第54話 純白の風龍ー3
二人はそしてぶつかった。
競技場など、もはや形をとどめていなかった。
半径10キロ以内に避難勧告、それでも魔力の余波だけで死人がでるような衝撃。
まるでそこで戦争が起きているかのよう。
しかし、二人は戦った。
一人は最強になるために。
一人は最強であるために。
形も想いも意思も違うが、その願いだけは本物だった。
「純白の龍槍!!」
「雷槍!!」
砕ける両者の槍、激しい戦いで、血が流れて、その血がぶつかり、弾き合わずに溶けあった。
「私は負けない!!」
「いいや、俺が勝つ!」
感情を剥きだし、ぶつかり合って、弾きあう。
ずっと無表情だったゼフィロスの必死な表情に、一番驚いているのは、エウロスだった。
「ゼフィが……感情をあそこまでむき出しに」
「あてられたんだろうね、夜虎に、ローラに。真正面からぶつかってきた強い意志に」
「あてられた……だと? 10年、何も変わらなかったというのに、たった数日出会ったばかりの子にか」
「バカだね、あんたは。時間じゃないさ」
千代子は、夜虎とゼフィロスを見て微笑む。
「ゼフィロスに……あの子に私たちがしたことは許されることじゃない。あたしたちは、いや、お前だって……なんとかあの子を立ち直らせようとした。けど記憶を思い出すたびに、測定不能の魔力が暴走し、周囲一帯を吹き飛ばす。だからもうしかたないと諦めていた。大人は汚いね。見たくないものには蓋をして、現状維持で満足して、仕方ないんだと理由をつけて諦めて。でも……見な、エウロス」
「…………」
そしてエウロスは、眉をひそめて、それを見つめた。
「もっとこい、ゼフィロス! 君の最強はこんなものか!」
「私が最強だぁぁぁ!」
触れるだけで消滅するようなゼフィロスの理外の魔力と暴風を、真正面から雷と共に受け止める少年を。
「真正面からぶつかって、馬鹿正直につっこんで。もっと賢い方法もあるだろうに……でもだからこそ、あの子の槍はまっすぐ届く。救いたいのさ、心の底から。あたしたち大人が諦めたもん全部ね。優しいんだ、夜虎は」
「…………白虎夜虎。因果の外の……魔術師か。お前の意思は……ゼフィの心にも届くというのか」
「はぁはぁ……」
「はぁはぁ……はぁはぁ」
息を切らせて、向かい合う二人。
膨大な魔力を持つ二人をして、体力の消耗が激しい。
「なんで…………なんでこんなに……強いの。あなた何……なんなのよ」
「白虎夜虎……夜虎でいいよ。それにこんなもんか? 俺はまだまだいけるぞ。これなら俺が最強だな」
夜虎は肩で息をしながら煽るようにニコッと笑った。
「それにさ、強い理由なんて……俺も君も同じだよ。強くなきゃ、守れない。だから強くなってきた。……そうだろ」
「そう……だから私が、最強じゃなきゃいけないのぉ!!」
迸る雷の槍、渦巻く純白の槍。
お互いの意思を込めて、ぶつかり合う。
せめぎ合う。
魔力の衝突はこの国すらも揺らす
地面はひび割れ、競技場は遂に倒壊した。
そして砂塵舞い上がり、しばらくして立っていたのは。
「はぁはぁ……」
夜虎一人、だった。
ゼフィロスは、地面に倒れている。
実況は、マイクを持った。
『勝利? 勝利…………ですか? 白虎夜虎さんの勝利ですか!!』
そう叫ぼうとしたが、夜虎がドローンに向かって、手でその発言を止めるように。
ドクン!
ドクン!!
