第32話 久しぶりー2

「ところで、ローラ」

「なに? あ、そのベッドはそっちにおいて」

「なぁ、ローラ」

「どうしたの、夜虎? それはこっちに。クローゼットは……置くとこないわね。この壁ぶち抜いて。ベッドも……もう一緒に寝るからいいわ。捨てちゃって」

「ねぇ、ねぇ、ローラさんやぁ」

「うーん、でもやっぱり狭い。そうだわ、夜虎! 二人で新居を買いにいきましょ! どこにする?」

「ちょっとストーープ!!」


 引っ越し業者とローラが、俺を見る。

 なんでこの十畳の部屋にこんなバカみたいな量の高級家具が入ると思ったんだ。無理に決まってるだろ。

 このソファなんてふっかふかだ。どこの王族が使うのってぐらい、ふっかふかでゴージャスすぎてこれ一つで、俺の部屋埋まるわ。

 というかそういう話ではない。


「ローラ!? どういうこと!? 何しようとしてるの?」

「同棲の準備だけど?」

「ダメだよ! そもそもここ男子寮だし!!」


 廊下を見ると、太陽学園の男子たちが一体なんだと顔をのぞかせる。

 そしてローラに微笑まれて全員、悶絶している。男ってほんとにバカ。


「あ、夜虎は結婚前に同棲は反対派? そうよね、そこは難しいところよね。でも大丈夫、私たちならきっと乗り越えられる」

「なにも大丈夫じゃないんだけど……」


 だめだ、ここははっきりと言わなければならない。

 俺はローラの肩を掴んだ。


「ローラ! 俺は君と結婚は――!」

「ん?」


 にこっと屈託のない笑顔で微笑むローラ。うっ……可愛い。

 だが、ここでひいたらダメだ。はっきりと言わないと。

 

「け、結婚は!!」

「約束したよ? 破るの?」

「結婚は……一旦置いといて、とりあえず、デートしよっか!!」

「デート!? いく!!」


 俺は自己嫌悪しながらため息を吐いたが、相手は北欧連合のお嬢様。

 国際問題に発展しかねないので、デートといってとりあえず説得しよう。


「わぁ、夜虎にデート誘われちゃった!! 嬉しい!! 嬉しいな!! やったやった!」


 でもぴょんぴょん飛び跳ねるローラを見て、俺も嬉しくなってしまった。

 10年前は、感情を取り戻したと思ってすぐにお別れになってしまったので、こんなに元気なローラを見れて嬉しい。


 とりあえず引っ越し業者は帰ってもらい、アリシアさんに相談したところ、女性寮に特別室を作ってもらっているらしい。

 なら最初からいけよとアリシアさんに文句を言いたくなる。


「ローラ? どうしたの?」

「…………まだ持っててくれたんだね」

「あぁ、夏はひんやりして気持ちいいんだ。ほんとに10年溶けなくてびっくりしたよ。それにローラこそ、そのぬいぐるみ。ずっと持っててくれたんだ」


 ローラが見たのは、10年前。ローラが俺にくれた銀色の氷華だった。

 ガラスケースに入れて大切に保管している。

 俺もずっと持っていたが、ローラが持っているぬいぐるみは、俺が昔お祭りで取ってあげたうさぎのぬいぐるみだ。


 お互い年期が入っている。

 するとローラが俺に飛びついてきた。


「ど、どうしたの?」

「ううん、ぎゅっとしたい気分だっただけ」

「そっか……」


 そして俺とローラは、デートに向かった。





「ということで、渋谷でございます」

「ここが渋谷ね。噂は知ってるわ! で、旦那様。どこにエスコートしていただけるのかしら」

「あーえっと」


 何も考えてなかったが、ローラが凄い期待した目で見てくる。

 しまった、俺がこの辺で知っている店なんて。


「わぁ! おしゃれなカフェね!!」

「俺は今、とても自己嫌悪を感じています」

「ん?」


 全然どこも思いつかなかった俺は、姫野と……一応はデートのような感じてきたおしゃれなカフェにローラを連れてきた。

 最低です、殴ってください。


「うわっ、あのカップル、まるで漫画から出てきたみたい」

「美男美女……なんかの撮影?」

「モデルかな……あれ? あの男の子って……白虎夜虎君?」

「嘘!! 私あの記事でてからファンなの! サインもらえるかな?」

「でもデート中? 隣の子……見たことないぐらい綺麗……彼女かな?」


 あぁやっぱりあの記事が出てから俺も噂されるようになっちゃったな。

 しかし、俺もそうだがローラがただ目立つ。太陽学園の制服を着ているとはいえ、美しい銀髪、強すぎる顔面、完璧なプロポーション。

 五大貴族であることをのぞいても、ただため息が出るほどの美人だ。


 ざわざわと周りが騒がしくなってきたとき、ローラが立ち上がり、腕を組み大きな声で否定した。


「私は、オーロラ・シルバーアイス。夜虎の彼女なんかじゃないわ。失礼なこと言わないでくれる?」

「ちょ、ローラ! 本名はまずいって! 否定はするべきだと思うけ――」

「私は、夜虎の妻よ!!」

「ぶふっ……」

「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」


 俺は慌ててローラを引っ張って、外に出る。

 カシャカシャと写真を撮られまくった気がするが、これ絶対SNSに乗る奴だ。

 しかも本名名乗っちゃったし……あーもう、めちゃくちゃだよ!


