第二章 現代最強の魔術師

第31話 久しぶりー1

 翌日、太陽学園。


 俺達は全員言葉を失った。

 今朝、先生が重大なお知らせがあると足を震わせていたが、まさかこんなことになるとは。


「え……み、みなさん。く、くれぐれも……くれぐれっっっも!! 粗相のないように! よ、よろしくお願い致します!!」

「オーロラ・シルバーアイスよ。よろしくはしなくてもいいわ。あなた達の顔を覚えるつもりはないから」


 腕を組んで、鋭い目つきの氷姫。すらりと伸びた生足は、間違いなく上半身よりも長い。

 そして力強いその眼に睨まれたら、一部の変態をのぞいて背筋を凍るような思いをするだろう。

 だが、それはおいといて。 


「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」


 そりゃ、こんな反応になる。

 転校生がくるらしい。

 そんな噂はあったが、まさか世界の支配者の一人がくるとはだれも思わなかっただろう。

 

 ローラとは、あの日以来あっていない。

 メールも電話も何もかもがシャットアウト。ただ一言、待っていてとだけ告げられた。

 それから10年一切の連絡も無しだったし、手紙送っても帰ってこなかった。

 なので、本当に10年ぶりだった。


 10年ぶりに再会したローラは、ため息が出るほどの絶世の美女に成長していた。

 すらっと伸びた足、さすが外国人と言わんばかりに主張する胸。銀色のサラサラの髪が腰まで伸びて少し動くだけで揺れている。

 あのおっとりしておどおどとした雰囲気はなくなり、力強い目力でまっすぐと見る。


 その見た目は、間違いなく五大貴族――世界の支配者の姫の風格を持っていた。


 その青い瞳を見つめていると、吸い込まれそうなる。

 クラスの男子は全員、ため息を吐いて目がハートになり、もはや今にも膝をついて忠誠を誓いそうだ。

 もちろん、俺の目の前のチャラ男もだ。


「えーオーロラ姫は、二度目の来日ということで、これから……」

「もう少し……もう少し……もう少し……」

「ど、どうしました?」

「…………話が長い!! もう無理! 我慢できない!!」


 直後、ローラが俺を見る。

 さっきまでの凛とした表情が一変に崩れて、光悦の表情で走ってくる。

 体を震わせて俺をその青い瞳でまっすぐ見て、そして。


「夜虎ぁ!!」

「うぉ!?」


 俺に飛びついてきた。

 思わず立ち上がって、受け止める。


「「えぇぇぇぇぇ!?」」


「夜虎! 夜虎! 夜虎! 夜虎ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!夜虎夜虎夜虎ぅううぁわぁああああ!!! あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いいい匂い! くんくん!! んはぁっ! 10年ぶりの夜虎の黒髪の髪をクンカクンカしたいお! クンカクンカ!あぁあ!! 間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!」

「ローラ!?」


 俺の体に顔をうずめて、体中をかぎまわるローラ。

 こちょばくて俺は飛びのいた。

 

「ああん、夜虎。もっとぉ……」


 切ない声で、指をくわえるローラが俺を見る。

 その表情は、目が潤んでいるが、猟奇的にも見えた。

 さっきまでのクール姫様どこいった?


「失礼する」

「アリシアさん!!」

「久しぶりだな、夜虎君。随分と成長し……良い男になった。私は老けてしまったがな。また会えてうれしいよ」

「お、俺も嬉しいです。アリシアさんも相変わらずに綺麗で……ってなんで!?」

「今日から姫様は、日本に留学することになった。サプライズ……というやつだな」


 すると扉を開けて入ってきたのは、アリシア・ビクトリアスさん。

 10年前ローラの護衛をしていた女性だった。

 10年たってもその美貌は変わらず、今年30ほどだが、そんなものは一切感じさせないほど若々しい。


 驚いていると、いつの間にかローラが俺に抱き着いて、また顔面をこすりつけるように、くんくんしだした。

 傍から見ればもはや変態である。


「夜虎君、少しだけ我慢してやってほしい。姫様は10年、ずっと心を律し、甘えを捨てて、貴族の責務をこなされていた。その反動で君にだけデレデレのクーデレ氷姫へとレベルアップを果たした」

「レ、レベルアップって…………で、でも……連絡もなくて、俺は忘れられたのかと」

「私が夜虎のこと忘れるわけないじゃない! でもあなたの隣に立つために、甘えは捨てたの!! 夜虎に会ったらこの気持ちが止まらなくなるってわかってたから! はぁ! クンカクンカ!! でも、もう我慢しなくていいのね! あぁあぁぁぁ!! はぁん! 好き好き好き好き!!」