「…………やっと出てきたか、君の最強が」
夜虎は、深呼吸してそれに備えた。
かつてないほどの緊張、自分でも死ぬかもしれないという恐怖。
だからこそ逃げない。
自分以外には彼女を救えないから。
そして純白がゼフィロスを包み込む。
まるで白い繭のように。
◇ゼフィロス
私は……強くならなきゃいけない。
ゼフィロスは、その繭の中で胎児のように包まれて思い出していた。
あの日々のことを。
「いや……いやぁぁ!! 死なないで、死なないで!! お願い! お願い!」
「はぁ……はぁ……なにやってんのよ、バカゼフィ」
目の前で冷たくなっていく私の同い年の姉、エミリ。
とろくさい私を引っ張ってくれる大好きな姉だった。
その傷口を、必死に止めるがその血は止まらない。
「戦え……バカ。なんのために…………誰のためにやってると思ってんのよ!! ゴホッ!!」
「エミリ!! 喋らないで!! お願い! 死なないで、死なないで!!」
「バカゼフィ…………あんたはほんとに仕方ないわね。私は死ぬの。仕方ないの。だから約束して」
そしてエミリは涙を流しながら、血だらけの手で私の頬を優しく撫でた。
「最強になれ。そして……あんたは私たちの分も生きるの。わかった? バカゼフィ」
そして一番仲が良かったエミリが、死んでしまった。
眼前には、黒い鬼。
私が……戦わなかったから……みんなが死ぬんだ。
「助けて! ゼフィ!!」
「待って……待って!! お願い、待って!!」
そしてまた一人、お姉ちゃんが死んだ。
妹が死んだ。
みんな……死んでいく。私が戦わないせいで……みんなが。
「あぁぁぁ!!」
私の魔力が、風の刃となってその
初めて魔術が正しく発動した。
でも……たくさん死んだ。私は膝をついてごめんなさいと、何度も謝った。
「ゼフィ。甘えを捨てろ。敵を倒せ。情は邪魔にしかならないから捨てろ。作業のように、淡々と
「…………はい」
お父様は正しい。
私が弱いからみんなが死ぬんだ。
私が戦わないからみんなが死ぬんだ。
「隙を見せるな。下々の者に逆らう隙を与えるな。支配者として、逆らう者には容赦をするな」
「…………はい」
エウロスは、数百年頂点に君臨し続けた帝王学をゼフィロスに叩きこんだ。
支配すること、そして情を捨てること。
救えない命を、有象無象を捨てられなければ自らの命を危険にさらすから。
だから。
「勝て……完膚なきまでに。勝利しろ……圧倒的な差をつけて。それこそがヴァイスドラグーンに定められし使命。世界最強の守護者たる責任。お前の責任だ」
「…………はい」
だからそうやって教え込まれた。
最強であれ。逆らわせるな。支配しろ。
それが結局、みんなを守るためだからと。
そんな日々が続き、100人いた家族がついに10人にまで減ってしまった頃。
私は部屋の端っこでスケッチブックで絵をかいていた。
絵を描いている時だけは……心がざわつかないから。
「ゼフィ、いっつも、なに書いてるの? 見せて!」
「ダ、ダメ!!」
「ふーん、隙あり!!」
「あ!!」
リリアにスケッチブックを取られて、見られてしまった。
そこには。
「これ…………エミリ?」
「………………うん」
私が助けられなかった……殺してしまったみんなの似顔絵が描かれている。
みんな兄弟姉妹だから似てる顔だけど、それでも少しだけ違うから。
忘れてしまわないように、私の中にあるみんなを描いている。
「…………捨てるわよ。死んだ奴らのことは忘れなさい」
「ダ、ダメ!!」
私はそのスケッチブックを取り返した。
そしてぎゅっと抱きしめて、ポロポロと涙を流す。
これだけは捨てられない。
これだけがみんななんだ。
「これだけは……ダメ。お願い……」
「はぁ…………じゃあ、私を描いて」
「え?」
「死んでいったみんなじゃなくて、生きている私を……ううん、私たちを描いて。そしてそのスケッチブックを埋めましょう。それまで守ってくれるんでしょ?」
「…………うん!!」
私は、みんなを描いた。
もう生き残ってるのは10人だけだけど、みんなとそれから……ママを描いた。
毎日みんなと訓練したことや、笑いあったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと。
