第59話 受け継がれてー2
「おやすみ、夜虎」
「おやすみ、ローラ…………って言うわけないだろ! 何で布団にもぐりこんでるの!? どうして?」
「私にアナログな鍵なんか効果あるわけないでしょ? 氷で作ったわ」
「俺はどうやったか。ではなくて理由を聞いてるんだけど……」
俺達三人で寝ようとしたらローラが俺の隣に、もぐりこんできた。
当然のごとく不法侵入である。
俺とゼフィの間に無理やり入ってきたローラは、俺の方を見る。う……近い。
「それはこっちのセリフなんだけど。どうしてゼフィロスがここにいるの? それにこのほとんどゼフィロスは誰?」
「話せば長くなるんだが……」
「構わないわ。夜は長いもの。知らない女との同衾の言い訳だけは聞いてあげる。もし納得できなかったら今日から管理ね」
「だから管理ってなに!?」
ニコっと笑うローラに背筋を凍らせながら、俺はゼフィを見る。
すると話していいよと言わんばかりに、コクリと頷いた。
「はぁ……わかったよ」
そして俺は全てを話した。
「事情はわかったわ。それと……ごめんなさい。ゼフィロス。私はあなたの過去を知っているつもりだった。でも……違った。何も知らないくせに偉そうなことを言ったわ。謝罪します。ごめんなさい」
「気にしないで。その……オーロラ・シルバーアイス……さん?」
「…………ねぇ私もゼフィでいいかしら」
「え?」
するとローラはゼフィロスのほうを向いて、その手を握った。
「私もローラでいいわ」
「…………うん」
ローラはきっとゼフィの過去を少し自分に重ねているのだろう。
それは同情かもしれないが、そこから始まる友情があってもいいと思う。
それからローラとゼフィはたくさん語り合っていた。
お互いの過去含めたくさんだ。
リリアも混じって、まるで女子会のようだった。
俺は少しコンビニに行ってくると部屋を出た。
「…………で、今に至るわけですよ。貴人清十郎さん」
「もう深夜1時なんですが、白虎夜虎さん」
俺は清十郎の学生寮に突撃した。
ローラには、二人でたくさん話してくれと伝えて。
「ということで泊めてくれ。せっかくだしローラとゼフィが仲良くなってくれればいいなって」
「相変わらずだな、お前は……はぁ。ちょっと待ってろ。目が覚めちまった」
すると寝間着姿の清十郎が立ち上がった。
キッチンに向かって、そして。
ドン!
机に氷の入ったグラスを二つ、そしてコーラとポテチ。
「御屋形様のこともあるから大々的にはできないだろ。だから俺ぐらいは……祝ってやるよ。五大覇祭、優勝おめでとう」
「…………お前ってなんで彼女いないの?」
「煽ってんのか? 俺が聞きたいわ」
それから俺と清十郎は五大覇祭のことや色々語りあった。
千代子婆ちゃんの昔話をした。
昔、俺と清十郎でいたずらしたら雷槍の拳骨食らったなとかそんなどうでもいい話。
でもそんな思い出ばかりが出てくる。
そんなどうでもよくて、当たり前で……かけがえのない日常の記憶ばかりが。
夜は更けていく。
少しずつ俺は大切な人の死を実感し、受け入れる準備を始めていた。
悲しいけれど、それを千代子婆ちゃんも望んでいるから。
だから前に進め。
迷っている暇なんかない。
俺は強くならないといけないんだから。
でも……今日ぐらいはいいよね、婆ちゃん。
翌日。
俺達は喪服を着て、国葬会場――日本武道館へと向かった。
会場中央に設けられた巨大な祭壇は、中央には千代子婆ちゃんの遺影が置かれていた。
日本の国旗と共に、多くの花束が置かれている。
会場には、ローラもゼフィロスもアザルエルも、冥もいた。
もちろん、その親である現当主達もだ。
五大貴族の面々は全員揃い、もちろん日本の経済界、政財界の大物も揃う。
紫電千代子――100年近くこの国を守り、世界中に影響力を与える人物の死は、世界的なショックを与えた。
総理大臣――大和田重国による開会式の辞が読まれ、国歌斉唱、黙とう。と式は続いていく。
そして。
「曾祖母である紫電千代子は……偉大な魔術師として、この国を長らく守ってくれました」
静香お姉ちゃんによる追悼の辞が読まれる。
俺は静かに聞いていた。もう受け入れる準備はできている。
千代子婆ちゃんの死因は老衰として発表された。
事実を知るのはほんの一握りだけだ。
遺書にも書かれていたが、酒吞童子のことは秘匿しなければならない。
倒せない
そして、俺の献花の番がやってきた。
俺は花束をもって前に行く。
世界中の注目は集まった。
「千代子婆ちゃん……俺、頑張るから」
祭壇に花を置いて、遺影を見る。
そのときだった。
「ここで、生前。紫電千代子が残した言葉を読み上げます。白虎夜虎……並びに五大貴族の令嬢達へ向けて。これが本当の最後の言葉です」
「え?」
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