「ローラ!」

「なに?」

「あのね…………えーっと…………まず俺は16歳。法律上結婚できない」

「たとえ、法が許さなくても私が許すわ」

「法すら通じない……だと? で、でも俺達まだ10年ぶりで、碌に会話もできてないだろ? だから……」


 俺はローラの肩を掴んでまっすぐその眼を見た。


「焦らないで。ね? ほら……約束の花火大会までだって時間はあるんだし。ね?」

「約束…………そうね! 私、久しぶりで舞い上がってたみたい。ごめんなさい」

「あぁ!」


 よかった。

 わかってくれたみたいだ。

 とりあえず10年でこんなことがあったんだとまぁ別に大したこともない日常話をした。

 気づけば夕暮れ、日が落ちた。



「もう帰るの? 私……もっと夜虎といたい」

「ローラ、デートはね。もうちょっと一緒にいたいと思うぐらいのとき、切り上げるのがテクニックなんだ」

「――!? なるほど! わかったわ! 私は今、夜虎の手のひらで転がされてるわけね!」


 なんか言い方が悪いが、テレビで見た知識をそれっぽく語っておく。

 とりあえず今日のデートは解散することになった。

 ローラも荷ほどきだったりあるだろうし、俺も整理する時間が欲しい。





「ふんふっふーーん♪」


 ローラは、女性寮に作られた自分だけの特別な大部屋でお風呂に入っていた。

 北欧連合の長――シルバーアイス家から信じられない額の寄付をもって、融通を利かせ、お気に入りの家具などで飾り付ける。

 まるで部屋の中はベルサイユ宮殿のように華やかだった。


「夜虎……変わってなかった。やっぱり優しくて……それで、もっとかっこよくなってた」


 バスタブの中で、泡まみれになりながら気持ちよさそうにお湯につかる。

 10年ぶりに出会った思い人を思い浮かべながらスマホを開く。


「夜虎のために使えるようにしたけど、あまり好みじゃないのよね…………」


 同じ高校生なら使えなければと、いわゆるSNS等も来日前に初めてみた。

 アリシアに教えてもらいながら自撮りを上げたらフォロワーは一瞬で爆増し、今やフォロワー数6億を超えている。

 その美貌と五大貴族――何を乗せても、大バズするアカウントとなっていた。


「あ、そうだ……」


 お風呂で自分の生足の写真を上げる。

 ただの足なのに、これだけで多くのフォロワーが歓喜するのだからバカね。と思いながら投稿する。

 

 だがこれは承認欲求のためじゃない。

 その目的は、ただ一人のため。


「夜虎のアカウントは教えてもらったから……これにメンション…………ふふ、喜ぶかな。あ、今日のカフェで二人で撮った写真も乗せなくちゃ……初めてのデート記念ね」


 夜虎と一緒に取ったカフェでも写真も乗せてみる。


「…………そうだ。あの女にも教えてあげないとね」


 案の定、その投稿は一瞬で世界中でバズるわけで。

 しかも、ローラは姫野にメンションまでしてしまった。

 となるともちろん、彼女にも届くわけで。


「ふーん…………そうなんだ。行ったんだ。私が彼氏と行きたいって言ったカフェに……連れていったんだ。それを伝えてきたってことは……そういうことね?」


 姫野はその投稿を見ながら、静かに目を細めた。

 これでも日本でトップクラスに売れている姫川姫野。

 魑魅魍魎渦巻く芸能界で戦ってきた気の強さはその辺の女性の比ではない。

 だからこそ、そんなことにもなるわけで。


「ん? 返信? 姫川姫野…………なんで夜虎と私が行ったカフェにこの女もいってるわけ? でも……あぁそういうこと」


 その写真には。


『奇遇ですね! 私も夜虎君と、行きましたよ。パスタおすすめです!』


 という文章に合わせて、姫野と夜虎がパスタをシェアしている写真が載っていた。


「そう…………宣戦布告ってこと」


 その投稿を見たローラ、とたんに女子寮に冷気が満ちる。

 しかし、こちらも世界最強の一角。

 気の強さはやっぱりワールドクラスなわけで。

 

「いいわ、受けてあげる」


 そしてその投稿を全世界に拡散した。

 




 翌日。


「………………なんで、こんなことに」


 ありえない量の通知を見て、頭を抱えながら夜虎、起床。

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