それを描くのが私の唯一の楽しみになった。
日に日に埋まっていくページ。それを見返すだけで楽しかった。
あんなことがあったなとか、あの日はうれしかったなとか……思い出しながら絵を描くのが好きだった。
こんな毎日が幸せだった。
だからもう絶対に奪わせない。
私は厳しい訓練をこなして、
もう誰も絶対に死なせないと命がけで戦い続けた。
たくさん傷ついた。
でも嬉しかったんだ。守れたことが。
私が……守れたんだ。みんなとの毎日を。
もう絶対に失わない。
私が世界最強になって……全員守ればだれも死なないから。
そしたらみんなとずっと一緒にいられるから。
だから最強であれ。
そしていつものように
家に帰ると、ママがいる。
優しくてぎゅっと抱きしめてくれる大好きなママがいる。
ただいまとみんなで帰ったら、美味しいクッキーを焼いてくれて、頑張ったねと全員をぎゅっと抱きしめてくれた。
傷ついて血を流す私と、みんなを見て。
「ごめんね……みんな、ごめんね……何もできないママでごめんね」
ママはいつも泣いていた。
なんで泣いてるんだろう。私は敵を倒したのに。ぎゅっと抱きしめられて嬉しいのに。
この日常を守れたのに。
何がそんなに悲しいんだろう。
そして、私が6歳の誕生日を迎えた日だった。
「
お父様は遠くに敵を倒しに行ってしまったが、ママがケーキを焼いてくれた。
誕生日は大好きだ。美味しいお菓子がたくさんでるし、この日だけは訓練をせず目いっぱい遊んでいいと言われている。
訓練施設で、誕生日パーティを開き、そしてみんなでたくさん遊んだ。
「ハッピバースデー!! ゼフィ!!」
「ありがとう!! わぁ! うれしいな! うれしいな!!」
心の底から楽しかった。
涙が出るぐらいうれしかった。
今日この日のことを何枚も描こう。そう思った。
ずっと続いてほしいぐらいに……幸せだった。
ドン!!
「え?」
そう思った時、固く閉ざされた鉄製の施設の扉が燃えるような炎で解けて吹っ飛んだ。
「ごきげんよう。最強の一族よ」
その扉の先には、紳士服に身を包んだ老人がシルクハットを抑えながら、杖と共に立っていた。
◇
身なりの良い服の老人はにこっと笑う。
「なんだ、お前は! ここがヴァイスドラグーン家だと知ってるのか!!」
ゼフィロスの姉妹の一人が、叫んだ。
と同時だった。
「え?」
気づけばその杖で、貫かれた。
「えぇ、だからきたんです。因果に巻き込まれし、哀れな忌み子達よ」
ぐしゃっと音を立てて倒れる。ゼフィロスは血の気を引かせながら駆け寄った。
でも……何度も見てきた目だった。
もう……死んでしまった目だった。
「いや……いやぁぁぁ!!」
必死に抱きしめるが、もう心臓の音が聞こえない。
「本来であればこんなお仕事お受けしないのですがね。私これでも正義の味方ですから。ですが……ふふ、あの女狐にそそのかされまして……一世一代の大博打にでようかと」
「し、しねぇぇぇぇ!!」
ゼフィロスは風の刃で、その男を攻撃した。
しかし、杖で簡単に薙ぎ払われた。瞬間、踏ん張り突撃してくる。
やられる! そう思ったが、殺されたのはゼフィロスではなかった。
「ごふっ……」
「ノア!!」
その老人は、にやっと笑って杖を抜いた。
「世界のために戦い続けた80と余年! 世界級となり、力も富も名声も欲しいものは、全て手に入れた! しかし、たった一つ! いまだ手に入れられないものがある! ふふ、年甲斐もなく興奮しております! この高ぶり! 何十年ぶりのことか!! もう刃は抜かれた! 命は奪われた! 後戻りはできない! 生きるか死ぬか! これこそが、私が求めていた戦いだ!! さぁ! ここで覚醒するのです! 最強! お前を倒して、私がその名を手に入れる!!」
帽子をとって、私を見る。
「はやく覚醒しなければ、全員死にますよ?」
次々と殺されるみんな。
ゼフィロスは全力で抵抗するも、歯が立たない。
勝てない……このままじゃ……みんな……死ぬ。
「やめてぇぇぇ!!」
ゼフィロスは血継魔術を初めて発動させた。
純白の風が、その男を切り刻もうとする。
「ほう……それが最強の盾。お噂はかねがね……では、こちらも……魂装!!