 その喘ぎ声にも近い声に、俺は思わず反応してしまった。

 周りの男子もそうだろう、みんな前かがみになっている。


「ちょ、ちょっとローラ。みんな見てるから!!」

「そうね! この続きは、ベッドでしましょ! 二人っきりで!」



「「えぇぇぇぇぇ!?」」



「ローラ!! と、とりあえず10年ぶりだろ? 話すことがいっぱいあると思うんだ!」

「ピロートークってことね!」

「だめだ、全然聞く耳持たない……あの頃のローラはどこに」

「夜虎君、少しだけ我慢してやってほしい。姫様は10年、ずっと心を律し、ムラムラされていたのだ。その反動で、若干性癖が歪んでしまった。とりあえず一発」

「アリシアさんも何言ってるんですか!?」


 すると隣の姫野が叫んだ。


「こ、ここは学び場です! ふ、不純異性交遊はダメですよ!」


 助かった。助け船が出されたようだ。

 …………冷た!?


 突然、気温が下がったかと思ったら周りの生徒もガチガチと震えている。

 その原因はもちろん。


「あなたが……姫川姫野ね。そう……あなたが」


 ローラだった。

 ローラから漏れ出た銀氷の魔力が教室を徐々に凍らせていく。

 抱き着いていた俺から手を離し、姫野の前に立ち、その机に座って足を組む。


「おぉぉぉ……」


 スカートから伸びるとんでもなく長い生足を組んだだけで男どもから、感嘆の声が漏れる、

 男ってホント単純だな。ほんと……くそ! わかっているのに、目が離せない! 男ってホントバカ!


「そ、そうですが……」


 するとローラは姫野の足から上までをゆっくりと見つめる。


「顔は悪くない。胸はないけど、女は磨いてるようね。発情期のメスの匂いがする」

「なぁ!? 何を言ってるんですか!!」

「でも…………致命的に足りない。あなたじゃ夜虎の隣には絶対に立てない。せいぜい、性処理用ね。まぁそっちも私が愛をもって処理するからいらないんだけど」

「ロ、ローラ!! こっちきて!!」

「きゃっ! 夜虎と手繋いじゃった!!」


 これ以上はなんかやばそうなので、俺はローラを無理やりひっぱり教室を出た。

 




「大変失礼いたしました。先生、どうぞこれからも姫様をよろしくお願い申し上げます。ご学友の皆々様に当たっても……どうかよろしくお願い致します」

「え、えぇ……も、もちろんです。で、では授業を始めます」


 そうしてアリシアは出て言った。

 

「隣には立てない……ただの性処理用……それはそれで興奮す……いや、だめよ!! なんなの、あの女!!」


 姫野は、その言葉を小さくつぶやきながら少しずつ怒りが沸いていた。





「まぁとりあえず…………久しぶり、ローラ」

「うん!!」


 太陽学園、カフェテラス。

 まるで大学のようなおしゃれで開放的なカフェテラスで、俺とローラは座った。

 ローラは机に肘をついて、ニコニコと満面の笑顔でこちらを見ている。

 冷たい氷姫の無表情との落差で風邪ひきそうだわ。


 10年も放置されて俺としても色々思うところがあって文句の一つも言ってやろうと思っていたが、この笑顔をみるとそんな気持ちにも一切ならない。


「夜虎は、やっぱりかっこよくなったね!」

「ローラも……その、すごく綺麗になったね」

「えへへ、綺麗って言われちゃった。嬉しい。夜虎だぁ……夜虎、夜虎! ね、手繋ご!」

「と、ところで、どうしてこのタイミングで?」

「いろんなタイミングが重なったからかな。帝級認定も受けたし、パパにも一本とったし、それに……まぁ本当はあの写真のせいだけど」

「え!? 帝級!? ローラ、帝級に認定されたの?」

「うん! でも夜虎なら簡単に取れるでしょ?」


 魔術官には、初級から中級、上級、特級がある。

 それは各国のシンに対抗する機関、日本なら魔術局が認定する。


 しかしそれ以上はそうではない。

 五大貴族当主をはじめとする世界の代表たちが評議員をしている世界魔術教会が認定する。

 王級、帝級、世界級……そしてさらに最高位がもう一つ。

 帝級は、罪度ギルティチュード7を倒せる強さと言われ、俺の父さんの一つ上だ。


「まぁ機会があれば受けてみるよ。それで? 何か他にも言いかけてたけど」

「あ、そうそう! ほら、一月後に五大覇祭あるじゃない! だからこのタイミングかなって!」

「一月後!? そんなに早く!? 千代子婆ちゃん、全然そんなの言わないんだから……」

「そうよ? もしかして夜虎も出るの!!??」

「なんか開催国だからって追加で出るみたい」


 するとローラが俺の手を握る。


「やっと夜虎のすごさが世界に知られるわけね!! 妻として嬉しいわ!!」

「あはは…………妻?」

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