第30話 特級魔術官、白虎夜虎ー3

「五大貴族の戦争が始まるよ」

「戦争!? 一体どういうこと! あ……どういうことですか?」

「焦るんじゃないよ、夜虎。当事者のあんたにはしっかり説明してやるから」


 そう言われ、俺は大人しく静香姉ちゃんの隣の末席に座った。

 なんで俺が当事者なんだ?

 

「今年、五大覇祭が20年ぶりに開かれることになった」

「「おぉ…………」」

 

 周りの大人たちは、知っているようだが、なんだ五大覇祭って。

 俺が首をかしげていると、千代子ばぁちゃんがおそらくおれに向かって説明してくれた。


「五大覇祭ってのはね。五大貴族の次期当主たちが戦う……まぁ交流戦みたいなもんだよ。誰が最強か、そして五大貴族とはどれほどに強いのか。それを知らしめ、そして人類の守り手だと再認識させる。その結果は、そのまま各国のパワーバランスにもなりかねない。そんな政治的要素を含んだ交流戦だ」

「五大貴族の交流戦……」


 世界を統べる五つの貴族が、覇権を争う戦い。とでもいうのだろうか。

 そんな戦いがあるんだ。20年ぶりってことは20年前にもやったのかな?

 

「まぁ、オリンピックみたいなもんさ。どうしても各貴族が連携しないといけない脅威もある。そのために仲良くしよう。そんな思いが最初だったはずだがね」

「オリンピック……なるほど、そういわれればわかります」

「でだ。次回、日本で開催されることになった。まぁ順番だね。ちなみに今までの日本の成績を聞くかい?」

「えーっと…………」

「ははは! あんたが思ってる通りさ!! この五大覇祭が初めて開かれた100年前、まぁつまり紫電家が途絶えたときから全戦全敗。まぁ当たり前のように勝てなかった。もう格の違いをみせられるかのように、ボッコボコのボッコボコ。毎回恥を世界中に晒してきた」


 そういってため息を吐く千代子ばぁちゃん。

 紫電の血が途絶えて、血継魔術が失われてすでに100年。

 その間に世界情勢は大きく変化し、アジア全土を守護していた日本は今や自国のみとなっている。


 それはひとえに、弱いから。

 千代子ばぁちゃんにも昔そんな話されたな。


「私はね……それが悔しくて悔しくて。他国の貴族連中からは、はやく日本の守護を渡せ。すでに四大貴族だろとかなんとかね。五大貴族会議ノブレスでも肩身が狭くて仕方ない」


 強さがそのまま発言力になるのなら、それはそうだろう。

 これに関しては、千歳さんからも6歳の頃に説明してもらった。

 

「でだ。開催国は一人追加で誰でもいいから強い奴を出すことになってる。まぁ5人だと奇数だからね。だが、その追加の一人は当て馬だ。貴族と一般人の差を見せつけるためのね。だーれも期待なんかしてやしない」


 開催国だから一人追加。

 合計6人のトーナメント形式で戦うらしい。

 ん? さっき千代子ばぁちゃん、俺を当事者とかいってたよな。つまり俺が呼ばれたのって。


「ってことで、夜虎。あんた出な。ふんぞり返ってる貴族共に吠え面かかせてやるんだよ」

「やっぱりかぁぁ…………」




 そのあと詳しい話が進められたが、俺には関係ない話だったのでもう帰っていいと言われた。

 政治や経済の話。

 宿泊先から接待方法、来日数だったりとなにやら難しい話をするらしいので俺はお役御免だ。静香お姉ちゃんが主体となって色々やるらしい。さすが紫電家次期当主である。俺にはなんもわからん。