「――!?」
しかし燃え上がる炎を纏いし獅子、ゼフィロスの刃は全て焼けこげた。
殺戮は続く、ゼフィロスは必死に抵抗するが、その男は強すぎた。
止まらない。
守ってきたものが崩れ落ちていく。
必死に守ってきたものが、奪われていく。
「やめてよ……もう……やめて…………」
「まだ6歳で末恐ろしい限り。しかし、さすがに幼過ぎましたか。残念ですが、エウロス・ヴァイスドラグーンに期待しましょうか」
ゼフィロスの後ろにいる母だけが生き残っていた。
「では……さようなら。千年の因果の被害者よ。せめて一思いに、死になさい」
ゼフィは膝をついて心が折れてしまった。
また自分が弱いせいで……守れなかった。
絶望し、打ちひしがれる。炎の杖が自分を突き刺そうとしていた。
そのときだった。
「ゼフィ!!」
「む?」
ゼフィロスを守るように、身を挺して守ったのは母、エルメアだった。
貫かれ、邪魔だと蹴られたエルメア。ゼフィロスはすぐに駆け寄った。
「ママ!! ママ!!」
エルメアは、血を吐き、虚ろな目でゼフィを見た。
間違いなく致命傷、死ぬことは確定していた。
エルメアは、自分の腹部に流れるとめどない血を見て、心の中で思った。
自分はもう死ぬ。
そして、このままだと最愛の娘も死ぬ。
「ごめんね……ゼフィ」
本当はこんなこと言いたくない。
これはきっと彼女にとって呪いになる。
でも……だからこそ……エルメアは、その血塗られた手で、ゼフィロスの頬に触れながら、言ってはいけないけど言わなければならない言葉を放った。
「ママを…………守って。あなたは……世界最強なんだから」
その死の間際の最愛の言葉は、我が子を呪い、そして覚醒へと導いた。
叫びと共に、魔力が吹き荒れ、魔力の器は作り替わる。魂すらもその身に纏う。
ゼフィロスは守りたかった。
みんなを、家族を、母を。
最愛を。
それは、あの日の夜虎と同じだった。
心の底から守りたかったから恐怖なんか打ち消して、己の限界など超えていく。
だから立ち上がれた。だから立ち上がった。
でもほんの少しずれてしまっただけだった。
「その姿…………なるほど。どうやら、私……一世一代の大博打に見事に負けたようですね」
ゼフィロスの背中には、巨大な純白の羽が生えていた。
その姿は、天使と見間違うほどに美しく、魂を纏う最強の純白。
「
ゼフィロスのその翼が羽ばたいた。
男は諦めたように笑い、そして純白にかき消され、この世界から消滅した。
世界最強はこの日完成した。
でも結局守りたいものは何一つ、守れなかった。
抱きしめてくれた母の手がするりと落ちて、温もりがなくなっても零れ落ちる。
最強を願った最愛達の最後の言葉だけがいまだに彼女を、呪い続けた。
この日から虚構の最強は、守りたかった人達のために最強であり続ける。
もう守りたい人は誰もいないのに。
血みどろのスケッチブックだけが残っている。
その日から何も描かれなくなったスケッチブックだけが。
◇そして現在。
白い繭がひび割れる。
神々しいまでの純白の光と共に、まるで蛹が羽化するように中から天使が現れた。
「それが君の魂装……
夜虎はそれをゼフィロスの姉であり、その日運よく生き残ったリリアからすべて聞いていた。
過去何があったか、どうしてゼフィロスがそうなったか。
そしてゼフィロスの最強も。
それは魂装。
ゼフィロスの願いは、母の、そしてみんなの呪いは、歪ながらも最強となりゼフィロスを精神の到達点にまで連れていく。
巨大な二枚の天使の羽を広げ、吹き荒れる純白の暴風。
羽ばたくだけで、周囲一帯を更地に変える魔力の放流。
「私は……私は負けちゃいけないの。私を強くするために、みんなは死んだから! ママは願ったから! そんな私が負けたら、最強じゃなくなったら!!」
感情が爆発するように、大きな声で叫び。
そして、心を静かに吐露するように。
「みんなは何のために死んだの…………」
その向こうで、ゼフィロスは泣いていた。
夜虎は踏ん張り、そして顔を上げる。
「そんなの決まってる。君を愛していたからだ」
「何も知らないくせに勝手なことをいうなぁぁぁ!!」
吹き荒れる暴風、それを打ち消す、全力の雷槍。
しかし、夜虎のその腕を浅くだが切り刻まれた。
夜虎の全力をもってして、ダメージを与える最強の風。
夜虎はその腕を抑えながら、それでもゆっくりとしかし確実に前に進んだ。
バチバチ!
