第44話 開幕ー2
五大覇祭、当日早朝。
「……すぐにいきます!!」
朝一、起きた瞬間に俺は千歳さんから電話がきた。
特級案件、場所はすぐそこ東京。
「きゃぁぁぁぁ!」
そして現着。
叫んでいる女性がいた。あれ? なんで逃げてないんだ?
それに
が、
俺はその女性を抱きしめて助けた。
「もう大丈夫、俺が誰も死なせない。助けに来ました!」
いつものようにニコッと笑って微笑みかけた。
うわ、信じられないぐらい綺麗な人だ。思わずため息がでてしまうほどに、この状況でもそう思ってしまうほどの暴力的な美。
吸い込まれてしまいそう。
そしてその人は俺の頬に手を当て、にこっと笑う。
あれ……なんだか変な気分だ。
……好き。
美しすぎる。俺はこの人が……好き? …………だが俺は頭を振り払った。
「あら……やっぱりなのね」
「あれ? …………す、少し待っててください! すぐに倒しますから!! 雷槍!!」
まるで夢から覚めたような感覚だったが、すぐに体に雷を纏って、その
「ふぅ……なんか変だったけどもう大丈夫だな、すみません! もうだいじょう………………あれ?」
見渡すと、そこには先ほど助けた女性はどこにもいなかった。
あれれ? 逃げちゃったのかな。
俺は首を傾げ、一応あたりを探したが見つからなかったので、集まってきた初級魔術官にその女性のことを報告だけしてその場を後にした。
◇
「やっぱり……効かないのね、私の魅了。ふふふ、いいわ、それでいいの! 恋はたくさん障害があってこそだもん! こんなドキドキ何年ぶりかしら!!」
その女性は、嬉しそうに一人歩く。
歩くだけで、男性は立ち止まり、その女性を目で追っていく。
意志では抗えない引力のような美。
「ふふ、抱きしめられちゃった……あんなに強く……私抱きしめられちゃった! ほんとに久しぶり。強くて、優しくて、なのに男らしくて! 夢を追い求め、もがく泥臭さが可愛くって! あぁ! これがGAPってやつね!」
するとガラの悪いスーツの男が二人、その女性の前に立つ。
夜の仕事のスカウトマンだった。
「ね、ねぇ! お姉さん! ちょっとだけ、ちょっとだけいい?」
「お仕事って探してたりしますか? お姉さんならすっごく稼げ……え?」
次の瞬間、その男達は立ち止まった。
そして……ズルっという音と共にその首が落ち、血が噴き出す。
まだ朝の街中に悲鳴が響き渡った。
「あぁ……ダメよ。ダメ……ダメ……こんなのじゃ、この渇きはちっとも潤わない。もう私、ダメなのね。あなたのことが気になって仕方ないわ」
手についた血を舐めるその美女。
「でも……まだ我慢。もっと……もっと……あの子はもっと良い男になる。私が……育ててあげるわ。そしたら夜虎……」
色欲に狂った最古の
「あなたは私が絶対に……食べてあげる」
◇夜虎。
早朝いきなりの
今日は五大覇祭、開催日。
テレビやSNSは連日、五大覇祭の話題で持ち切りだった。
オリンピックよりニュースになってるんじゃないかと思うほど。
そしてそれがいよいよ、今日のお昼から開催だ。
今は午前、なんだかよくわからないが芸人さんが歩き回ってたり、日本の伝統芸能だったりのセレモニーが開かれている。
ここは、日本国立競技場。
普段はサッカー場だったり、野球だったりが使う巨大な競技場だが、今日この日のためだけに税金じゃぶじゃぶと改造された巨大スタジアム。
そこに、見渡す限りの観客たちは押しかけ、周囲では出店まで出ているまるでお祭りだった。まぁ五大覇……祭と言われるぐらいだしな。
その競技場内部に作られたまだ俺一人しかいない待合室に通されて、待機中だ。
待合室というのに、これまたホテルのスイートルームみたいな豪華さである。
