第4話「依頼をこなそう!」

「──まずは、この依頼を終わらせましょ」

「あぁ、最初に言ってたやつだな──どれどれ」


 ※ 鍋の修理 銅貨2枚

 ※ 湿布薬×5 銅貨3枚

 ※ 馬車の軸受け補修 銀貨3枚

 ※ 煙突掃除 銅貨6枚

 ※ 日時計の調整 銅貨1枚

 ※ 雨の日につかえそうな服 応相談


 やっす……!


 どれもこれも、子供のお小遣いかよっ、てレベル。……つーか、これならバイトの方が効率良くないか?

 ──とはいえ放置しっぱなしってのは評判がよろしくない。

 なにせ、母さんが倒れてからずっと放置してきたことになるんだしな……。今後のことも考えるなら──。


 ……よし!


「そうと決まればサクサク行こうぜ!……ま、報酬は微妙だけど、これくらいなら全然いけそうだ」

「あら、できるの?」


 ちょっと、難しそうな顔をしていたジュリー。

 どうやら、これらを一人でこなそうとしていたらしい。


「なーに、全員でやればあっという間さ──」

「そうかもしれないけど……」


 ふふーん。

 ジュリーちゃんたら、母ちゃん根性がにじみ出ておりますなー。


 だが、安心したまい! こう見えても、ロメオさん、Bランク冒険者──下級冒険者の指導をしたことも有る。だから、采配ならお手のモノなのだ。


 ──ぽんっ。


「ジュリーは人に頼むのが苦手そうだからな──ま、俺に任せとけって」

「え、えぇ……。うん」


 と、言うわけで──ほい。


「鍋と日時計は、ベッキー。任せたぞ」

「オッケーやでぇ」


 鍛冶や応用錬金の範疇でできるものばかり。

 鍛冶ならロメオも得意だが、

 ドワーフの彼女なら鍋の修理はお手の物だろうし、大雑把な彼女だが、日時計の調整は力仕事だ。きっとできるできる。


「で、煙突掃除はプルートな、あと湿布薬はジュリーと一緒にやってくれ」

「げー。やっぱ僕かよー」

「腐るな腐るな。小柄なお前が一番向いてるんだよ。ついでに、その家の人に宣伝もしてきてくれ」

「あいよー」


 煙突掃除が工房の依頼なのは、本来業務的にちょっとあれだが、その辺はおいおい調整していこう。

 あと湿布薬は薬の調合なんかに時間がかかるから二人でやった方がいい。


「──で、ジュリーは、今言った湿布薬な──まずは薬草採ってきてくれ」

「えぇ、わかったわ」


 エルフにして精霊錬金に精通する彼女なら、森の薬草に知識は豊富なはず。


 あとは、

「この依頼な──雨の日につかえそうな服、か……」


 なんだよ、そのファジーな感じ!

 ……具体的な依頼にしてくれよ──。


「あーそれ。猟師のサルマンさんの依頼ね。……工房はこういった依頼多いわよ?」

「む……そうなのか」


 たしか、サルマンさんと言えば、山に住む凄腕の……偏屈者へんくつものだったっけ。


 ……なるほどなー。

 具体的な依頼なら、なにも工房に頼まなくても店売りのものを買えばいいのだ。

 そういった需要・・・・・・・からこぼれたものを工房が受けていたというわけか──なるほどなるほど。こりゃ確かに『何でも屋』だ。


「……よし、これは俺とジュリーでやる。悪いけど、ジュリーは俺の持ってきた素材を言ったように縫ってくれるか?」

「え? ええ、わかったわ──だけど、素材なんてあるの? 悪いけど、ウチの倉庫は空っぽよ?」


 昔は結構な量の鉱石やら綿やら布なんかの素材で埋まっていたらしいが、借金返済のドサクサで、持ち出しできる軽易な財産は、結構な量が差し押さえられて──今はほぼ空っぽ。

