第9話「かまどを作って、瓶をつくって、みんなでご飯!」

「「ただいまー」」

「あら、お帰りなさい、二人とも。一緒に作業してたのね……って、くさっ!」


 帰って来るなり、顔をしかめたジュリーに迎えられる二人。

 どうやら、タール塗れで汗だくだったらしい。


「ほうか?」

「そんな臭いかな?」


 くんくん!


「臭いわよッ! もー! 二人とも、食事の前にお風呂はいってきなさーい!」


 ドッポーン!!

 有無を言わさず風呂に放り込まれる二人。


 しかたないので、念入りに洗ってから食卓に着くのだった。


「ふぃー、エラい目にあった」

「ウチもやでー」


 まだ洗い足りないとでもいうのか、ジュリーのジト目。


「もうー、今度から汚れた時は一回外で泥を落としてからは言ってよね」

 ぷんぷん。

「悪い悪い。……おっ、今日は山菜鍋か」

「へへ、今日も・・・──だよ、兄貴が帰ってくるまでは大抵このメニューだったし」


 えー。マジか……。

 うまそうだけど、毎日はきついな。


「実際、飽きてくるでぇ──たまには肉も食いたくないもんやで」


 肉か。

 昨日喰った肉は美味かったなー。


「はいはい、そんなこと言って人一倍食べるくせに──」


 ごとっ。


 ベッキー用の器に山盛りのお鍋。


「おっほー、うっまそうやでぇ」

 ……お前飽きた言うてたやろが。

 まぁいいか。

「はい、それじゃ。全員揃ったし、いただきましょーか」


 はーい!


「「「「いっただきま~す♪」」」」


 ガツガツ

  もりもり


「うん、うまい──おかわり」

「おかわり」「おかわりー」


 ──くうとるやんけ!

 全員ほぼ同じタイミングで器を突き出すと、お上品に食べていたジュリーがほほ笑みながらそれぞれの器によそって寄越す。


「はいはい、いっぱいあるから慌てないでね」


 ……おいおい、みんなして飽きたんじゃねーのかよ。

 ったく、育ち盛りの食いしんぼうどもめ──……。

「ロメ兄が一番に食べ終わってたけどなー」「だよねー」


 うっせぇ!

 うまいもんはうまいんだよ!


 もー。美味しいから、ジュリーちゃん100点! お嫁に欲しい!


「お嫁だなんて、きゃー! 大盛りにしちゃう」


 もーりもり!


「……うん、冗談やで?」


 ちなみに器の量は、


 ベッキー、大。

 ロメオ、中。

 プルート、小。


 この辺も種族属性出てるねー。

 ちなみにジュリー分の盛り付けは、特だ……すみまん。


「はい、召し上がれー」

「「「ありがとー♪」」」


 モリモリ、


 ……うまい。二杯目もうまいわー。


「あ。そういや、今日の仕事は──?」

 ぷっくり頬を膨らませたまま、みんなの現況確認。

「僕は終わったよー」


 お、プルート早いな。

 確か、釣竿と荒縄──そして、鳥小屋だったな。


「縄のほうは、農家さんが藁をくれたし、案外すぐだったね。あと、使わない藁は外の干し草置き場にあるから好きなだけもってけッてさ──」


 ほうほう!

 それはナイス情報。


「あー、あと、鳥小屋は網目をこまかくして、虫が入りにくくしたらエラく喜ばれたね──釣竿の修理も、兄貴が見つけてたゴム使ったらうまくいって、大喜びだったよ」


 おぉ!

 全部好感触。いいねいいね。


「鳥小屋はウチも手伝ったでー」

「姉貴は、基礎だけだろ? 雑なんだよなー」

「うるさいわ、もやしっ子が!」


 ま、まぁ、基礎も大事な作業だ。

 それを踏まえるとこの仕事の早さは、手伝ったベッキーの手柄もあるだろう。


「私の方は材料採取に時間がかかったから、明日中に完成させるね」

「オッケィ、手伝いが必要だったら言ってくれ」


 たしかジュリーは、ポーションと、湿布をたくさんだったな。

 この辺は、仕事は無限にありそうだけど、材料集めがネックになりそうだ。


「ウチは、ロメ兄とやった舟は終わったし、鳥小屋もやな。あとは『瓶』やなー。溶鉱炉もええ感じに暖まって来たし、飯食うたら、やるわ」

「おう、手伝うぜ」

「おおきにー」


 これでほぼすべての作業が終わるな。


「……あ。そう言えば、代替品ってわけじゃないけど──ほら、『陶器』の素材を見つけたよ」

「なに? 素材?」


 「うん、ほらこれ」──そう言ってプルートが取り出したのは褐色の土……。


「そーそー。釣竿届けに行った帰りに見つけてさ、あとで場所を共有しておくね」

「おう、助かる!」


 場所は毒の沼地の近く。

「え? 助かる──とかいっておいてなんだけど、これでなにすんだ?」


 ……つーか、土??


