第7話「村の困りごとハンター!」

「じゃーなー」

「いってくるでー」「気をつけてねー」「はーい!」


 ──三々五々、分かれていく工房のメンバー。


 農家に藁を分けてもらう交渉に行くプルート。

 そして、鳥小屋の補修のために現地に向かって設計を考えるベッキー、彼の時にはさらにガラス瓶とコップの代替品作成もある。

 あとは、ポーションと湿布の材料採取のために、工房の裏山に向かうジュリーで分かれて行動開始。


 ロメオは、村の役場のほうに顔を出すことに──。

 もちろん、『依頼』の「舟の作成」と「井戸の修理」のためだ。


 工房から歩くこと少し──。

 いつも、のどかな村の広場。


「あ、村長」

「おぉー、ロメオか。立派になったなー」


 役場に向かうまでもなく、村の広場にいたのは、暇そうにぼんやりと空を眺めていた禿頭の翁。

 ……この村の長、ゴメスさんだ。


「どうもご無沙汰してます」

「うむうむ。お袋さんのことは気の毒だったの──」


 いつもの時節の挨拶。しばらくは多分こんな感じだろうな。


「……いえ、天命だったと思います」

「そうかそうか。……何か困ったことがあったらいつでも来なさい」

「はい!……それで、井戸のことなんですが──」


 そして、さっそく本題に──。


「ん? 井戸……。お、おぉー! 昨日プルートが聞いてまわっておった村の困りごとじゃな? ふむふむ、困ったことがあれば頼れと言っておきながら、こっちが頼ることになるとはな──かーっかっかっか!」

「あ、あはは……」


 何わろとんねん。

 ……別にぜんぜん面白くないけど、まぁここはご愛嬌。


「よしよし、それでは立派ななったお前さんに頼むとするかのぉ──道具と材料は、村の倉庫のものを自由に使ってかまわんぞい」

「それは助かります」

 おぉ、これはラッキー。材料費が浮きそうだ。

 そうして案内された先には、なるほど──まさに修理が必要な井戸がある。


 囲い壁が崩れて、半ば埋まったそれ──。


 ……え?

「こ、これどうしたんです?」

「ん? んー、いやーははは! 恥ずかしい話じゃが、井戸端会議でたむろしとった女房連中がな──ごにょごにょ」


 は、ははーん。

 なるほどなるほど──。


 言い分をまとめると、どうやら雑談からの口喧嘩がだいぶエキサイトして──井戸端を中心にエキシビジョンマッチが繰り広げられたということらしい。


 ……だからってこれはなー。

 モンスターだってもう少しお上品だぞ??


「ま、まぁ、何とかします」

「おうおう。頼むぞ──ウチらじじいどもは、毎日水くみしとる女房連中にはかなわんでのー」


 ホッホッホ。


「あはは……」


 いや、ホッホッホ。じゃねーよ。……奥さん連中に任せっぱなしにしてるから、この村の女性陣はムッキムキが多いんだよ。


 思い浮かべるのはふっとい腕をした村長の奥さん。

 ……そら、そんな人らがエキシビジョンマッチを繰り広げたら、井戸も壊れるわ。


「それにしても派手に壊したなー」


 井戸の穴を囲む囲壁は半壊、周囲には千切れた縄に壊れた桶が散らばっている。

 そして、水回りのせいかドロっドロー。

 普段から、パワー任せの荒い使い方をしていたんだろう。この様子だとしっかり修理しないとまた壊れそうだ。


「……ん? まてよ──」


 持ってきた道具を井戸の傍に下ろしながらふと考えるロメオ。

 荒い使い方もさることながら、

 どうして、女房連中ばかりに任せることになったのかを思い、なにかインスピレーションが涌いてくる──。


 井戸の囲い壁。

 大変な水くみ作業──……。


「そうだ!!」


 何かを思いついたロメオは急ピッチで井戸の修理にとりかかっていく。

 まずは埋まった井戸を掘り起こし、水の中の囲い石を引き上げると、バラバラになった水桶をばらして『歯車のようなもの』をこしらえる。


 幸い、石は数個引き上げて、端材を退ければ井戸の水面が顔を出す。


 ……埋まってなくて本当に良かった。


 本来なら、あとはここで囲壁を組みなおせばいいのだろうが、それだけだとちょっと心もとない。

 どうせならしっかりとした修理をしてしまおうか。


「──うん、よし。これならいけるな。倉庫に木材があってよかったぜ。あとはこれを『丸枠』にはめてっと──」


 カンコンカーン♪


 村に響き渡るロメオの槌の音。

 そして、鋸のリズムが軽やかに響き、村を歩く人々が目を細めて顔をほころばせる。


「よっし、滑車はこれでいいかな?」


 カラカラカラ~♬


 調子よく回る滑車を見て満足気。

 サクッと作っだけど、なかなかの出来だ。──というのも、村の倉庫のおかげだろう。

 実際に見てみた倉庫は、倉庫というかただのゴミ置き場だったわけで──だけど、おかげで結構いろんな材料があって、一から作るよりも大助かりだったのだ。


 ……おそらく、断捨離できない村の偉いさんが代々ため込んだものなんだろうな。……ロメオにも気持ちはわかる。

 そのもったいない根性がこうして手作り滑車に昇華したわけだ。


 うんうん。

「──よし! これで概ね完成かな──あとは、っと」


 機構・・はこれでよし、あとは基礎だな。

 なにかいいのはないかなーと倉庫を探すと、……お、これいけるかも?


 もとは村の神輿みこしか、なにかなのだろう。

 小さな屋根付きのそれをそのまま流用し、柱をつければ────……カンカンカンッ! っと、どんなもんだい!


  じゃじゃーん!

