第三章 京都百鬼夜行

第56話 朱色のプロローグー1


 この日、紫電の魔人――白虎夜虎は文字通り人類最強となった。

 こうして長かった五大覇祭は、子供達の全力をもって、最高の結果として終わった。


 だが夜虎はまだ人類最強であって、世界最強ではないかもしれない。

 だから、親善試合という名の戦いは終わり。



 ――罪と人の本当の殺し合いが始まる――

 


 ドローンの接続が途切れた。

 テレビ中継は終わり、砂嵐が映り、画面は実況席へと切り替わる。

 あらゆるすべてが迅速に、まるで初めから予定されていたように。


 それは千代子の命令だった。

 事前に全て伝えられていた通り。

 そして計画通りだった。


 周囲すべての住民は危険だからと避難している。

 だが本当の危険は夜虎とゼフィロスの戦いなんかじゃない。



 そして千代子は夜虎の目の前に降り立つ。


「夜虎、よくやった」

「あ、千代子婆ちゃん。色々大変だったけど……頑張ったよ」


 夜虎は体を起こして立ち上がる。


「あぁ、本当によくやったよ。褒美をやらないとね。目を閉じて、魔力を切りな」

「え? なんで?」

「いいから。早くしな。これは命令だよ」


 夜虎は首をかしげるが、千代子のことを信頼しているので頷いた。

 目を閉じ、常時展開している魔力の鎧すら全て押さえこんだ。


 その瞬間。


「ごふっ!?」


 紫電千代子の雷を纏った一撃が夜虎の腹部を直撃した。

 大事はないが、蹲り、気絶するように夜虎は倒れた。

 元々限界だったうえに、完全なる無防備状態の不意打ち。


「なんで…………千代子婆ちゃん」

「語りたいことは全部、手紙に残してある。すまないねぇ、騙して……でも、後生だ。あんたにとっちゃ呪いだろうけど、それでも頼むよ」


 夜虎は薄れゆく意識の中、千代子の背を見つめた。

 サムズアップし、そして言った。


「この国を任せた…………あんたならできる」


 そして夜虎は意識を失った。


「清十郎!!」

「はい!!」


 すぐに現れた清十郎は、夜虎を担いだ。

 そしてすぐさまその背を向けた。


「頼んだよ」

「…………はい!」


 清十郎は夜虎を連れて逃げた。

 そしてエウロスも降りてきて、ゼフィを抱きかかえる。


「後は任せていいんだろうね。エウロス……その子達含めて全員」

「任せろ…………お前も武運を祈る」


 千代子はははは!っと高笑いする。

 そして五大貴族含め、その全員がその場から退避した。

 競技場には、誰もいない。


 紫電千代子一人を残して。


「さてと…………首尾よくいったね。あとはあたし次第かい。ゴホッ!!」


 千代子は吐血する。

 それを見て笑った。


「なんとか間に合ったか。しかし……余命を過ぎたおいぼれにしちゃぁ……最高の死に場所だねぇ」


 千代子は、煙草に火をつけて大きく吸い込んだ。

 そしてゆっくり口を開き、目を閉じた。


「20年前は、あたしは五大貴族会議ノブレスで、海外だった。するっていうと、虎太郎様をお前が殺したあの日以来かい……」



 ドン!!


 空から何かが降ってきた。

 千代子の後ろに立つ。そして千代子はゆっくりと振り向いた。


「100年ぶりだね。酒呑童子」


 そこには鬼が立っていた。

 憤怒を抱えた朱色の鬼が立っていた。


 怒りで我を忘れ、理性を失っている。

 それでいて燃え上がるような炎のような朱色の体を持ち、だが大きさはそれほどではない。

 成人男性の一回り大きい程度の鬼は、しかしそれでいて。



『がぁぁぁぁぁぁぁ!!!』



 夜虎をも超える世界最大の魔力を持っていた。

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