「ん? 兄貴は知らない?」

「えっと、陶器と関係あるのか?」

「そうだよー。陶器ってこれで作るんだからね」

「へー」

「いや、へー……って、これ粘土だよ? しかもかなり上質の」


「ぶっ!」


 え?

 粘土ってこれなん?!


「あ、知らなかった? まぁ、店売りの奴は大分漉し・・てるからねー」

「へ、へー……!」


 なんとなくは知っていたけど、こんな近くにあったとは──。

 プルート曰く、この地方でとれる粘土は陶器に最適なんだとか。ほかにも作れるものは結構多いらしい。


 レンガに陶器だけでなく、成形すれば金属の鋳型にもなるんだとか。


「ほうほう、それはいいな!」

「いや。ロメ兄、鍛冶で使わなかったの?」


 う……。


 それを言われると弱い。

 ぶっちゃけ、土の見分けがあまりつかなかったので、普段は木枠か、店売りの粘土か砂を使っていたのだ。


「ま、まぁ、あれだ。今のところ、陶器が必要な依頼はないが、いずれその手の依頼も増えてくるかもしれないし、近くに寄ったら採取しておこうか」

「うん、たのむねー」


 将来への投資と、腕試しにはいいだろう。

 素材自体はタダだし。


「ま、粘土から素人が作るの結構難しいからね。まずは僕がやってみるよ」

「お? できるのか?」

「まーねー。湖の反対に住んでる、グレイじぃに手ほどきしてもらったから多少はできるよ?」


 ほほーう。


 グレイ翁といえば、サルマン氏に続く変人だ。なんでも「イナカクラシ」を実践中の爺さんで、自給自足を目指して奮闘中らしい。

 その過程で、食器を自作していると聞いた。


「──ただ、そうなるとウチの工房の設備投資が必要だね」

「あー。やっぱそうなるか」


 溶鉱炉じゃ陶器は作れないだろうしな。


 うーむ。

 設備投資か……。

 一端保留と決めたものの……う~む。


「将来のためにも、思い切ってお金を使うか……」

「え? いやいや!! お金って──。そんな大したもんじゃないよ? そう──もっとこう、原始的な窯で……そうだね、粘土とかレンガで作る、素焼き窯・・・・があればいいんだよ」


 ほう?

 素焼き窯とな?


「あれか? 炭とか作る時のやつ──」

「そーそー、それそれ。……えっと、こんな感じの、お椀をひっくり返した窯だよ」


 プルートがコップの水で、テーブルに指で描く素焼き窯とやらの概略図。

 なるほど、お椀をひっくり返した形状だな。確かに見たことあるな。


 材料はレンガと粘土でいいのか?

 ふむ……。


「ん? レンガを作る窯をつくるのに、レンガがいるのか?」


 え?

 それって本末転倒じゃ──。


「あはは。レンガはレンガだけど、『日干しレンガ』だよ」

 日干しレンガ。

 ……なるほど、言葉の感じからして乾かしただけのレンガっぽいな。そして、それを組んで竈を作る──と。


 ふむふむ。


「──というわけで、特に急ぎの依頼が無ければ、僕は明日は『日干しレンガ』と竈作成に取り掛かるね! いい窯を作るにも段階を踏まなきゃダメだし早いにこしたことはないかな。完成したら、次にこのレンガで焼成レンガを作るんだよ」


 へ、へー?

