第3話「なんでも屋」

「とは言ったものの……」


 工房に戻って来た4人。

 そこには、ギルドから融資を受けた証明が一枚。


「どうしよっか」


 ズルっ!


「え、えぇー?! ロメオ──か、考えがあったんじゃないの?」


 ロメオの適当発現に、ヨロヨロと起き上がるジュリー。


「いや、ねーよ。お前らがなんかいいアイデアもってるかなーって」

「あるわけないやん! あったら、兄貴に金借りてきてもらうかよ」

「つーか、何気に今ピンチだよね? 借金のために、融資って──それ多重債務だよね?」


 うぐ。


「だ、大丈夫だ。冒険者ギルドの取り立ては優しいってきくぞ。なんか、借りる時の宣伝文句だと綺麗なお姉さんが楽しそうに踊ってるだけだし」


 はっじめてのーギ・ル・ド♪

  ギールド、ギルドギルド♪ ギルドぉ♪ わっしょい♬


「──ってやつ」

「いや、絶対それ裏に怖いお兄さんいるからぁ!」


 ジュリーさん、額に手を当てて嘆いてます。

 あーもー。


「ま、まぁ、借りちゃったもんはしょうがないだろ。それに、無担保ってわけじゃないからな。その担保があるうちは、利子なしだぜ」

「え? そんな上手い話あるの?」


 ふっ。


 プルートめ、世間を知らん奴よ。

「もちろんだ。俺の装備一式と王都に預けてる素材とか全部渡してきたからな」


「「「……は?」」」


 ……え?

 いや、「は?」って言われても……。


「いやいや、兄貴。それってしちにいれただけってことじゃ──」

「お、おう。そうとも言うな」

「あっきれた……。装備一式ってことはロメオ、あなた冒険者課業はどうするの?」

「いや、別のほら──拳とか」

「ロメオ兄ぃ、質だって、無期限じゃないよ? 金かえさないと、その品──ギルドにとられるし、額が足りなきゃ、結局それってば借金だからね? 結局Bランクの信用で貸して貰ってるだけだからね」


 んな!


「な、なんで皆そんなに詳しいんだ?」


 と、都会で暮らしてるロメオより詳しいなんて……。恐ろしい子たち。


「「「常識」」」

「んなぁぁぁああああ!」


 ロメオの悲鳴が寂しく響いたとかなんとか──……。


「……って、話を締めるなよ! なんか考えようよ、なんかぁ!」


「わかってるわよ。とりあえず、ロメオの頭が残念で、ロメオの借金で、ひとまずの危機が脱したとはいえ、状況は好転したとはいえないわね──とくにロメオの」

「まーねー。もっとも、兄貴の頭が残念で、兄貴が帰って来てなかったら成すすべもなかったし、兄貴にしてはファインプレーっちゃファインプレーだけど」

「たしかに。……じゃー、今やるべきことは、金策だよね」


 うむ。

 世の中、金です。


 …………っていうか、誰の頭が残念やねん!!


「ったく。それで?……これまでどうやって生活してたんだ?」

 お袋が倒れるほどってことは、このところ、金を稼ぐのも大変だったはず。

「んー。……昔と変わらないよ? 姐御ジュリーとか姉貴ベッキーが酒屋でバイトしたり、僕が依頼クエスト手伝ったり──」

 とはプルート談。

「そうねー。バイト以外にも、ほら。工房にも依頼が来てるわよ。覚えてる? 最初ロメオにも手伝ってって言ったやつ──」


 ん? あ、あぁ、そういえばそういう話だったな。

 ジュリーの言葉を反芻しつつ、思い出すロメオ。


「……でも、儲かるのか? それ」

 なんか、工房に来る依頼って、仕事というよりもボランティアみたいな感じだったと思う。

 ……お袋、人が好過ぎるからあんまし、金・金・金って感じじゃなったもんなー。

「んー。ま、まぁ、一応? 母さんってば、あんまりもグダグダだったから、最近はその辺を改善してはいたのよ。母さんに任せてたら、赤字だったから」


 あー……。


「ふむ……。なるほどなぁ、ちょっとずつ状況が理解できたぞ」

 金策の手段はおおむね二つ。


 〇 バイト

 〇 依頼クエスト


「だな」

「……だけど、それだけじゃ全然たりないね」


 その通り。

 利子だけで一カ月金貨120枚。


 大金だ。

 今のままでは、元本を返すなんて夢のまた夢だ。

 ……つーか、お袋はどうやって返してたんだろ?


 確実な収入としては、バイトだが、これまでの経験でいえばベッキーで一日銀貨3枚、ジュリーで銀貨5枚。

 ちなみに、通貨の主な相場は、銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。金貨10枚で大金貨だ。

 もっとも、大金貨は主に大口の商取引や国家単位で使われるものなので、庶民は金貨までが関の山。あと、相場的には銅貨1枚でパンが一個買える程度だったりする。


 ん? そんなことより、なんでベッキーとジュリーのバイトの値段が違うかって?

