君と夏の終わりに
夏はかき氷
再会
病院の無数にある部屋の一つ。
ある一人の少女が物寂しげに窓の外を眺めていた。
「いつまでこんな生活が続くのかな」
毎日窓辺で、そんなたわいもないことを思い浮かべてはつぶやく。
口にするだけで実際は行動に移していないので、何も変わることなく、時間だけが過ぎてゆく。
彼女は不治の病に侵されていた。
そのことがわかったのは一ヶ月前の、幸か不幸か交通事故に遭い、病院に運ばれて検査を受けている時のことだった。
医者に宣告された余命はあと僅か。
刻一刻と死へのタイムリミットは迫り、残された時間は限りなく少ない。
太陽が沈むのを病院の窓から眺めるたびに、また終わってしまうという焦燥感に似た喪失感に襲われる。
先のわからぬこの未来は、一体これからどこへ向かってゆくのだろうか。
真夏の青空の元に光り輝く太陽が、道路を練り歩く老若男女の肌を平等に照りつける。
襟元をくすぐるような風が身体を流れる汗を冷やし、止めてくれる。
しかし自転車を漕ぎ出してすぐ、少年の額の毛穴から汗が吹き出した。
実は元級友が事故にあったと知り、お見舞いのために病院まで向かっている。
正直なところ気に留めるほどのことでもないかもしれない。
しかし、偶然にも彼女が入院している病院はこの辺では唯一ある総合病院で、僕の家からも比較的近かった。
運命とまでは言わないが何か縁のようなものがあるような気がする。
もしかしたら無意識に昔の思い出を繋ぎ止めようとしていただけだったかもしれない。
ただ久々に彼女の顔を見たい。心からそう感じた。
病院の駐輪場に自転車を止め、入口に設置された自動ドアを潜り抜ける。
受付で病室を聞き、階段を登って突き当たりの角を曲がった。
気づくと、彼女の病室のドアの前まで来ていた。
大きく深呼吸をしてドアをノックする。
中から聞こえてきた声はやっぱり彼女の声で、少し懐かしいものが込み上げてきた。
ドアを開けると部屋の照度が一気に上がったような感覚に陥る。
まず目に飛び込んできたのは虚飾のない、海のように深く澄んだ瞳。
視線が交わった瞬間吸い込まれるような錯覚を覚えた。
そして次に目を引いたのは彼女の纏う、自然と人を惹きつけるような独特の雰囲気。
何か儚いような、触ったら崩れてしまうような溶けて消えてしまうような気がした。
“愛されている”なぜかはわからないけどそう思った。
この妙に懐かしいような感覚はいつぶりだろう。
驚いて開いた口が塞がらない僕を見て、彼女の方が先に口を開いた。
「久しぶりだね」
彼女に会うのは約3年ぶり。
本当に久しい。
久々に見た彼女は見違えるほど綺麗になっていた。
なんだか彼女が驚いてくれることを少し期待していた自分がバカみたいだ。
「もっと驚いてくれるかと思ったんだけどな」
僕の言葉に「そろそろ君が会いに来る頃だと思ったんだ。タイミングが悪いね」そう言って彼女は笑った。
言葉遣いが時の流れを感じさせる。
わかっていたことだけど、もうあの頃の君はいない。
けれどやっぱりそれが、一番君らしい。
「でも、君の方から来てくれるなんて珍しいね?」
彼女が話しかけてきた。
「たまにはそういうこともあっていいとか思ったりしたんだ」
ふ〜んと聞いているのか聞いていないのかわからない返事で彼女は言葉を切った。
相変わらず何を考えているのかよくわからない。
改めて彼女を見ていると、以前と変わらない弾けるような笑顔に、ずっと昔、白くぼやけてしまった記憶のかけらが脳を掠める。
それと同時に奥にしまい込んだはずの思い出が質量のある波となってドッとなだれ込んできた。
複雑に絡みついた感情が込み上がり、無意識に体が浮ついてしまう。
今は過去となった思い出が寂しさを運んで、もうあの時には戻れないという虚しさだけが頭に残る。
記憶の中の彼女はいつも笑っている。
けれど、当時と今では印象も雰囲気も全然違う。
心なしか前よりイキイキしている様な気がする。
というかやっぱり顔が少し違うように思う。
「…なんか、こういうのもなんだけどさ、ほんとに言いにくいんだけどさ?」
僕のもったいぶるように言った言葉に彼女は首を傾げた。
「何?トイレなら出て右だけど…」
彼女の不思議そうな表情を前に、意を決して自分の感じたことをそのまま口に出した。
「なんか、顔違くないか?」
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