 よくわからんけど、有用そうだな──。


「もちろんさ! まー、始めてやるから上手くいくかわからないけど、完成したら色々応用できると思うよ」

「なるほど……。じゃあ、任せていいか?」

「まっかせてよ!──……姉貴も手伝ってもらうよ?」

 どんっ! 胸を叩いて自信満々のプルート。そして、さりげなくベッキーに支援を要請。

 つまりはパワー関係の雑用が必要と言うことだな。

「……えー。なんかこき使われそうやなー」

「大丈夫大丈夫、ちょっと力仕事してもらうだけ──」

「それが嫌やねんー」


 ぶー。


「まぁまぁ、素焼きってことは、パイとかピザも焼けるんだろ? 完成したら、それでパーティしようぜ」

「できると思うよ。火力調整が難しいかもだけど」「ぶー。まーそれなら……ええか?」


 口をとがらせるベッキーを宥めつつ、明日の作業分担も概ね決まって来たな。

 それにしても、竈ができれば。レンガと陶器が作れるのか。


 ……もしかして、これは結構いいんじゃないか?

 タールやゴムの保存には壺があると便利だし、そいつを一から買うと、恐ろしく高くつくが自作できるならありがたい。


「よし!──じゃあ、明日はそれを任せたぞ」

「オッケェ!」「へいへい」


 これでプルートとベッキーの明日の作業割が決まった──とすると、


「あ、そうだ。俺のほうの報告だけど、井戸と舟も完成したぜ。だから、それと合わせて、みんなの依頼達成度は7割ってとこだな──」


 残るは、湿布とポーション。

 そして、瓶のかわりの作成か。


「えぇ、悪くないペースね」

「うん」


 ジュリーの言う通りだ。

 しかも、たったの二日で結構な稼ぎ──とりあえず順調だな。


「ほな、瓶もチャッチャとやってまうかー」

「お、そうだな。手伝うぞ」


 よっこらせっと掛け声一つ腰を上げるベッキーは工房の作業室へ。

 そこは既に、うだるような暑さとなっていた。


  ムワァ……!


「──っかー。これやこれ!」

 あっちー。

「おうおう、わかるぜ」


 むわっと来る熱気に、溶けた鉄の匂い!

 そして、赤々と燃える未来に作品の源泉──くぅぅ、鍛冶好きにはたまらん!


 ──ニッ。


 ドワーフの習性としてベッキーは鍛冶の熱が好き。

 そして、ロメオは鍛冶が趣味。


 意外と似たところのある二人は、ガッ! と拳をぶつけて気合いをいれるとさっそく溶かしたガラスを加工していく。


  ジュー

   ジュー


「……どらどら──こんなもんで、ええんちゃうか?」

「うん。不純物もないな」


 溶鉱炉の確認窓から覗くそれは、ドロドロに熱したガラスが真っ赤な液体となっている。

 そこには、不純物を示す他色は見当たらない。


 ──いいガラスだ。


「ほな、流すでぇ」

「おう、どんとこい!」


 それを巨大なペンチのお化けのような鋳型に流し込む。

 ズシリとした重みが、ガラスの生命を感じさせる。だが、それに浸る暇はない。


「ほないくでぇ」



  トロ~~~~リ。



 流し込まれたガラスが冷めないうちが勝負だ。

 ドロドロのうちに中空の鉄棒に挿して、ガラスが冷え固まる前に息を吹き込み、形をつくるのだ。


 ふー! ふー!


「あちち!」

「よ、よし! もう少しだ」


 イイ感じのところで型から外して、ベッキーに任せると、彼女が顔を赤くして息を吹き込んでいく。

 すると、鉄棒の先の溶けたガラスが膨らんでいく。


「ふー、ふー! あちちち、ふー」

「いいぞ、いいぞ! できてきた……」


 大きく膨らみ、重量に従いトロンと垂れていくが、

 ある程度冷えてきたところ、少しずつ姿を見せるガラス容器。


「ふー! ふー! ど、どや?」


 うん。イイ感じ……。


  ──キンッ♪


 そっと鋳型から外しても、落ちないくらいには冷えている。

 これは、なかなかいい感じじゃないか?


 ほどよく膨らんだガラスの素材が張り付かないように注意して、熱があるうちにもう少し成形しつつ、整えていく。

 あとは、所定の位置で口を切れば────パチンッ!


 仕上げに鉄ばさみで切り取ると、出来栄えを矯めつ眇めつ……。


「うん……」

「ど、どや、ロメ兄。できたか?!」

 汗をぬぐいつつ、ベッキーがのぞき込む。

 その先にはキラリと炉を反射する美しい容器が完成していた。

「いいね……。悪くない、尖ったところを磨けば、代替品としては結構な出来なんじゃないか?」


 実際、ほとんど初めての作業だというのに難なく成功させたロメオ達。

 この辺は天性の才能のようなものだろうな、根本は鍛冶と同じところをあるしね。


「よーし! 完成だ~!」

「イエ~イやでぇ」




 二人でハイタッチしつつ、続けてコップの作成に入るのであった。




※ ※ ※



「わっ、二人とも凄い汗! だ、大丈夫?!」

 食器の後片付けをしていたジュリーが、汗だくで顔を出したロメオ達にびっくり。



  ジャー……!


