第10話「営業作戦開始ッ!」
チュンチュン。
チュン……!
「ふわぁぁああ、よく寝た──」
「あら、おはよう」
──シャ!!
ジュリーがカーテンをひくと、柔らかな陽光が瞼を刺激し、一気に頭が覚醒する。
「…………つーか、ここ俺の部屋なんだけどなー」
「何言ってんのー、起こさなきゃいつまでたっても寝てるでしょ」
むー。
ぼりぼり
まだまだ冒険者稼業の癖が抜けないのか、朝は好きなだけ寝ていたロメオ。
駆け出しのころはともかく、ある程度稼げるようになってからは、好きな時間に寝て、好きな時間に起きていたものだ。
まぁ、それも工房に戻って来たなら皆に生活スタイルを合わせるのが普通だな。
「ほら、ぼーっとしてないで。お布団干せないでしょ」
「へいへい、起きますよっと」
ジュリーに無理矢理起こされて渋々ベッドから起き上がるロメオ。
パンツ一丁でまずは便所──。
「もー。下着のままうろつかないでよ──年頃の女の子もいるのに」
「……年頃、ベッキーか?」
腹を掻きながら薄着のまま起きあがると、ジュリーが呆れた顔。
…………いやいや、ありゃ~年頃のウチに入るのかよ。
「私もいるでしょ! 私も!!──はい、顔洗ったら、ご飯よ!」
「ぶっ」
ペチャ!
濡れタオルを顔に投げられ、プリプリ怒ったジュリーを見送るロメオ。
「…………年頃??」
※ ※
「「「それじゃ、いっただっきまーす!!」」」
ジュー!
おいしそうな焼き音を立てて出てきたのは、小さな卵を半分にしたハーフの目玉焼きと焼き野菜。
キャベツを炒めて、サッと塩とハーブで香りをつけたいかにも健康そうなメニューだ。
メインはその二種に、
さらに芋の茎のサラダに、芋のスープがつく──そして、ライ麦たっぷり黒パンだ。
「もぐもぐ」
「もりもり」
「あ。プルート、ラードとってや」
「んー……あれ? ラード切らしてる?」
ん?
あ、悪い。
「あー! ロメ兄! 塗り過ぎやで!」
「すまんすまん、代わりに卵やるよ」
「むー。……あ。これはこれでうまいな」
はいはい。
ベッキーのパンの上に卵を半分だけ使った目玉焼きをのっけてやり、機嫌を取るロメオ。
……それにしても、
「うまいは、うまいけど──……」
「「「ん?」」」
いや、うん……。
この子らには割と普通なんだろうけど────……あー。
「………………お肉、ないの?」
「お肉?……卵があるわよ?」
「ラードもあるなー」
「昨日食べたじゃん??」
いや、うん……。
………………い、いやいやいや!!
卵とか、ラードとかのレベルじゃなくてだね?
つーか、その卵も普通の半分やん! しかも、鶏卵じゃなくて、ウズラかなにかの小鳥の卵じゃん!!
まー。
君らがいいならいいんだけどね、あのね、そのね──……。
「俺、肉くいてぇなー……」
じとっ。
「ちょっと、ロメオ、何を贅沢言ってるのよ」
「え?」
「肉って、そない
「え、ええ?」
「だから、昨日食べたじゃん?──次は、早くて来月じゃない?」
「ええええーーー??」
お、お前ら正気か?
肉だぞ、肉!!
「肉!! にーくー! タンパク質!! こう、ジュースィーな、お肉をだね──」
──え?
もしかして知らないの?
「知っとるがな! 失敬なー」
いやいや、知らん知らん。
YOUは全然わかってないよ!! ラードは肉のウチに入らないよー!!
「卵でいいじゃない?」
よくないよくない! よくないよー!
よしんば、よかったとしても、せめて
「兄貴ぃ、それは贅沢だよ? 僕は、十分これでいいけどなー」
もりもりもり
そう言って満足そうにキャベツを頬ばるプルート君────って、おおおい!
悲しいよ!! それは悲しいよ! だからYOUはチッさいんだよー……って、ホビットだからこのくらいか?
「兄貴が無駄にデカいんだよ?」
いやいやいや! それにしたって君は成長期なんだよ──。
それになんたって、お肉は人間の資本だし──。
「ん、んんー……。ロメオの言いたいことはわかるんだけど、」
はぁ、とアンニュイなため息のジュリーちゃん。
……まぁ、この子は肉食エルフだしね。
「ウチにそんな贅沢する余裕はないのって、ロメオが一番知ってるでしょ?……つーか、だれが肉食か!」
「んー。贅沢かー」
「おい、流すなー!」
まぁ、肉は高いっちゃ高いんだけどね。
お店で買うと特に、ね。
……だけど、冒険者稼業で
肉がいかに必要で活力源となるかはよく知っている──そして、肉を手に入れる手段は何もお店で買うだけとは限らない。
「…………はぁ、わが工房において、重大な懸念事項が発覚したよ」
「ちょっとそんな大げさな……」
「まぁ、ウチも肉食えるなら食いたいけどなー」
「う。そ、それはまぁゴニョゴニョ──」
うむうむ。
正直なジュリーちゃん、ええぞええぞ。
「──だけど、お肉たってどうするのさ? 僕は食費にお金を使うのは反対だなー」
チッチッチ!