 そりゃ、酒場で働くんだから色気──。


「どういう意味やねん──」

「なんでもねーよ」


 地獄耳のベッキーちゃんが頬を膨らませる。

 はいはい、いい子いい子。


 むくれるベッキーの頭をなでりこなでりこ。


「ふん、まぁええわ。──それよりもさ、せっかくロメ兄ぃが帰ってきてくれんやし、もうちょっとアクティブに行ってもいいんやないか?」

「ん? ベッキー、なんかいいアイデアが?」

 バイト以外に案があるなら是非とも!

「……まー。アイデア言うほどのもんでもないけど、オカン見習うんが一番ちゃうか?」

「というと?」

 お袋って、工房一本だったよね?

 バイトというか、たまに農家の手伝いはしてたみたいだけど──。

「せや、ウチらの工房はこれでも、近所では評判やでな。安い早い、色々できる!──って触れ込みでや。そんでも、依頼はいつもは工房に持ち込まれるもんをこなしてた・・・・・だけや──」


 ふむふむ。


「つまり、主な顧客は近所の村人だけやってん。──まぁ、狭い村言うても、困りごとは色々あるみたいやでな。酒場でバイトしてるときは、よーさん愚痴を聞いたし、それは逸れでありやと思うけど、」

「えぇ、確かに……。あ、なるほど!──つまり、酒場とかで依頼を積極的にみつけるのね」

「せや! 酒場だけやのうて、雑貨屋とかに言うてポスター貼らせてもろうてもええんちゃうか?」


 おぉ、なるほど!

 バイトだけじゃなくて、依頼をメインにして積極的に仕事を募集するのか、ありだな……!


「な~ほどねー。じゃー村の役場とかに頼んでもいいね。村の爺さんたち──母さんに世話になってたからそれくらいの頼みは聞いてくれるでしょ。あと、隣町にも依頼を受けに行ってもいいね」

「せやせや! 村にこだわる必要ないと思うでぇ──町やとぎょうさん仕事もあるやろしな」

「いいわね。隣町ならギルドもあるし──冒険者ギルドや錬金ギルド──……小さい支部だけど、街なら依頼は村よりも多いはずよ」


 うんうん!

 出るじゃん出るじゃん!


 色々アイデアでるじゃーん!


「いいねいいねぇー。確かに、皆の得意分野を集めれば、なんでも・・・・できそうだな」

「お、それええやん! 『何でも屋』にしよか」


 ポン!

 ……なるほど! それだ!


 ナイスアイデアに思わず手を打つロメオ。


「うん。アイゼンはああ言ってたけど、村だけに限らず、色々進出してさ、たくさん依頼を受ければ結構お金になるよね?」

「だな……。あとは、そうだな──」


 依頼を受けるだけでは、いずれ限界が来そうだ。


 ……所詮は隣町を含めても田舎だし、

 『何でも屋』といっても、しょせん子供の集団だ。本職には信用面で敵わない。


「うん? あ、そう言えば……冒険者ギルドに融資を受けに行ったとき、意外と俺の装備高く評価してもらったんだよ──……知ってるか? あれ、手作りなんだぜ?」

「「「ええ!? そ、装備を?」」」


 驚く面々。


「おーよ、びっくりしたか? ま、俺も王都じゃ『冒険者 兼 野鍛冶・・・』みたいなことしてたからな。……何より、王都の武器屋、くっそ高いんだぜ──銅の剣がなんと銀貨10枚」


 ぎ、

「「「銀貨10枚ぃぃ?!」」」

 実質金貨1枚だ。

 たかが銅の剣で、これ──。

「うわッ……、それってぼったくり過ぎねー」

「ほんまや。ぎ、銀貨10枚もあったら、鉄の剣作れるでぇ」

「うんうん。材料費だけなら銀貨1枚もしないのにね」


 さすがは工房育ちの3人。理解が早くて助かる。

(まぁ、原価厨っていわれそうだけど、それはそれこれはこれだ)


「──な? 俺思うんだけど……。意外とモノづくりして、売るのもありじゃね?」

「「「モノづくり?」」」


 3人とも同じ顔。


「それって、お店ってことかしら?」

「ウチら本職ちゃうでぇ──武器屋でもやるんかいな?」

「皆、得意分野が全然違うし、難しくなーい?」


 ちっちっち。


「──そうじゃないし、そうとも言える。あえていうなら、プルートの意見が近いな」

「え? 僕??」


 そうそう。皆の得意分野ってやつさ。


 ニッ!

