僕と先輩のイケナイ実験室
ケロ王
第1話 キスの味は恋の味?
「
僕にそう言ってきたのは、
「今回の実験は、唾液による恋愛感情の高まりについてだ!」
「どういうことですか?!」
先輩の突拍子もない発言に、思わずツッコミを入れてしまった。そう、普段は凛として月のような澄んだ雰囲気の美少女だが、この実験室ではまるで別人で、ただのマッドサイエンティストだった。ここも実験室という名前ではあるが、実際は理事長の娘である先輩専用の部屋だ。もちろん防音設備も完備している。
これは先輩の提唱する恋愛性理論の数式である。恋愛感情は行動の内容と時間の二乗に比例するという極めてシンプルなものだ。
この理論を引っ提げて、先輩は自称恋愛性物理学の権威として書籍を何冊も出版しているのだ。もっとも、書籍のジャンルは学術書じゃなくて、サブカルチャーなのだが。
その権威と学園理事長の財力をもって、この実験室を恋愛性物理学研究の場としているのである。
そんな彼女との出会いは、入学して直後のオリエンテーション。そこで各クラスに生徒会長としてあいさつに回ってきたのが最初だった。それが終わって帰ろうとしていた所、先輩が僕たちのクラスに入ってきた。何事かとクラスの人たちが見守る中、まっすぐに僕の席にやってきたのだ。
「
そう言って連れてこられたのが、この実験室だった。彼女は部屋に入るなり、後ろ手に鍵をかけると、僕に迫ってきた。
「白木心くん。助手として、私の研究を手伝ってくれないかな?」
学園でも一位を争うほどの美少女であり、清楚で可憐。さらには学園理事長の娘とパーフェクトな彼女に迫られて、僕はNOとは言えなかった。その後で、彼女が恋愛性物理学という謎の学問の権威として何冊も書籍を出版していること。そして、彼女の本性がとんでもなく変態だということを知ったのだった。
「心くん。恋愛と言えばキスだろう? そして、キスをすると恋愛感情が高まるというのは明確だ。そこまでは分かるね」
「あ、はい」
僕が先輩との出会いに思いを馳せている間も、先輩が堂々と理論を展開していた。同意を求められて、思わずうなずいてしまう。
「そして、キスをすると口を通して、相手の唾液を摂取することになるだろう? 私はそこに着目したのだよ、心くん!」
「は、はぁ……?」
そして、論理がぶっ飛ぶのもいつもの流れだ。僕もいつものように気の抜けたような返事をする。だが、それを同意と受け取った先輩の理論はあっという間に成層圏を超えていく。
「すなわち、唾液を摂取することで、恋愛感情が高まる可能性があるということだ!」
なるほど……。これが最初の話に繋がるわけですか。なぜディープキスを前提に論理を飛躍させているのか意味不明だけど、言わんとしていることは分かる。理解できるかは別の話だけど。
「ふむ、すぐに理解するのは難しいか。だが、実験していけば理解できるようになるだろう」
「は、はぁ……」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて上機嫌に語る先輩に、やはり曖昧な返事を返した。だけど、一転して難しい顔をする。
「だが、一口に唾液と言っても、多くの成分が含まれている。有名なアミラーゼやラクトフェリン以外にも。今回はどの成分が有効に働くかは置いておいて、唾液そのものが効果があるかどうかを検証しようと思う」
「……そうですか。まあ、僕たち高校生ですから、そのくらいシンプルな方が良いかもしれませんね」
嫌な予感しかしないけれど、僕は先輩の話を聞いてうなずいた。それを見て嬉しそうに顔をほころばせる。
「そうだろう? それで今日はこれを用意した」
そう言って、テーブルの上に覆いかぶさった布をとる。そこには、オレンジジュースの入った紙コップが5つ並んでいた。
「心くん。君には、このAからEのコップに入ったジュースを飲んでもらう。そして、飲んだ後の感覚をレポートするんだ」
「えっと、何で5つもあるんですか?」
さっそくAのコップのジュースを飲み始めた。
「ジュースの中に、私の唾液を混ぜてあるからだが?」
「ぶっ、ちょ、ちょっと。それはどういうことですか?」
