第33話 久しぶりー3

 状況を整理しよう。

 俺はとりあえず作った姫野とローラと清十郎しかフォロワーのいないインスタを開く。

 めちゃくちゃなフォローリクエストがきてた。

 そして、めちゃくちゃなDMがきていた。

 ローラのファンと姫野のファンからの誹謗中傷の嵐である。浮気糞野郎……いや、まぁこの投稿だけ見たらそうなんだけども!

 清十郎に関しては、何かを察したのかフォローを外してやがった。あの野郎。

 

「ふぅ……」


 俺は顔を洗って、心を落ち着けた。

 もう一度開いてみる。

 通知が千ぐらい増えていた。


 俺は現実逃避するために、スマホを投げ捨ててテレビをつけてみた。

 ニュースがやってた。

 女性キャスターとなんか偉そうなおっさんが、話していた。

 なぜか俺とローラの顔写真が映っていた。


「えー、こちらの投稿。オーロラ・シルバーアイス様のご投稿なんですが、こちらの同席している男性。先日、姫川姫野さんと熱愛記事が出た方ですね」

「日本史上最年少特級魔術官――白虎夜虎君ですよね? いやぁ、シルバーアイス家のご令嬢と親しい仲なのでしょうか」

「これは高度に国際的な話になるのですが、北欧連合の次期当主が十二天将家と結婚。なんてことになれば」

「大変喜ばしいことですね!」

「えぇ、ですが世界のバランスが崩れる恐れもありますので、慎重に議論を進めていかなければなりません。非常に高度な国際的問題です」


 話している内容は俺だった。

 バカみたいな通知が来た理由がわかった。

 ローラのせいだ。あいつ、俺とカフェで取った写真投稿しやがった。

 しかもだ。


「大して、姫川姫野さんも同じような投稿をされています。これはどういうことでしょう。もしかして夜虎君は二股?」

「かもしれませんね。時系列を考えると、オーロラ姫への挑発……のようにも感じますね」

「わぁ、すごいですね! 確かに夜虎君もすごいイケメンですし! この二人の美女がバチバチやってるわけですね!」

「真意はわかりませんが、これは芸能人のスキャンダルレベルを逸脱していますから……五大貴族の当主が、日本人とお付き合い。しかもトップモデルと二股なんて……これからの動向は世界中が注目することになりますね」


 なぜか姫野も俺と二人で記念にと、とった写真を投稿したらしい。

 なにやってるんだ、二人とも……ほんとに。SNS怖い……炎上怖い。

 やっぱりやらなければよかった。


 俺は頭を抱えた。

 

「えーさらに、北欧連合のジークフリート現当主からのコメントもあるようです。北欧で報道されたニュースですが、映像をご覧ください」

「まじかよ」


 ジークフリートさんとは、1時間近くの電話をしたことがある。 

 とても気さくで何となく俺の父さんに似ている感じの優しい人だった。それに紫電に目覚めた俺を、シルバーアイス家との歴史含めとても気に入ってくれていた。

 まぁあのときは娘の命を、命を懸けて救った友達。という存在だったので、それもそうだと思うんだが。


 もしかしたらめっちゃ怒ってるかも。


『娘はもう帝級に認定され、年も16だ。物事の分別もつく。ならば本人が選んだ道を私がとやかくいうことはない。ただ一つ言えることは』


 そしてカメラ目線でにやっと笑い、まるで俺に言っているような声で言った。


『夜虎君、私ではローラを止められない。だから後は任せた! ローラ、切れたらマジ怖いから。シンより全然怖いから!! 頼むよ、マジで! ほんとお願いね!』


 俺はもう一度頭を抱えた。

 なんで世界で五本の指に入る権力者が、娘すら抑えられないのか。


 そんなことで頭を抱えながら登校。

 案の定、学生寮や学園の外には今までとは比にならないマスコミが集まっているので俺はまた空から登校した。

 