その体に傷を作りながら、暴風の中を突き進む。
雷を纏い、言葉を繋げた、ただ前へ。
「俺は君たちのことを知らない。でも……わかるよ。みんなのためにそこまで頑張れる君が、そんなに優しい涙を流せる君が、心からみんなを愛していた君が!! …………みんなから愛されてなかったわけがない」
「悪いのは私なの!! 私が全部悪い……私が弱かったのが悪い!! みんなを死なせたのは私なの!! みんなきっと恨んでる!」
「いや、違う。それを選んだのは彼女たちだ。彼女たちは……自分の死が避けられないことを知っていた」
「うるさい! 黙ってぇぇぇ!!」
「黙らない!」
バチバチバチバチ!
夜虎は、ゼフィロスの姉――リリアが泣きながら語ったゼフィロスが知らない真実を語る。
純白の風が拒絶するが、しかしそれでも伝えると約束したから帯電し、突き進む。
バチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!
「君のお父さんは彼女たちに、苦しまずに死ねる選択肢を与えた!! でも……リリア達は選んだんだ!! どうせ失われてしまう命なら、君のために使いたいと!! 君が大好きだから! 君がこの世界で死なないように! 強くなるためにこの命を使いたい! 彼女たちはそんな道を選んだんだ!!」
「知らない…………そんなの…………私は知らない!!」
ゼフィロスは、感情が高ぶり、否定するように叫んだ。
「あなたの言うことなんて信じられない!!」
翼が全力で羽ばたき、夜虎ごと直線状のすべてを吹き飛ばした。
かつて世界級すら一瞬で消し飛ばした最強の暴風が夜虎を存在ごと吹き飛ばす。
はずだった。
そこには誰も立っていられないはず。
しかし、夜虎は立っている。
その手に雷を纏って、暴風を消し飛ばし、まっすぐと立っている。
暴風をかき消すは、嵐の中で光る色鮮やかな雷。
それを見てゼフィロスは言葉を失った。
五大貴族も、世界の強者たちも……その配信を見ている全世界の人間も。
全員が声を失い、その色鮮やか雷を見た。
この世界でそれを見た者は数える程度しかもういない。
それでも世界中、全員が知ってるそれを見て、千代子だけは、優しく笑い、涙した。
「それでいい……あんたはそれでいいんだよ、夜虎。虎太郎様もそうだった…………紫電の男は、しがらみなんか全部無視して……すべてを貫くほどにまっすぐでなくっちゃね」
そして夜虎は、もう一歩前に踏み出した。
迸る雷、しかしその雷は確かに。
チチチチチチチチチ!!!!
色鮮やかな
「わかってる。君の呪いが言葉なんかで修祓できないことぐらい。だから……使うんだ。俺の
夜虎のその右手には、雷が纏われている。
確かに紫の光を帯びたかつて最速最強と呼ばれた雷が。
「だからもう一度言うよ。君は支配者になる必要なんてない。そんなことはだれも……彼女たちも望んでいないから! 君はもう最強じゃなくていい……もう自分の人生を生きていいんだ。それを彼女達は心から望んでいるから!! だから、俺が君の呪いを修祓する! それで……この戦いが終わったらさ」
そして夜虎はニコっと笑って紫電を纏い、まっすぐとゼフィロスを見て言った。
「俺と友達になろう、ゼフィ」
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