甘いよプルートくん。
「ふふんっ、昨日言っただろ? 隣町で営業するってな」
「え? あーうん。……それが? まさか、隣町で買うのー? それなら、サルマンさんのとこで──」
ふふん!
違う違う! 買う以外にもあるんだよ、お肉をGETする方法が!!
「えー。うっそだー」
「せやせや。……まさか、その辺の犬捕まえて食うんちゃうやろな?」
犬て、お前……。
頼むから食うてくれるなよ。虫ならともかくな。
「ま、いいからいいから。ロメオ兄さんにまかしときんしゃい! ほんと、あるんだよ、肉と営業──その二つを一挙解決するナイスでハッピーな方法がね!!」
「「「な、なんだってー!!」」」
ロメオの意志を組んで、ばっちり驚いた顔をしてくれる妹分を頼もしく見やりながら、ロメオは今日の活動方針を伝えていくのあった。
※ ※ ※
「じゃー、プルートは『竈』の作成準備よろしくな──」
「オッケ~ィ! 『日干しレンガ』は、二、三日かかるから、気長に待っててね」
おう。
「ベッキーは、酒場に瓶とコップの納品が終わったら、プルートの手伝い頼むぜ」
「わかっとるわかっとる──粘土がよーさんいるんやろ?」
おう。
「あと、時間があったら他の素材を集めといてくれ──木材も生ゴム、タールもいくらあっても困らないしね」
「あいあーい」
ベッキーのパワーなら、かなり効率よく収集できるだろう。
ただ彼女一人に頼り切るわけにもいかないし、いずれ全員が使える荷運び用の馬車とか作る必要がありそうだな。
「あ、プルートにベッキーは、錬金台もお願いね。……ポーションの方は、煮出しまで終わってるから、あとは抽出だけよ。湿布はいつもどおりにね」
「はいはい、姐御は心配性だな──任せてよ」
「ウチらにお任かせや!」
ドンッ! と自信満々に胸を叩くベッキー。ぶるるんとオパイが揺れる──。お~……。
「いたッ! な、なんだよ?」
「なんでもないわよ──じゃ、そろそろ行くわね」
なぜか知らんけど、ジュリーに小突かれるロメオ。……なんでぇ?
……まぁそれはそれとして──今日は留守番のベッキーとプルートに昨日の残りの作業を任せることにして、ロメオはジュリーと二人で遠征準備だ。
そして、留守番組は、残る──ポーションの抽出と、湿布の納品。
ちなみに品物としてははほぼ完成──あとは、プルートが昨日言っていた『竈』の作成だが、現状すぐにできるというものでもないらしい。まぁ、陶器関連は急ぎの仕事でもないし、大丈夫かな。
「つーか、直接に納品行きたい言うたんはコイツやしな──うけけ、雑貨屋の美人に逢いたいんやろー」
「んな! ぼ、僕はそんな──」
プルートを
なんでも、村の雑貨屋の美人女将にプルートはぞっこんなんだとか……この、熟女好きめ。
「あ、兄貴は兄貴で、うちの女子つれていくじゃないか!」
「いや、俺飛び火させんなよ……」
つーか、女子?
「ん、なに?」
「なんや?」
…………え? これ?
