第47話 黄金の聖火ー2

「ほら……やーくん」


 アザルエルは大きく手を広げる。

 そして恍惚の表情で夜虎を見て言った。


「おいで」

「ひっ!」


 夜虎は怖くて後ろに下がった。

 なんで殴られて嬉しいの? なんで殴られて気持ちよさそうな顔してるの?

 そんな疑問が頭の中で溢れるが、その答えを夜虎はまだ知らない。


「あれれ? やーくん、どうしたの? おいでよ……ねぇ……ねぇ!!」

「わ、わぁぁ!」


 思わず背を向けて逃げてしまったが、頬を叩いて振り返る。

 

「理解はできない。アザルエルの言ってることは何もわからないが……とりあえずその力はわかった」

「あれ? やる気復活?」

「あぁ、ちょっとびっくりしたけど…………負けられない」

「なら……手加減無しね。死んじゃだめだよ、やーくん」


 にやっと笑うアメーザルエル、そして指を夜虎に向けて。


「ノヴァ4」


 指を鳴らす。


 半径4メートルの巨大な太陽が夜虎の目の前に。

 

「くっ!! さっきのが全力じゃないのか!!」

「審判どころじゃねぇぇ! 一旦退散!!」


 爆ぜる軽トラックほどの太陽、爆風が競技場を揺らす。

 清十郎は一目散に逃げて、爆音とともに観客と実況席から悲鳴が響く。

 

『きゃぁぁぁ!! 光太郎さん!! これ、大丈夫なんですかぁぁぁ!』

『ジークフリート様の魔法だ。大丈夫なはずだが……』


 ピキッ。


『あ……やばいかも』

『えぇぇぇ!!!』


 銀色の幕に、ひびが入る。

 

『爆発魔法……ノヴァ。球体の大きさでその威力が変わると言われている。アザルエル様の言う……ノヴァ4は半径4メートルで、半径2メートルのノヴァ2の……体積でいえば実に8倍。つまり威力も8倍ということになる』

『8倍!? さっきの8倍ですか!?』


 


「くっ! あんなの直撃すれば、俺でも相当なダメージだぞ!」


 しかし、夜虎は高速で移動することでまた躱していた。

 爆発自体は、逃げれば躱せる。

 爆風ぐらいならダメージはほとんどない。


「ノヴァ4! ノヴァ4! ノヴァ4!」

「連発できるのかよ!?」


 連続で発生する小さな太陽、夜虎は躱し続けるが会場の気温が真夏を超えて灼熱へ。

 もはや観戦どころではなく、悲鳴だけが響き渡る。


「くそ!! こうなったら!!」


 アザルエルの前に夜虎が高速移動。

 そしてその手に雷を纏う。


「ちょっとまじで痛いからなぁ! アザルエル!!」

「…………おいで。やーくん」


「雷槍!!」

 

 そして放つ。

 

 だが、夜虎は貫くつもりなんてまったくなかった。

 先ほどよりも強く殴って、気絶を狙っていた。なのに。


「ごふっ……」

「アザルエル!?」


 アザルエルが一切ガードせず、逃げるどころか前に出た。

 そのせいで、夜虎の雷槍がその腹部を突き刺した。

 血を吐き出すアザルエル、夜虎は思考が一瞬止まってしまう。

 

 しかし、慌ててその手を抜こうとした夜虎。

 だが、その腕を血だらけの手で掴まれた。


「……え?」

「つーかまえた」

「――!?」


 血を吐きながら、眼光の開いた目で夜虎をまっすぐと見るアザルエル。

 その瞬間、指が鳴った。


 チリ……。


 夜虎とアザルエルの頭上に小さな太陽が生まれる。

 それを見て夜虎は顔を青ざめた。


「まさか……」 

「えへへ……一緒にイこ」



 ドン!!!!




『や、夜虎選手!!!!????』

『夜虎ぁぁぁぁぁ!!!!』


 完全に直撃コース。

 だが、爆煙の中から夜虎は飛び出してきた。

 服は燃えて、体には火傷を負っている。


「くっ!!」


 避けることはできなかったが、ギリギリで魔力でガードし、致命傷は避けることには成功した。

 そして煙が晴れたとき、そこにボロボロなのに嬉しそうな顔で、たたずむアザルエルを見て、夜虎は大きく息を吸った。



◇夜虎。


 

 俺は間違っていた。

 俺は強い。それ自体は否定しない。

 でも死闘と呼べるような戦いにほとんど出くわさず、どこか慢心があったのかもしれない。

 例え五大貴族が相手でも……アザルエルが相手でも……自分の方が上。と思っていた。


 その結果がこれだ。


 俺は全身に軽度ながらに火傷を負って、ひりひりと痛い。

 対して、煙が晴れて現れたアザルエルは大やけど。下手をすればそのまま死んでしまう重症だが。


「やっぱり自分の爆発はきもちくないなぁ。あ、やーくんのはすっごいよかったよ!!」

 

 黄金の炎と共に、不死鳥のように完全復活している。

 今の一撃は、完全に俺はやられていた。


「ごめん、アザルエル。俺が悪かった」

「ん?」


 俺は大きく深呼吸する。

 そしてその体に雷を纏った。


「君は強い。手心なんて加える必要なんてないほどに」

「あは♡ やっとやる気になってくれた」


 アザルエルは、指を鳴らす。


「ノヴァ1×100」


 半径1メートル。成人男性ほどの小さな太陽が所せましと出現する。

 その数100以上。


 避けるスペースなどどこにもない。

 だから。


「……まじ?」

「雷槍!!」


 正面から全て貫く。

 爆炎を突き破り、俺は、アザルエルの目の前に。

 背後に回って、そしてその首に手を回した。


「締め落とす!」

「あ……やば……これ……イぐ。ギモ゛ヂイ゛イ゛」


 アザルエルが、変な声を出すがここでひるんではいけない。

 しかし、背後に熱気。

 また自分をまきこむノヴァか! これがある限り、締め技は難しいか。


 俺は急いで飛びのいた。

 爆発、アザルエルが巻き込まれるが再度修復。

 結局のところ、アザルエルの魔力が切れるまで攻撃を入れ続けるしかないのだろうか。


「夜虎、頭よ! 頭を潰し続けるのよ! 復活するけど、思考ができないから無防備なまま何度でもやれるわ!」

「できるか!! 発想がえぐすぎる!!」


 ローラが、闘技場への入り口の廊下から大きな声で、一切参考にならないアドバイスを叫ぶ。

 とんでもないえぐい方法だが、それで魔力が尽きてほんとに死んじゃったらどうするんだ。

 というか頭を潰しても復活するの!? やばすぎるだろ。


 しかし困った。

 殺せと言われれば、多分殺せるがそんなこと絶対にしないし、攻撃を与えてもアザルエルはむしろ喜ぶし、ダメージは回復するし。

 さらに遠距離から無尽蔵に爆発で攻撃してくる。さらに近づいたら捨て身で自分ごと爆発するし。


 なるほど……これがアフリカ大陸を守護する五大貴族か。本当に強い。


 俺がどうするか思考を巡らせていたそのときだった。


「ジークフリートさーーん!! 観客席、お願いしますね!!」


 アザルエルが、五大貴族特等席に向かって叫んだ。


 と同時にそれは闘技場のど真ん中に出現した。

 石畳の闘技場すら、溶けてしまいそうなほどの超高温。

 先ほどまでのノヴァが可愛く見える巨大な太陽が、メラメラと燃えて鳴動する。


「ノヴァ8」

「競技場ごと、ふっとぶぞぉ!!」

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