  完成~♪


「ふぃー。あり合わせだけど、なかなかいいんじゃないか?」

「ん?……おぉ、もう完成したのか?!」


 のんびりと村を一周してきたらしい村長が完了した仕事を見て驚いている。


「ほ、ほほーう、屋根付きとな! これはこれは、前よりいいじゃないか!」


 ふふん、そう言われると嬉しいものだ。


「なるほどのー。前のは露天だったゆえ、女房連中がエキサイトマッチをしたが、こうして屋根をつけて覆ってしまえば、おいそれと暴れられんというわけか──ふ~む、いいじゃないか。ホッホッホ」


 いや、だからホッホッホじゃねーよ。

 ……つーか、そのための屋根じゃないからね? なんでエキサイトマッチを防止するのが前提になってんのよ。


「ん? これはなんじゃ?──屋根の下に……車輪?」

 ありゃ、

 やっぱしこれを知らないのかな?

「滑車ですね──この辺じゃあまり見かけませんが、王都だと長屋ながや近辺の井戸はだいたいこれですよ」

「……滑車とな?」

「えぇ、まぁ、見てくださいよ──こうして、こうして……こう!」


 井戸を覆う屋根の下によりつけられた滑車。

 つまりは、『つるべ落とし』だ!


 ひゅ~~~ん、ばしゃーん!


「……で、こうして、これをひいて、ひいて、ひいて、ひいて──ほい!」


 カラカラカラ~……ドンッ!


「おぉ!」


 ロメオの手元には、水の入った桶があっという間に引き上げられた。

 これは、てこの原理を応用しただけのお手軽設計だ。


 滑車を使えば、単純計算で必要な力は半分になる。しかも、引き上げる力に比べて、自身の体重を利用できる引く・・という作用でよいため、作業はかなり楽になるというわけだ──。


「……な、なんと! これは便利な!!」

「でしょ? これなら、奥様方だけでなく、村長らもお手伝いできるかと」


 ドキッ。


「お、おぉー。な、なるほど……な。う、うん。こ、これは便利じゃなー。う、うむ、べ、便利便利……」


 ん?

 あれ? なんか歯切れ悪い────……。


「どうしたんです、村ちょ──」


 ──ぽんっ。


「わ! びっくりした──なんだ、奥さんじゃないですか」

「あらぁ、ロメオちゃん久しぶりね──」


 果たしてやって来たのは村長の奥さん。

 たしか、デリラさんだっけ? まぁ、奥さんでいいや──がいつの間にかロメオ達の背後にたっており、いつもの挨拶とお悔やみの言葉を貰った後、ニッコニコ顔でロメオの手を握る。


「これぇ、助かるわー。アタシらこーいうのが欲しかったのよぉ……。んねッッ?」


 くるり。


 おもむろにやってきた方向を振り返るデリラさん。

 すると──。


「へ?……って、うわ!」


 び、びっくり!

 何か知らんけど、いつの間にか奥様連中がロメオの背後に立ってニッコニコ。

 そして、なぜか知らんが村長が汗だくだく──……。


 え? え? え?

 ……な、なんぞ?


「お、俺なんかしちゃいました?」

「ホ、ホッホッホ──ロ、ロメオや。べ、便利な道具は実に助かる。助かるんじゃが──」


 あーうー、

 あうあー……


「うふふふ。いいじゃない便利になって──」


 ですよねー?

 ……んんんー? 何、この村長と奥さんの温度差──。

「え、えっと~……?」


「み」

「み?」


 み、み、み──。


「水くみやりたくねぇぇえええ!!」

     やりたくねぇぇぇええええ!!

          ねぇぇえええええええ!!


「え、えぇー……」


 なぜか、「わしら水くみしたくないもん!」と駄々をこねる村長の心の声が村中に響き渡るのであった。


 あ。

 もちろん、依頼は無事に達成されたっぽい?


 ……もっとも、この便利(?)になった井戸のせいで、水くみは村長をはじめ男たちも協力させられる羽目になり、しばらくロメオは村の男衆にたっぷり恨まれたとかなんとか──。


 まぁ、代わりに、奥様方の評判は鰻登りとなり、しばらくチヤホヤされたからプラマイゼロ? いや、プラス?

 うーん、ま、いっか──。



  チャリーン♪


   銅貨58枚⇒70枚!


   ──報酬~~~~ゲットだぜッ!(しかも、奥様連中からちょっとしたボーナス付き!)


 画面に向かってハイジャンプして見せるロメオ。

 やったね♪


「……って、いやいや、危ない危ない。『やったね♪』じゃねーよ。仕事終わりモードに入りかけてたよ」

 いかんいかん。

 そうだった。そうだった。

 自分で仕事を割り振っておいて危ない危ない……。


 本日は、まだ一件仕事があったっけ。うーむ、貧乏暇なしとはこのことか──。


「ひ、暇なしとかじゃないぞ、ロメオよー! うごごご、余計なことを──!」


 なんか村長の恨み節が聞こえてきたが、ゲリラさんにがっちりとアイアンクローを決められて顔面ぐりぐりされているので、聞かなかったことにしよう。あと見なかったことにもしよう。──うん、そうしよう。


「よ、よし! それじゃ、俺はこの辺で──あ、メンテのことがあったら、是非ともウチの工房までどうぞー」

「はーい、ありがとね、ロメオちゃん♪ 今度みんなでお茶のみにいらっしゃいな」

「は、はい、ぜひ──」


 ワチャワチャと可愛がる奥様方からようやく逃れつつ、ちゃっかり工房の宣伝もすませたロメオは、次なる仕事・・・・・に向けていく。



 そう、本日もう一つのロメオの仕事──新規釣り舟の作成だ。

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