 太陽学園。

 今日も基本的には高等教育を受けながら、魔術の基礎なんかも学んでいる。

 偏差値は65。中々の進学校であり、みんなそもそも頭が良い。

 俺は特級魔術官――つまり特待生として入学試験免除だったので、授業には正直ついていけていない。勉強より修行しかしてなかったからな。 


「夜虎君、ここはですね」

「夜虎。私が教えてあげるわ! ここはね」


 俺がうんうん唸っていると、隣の姫野が教えてくれようとした。

 そして清十郎の席に座るローラが振り向いて教えてくれようとした。

 ちなみに清十郎は右斜め前に移動している。ローラの強権である。


「あら、姫野。大丈夫よ。夜虎には私が教えてあげるから」

「授業中ですよ。前を向いた方がいいと思いますが。ローラさん」

「気安くローラって呼ばないでくれる?」

「失礼しました。オーロラさん。私が夜虎君を教えるので、大丈夫です。ね、夜虎君。私……がいいですよね?」


 にこっと俺に微笑む姫野と微笑むローラ。

 お互い圧がすごい。

 リアルに気温が3度ぐらい下がった。

 銀色の冷気が漏れてる。


 ポケットに入れているスマホのバイブ音がなった、清十郎からメッセージだった。


『どうにかしてくれ、胃が痛い』

『俺が言いたい』


 空気が重い。

 いつローラが血継魔術使うかひやひやするし、姫野は間違いなく勝てるわけもないのに全然挑発するし。

 もう心臓が痛い。今すぐに逃げ出したい。

 

 この日は終始そんな感じで終わった。



 放課後。

 

「夜虎! 今日なんだけど!」

「夜虎君、この後予定ありますか?」


「あ、えーっと今日は、えーっとその……あれだ。ん? お! 特級案件だ! ご、ごめんな! じゃあ、そういうことで!!」

「あ、私もいくわ!」

「ごめん、急ぐから!!」


 俺は全力で走った。

 雷鳴轟き、空気が爆ぜる。



「オーロラさん、あまりベタベタと一緒にいると夜虎君困ってますよ?」

「は? 夜虎が私を嫌がるわけないじゃない」


 ローラと姫野が微笑み合う。


「おぇぇぇ……おええぇぇぇ」


 清十郎は、隣で吐きそうになっていた。





 その日の夜、俺は忍び足で男子寮に帰った。

 なぜ我が家なのに……と思うが、どこにローラがいるかわからないからな!

 男子寮――俺の部屋で、清十郎とお菓子やジュースを持ち寄り、作戦会議。


「なんとかしてくれ!! 特級ヤリチン糞野郎!!」

「……俺は悪くないと思います」

「普通に姫ちゃんに、オーロラ姫と結婚するからあんまりかかわるなって言えば?」

「結婚って言われると……正直、俺も好きでありたいというか。ローラをそういう目でまだ見れないというか。好きってよくわからないというか」


 俺はローラのことは好きだ。

 しかし、恋愛感情とはいえない。

 俺からすると妹だと思っていた時期がある分……ローラをそういう目では見てなかった。

 しかし、16歳になったローラは正直、色々反応してしまうほどに綺麗だった。見てるだけでちょっと変な気持ちになる。

 俺はそういうのには興味がないと勝手に思っていたが、全然あったわ。思春期の性欲こわ。


「まじでなんとかしないと、いつかオーロラ姫の魔術で姫ちゃん凍らせられるぞ? 国際問題だぞ? まじで」

「…………二人を悲しませない方法はないか? 二人とも幸せにしたいんだが」

「人はそれをヤリチン糞野郎と言います」

「うぐっ」


 もうどうしたらいいのか、まったくわからない。


「教えてくれ、清十郎。お前頭良いだろ!」

「はぁ…………とりあえず、俺に案がある。ウルトラスペシャルな」


 清十郎がにやっと笑った。

 まさかこの状況を一発逆転する素晴らしい案を!?


 一体なんなんだ!

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