第38話 五大貴族ー1
◇数日後。
俺は誰もいない席を見る。
姫野は、あれから太陽学園を転校してしまった。
俺はスマホを見る。
姫野のインスタ、満面の笑顔と共にこう書かれていた。
『これからは女優一筋で頑張ります!! 私にはできないことはできる人に、そして私にだからできることを精いっぱい頑張るので、これからも応援よろしくお願いします!!』
俺は少しだけ安心し、そしていいねとRTを押して、画面を閉じた。
もう交わることはないかもしれないけど、お互いの道は続いている。
きっと彼女はまっすぐ進むから、俺もまっすぐ進まないとな。
「夜虎! 私クレープ食べたいの! 一緒に食べに行こ!!」
「そうだな、いいよ。いこっか」
「そうよね。わかった! またこん……え?」
「いかないの? ローラ」
あれからも変わらず接してくれるローラ。
少しばかりメンタル的にも落ち込んでいたが、もう大丈夫だ。
そんな俺に、それでも毎日変わらず接してくれるローラが、今は何となく嬉しい。
なんだろう。
ローラはたとえ世界が俺の敵に回っても、絶対に味方してくれる。
そんな安心感があって、それがとても心地よい。
「ほんとに清十郎の言った通りね。弱ってる男に優しくする作戦がこんなに効果的とは。これはこのままいけるんじゃない? いけるとこまでいけるんじゃない? 今日下着何履いてたっけ?」
「ローラ? どうしたの?」
「へぇ!? ううん、いく! 絶対いくわ!!」
そういって、俺の腕に腕を絡めてニコッと笑う。
改めてみると、非の打ち所がない程にローラは綺麗だ。
「ん? どうしたの?」
氷姫なんて呼ばれ、クールな見た目だが、俺にだけ見せてくれるこの心の底からの笑顔が愛おしい。
それから俺はローラとデートをした。
一日中、やりたいようにただ遊びたいように遊んだ。
クレープを食べて、カラオケに行って、服を買って、ゲームセンターに寄った。
「夜虎、夜虎! あれが欲しい!」
「よし、任せろ」
UFOキャッチャーをやったら、祭りでウサギのぬいぐるみを取ったことを思い出した。
可愛い猫のぬいぐるみが取れたのでローラにあげたらやっぱり喜んでくれた。
「これが噂のプリクラね」
「とる?」
「もちろん!」
俺も初めてだが、ローラも初めてのプリクラを取った。
よくわからず、変な写真ばっかりになったが、それもなんだが面白かった。
ローラはスマホの待ち受けにして、その写真を嬉しそうに見つめている。
「んん!! いっぱい遊んだ! 楽しかったなぁ!」
気づけば夜、夕飯の時間だった。
「じゃあ、いきましょ。夜虎!」
「どこに? もしかしてご飯予約してくれたの?」
「そうよ、サプライズね!!」
どうやら、ローラがお店を予約してくれたみたいだ。
お腹もすいてきたことだし、ローラが予約するぐらいだ。きっと高級なお店だろう。
これは俺のブラックカードが火を噴いちゃうか! 男子高校生の食欲はすごいぞ!!
一体どんなサプライズなんだ!
「久しぶりだな、夜虎君。ローラのパパだ」
おっふ、サプラーイズ。
「お、お久しぶりです。ジークフリートさん」
「お義父さんと呼んでくれたまえ。息子よ」
「そうよ、夜虎。パパは私が認めさせたわ。そうよね、パパ? 結婚してもいいわよね? 歓迎……するわよね?」
「…………うむ」
血の涙を流しそうになりながらにこっと笑っている。
俺はあははと愛想笑いしておいた。
しかし、完全なる不意打ちである。
めちゃくちゃ高そうなフレンチのお店に連れていかれ、調べたらミシュラン三ツ星で予約は半年先まで埋まっている。
そんな店を貸し切り!? と思ったら、世界で五本指の権力者が待ってました。
ジークフリート・シルバーアイス。
ローラと同じ銀色の髪と鋭い眼光を持ち、素晴らしい年の取り方をしたダンディな人である。
ただし、北欧連合の総長であり、ヨーロッパを支配する一族の長でもある。
「それでだな、夜虎君。ローラとは最近どうだ? 式はいつにするんだ?」
「え……えーっとですね」
ローラめ、外堀から攻めてきやがったな。
こんなの否定できないぞ……しかし、ここはしっかりと。
「夜虎と私はまだ16歳。結婚はできないの。それに今はお友達よ」
「む? そうか」
よかった。ローラはちゃんと分別が付く子に成長している。
「だから孫を抱くのは後2年は待って。それまでに夜虎に抱かれてみせるから」
「ぶふっ!」
全然ダメだったわ。
18歳で俺との子供を産む気であるし、親の前でそういうのはやめて欲しい。しかも逆算すれば来年妊娠である。
なんかなぁなぁにしてたら本当にそうなりそうなのでここはきっぱり否定しないと。
「あ、あの! 自分とローラはまだ友達で……その付き合ってるわけではなく」
「ふふ、冗談だよ。夜虎君。どうせ娘が無茶を言ってるんだろう。ローラ、男はな、追われるより追いたい生き物なんだ。あまりがっつくと嫌われるぞ」
「そ、それは嫌……」
「なら追いたくなるように、もう少し御淑やかな淑女にならないとな。夜虎君にべったりではダメだぞ」
「わかった……我慢するわ」
「お義父さん!!」
なんという常識人なんだ。
感謝と共に、俺はジークフリートさんの手を握った。
正直男子寮の大浴場にまで一緒に入ってこようとするのは、やり過ぎだと思ってました!