 タンクトップを脱いで絞るベッキー。

 まるで滝のように滴る汗にちょっとびっくり──……って、おいおい、脱ぐな脱ぐな。


「ベッキー、はしたないわよ。はい、タオル」


「ぷひー。ジュリー、水ちょうだい」

「ウチもー」


 頭を拭きふき、お水を受け取る二人。


 いやー。

 さすがにぶっ続けの作業は疲れるな。喉も乾くし──。


 ぐびぐび。



   ……っかぁぁああ!



 二人して一気に飲み干すと、同じタイミングで唸る。


「水、うんん~まっ!」

「鍛冶のあとの一杯はたまらんの~」


 おっさんか。

 まぁ、同感だけど──。


「いやー。それにしても、ガラス作成難しいな」

「要練習やなー」


 ベッキーも同意見。

 もっとも、材料がなくなったので、新しく作るならどこかで確保しないとな。


「ふふ、お疲れ様──。いい出来だと思うわよ?」


  キィン♪


 指ではじくと澄んだ音。

 完成品はまだほんのりと温かいが、形としてはなかなか綺麗。元の形にするのは無理だったが(そも、元の形がよくわからないし)代用品としてはなかなかだろう。

 途中でベッキーが遊び心を加えて鉱石屑をませて色を付けたのはご愛嬌だ。


 溶鉱炉のそこかしこには昔使った鉱石屑が結構あるのだ。


「そうか? まだまだだよ、な?」

「せや、もうちょい、上手くできた気もするが、今回はこれで堪忍してもらうしかないな」


「あらあら、向上心があるのはいいことね。……うーん、壊れたガラスでいいなら、時々、村のゴミ捨て場にあったわよ?」

「お、ホントか? じゃー近いうちにゴミ捨て場も確認にいかないとな」「賛成~!」


 他にも砂からガラスも作れるが、不純物も混ざりやすいし、なにより溶鉱炉の性能があまり良くないので少々難しそうだ。

 ガラスから作った方が楽なのは間違いない。


 よし。

 そんなら当面は、ゴミ捨て場とかどこかでガラスそのものを確保しようかね。


「とりあえず、これで明日はそれぞれの作業に集中できるな」

「うげぇー。ロメ兄は人使い荒いなー」


 はっはっは。何言ってんだよ、このくらい序の口序の口。


「元気やなーロメ兄。冒険者ってそない動き回るんかいな?」

「そうだぜー。王都の冒険者なんて体が資本だしな」


 「げー。ウチ、絶対冒険者にはならんでぇ」とうんざり顔のベッキーにほっこりしつつも、本日の作業を締めに掛かる。


「さて。それじゃみんなの売り上げ報告してくれ」

「あいよー」「はーい」


 ベッキー以外は全員報酬入手済み。もちろん、ロメオもポケットから金貨を出して並べていく。

 ひーふーみー。

 え~っと……今日の稼ぎは、と──。



 井戸の修理(ボーナス付き)で 銀貨7枚G

 舟の作成が  銀貨46枚と銅貨5枚

 釣竿の修理が 銅貨11枚

 鳥小屋の補修が 銅貨38枚

 荒縄の作成が 銀貨2枚


 なんだかんだで皆結構色を付けてもらってるな──。



  えー、それらを踏まえて、締めて──……金貨6枚と銅貨4枚なりー


   チャリ~ン♪



「「「お、おぉー」」」


 テーブルに転がした貨幣の山を見て、目を$マークにして輝かせる3人。

 うんうん、頑張ったもんなー。わかるわかる。


「な、なーなー。ロメ兄、これ中々順調ちゃうんか?」

「うんうん、僕もなんだか簡単に借金返せそうな気がしてきた!」

「たしかに、……二日で金貨8枚相当ね。しかも、材料はほぼ無料」


 うっとりと金貨の輝きに目を細める3人ではあったが……。



  順調……。

  順調ねぇー……。



「……うーん。たしかに金額だけ聞けばなかなかのものだけど──」


 ロメオ達の目標は、最低ランクが一カ月で金貨120枚。

 二日で金貨8枚程度では、ちょっとなー。しかも、この金額は偶然というか、好意によるものが大きい。


「うん……。いや、ハッキリ言って、全然足りてないな──たしかに2日で金貨8枚……一日金貨4枚を稼げるなら、ギリギリで金貨120枚に達するだろうな」


「う、うん? せやろ?……なんかまずいんか?」