思わず飲んでいたジュースを吹き出してしまった。
「ちょっと、もったいないじゃないか。ちゃんと飲まないとダメだろう」
「当然のことのように言ってますけど、普通は後輩に自分の唾液を飲ませたりしませんよ!」
これに関しては、僕の感性の方が正しい、と思いたい。しかし、先輩は呆れたように肩をすくめる。
「やれやれ、これは実験なんだよ。別に心くんが私の唾液を飲んで見悶える姿を見たいわけじゃないんだ。もっと崇高な、そう恋愛という神秘を追求するという素晴らしい目的のためなのだよ」
どう考えても、前半部分に本音が出ているように思ったけど、追及してものらりくらりとかわされるだけだろう。憧れの先輩の唾液なら許せるかもしれない。そう思わされている時点で、僕も彼女にだいぶ毒されているようだ。
「それは理解しました。でも、何で5つもあるんですか? 対照実験だとしても2つでいいですよね」
「ふふふ、甘いよ心くん。唾液って言うのは、本人の感情によって成分が微妙に変わるらしいんだ」
「ということは、1つは入っていない。残り4つは感情が反映されているということですか?」
僕の問いかけに、先輩は自信満々にうなずいた。いったい、この自信はどこからくるのだろうか。
「もちろんだよ。1つは平常心の時の唾液、1つは哀しい映画を見たときの唾液、1つはお笑い番組を見たときの唾液、そして最後の1つはAVを見たときの唾液だ!」
「AVって……まさか?!」
「もちろんアダルトビデオだよ! ちょうど心くんみたいな男の子が甘えてくる……じゃなくて、私の仮説が正しければ、エッチな気分のときの唾液を飲んだ心くんは、ドキドキが止まらなくなるはずなんだ!」
途中聞き取りにくい部分もあったが、実験のためとはいえ、さすがの僕も少し引くくらいの変態っぷりだった。先輩に憧れる男子は多いけど、この姿を見たら引くんじゃないかな。
視線で急かす彼女に追い立てられるように、僕はAのジュースを飲み干した。
「うーん、特に何ともありませんね。ちなみにAには何が入っているんですか?」
「いやいや、教えられるわけないじゃないか。教えたら、消去法で中身が分かっちゃうしね」
それもそうか……。僕は納得してBのコップに手を付ける。ここで冷静に考えた僕は、AとBのコップ、どちらかには先輩の唾液が入っているわけだ。それを意識すると、間接キスをしているような錯覚を覚えて、顔が火照ってくる。
「うーん、ちょっとドキドキしてきたかも?」
「そう。それじゃあ次はCね」
C、D、Eと次々にジュースを飲んでは先輩に状態を報告する。残りが少なくなるたびに、ジュースの中にAVを見ながら先輩がエッチな気分になっている姿を想像してしまって、僕も不思議と気分が昂ってくる。
「さて、Eまで飲んでもらったけど、どうかしら?」
最後のEを飲んだところで、先輩が僕の顔を覗き込みながら尋ねてきた。彼女の黒い瞳に、僕の心臓が飛び跳ねる。
「え、えっと。かなりドキドキしてます。たぶん……」
「ふぅん、一応は効果がありそうね」
「そ、それで、望先輩の、その、エッチな唾液って、どれに入ってるんですか?」
僕の関心は実験の趣旨である唾液の種類ではなく、本命の唾液がどれかというところに向いていた。そんな僕の心を見透かしたように、先輩は悪戯っぽく笑う。
「全部よ」
「えっ?」
「だから、全部が私のエッチな唾液よ」
「うわっ、もしかして騙したんですか?」
それにしても仮にも女子高生なのだから言い方もあるだろう。しかし、平然と言ってのける先輩の姿に、自分だけがドキドキさせられて不公平だと感じざるを得ない。
「いいえ、これも実験のうちよ。どれかに当たりが入っていると思えば、それを特定しようとするでしょ? それじゃあ、正確な実験とは言えないじゃない」
「それだと、唾液の効果かどうかわからないじゃないですか?」
「そんなことはないわ。心くんがジュースを飲むたびにドキドキしていったでしょ?」
その言葉に、僕は何も言い返せなかった。まさに、先ほどまで身をもって体験したことだからだ。
「そこから導き出される結論は、エッチな唾液には摂取量に応じて、恋愛感情を高める効果があるってことよ」