 工房で使っていた馬も差し押さえられているため、移動手段はもっぱら二本の足が、4人のアシです。


「まぁまぁ、まかせとけよ──。これにはちょっと考えがあるんだ」

「考え?……うん、まぁ、ロメオを信じるわ」

 へへ、そう言ってもらえると嬉しいロメオ。


 しかし、依頼品のあて・・なんだけど──王都の冒険者では割とありふれたものだと思ってが、案外この辺には、ない・・のかもしれないな。


「で──最後の馬車の軸受けは俺にまかせてくれ!」

 これはまさしく大工の範疇だしな。

 得意分野だ。

「うひひ、やっぱロメ兄がいるとちゃうなぁ」

「同感」


 にひひひ、と照れ臭そうに笑う妹分と弟分。

 よせやい、照れるやんけ……。


「よーし、決まったらみんなで始めようぜー」

「「「おー!」」」


 そうして、さっそく依頼をこなしていくのだった。



※ ※



 というわけで、まずはできるものかやっていこう。

 馬車の軸受け補修の場所は──っと、駅馬車の待機場所か。


「ち~っす」

「ん?……あれ、おめぇ、ロメオか?」

「あ、御者の兄さん」


 スパー。


 暇そうに煙管を燻らせているこの人は、確かビター・スプリングスと近隣の町をつなぐ場所の御者をしている人だ。

 名前は────……うん、御者さんだね。


「はー……帰って来てたんだな。いやいや、センセー・・・・が亡くなってから、嬢ちゃんらに頼んでできるのかどうかって思ってたけど、なるほどなー」

「はは、お袋ってこんなことまでしてたんスね──そんじゃま、よっと……。ちょっくら見させてもらいますよ」

「おー。頼むわ」


 馬車の軸受けがガタつくというので一度ばらしてみる。

 ……あぁ、これは内ネジが摩耗してるな。


 かんかん、かんかーん。


「ここをこーして、こう……ほい」

「を? も、もう終わったのか? て、適当──……じゃないみたいだな!」


 ガタガタガタ──からららら!


「お、おおー!」

 最初はギシギシ言っていたというそれが快調にまわり始める。

 なんてことはない、ばらしてみれば子供でも直せるものだ。まぁ、もっとも、車軸持ち上げるパワーと、工具を扱えるだけの知識はいるだろうけどね。


「ははー、こりゃ助かった。いっつも、ガタガタとケツが痛くってよー」

「へへ、どうってことないっすよ──あ、お代どうもー」


 チャリーン♪

 おぉ? ひーふーみー……あれ銅貨1枚多いぞ?


「いいってことよ、素早く仕事をしてくれた礼だ」

「あ、ありがとうございます! あ、あの、せっかくなので、お仲間にも宣伝しておいてもらえますか? 工房にロメオが戻ってきて、修理も請け負いますって」

「ほ?……おーなるほどなるほど! ま~かせとけ! あれだろ? 何でも屋ってのを始めるんだろ?」


 おや、耳が早い。

 さすが田舎だ。


「えぇ、そうです、そうです。もちろん修理以外にもやらせてもらいますよ! へへ、ポーションとかも扱う予定です」

「おー。いいねぇ、町売りのは生臭くっていけねぇ。新鮮材料のセンセー作のポーションはよかったねぇ」


 おぉ、好感触!


「はい! お袋ほどかどうかはわかりませんが、町のモノよりお安く、新鮮な材料で用意させてもらいますよ!」


 そう言って手を振って別れる。

 うん、なかなか初仕事にしては上出来だ



  チャリ~ン♪


  銀貨3枚に銅貨1枚ゲットだぜー!