 首をかしげるベッキー。


「そりゃまずいさ──。時にプルート」

「え? 僕? どうしたのさ?」


 ふむ。


「プルートは今日村に行ったよな?──そこで新規の依頼は見つかったか?」

「え? 新規は……ないかなー。まぁ、昨日の今日、依頼を受けたばっかだし」

「そういや、ウチも特に聞いとらんな?」


 うむ。

 プルートもベッキーも同じらしい。


 つまり、

「……そこだよ、そこ──」

「「「へ?」」」


 3人が首を同じタイミングで傾げる。

 ……まぁ、こう思うのも仕方ないけどさ──。


「ぶっちゃけて言うなら、この村でこれ以上の金策は難しいってことだ」


 え?


「「「えええー?!」」」


 いや、ええーとちゃうがな。


 まぁ、説明するまでもなく、小さな村のことだ。多少は困りごとがあっても、常日頃、ロメオ達の需要を満たすほどの依頼が発生するわけでもない。

 それに最初の頃の依頼は、母親であるエリナの信頼があったればこそだ。村人からの同情もあっただろう。


 だが、冷静に考えれば、この村だけで毎日毎日、金貨に相当する依頼が発生する可能性は極めて低い。

 仮にあったとしても、それは本職の仕事だろう。


 舟にしたって、別にロメオ達に頼まなくても、村にも大工はいるのだから、そちらに注文するのが筋だろう。


 なにより、少し行けば村よりも大きな町がある──そこに発注してもいいのだ。

 ──ま……そりゃあ、街に依頼するほどでもない湿布や、低級のポーションの依頼なんかは尽きないだろうが、それだけで借金は返済できるわけでもなし。


 第一、湿布にしても流通しきってしまえば需要は落ちるし、単価も下がるだろう。今でさえお小遣い程度の金額だ。

 ……いずれは競合する店舗だって現れるかもしれない。


 なにせ、所詮──今のロメオ達はちょっと手先が器用なだけの子供だ。

 もちろん自分たちはそんなつもりもないし、自信をもって仕事をしているが、世間の評価はそんなところだろう。


 ──こればっかりは、実績を積まないと中々認められないものだ。


「じゃ、じゃーどうすんのさ!」

「せやせや!」


 まぁまぁ、落ち着きたまいよ。


「それにはちょっとした考えがある。まぁ『考え』というほどでもないが──そもそも、最初に全員でをだしただろ?」


 へ?

 案って────??

 

 なんだっけ、と3人が顔を見合わせる中、




   ニッ。




「きまってんだろ」


 ロメオが不敵に笑う。

 そう、なんてことはない。この村で、需要がないなら──……。




「──隣街で営業しようぜ!」



※ ※ ※


         【現在の工房の状況】

【資金】(本日の稼ぎ含む)

 金貨400枚(冒険者ギルドからの融資:ちなみに融資額は金貨1000枚)

 と

 金貨11枚、銀貨4枚、銅貨7枚


【収支報告】

 +金貨6枚、銅貨4枚


【入手アイテム】

 藁束 + 一山


※ ※ ※





※ ※ ※

 一口メモ


 ●《ロケーション3》ビター・スプリングス


 ロメオ達や村長らの地域に広がる大きな湖。

 もともとは小さな泉が点在する地域であったが、大昔に川をせき止め灌漑を進めるうちに水位が上昇。

 湖となった。


 ビターの由来は、豊かな植生から流れ込む植物成分タンニンの苦みのよるとされているが、現在の湖に特に味はない。

 あえていうなら、綺麗な水源による滋味深い味がするといわれ、かつては飲料水として利用されるほど──もちろん普段は煮沸ないし井戸を利用している。


 また、湖じたいは農業、漁業に盛んに利用され、唯一の出口である大河は、水運としても利用されているが、水流の不規則なことから事故が多発──年々陸運にとって代わられるようになった。


 しかし、湖周辺では、良質な粘土がとれるほか、様々な動植物の宝庫となっていることもあり、人々から非常に愛されている。


※ ※ ※

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