悔しいけど、先輩の理論は完璧だった。ジュースを飲んだ僕の恋愛感情は、確かに飲んでいる量に比例してドキドキが増えてたからだ。一方で、その理論を素直に受け入れたら負けだと思った僕は、必死で穴を探そうと視線を走らせる。
ちょうど目に留まった先輩の顔。よく見ると、うっすらと頬が朱く染まっていた。
「もしかして、先輩もドキドキしてるんじゃないですか?」
「えっ、そ、そんなことないよ。心くん!」
全力で否定してはいるが、その声は上擦っていて明らかに動揺が見えた。
「ダメじゃないですか。僕の目を見て、ちゃんと答えてくださいよ」
僕の言うとおりに目を見て答えようとするけど、顔を真っ赤にして言葉を詰まらせてしまった。
「あううう、心くんのいじわる……」
真っ赤な顔で瞳を潤ませる彼女の顔を見て、僕の顔までつられて真っ赤になってしまった。
「あはは、どうやら唾液とか関係なさそうですね……」
「うん、そうだね……」
どうやら今回の実験は失敗に終わってしまったようだ。そこで冷静さを取り戻した僕は、最初から疑問に思っていたことを尋ねることにした。
「そう言えば、なんでキスの実験なのに唾液なんですか?」
「えっ? それはキスすると唾液が混ざり合うじゃないか。口と口を付けるんだぞ?」
「いや、別にキスってそれだけじゃないんですけど。口以外にもほっぺたにしたりするじゃないですか」
僕の言葉に、先輩は初めて地動説が正しいと知った時のような驚きの表情を浮かべていた。
「何だって?! 言われてみれば、確かに……。私としたことが、こんな簡単な事にも気付かないとは」
「ホントですよ。もしかして、僕が先輩の唾液を飲んだのは最初から無駄だったということですか?」
「え? あははは。そんなわけないじゃないか。だけど次の実験のテーマは決まったな。キスをする場所による恋愛感情の変化についてだ!」
「いい加減、キスから離れません?」
一週間後、先輩に呼ばれて実験室に行くと喜色満面で出迎えられた。
「心くん。前に言っていたキスの場所による恋愛感情の変化についての実験をするぞ」
「ということは調べ終わったんですね」
「もちろんだよ。私は優秀だからね!」
先輩は両手を腰に当てて控えめな胸を張った。そんな僕の感想に気付いたのか、ニヤニヤと笑う。
「ふぅん。どうやら心くんは、私のおっぱいに興味深々なようだね」
「いや、そんなことは……」
否定しようとして言い淀む。僕の視線が先輩の胸に吸い寄せられていたのは事実だったからだ。
「まあいい。調べたところ、キスする場所は意外に多いことが分かった。まずは唇。それから額と頬。胸とおへそ。内腿と足。脇の下と首筋。それから……おしりとあそこだ!」
「えっ? あそこって、まさか?!」
「ふふふ、(自主規制)に決まっているではないか。だが、コンドームはちゃんと用意してある。もちろん、薄さ0.01ミリだ。ちゃんと薬局で、『一番いいのを頼む』と言って出してもらった」
まさか、先輩の口から(自主規制)なんて言葉に驚いた僕は、彼女の顔が真っ赤になっていることに気付いた。そもそも未成年が薬局でコンドームを買うのは大丈夫なのだろうか……。
「そんな顔を真っ赤にしてまで、言うほどのものではないでしょう?」
「失礼な! 高尚な実験道具だぞ。恥ずかしいなんてことはない。さあ、実験を始めるぞ。準備したまえ」
まずは無難なところから、ということで、額や頬に彼女の唇が触れる。プルンとした柔らかい感触に、くすぐったさと同時に照れくさい気持ちが押し寄せてきた。
「んふぅ。どうだい、心くん」
「額はちょっとくすぐったい感じでした。ほっぺたはちょっとドキドキしました」
「いい感じだ。どんどん行くぞ。早く上半身裸になりたまえ」
先輩は僕のシャツを剥ぎ取ると、胸とおへそに唇を付けてきた。胸の先っぽに彼女の唇が触れると、少し痺れるような感覚が胸の周りに広がっていくように感じられた。
「んあぁ……」
「ふふふ、次はおへそだ」
そのまま彼女の顔が下の方へと向かい、おへそに唇が触れた。彼女の唇の感触がおへそを通して下半身を電流のように広がっていくように感じられた。
「んんっ」
「どうだい、心くん」
「ぞ、ぞくぞくしてきます……恋愛感情、とは違うような?」