※ ※


 その足で、村の郊外に向かうロメオ。

 目的地はそう遠くはない。


  てくてくてく


「お、あったあった」


 悪臭漂うそこは、腐葉土の溜まる沼地だ。

 気味の悪い両生類型のモンスターや、虫系モンスターが涌いているが、中級冒険者のロメオが『威圧』すると、本能に忠実な魔物はロメオを避けていく。

 

 うん。このあたりなら安全に素材・・が回収できそうだ。

 もっと別の場所に行けばBランクの冒険者でも構わず襲ってくるモンスターがいるが、村の近辺ならロメオは無敵のようだ。


 しかし、今の目的は魔物ではなく──。


「……おぉー、これこれ」


 そう。目当ては沼地から湧き出る『黒い水』だ。

 ドロドロとしたそれは悪臭が酷いうえにベタつく。


「これを器に盛って、と──」


 ……ぶわっ、臭ッ!!


 ひ、酷い匂いだ。

 それを見越して、使用に耐えない穴の開いた食器を工房から持ってきていたのだが、

 ……思った通り、最初はこぼれていたがすぐに穴が詰まってこぼれなくなる。ドロドロの黒い水が穴を塞いでくれたらしい。


「ふぅ、こんなもんか?……あとは、たしかこの辺に──っと、この木だ」」


 おお。

 やっぱりあった。


 ここまで来た目的ついでに、もうひとつの目星・・に手を伸ばす。むしろ、これこそが『雨の日につかえそうな服』の素材の本命だ。


 それは沼地に群生している低木で、幹を傷つけると黄色の樹液がドロリと溢れるやつだ。


 ついでにこれも採取──。

 黒い泥水と違って、黄色の樹液は、ちょっと独特のにおいがするけど、泥のそれほどでもない。


「よーしよし、これこれ!──うん、こっちは匂いがキツクないから、有力候補だな」


 この樹液由来の製品は、王都の輸入雑貨で見たことがあったけど──このあたりでも似たようなものを見かけたことを思いだしたのだ。

 うん、厳密には王都でも見たものとは違うのかもしれないけど、十分使用に耐えそうだ。


「ま。物は試し──とりあえず試作からだな」


 しばらくは木に傷をつけて回り、枝を差し込み樹液の受け皿を置く作業に終始すると、夕方が近づくころには十分な量が溜まっていた。

 思ったより時間がかかったけど、透き通ったまま固まってくれて、持ち運びも楽だ。


 つんつん

 プニプニ


 うん。固まったみたいだ。あとはこれを回収して袋に詰めて──。

「いえぃ! ミッションコンプリートぉ!」


 リュック代わりのズダ袋に大量につまったそれを担ぎ満足げに笑うロメオ。

 へへ。一日で大量素材ゲットだぜ!


 意外なスポットだが。魔物が涌くせいか、ここには村の人も立ち寄らないのだ。

 そして、冒険者志望だったロメオは、村にいたころからここに何度か来たことがあるので知っていたのだが──。


 ま、それはそれとして、これを使って依頼の品(雨の日につかえそうな服)を作ろうというわけ。


「……うん。うまくいくといいな」


 ちょっと不安は残るが、やるべきことをやるのみ。


 それにしても、アルマンさんの依頼……。お袋なら、どうやって対処したのだろう。

 だけど、お袋はお袋だ。ロメオはロメオなりの解釈で臨む。伊達に王都で冒険者をしていたわけではない。



※ ※



「「ただいまー」」


 ロメオが一足早く帰宅していると、疲れた表情でベッキーとプルートが帰って来る。


「お! おかえり。どうだった?」


 ヘロヘロ~とテーブルにつっぷすベッキーを支えてやり成果を確認。


「うぇー……。あの日時計、基礎から組みなおしたったわ。重いのなんのって──女のコにやらせる仕事ちゃうでー。あと鍋のほうはパパッと修理終わったし、渡して来たでぇ」


 お、感心感心。


 チャリ~ン♪


 銅貨1枚+2枚で、

  合計銅貨3枚ゲットだぜー。


「僕もヘトヘトー……。見てよこのドロドロな顔!」

「お、おう。ま、まぁ、勲章みたいなもんだぜ」

「ふんっ。……まぁ、苦労には見合ったかな──あと、宣伝もしといたよ」


 お、優秀優秀!


