運命はいつも突然

「なんか、顔違くないか?」


ついつい聞いてしまった。

地雷を踏み抜いただろうか。

僕の言葉に目を丸くし、言葉を詰まらせながらも彼女は答えた。


「君は目を逸らすのが上手いからね。今頃私の魅力に気づいた?」

彼女の毅然とした態度に僕はもっと踏み込んでしまった。

「勘違いならいいんだけどさ。…もしかして、整形した?」


「言語同断チョップ」

有無を言わさぬ合掌が、無慈悲に少年の頬に叩きつけられた。

「痛い」

「失礼な発言には手刀が飛ぶから」

威力は十分。いや十二分。


「少しは手心があっても…」

「手加減はしないのが私の優しさだよー」

悪びれもせずよくそのセリフを言えたもんだ。


でも知らないうちに自然と心に張り付いたモヤも少し薄くなった気がする。そう思うとベットの上で自慢げにairチョップをしている彼女は心なしか力強く、彼女の笑顔がほんの少しだけ眩しく見えた。


「そういえばまだテニスはやってるの?」

彼女が尋ねてきた。

「うーん、今はやってない、ね」

油断していたせいでおぼつかない返事をしてしまった。

話を変えようと口を開けたと同時に彼女が突っ込んできた。


「あんなに頑張ってたのにやめたんだ」

彼女は痛いところをついてくる。

おまけにレスポンスも早い。

言い訳をしようと必死に口を動かした。

脳裏に刻み込まれたこの光景は、今でもたまに夢に見る。


「また、テニスをやるつもりはないの?」

彼女の言葉で現実に引き戻される。

「…ないね」

「君がテニスをしてるとこ、かっこいいと思ってたんだけど残念」

「褒められると照れる」

「照れるな」


彼女に頼まれたとしても、もうテニスをやるつもりはない。

というよりできない。

逃げたと思われるかもしれない。

だけどもう、あんな目に遭うのは懲り懲りだ。

人生にも疲れた。


学校も、部活も、クラスの人と話すのも、もう何も見たくない。

こんなに頑張ったんだし、楽になっても、いいんじゃないかな。


「でも人間関係で悩んでいるなら無理はしないほうがいいよね」


体が、質量のある空気の流れに耐えきれず、その一瞬、釘付けにされたように動けなかった。

「……そのこと話したっけ」

「いや、聞かされてないね」

彼女は平然とした口調でそう言った。


恥ずかしさや驚きが一気に全身を回って頂点に達した。

多分、その時の僕は限界まで目を見開き、青ざめていたと思う。

正直そこまで見透かされているとは思っていなかった。

「なんでわかったの?」

そう彼女に問う。


「それは君が顔に出やすいタイプだからかな?」

僕の問いは、はぐらかされって返ってきただけだった。

彼女は僕の顔をまっすぐみてくる。

咄嗟に目を泳がしてしまう。


「全く見当違いのことかもだけど、もしかして自殺しようとしてる?」

自殺という言葉に少し体が反応した。

彼女はいつから気づいていたのだろうか。


「………どうなんだろう、ね」

直接言えず曖昧に誤魔化した。

多分彼女は分かっている。


「今日君が突然来たのも最後に私の顔を見たくなったとかなの?」

「…心を読まれている気分だ」

とうとう言ってしまった。

でも半分バレていたから嘘をつく理由もない。

恐ろしい洞察力を前に僕は縮こまるしかなかった。


僕の問いに彼女は「だから君は顔に出やすいんだって。それだけだよ」と言った。

長く付き合っていると相手の考えも少しはわかるようになるのだろうか。僕は相変わらず君の考えが読めない。

少しの間だけ沈黙が続いた。

その沈黙を破ったのは彼女だった。


「じゃあ君の素直さに免じて、特別に私の秘密を君に教えようかな」そう前置きをして彼女はまっすぐ僕を見た。

目を逸らそうにもその瞳にどうしても吸い寄せられる。



え…もしかして告白⁉︎

彼女をこんなに真剣な表情にさせるなんて他に思いつかない。

だからあるとすれば僕への告白だ。

心なしか彼女も少し緊張して耳が少し赤くなっているように見える。いや、それは気のせいか。

そんなことを考えている間に彼女は準備を整えたようで僕の方に向き直り、そして意を決したように口を開いた。


「私、寿命がもう、一ヶ月もないんだ。」


「…え?」

「そういうことなんです」

「エープリルフールにはまだ早いけど、、、」

「ほんとにほんとだよ。信用ないなー、事実なのに」

「…そうかー」

「そうだよー………リアクション、少なくない?」

「次はもっと驚くよ…」


別に彼女の死について思うところがないわけではない。

ただ、彼女の言葉に必死に思考を巡らせた結果たいした答えは出せなかっただけだ。


そのあと、彼女は病気について色々話してくれた。

彼女の病気は国が指定する難病の一つで多分治せるようになるのは何十年も先、もしくは治せないかもしれない。


大人にもなれずに死んでしまうなんて可哀想だとも思う。

なんとなく彼女の顔を覗くと彼女は「大丈夫だよ、多分、もしかすると、めいびー」と言って彼女は笑った。

そのどこかあどけなさの抜けない笑顔に、なんとも言えないもどかしさを感じた。

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