まぁ相手は世界の最高の権力者たちだからなぁ。こんなんでも俺も一応は名家だし。
やることもないので、俺はテレビをつけて五大覇祭の実況中継を眺めていた。
『さぁ! 皆さん! 開幕まであとほんの1時間です!! わくわくしますね!!』
テレビには毎日ニュースで見る美人アナウンサーがテンション高く実況席に座っていた。
『日本開催! ということもあり、解説には我が国の王級魔術官――白虎光太郎さんをお呼びしました』
『よろしく頼む』
「なんでだよ!」
俺は思わず立ち上がって突っ込んでしまった。
アナウンサーの隣に、丸太みたいに太い腕が見えるなと思ったら隣にいたのは父さんだった。
どうやら実況らしい。
『光太郎さん、実は今日サプライズがあるとかないとか』
『ええ、五大覇祭。通常5人の次期当主とそして開催国から一名。その一名がなんと……ふふ、これ以上はサプライズです』
『おぉ! 楽しみですね! とりあえずあれやっときますか?』
『ふっ……I'll be back』
『でました! 光太郎さんの決め台詞です!』
恥ずかしい。
俺は高校生、特に理由もなく自分の親をちょっと恥ずかしいと思う年ごろなのである。
いや、今のは普通に恥ずかしいだろ。どや顔で、しかも借りもののセリフを言う我が父よ。
そのキメ顔やめて、全世界に放送されてるんだぞ。
すると画面が切り替わり会場が映し出される。
全世界からの一般観光客は数万人を超えて、世界的大富豪や権力者が座る特等席もある。
絶対に石油王じゃんって感じの人もたくさんいる。
その中でひときわ、大きく豪華なスペースの場所がある。
そこには5つのソファがあり、ワインだったり果物だったり、まぁゴージャスな観覧席だった。
そこに座るはもちろん、現・世界の覇者たち。
「あの人たちが……今の最強。五大貴族の当主達か」
そのときだった。
「やーーくん!!」
「――!?」
とんでもなく柔らかい感触が俺の後頭部に。
振り向くと、ん!? 何かに顔面が埋まった。俺は慌てて飛びのく。
「おひさ! 元気してた?」
「アザルエル!」
一番初めにきたのは、アザルエル・ロートオリフラム。
アフリカ全土を支配する黄金の聖火、ロートオリフラム家のご令嬢だ。
ご令嬢とは名ばかりの金髪褐色露出高めのギャルである。
イェーイ! ヘイヘイ! と意味もなく、手のひらを向けられる。
いつも通りテンション高いなと、俺も合わせてなぜかタッチ。
と思ったらぎゅっと手を絡まされ、にやにやっと俺を上目遣いで見る。やめろ、男子高校生にそれは普通にドキッとするだろ。
「あら、お邪魔だったかしら。そういうことは鍵を閉めて個室でやりなさい」
「し、静香お姉ちゃん!?」
俺は慌てて手を離した。まるで浮気を見つかった男みたいな気分である。
「恋愛は自由だけど、ロートオリフラムのご令嬢と浮気は普通に国際問題になるから気を付けてね」
「ち、違うよ! これはアザルエルが」
「あ、静香さんだ! おひさ!」
「ええ、お久しぶりですね。アザルエルさん」
「ねぇねぇ、静香さん! やーくんって反応が可愛いよね! だからついからかっちゃいたくなる! ほら、こんなふうにすると……」
そうして俺の腕をひっぱり胸に当ててんのよ……挟む……だと?
突然のことで、俺は顔を赤くしながら、フリーズした。
「あはは! また固まっちゃった! 武士る? 武士っちゃう? あれ? なんか…………めっちゃさむ……」
そのときだった。
とんでもなく気温が下がって、まるで極寒の吹雪に放り投げられた気分だ。
なんでだろうな。
…………とりあえず逃げていいかな。怖いから。
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