 チャリ~ン!

  銅貨6枚ゲットだぜー。


「じゃ、次は私ね──はい。これ」


 お、さっそく湿布を作ったみたいだな。

 『エルフ印』の湿布とくれば飛ぶよう売れるに違いない。


 ま、うちは1枚で銅貨1枚程度とお安いけどね。


  チャリ~ン♪

  銅貨3枚ゲットだぜー。


「順調だな」

「へへ、やれるもんだな」

「まぁ、この依頼は母さんの信頼で受けたようなもんだし」


 そうなのだ。

 今でこそ、依頼はあるが──それはお袋であるエリナの信頼があったればこそ。

 すでにエリナが亡くなったことを知らない村人はいない。ならば、その先はどうなるのだろうか?


「あ、大丈夫やでぇ、少なくとも、ウチ、酒場に顔出していくつかもろてきたでぇ」

「あ、僕も役場に掲示してもらったよ──ついでに、村長さんからいくつか依頼聞いてきた」


 お、おおぉ!


「やるじゃん! いいね、あとでまとめて教えてくれ」

「「あいあいさー」」


 いいね。

 優秀な妹分に弟分だ。


「つーか、臭ッ!」

 皆、臭いぞ!

「あー。ロメ兄ぃ、レディーにそんなこと言うんやー」

「姉貴はレディーっつー感じじゃないけどねー……あだだだ!」


 はっはっは。


「はいはい、そこまでそこまで、お風呂沸かしといたから入ってきなさい──」

「「はーい!」」


 ……って、ジュリーよ。

 YOUは、まんま母ちゃんじゃねーか。


「なによ?」

「な~んも」

「ふん、顔に書いてるわよ──ほら、ロメオもお風呂入って来てね」


 へいへい。


 そうして、順番にお風呂に入って臭いを汚れを落とす四人。

 ちなみに、ジュリーはジュリーで中々に葉っぱ臭かった・・・・・・・んだけど、そのことを言うと怒るので黙ってます、はい。



  カポーン♪



「ふぅ、いいお湯だったわね。……じゃあ、あとは最後の依頼ね──これはどうするの?」


 タオルで髪を吹きふき、最後にジュリーちゃんが集合して報告の続き。


 そうそう。

 猟師のアルマンさんから受けた、雨の時の装備の依頼がまだあったのだ。


「あー。それなんだけど、こういうの縫ってくれるか?」

「え? これって──……服?」




 ロメオが図面に書いたもの、それは貫頭衣ポンチョと呼ばれるものであった──。




※ ※ ※


 一口メモ


 ●《ロケーション1》村の郊外の沼地(通称:毒の沼地)


 ビター・スプリングス南西に位置する湿地帯。

 言葉通りの毒ではないが、作物は育たず、有毒生物が数多く生息しているためついた俗称。

 日常的な水の流入はほぼなく、洪水や梅雨時期にのみ、水が流入する地域。

 ただし、水はけは悪く、流入した水はその場にとどまり続けるせいか、年中じめじめしている。

 (ちなみに、人間がここの水を飲むと腹を壊します。)


 濁り水を好む野生動物の水場ともなるが、毒をもつ生物種が多い。

 主にE~Dランクのモンスターが出現することもある。


 また、村の子供たちの遊びのスポットでもあるが、大人たちは危険地帯ゆえ立ち入りを禁止している。

 しかしならが、あちこちに秘密基地の跡が見て取れる。


 夜は非常に不気味で──時々、青い炎が灯ることがあり、村人は気味悪がって近づかない。

 一体底には何が沈んでいるのやら……。


 のちに、ロメオ達の手によって『生ゴム』『タール』が発見される。

 そのほかにも資源がありそうな気配……。


※ ※ ※

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