昨晩なんて、なぜか俺の部屋の鍵を持ってて布団にもぐりこんでこようとするのはもはや犯罪だと思ってました!
「それで、どうして日本に?」
「ん? 五大覇祭が来週だろ? 夜虎君も出場すると聞いているが」
「あぁ、なるほど」
「うむ、ぜひ頑張ってくれ。私の時は、残念ながらシルバーアイス家は3位だったからな」
「ジークフリートさんがですか!?」
ジークフリートさんは、当たり前のように世界級の超が付く実力者。
しかも
その実力者が、3位なのか。
「私の代は、ヴァイスドラグーンが優勝。まぁこれは開催からずっとだな。2位が黒王家。3位タイでロートオリフラムと、私だった。私はヴァイスドラグーンに手も足もでなかったよ。紫電は……」
「はい。聞いてます」
「うむ。だが、今年は君がいる。私は正直楽しみだよ。あの憎きヴァイスドラグーンが負ける日を見れるかもしれないと。傲慢不遜。この世のすべてを敵に回したとしても構わないと考えるほどの傍若無人さ。まさに天上天下唯我独尊……しかし、それを否定させないほどの強さを持つ」
「それほどですか?」
「おそらく他の四大貴族が手を合わせても勝つのは難しいだろうな。そして次期当主――君たちの同期である彼女、名をゼフィロス・ヴァイスドラグーン。二つ名は、
「彼女? え? もしかして……」
「大丈夫よ、パパ! 世界は夜虎を知らないだけだから」
するとローラがにこっと笑って俺の手を握った。
気づけば俺はこぶしを握っていた。
武者震いという奴だろうか。
ただ強敵との血沸き肉躍る戦い。
久しくそんなことはやっていないし、命を懸けた戦いではなく、純粋な力比べ。それにわくわくしないわけはなかった。
「ふっ……年甲斐もなく、私も楽しみだな。……む?」
するとスマホを開くジークフリートさん。
にやっと笑って俺に見せる。
「どうやら、きたようだぞ。世界の支配者たちが」
そこには、黒王家、ロートオリフラム家来日と書かれている。
一週間後の五大覇祭に備えてだろう。
「ヴァイスドラグーンはまだなんですね」
「まぁ我がままな奴らだからな。しかし…………」
その瞬間だった。
ガタガタガタ!!
ビル全体が震える音がする。
まるで台風がすぐ隣にいるような強風が、ガラスを叩いていた。
外を見ると、先ほどまでの穏やかな風景は一変し、まるでここは嵐の中だった。
そして直後。
ウオーーーン!! ウオーーーーン!!
全員のスマホが心をざわつかせる大音量のアラートを鳴らした。
画面が強制で切り替わり、真っ赤な文字で警告する。
「いきなり何?」
「近くです!!
「いや…………これは
そしてスマホには顕現場所が表示されている。
「すぐそこ……隣のビルに……いる」
夜虎達のすぐそばだった。
◇
200メートルを超える高層ビル。
その最上階のヘリポートに、風を纏いし白髪の女性が、現れた。
肩ほどまで短い白髪をなびかせ、まるで感情のないロボットのような少女。
だが、それでいて非の打ち所がない程に美しく、年は16ほどで小柄だった。
体のわりに大きめの真っ白なカッターシャツを靡かせて、黒いパンツのモノトーンの少女はゆっくりとこの国へ降り立った。
「ここが日本……私が支配するべき国。守るべき……国」
摩天楼からこの国を見渡すが、地上を歩く人々を見つめる。
そして、感情がないかのように淡々と。
「なら…………まずは支配からしないと」
その理外の魔力をゆっくりと解放する。
その台風の目で白き龍は、無表情に指を動かす。
その瞬間、地上を歩いていた人間、千人近く。
全員が風で舞い上がり、宙に舞う。
悲鳴も出せない突然のこと、そして少女は指を下に向けた。
舞い上がった人たちは全員100メートル近くからの自由落下、悲鳴が東京に響き渡る。
落下する人々、しかし寸前で風が纏われ急ブレーキ。
ゆっくりと優しく、地面に降り立つ。しかしあまりの突然の死の恐怖で全員膝をついた。
「ひれ伏せ、龍に…………頭が高い」
最強の称号を数百年に渡り、独占した文字通り世界の支配者一族。
歯向かう者すべてを屠ってきた無敗の龍。
その中でも歴代最高傑作とすら呼ばれた超天才――ゼフィロス・ヴァイスドラグーン。
吹き荒れる暴風と、まるで機械のような無感情と……そして傲慢と共に来日。
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