうとする体長1mほどの軟体動物の正体──。

 こいつは……。




「──ロックマイマイだ……」

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