「「
はい、さーせん。
「まー。なんでもいいけど、留守番たのむぜ」
「もー! わかってるよ、さっさと行ってきなってば!」
はいはい。
……そんなこんなでプルートに無理矢理押し出されるようにして、ササっと、仕事を割り振ると、村の乗合馬車に向かうロメオとジュリー。
そう、今日はロメオ、ジュリーで隣町に向かうのだった。
※ ※ ※
ガラガラガラ……。
ゴットン、ガッタン──。
「くぁぁあ……」
ねむ……。
村から街への乗合馬車の振動に眠気を催すロメオ──。
「うっぷ。よ、よく眠くなるわねー」
窓の外を青い顔で眺めていたジュリーがしみじみと零す。
持ち込んだクッションを分厚くしいており、かなりバランスが悪そうだが、器用に窓枠に肘をついている。
「まー。やることないしなー」
あまり広いとも言えない馬車。積み荷はお酒と小麦の束らしい。あとは加工された魚が少々。
こんな狭い中でやることなんて、
……昔の冒険者時代なら武器の手入れや道具の確認をしていたが、あいにくと愛用の装備は現在質屋預かり中──。
「揺れとか気にならないの?」
「これくらい慣れてるさ」
冒険者時代はもっとひどい道で、二、三日揺られたこともあるし、
馬車よりもひどい荷車に便乗することおもザラだった。
「へ、へー。……冒険者も大変なのね」
「まぁな──にしても、確かにジュリーの言う通り、振動がすごいな。……これ、年々道が悪くなってるんじゃないか?」
「そう? 昔からじゃない?」
少し前まで街の酒場でバイトをしていたというジュリーは首をかしげるが──……。
(いやいやいや……。これはねぇぞ)
久しぶりに帰って来たロメオだからわかる事情というもの。いくら田舎道でも、数年前は、ここまで道の振動は激しくなかったと思う──。
……つまりはそういうことだ。
「インフラ整備にかける金が渋られてるんだろうな」
「あー。領主さま、ケチで有名だしね──」
この辺一帯は、ベルモント男爵の領地だ。
しかし、男爵領と侮ることなかれ。
王都に比較的近く、平和なことだけが売りの小さな領地で特産物はとくにないが、平和は何よりも代えがたい。
……ま、とはいえ、儲かる要素はないわな。
「アイゼンが馬鹿にするわけだ」
たしかに、この辺の金回りを見ていれば、借金返済なんて夢のまた夢だろう。
……ならばなおのこと、なんでこんな田舎に越してきたお袋が、あんな借金を負ってかつ──それを今までどうにかしていたのが疑問だ。
(ま、その辺もおいおい調べていかないとな──)
「ねぇ。そういえば、今更だけど──お肉と依頼の両立ってどうやるの?」
「ん? あぁー。……ふふふ、それはついてからのお楽しみさ──あっと驚かせてやるぜ」
「え、えぇー??」
自信満々のロメオをみて、
……なんか、怪しーわねーみたいな目でジト見で見つめるジュリーさん。
ま、まぁそこはご愛嬌ってことで、ね。そんなに見つめるなよ、照れるやん。
「ほんっとロメオってばお調子者なんだから、──ま、そんなロメオでも……帰って来てくれてよかったわ」
「なんだよ、ロメオでもって──……だいたい、よかったもなにも、みんな家族だろ?」
そう。
家族だ。
「ふふ、そーいうとこ、変わらなくて安心したわ」
「そうかー? 結構変わったと思うけどな──」
村を出てから早数年。
あの時は駆け出しの坊主だったけど、今や、そこそこ名の売れたBランク冒険者──。
「変わってないわよ──ロメオはいつだって、ロメオよ」
「あ……?? どういう意味だ?」
「いいのいいの、気にしないで──ふわ~、ちょっと眠るわねー」
寝るんかーい!
まぁいいけど。
「じゃ、俺も寝るかなー」
おやすみー。
ガタゴト揺れる道。
乗り心地は決して良くはないけど、まぁ、ジュリーと一緒なら、何か知らんけど落ち着くわー。
グガー
くーくー
そうして、村から街までの数時間、二人はお互い頭を寄せてすやすやと眠るのだった──。
……そして、無事に数時間──。
ガッタン、ギギー……!
「おーい、お二人さん、ついたぞー」
んが?
「わっ、すっごい寝てた」
「俺も──ジュル……うわ、すっげぇ涎」
互いに頭を肩をくっつけて眠っていた二人。
「あーもう、ほら、袖で吹かない」
ふきふき、
「お、おう、センキュ」
ジュリーの顔が思った以上に近くてちょっと照れるロメオ。
(あ、なんかいい匂い──薬草かな?)
「──わはは、よく寝てたな、二人とも。んじゃ、途中で悪いけど、俺っちは
「あ、どもですー」
途中とは言っても、街の門は目と鼻の先。
そして、乗合馬車のそれは──先日直した
まぁ、料金はきっちり取られたけど──。
チャリ~ン♪
二人分で、合計銅貨8枚なりー。
(※ 実はひとり銅貨5枚なのだ。オマケしてくれるのはありがたいねー)
「そんじゃ行きますか」
「はーい」
元気いっぱい二人で連れ立って歩くと、城門で一応審査。
ジュリーはほぼ顔パス。
あまり顔なじみでないロメオは、冒険者認識票──……あれ、俺ジュリーより知名度ない? こーみえてBランク──。
「なにやってるの?」
「い、いやー別に」
その、ね。
なんていうか、ね。
王都だと、もう少しこう──反応が、ね。
……うん。まぁいいか。
ちょっと寂しいものを感じながらも、ロメオはジュリーと連れ立って街を歩くのだった。
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