「そうか。では、次は足に行こうか。靴下を脱ぎたまえ」
今度は僕の足に彼女の唇が触れる。先ほどのような悶えそうになる感触はなかったので安心していた。
「どうだい? 心くん」
だが、先輩が上目遣いで僕を見上げてきたとき、普段の凛としている彼女とのギャップが激しすぎて、思わず可愛いと感じてしまった。
「ええ、ええっと。キス自体は、普通でしたね」
「なるほどなるほど。それじゃあ、いよいよ唇だね」
そう言って、先輩は僕の口に唇を近づけてくる。思わず目を瞑ってしまった直後、僕の唇に彼女の柔らかい唇の感触を感じられた。それだけで僕の心臓はドキドキしていた。だけど、それで終わらなかった。
「んんんぅ?!」
彼女の唇の間から柔らかい舌が出てきて、僕の唇に触れる。そのまま僕の口の中へ侵入しようと上下に動き始めた。その動きに驚いて、思わず飛び退いてしまった。
「心くん。まだ終わっていないんだが?」
「先輩、何やってるんですか? 唇でキスするだけですよね?」
「そうだが? 唇でキスするときには舌を口に入れて互いの舌を絡ませ合う、と資料に書いてあったんだが」
先輩の辞書にディープキスしかない理由が分かった気がした。僕は彼女の舌の余韻を唇に感じながら抗議する。
「たしかに、そういうキスもありますけど! そうでないキスもありますよ!」
「何だと? そうなのか……。だが、確かに唇同士だけでも十分な気がするな」
言葉こそ冷静だけど、先輩も顔を真っ赤にして目を泳がせていた。どうやら、ドキドキしているのは僕だけではなかったようだ。
「それじゃあ、次に行こうか。次は、内腿だな。心くん。ズボンを脱いで、机の上に座りたまえ」
ズボンを脱がせて、ブリーフ姿になった僕は、実験室の机の上に腰かける。先輩は僕の両足を開かせると、その間に顔を入れてきた。
「心くん。これは実験なんだよ。恥ずかしがっていちゃダメだ」
「は、はい……」
女の子の顔が僕の足の間にあるという、人生で初めてのシチュエーションに僕の心臓は高鳴り、顔が火照る。しかし、先輩の方も顔が赤くなっていて、呼吸も荒くなっていた。
「はあはあ、これが心くんの……」
先輩は僕の股間の膨らみを見ながら、内腿に唇を付ける。大事な場所の近くに柔らかい感触を感じて、しびれるような快感が下半身に広がっていった。
「んんっ、せ、先輩……」
「どうだね、はあはあ。心くん、はあはあ」
「と、とってもドキドキしてます。でも、恥ずかしいです……」
「いいねいいね。はあはあ。それじゃあ次はおしりだ。パンツを脱いでうつぶせになりたまえ」
僕も興奮してきているのだろう。先輩の言葉を素直に聞いてパンツを脱いだ。さすがに恥ずかしかったので、手で前を押さえながらうつぶせになる。
「はあはあ、それじゃあ、いくぞ」
その言葉と共に、僕のおしりに彼女の粗い鼻息がかかる。くすぐったいような、それでいてもどかしいような衝動が、僕の中で暴れ回る。
「あっ!」
「心くん。はあはあ、まだ何もしてないぞ」
僕の中に渦巻く衝動が一点に集まり始めて、確かな形をとり始めるのを感じて、短く喘いでしまった。無情にも、先輩の唇は僕のおしりに向かって刻一刻と近づいていた。
「あああっ!」
先輩の唇が触れた時、これまでとは異質な感覚がおしりから広がっていく。それは
まるで蛇が僕の身体を汚そうと這いまわっているようにも感じられた。
「ふふふ、はあはあ、これまでで一番、はあはあ、いい反応だね」
「そ、それは……はあはあ」
彼女の昂りが僕にも伝染しているように、僕の身体も昂ってくる。理性のタガをぶち破ろうと、何度も欲望の塊が何度も身体の中で暴れ回っていた。
「はあはあ、先輩、もう、終わりにしましょう」
「はあはあ、何を言っているのかね。これからが本番だよ。ほら、今度はそのまま机に座りたまえ。もちろん手で隠しちゃダメだぞ」
僕は机に腰かけてゆっくりと手を机の方に持っていく。僕の身体と同じ慎ましいあそこが、感情の昂りによって、精一杯の主張をしていた。
「こ、これが……。はあはあ、お、大きい……」
先輩がマジマジとそれを凝視する。その視線ですら、僕の身体に快感を刻み込んで、よりいっそう昂らせようとしていた。