 歯を見せて笑うロメオであったが、その脳裏にあったのは、種族も得意分野も違う自分を含めて4人の特性。


  ジュリーの精霊錬金に魔道具、服飾・裁縫

  ベッキーの機械物に応用錬金、道具作成

  プルートの細工物に研磨、宝石細工、魔工学


 ……そして、ロメオの大工に鍛冶・錬金


「どうだ? みんな、お袋に一通りの手ほどきは受けてるだろ? 俺も鍛冶・錬金ならちょっとしたもんだぜ」


 あ、あぁー……と納得した顔の3人。

 言ってみれば各自に得意分野をいかした万能な──まさしく何でも屋だ。


「な、なるほどなぁ。せやったら、ウチのドリルとか売れるっちゅうことか」

「僕の趣味が売り物になるかもしれないのか……。ふむむ」

「たしかに……。前から、ポーションとかなら自前で作ってたわねー」


 三者三様、ロメオの言葉を咀嚼していく。


「……だろ! 普通はさ、自作のモノを売るなんて考えないし──もしかすると、店売りほどの信用はないかもしれないけど。ここは田舎だろ? 街や王都と違って何でもかんでもてにはいるわけじゃあない……つーか、今ドリルつった?」


 ぴゅ~るり-♪


 下手糞な口笛でごまかすベッキーはほっといて、それぞれにできそうなものを考える。

 ジュリーの言う通り、ポーションなんかは、そのまま売れそうだ。


「たしかに、ロローナの雑貨屋があるけど、品ぞろえは微妙だしなー」

 うんうん。


 (※注: ちなみにロローナの雑貨屋というのは、村で唯一の雑貨店だ)


「そうそう。だから、お袋の手作りも昔から需要があったわけだし──それにさ。多分、俺たちが作るものでも、ポーション程度なら、このあたりの流通でいけば、王都の品よりも安いし、量も確保できるから売れると思うんだ!」


 実際、薬の類の需要はまず途切れないだろうし──それに、村は慢性的にモノ不足だ。

 しかも、新鮮素材で作れば、品質も悪くないはず。


「おー。なるほど、ええやんええやん! やろうやろう!」

「そうねぇ。……そうなると材料の確保だけど、」


 現実的に考えるジュリー。

 たしかにモノづくりには原料が必要だ。


「うん? それなら、工房の畑と裏の森になら色々あるよ──あとは金属とか中古品なら、村のゴミ捨て場のモノも持って行ったって誰も文句言わないだろうし」

 さすがプルート!

 材料の宛は既についているらしい。

「そうだな。……あとはダンジョンに潜ってもいいな。魔石や、皮や骨なんかのモンスター素材が取れるし──ドロップ品もな! うん、護衛なら俺に任せろ。装備さえ整えれば、俺が先陣をきるぜ!」


 ビシィ!

 と、親指で自分を指してアピールするロメオ。


 なんなら、ついでに冒険者クエストも一緒に受注してもいい。

 なにせ、現役冒険者だしね。……借金持ちだけど。


「どうだ? これなら、お金も稼げるし、素材も獲れて一石二鳥だろ」

「……ふむ、イイわねぇ」


 裏の畑と森で、薬草と木材、ついでに不法投棄されたブツ。

 村のゴミ捨て場で、錬金素材や鉄や銅のスクラップを。

 そして、ダンジョンに潜って魔物素材や、魔石にドロップ品──。


「だろ? よーし、なんか色々できそうな気がしてきたな!──おちついたら冒険者稼業と並行してやるぜ!」

「ふふ、やっぱりロメオは頼りになるわね」

 よ、よせやい、照れるぜ……。

「へへ、ウチもドリルで援護したるでぇ」


 いや。だから、ドリルっておま──。

 ……まぁいいや。


「うん。なんだか、具体的にやることが見えてきたわね。……いいわ、まずは一カ月で最低ラインである金貨120枚をコンスタンスに稼げることを目標にしましょ!」

「せやな! あとは兄貴の装備を質から戻しつつ、冒険者ギルドに融資金を返す──」

 そんでもって、

「──諸々終わったら、元本の返金だね! よ~っし、さっそく始めようよ」



「「「「おー!」」」」



 こうして、ロメオ達4人による借金返済が開始されるのだった──。






※ ※ ※


 一口メモ


 ●《レビュー1》ビター・スプリングス村


 どこにでもある一般的な田舎の村。

 山あり、森あり、田畑ありと、川あり湖ありの風光明媚な土地。


 人口およそ500人。


 主な名産は、小麦と淡水魚の干物。時々、山の幸。

 比較的モンスターは少なく、肥沃な大地のためか、住民は良くも悪くものんびりとしている。

 

 村の施設は、民会シンクまたは村役場、教会、駅(公共馬車)、

 民営施設は、宿屋、雑貨屋、工房、その他──舟着き場、狩り小屋、水車小屋等など。


 ちなみに、名前の由来は近隣の湖沼が流れ込む植物の成分のせいで渋い味がすることから来ているというが……。


※ ※ ※

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