「はあはあ、先輩、み、あんまり見ないでください。恥ずかしいです……」
「ふふふ、はあはあ、そうだね。実験をしないとだからね。まずはこれを付けてみるか」
先輩はコンドームを手に取ると包装を破って中身を取り出した。そして、そのまま動きが止まる。
「先輩?」
「付け方が分からない。だが、数はあるから問題ないだろう」
問題しかないことを言いながら、顔を近づけてコンドームをあてがう。しかし、位置が安定せず、うまく付けられないようだった。先輩は固定するために手を伸ばす。
「先輩、ぼ、僕が固定するんで、付けるのに集中してください!」
「ん、そ、そうだな!」
僕が自分の手で固定して、彼女が先端をコンドームに押し込んでいく。
「あれ? これ以上、伸びないな……」
「あ、あ、せ、先輩、ちょっとストップです!」
先端に何度も付けたり外したりする。その刺激で、快感と興奮が凄まじい勢いで上昇していた。
「これ、根元の部分が丸まっているようになっているんで、そのまま開くように降ろせばいいんじゃないかと思います」
「おお、さすがだな。心くん」
「ひゃああああ!」
僕のアドバイスを聞いた先輩が、コンドームを開くように押し下げていく。当然、彼女の手が刺激を与えながら。僕は突然訪れた、その刺激に思わず叫び声を上げてしまった。
「はあはあ、やっと付けられたぞ、心くん。はあはあ、それじゃあ、実験再開と、はあはあ、行こうじゃないか」
いよいよ先輩が僕のあそこにキスをしようと顔を近づけてくる。ますます荒くなる彼女の鼻息が下半身を撫でまわしてくる。
「はあはあ、この匂いは、はあはあ、何とも、はあはあ、きゅうぅぅ……」
キスをするまで、あと数センチというところで彼女は倒れてしまった。どうやら興奮しすぎてしまったようだ。
これ以上、実験を続けられないと判断した僕は、そそくさと服を着る。倒れている彼女の頭を少しだけ持ち上げると、膝の上に乗せる。普段の凛として、みんなの憧れの先輩。実験しているとき、変態的に僕に接する先輩。それらとは違う、無防備な少女としての先輩はとてもかわいらしく感じられた。その感情に突き動かされるように彼女の頭を撫でてあげた。
「んんんぅぅ。うーん、心くん、だいすき……」
無防備な先輩のまっすぐな告白に、思わず僕の顔が火照る。だけど、まだ意識が戻っていないことに気付いて冷静さを取り戻し、ふたたび頭を撫でる。
三十分ほど経った頃、先輩は突然目を覚ました。がばっと起きて、僕を見つめる。
「ごめんなさい。見苦しい所を見せちゃったね……」
「大丈夫ですよ。先輩が無事で良かったです」
落ち込んだ様子の先輩を見ていたくなくて、努めて冷静に返す。そんな僕の様子に自嘲気味な笑みを浮かべる。
「いつもそうなんだ、私は。何でもうまくやろうとするんだけど、最後の最後で失敗する。今回みたいに。心くんも失望しただろう?」
うつむいたまま肩を震わせる先輩の姿は、まるで小動物を思わせるような弱さを感じるものだった。思わず抱きしめたくなる感情を抑えて、僕は彼女の手を取った。
「そんなことはありません。僕にとって先輩はいつでも、どんな姿でも、憧れの存在です。先輩が失敗するなら、頑張って成功するように手伝ってあげます。まあ、実験の内容はもう少し考えて欲しいですけどね」
僕の苦言交じりの励ましに、「くくくっ」と先輩が苦笑する。
「正直だね。心くん。まあ、君らしいっちゃ君らしいけど」
「さあ、先輩、次の実験の計画を立てましょう」
「そうだね、心くん。恋愛の謎には終わりがないからね!」
「でも、今日は疲れたので終わりにしましょうね」
疲れたような表情で、先輩に微笑みかける。先輩も疲れているようで、大きく息を吐いた。
「そうだな。実験お疲れ様、ってことで、マクドにでも寄っていこうか」
「はい、先輩!」
僕たちは、足取りも軽やかに実験室を後にした。
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僕と先輩のイケナイ実験室 ケロ王 @naonaox1126
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