 ということで俺にできることをと紫電家を出て、学校に帰って修行することにした。



 特級専用修練場。


「ふぅ……疲れた。結構この新技使えそうだな」


 俺は日課の修行と新技開発に勤しんでいた。

 今日も3時間ほどぶっ通しでやって疲れたので、大の字で休み、目を閉じる。


「お疲れ様!」

「つめた!?」

「ふふ、冷たいお水とタオルです。頑張ってる夜虎君に」

「え? 姫野?」


 すると、冷たい水が頬にぴとっと。

 そしてタオルが渡された、誰だとみると姫野がいた。

 俺は水を受け取ってぐいっと飲み干した。


「水、ありがとう。なんでここに?」

「私だって訓練するんですよ。そしたら夜虎君がみえて、ちょっと見学に。しかし、すごい訓練でしたね! あれ何やってたんですか? イヤホンと目隠しして」

「あぁ、あれはさ!」


 俺は得意げに何をしていたかを話した。

 姫野は、うんうんと相槌を打ちながらしっかりと聞いてくれた。

 完全にオタクが得意なことを早口でしゃべるような感じだったけど。


 姫野と話していると楽しい。

 居心地が良くて、俺の言葉をまっすぐと聞いてくれる。

 ついつい、俺の考える魔術理論だったり、今後こんなことがしたいんだなんて話続けてしまった。聞き上手ってこういうのを言うんだろうな。


『21時になりました。まだ残っている生徒は下校してください』


 すると校内放送が流れた。


「あ、もうこんな時間だ……やべ」

「わぁ、夜虎君と話してるとあっという間ですね」

「姫野が聞き上手なのかな。なんかめっちゃ話した気がする」

「夜虎君のお話すごくおもしろかったです。なんか……すごくキラキラしてて。夢を語る男の子ってかっこいいと思います」

「そうかな? オタク語りなだけだけど」

「すごく素敵ですよ」


 気づけば21時近くまで俺は、何でもない話を姫野としてしまった。

 太陽学園は遅くまでいても許されるとはいえ、さすがに長居しすぎたな。

 

「ごめん、俺学生寮だけど姫野は実家だよな?」

「大丈夫ですよ」

「いや、もう遅いし、家まで送るよ」

「え? いいですよ、そんなの! 大丈夫です! それにうちまで30分ぐらいで帰れますから!」

「女の子をこんな時間に一人で帰らせたら母さん怒られる。気にしないで、ついでにコンビニでもよって帰るから」

「そ、そうですか? じゃあ……お願いします」


 俺は半ば強引だったが、姫野を送ることにした。

 そして、二人で校門まで向かったが、そこには。


「姫川姫野は、まだ出てないよな!」

「夜虎君もまだ学内のはず。学生寮に帰ってない」

「今日こそ、二人のツーショット写真を!!」

「真夜中のデート!! 高校生なのにけしからん!!」


 まだマスコミ関係者がスタンバっていた。

 暇なのか、この人たちは。朝からずっといるぞ。


「あはは…………やっぱりここでいいですよ。この時間で写真なんか取られたら絶対に変な噂が立ちますし」

「はぁ……仕方ない。姫野、ちょっと抱っこしていい?」

「え!? 抱っこですか? だ、だめじゃないですけど……その……いきなりでびっくりしただけで。で、でも……夜虎君が抱っこしたいなら私頑張り…………きゃ!?」


 俺は姫野をお姫様だっこした。

 危険だからと送ると言った手前、マスコミのせいで放り出すほど俺は無責任じゃない。

 だから。


「ひゃぁぁぁぁ!?」


 俺は魔力で帯電、足を強化し、そして飛んだ。


「や、夜虎君!?」

「なれると結構気持ちいいよ。浮遊感が」

「ひゃぁぁぁ!?」


 ビルの上をひょいひょいっと飛び越えていく。

 

「家、どっち?」

「あ、あっちですけど!! まさかこのまま家まで?」

「怖い? おろす?」

「い、いえ! いけます!! これぐらい!! いやぁぁぁぁぁ!」

「はは、さすが根性ある。了解、しっかりつかまってて」


 夜の東京、俺は姫野を抱えながらぴょんぴょんと飛んでいく。

 ぎゅっと俺の体を抱きしめる姫野、やっぱりちょっと怖いのかな。



◇姫野


 

 心臓が痛いぐらいに、ドキドキしている。

 私は夜虎君にぎゅっと抱き着いた。

 安心する匂いがする。

 そして見た目は細いのに、でも触ってみるとしっかり鍛えられた筋肉があって……とても硬い。


 下から見上げる夜虎君は、あの日と同じで……思わず恥ずかしくて赤面してしまう。

 

 あの日からだ。

 この人を見ると、ドキドキする。

 声を聞けば、ドキドキして。目があえば、胸が高鳴って止まらない。


「大丈夫? 顔赤いけど」

「え!? だ、大丈夫ですよ!!」


 二度目のお姫様抱っこ……もう私は自覚してしまった。

 私はこの人を好きになってしまっている。

 否定しようとも、もう心がどうしようもないほどに惹かれてしまっている。


 好きだ。

 私は……夜虎君が…………。


「好き」

「ん? なんて? とりあえず到着!!」


 気づけば私の家の前の公園にまで、到着していた。 

 卸してもらうと、膝が少しガクガクしてよろけてしまった。

 そしたらぎゅっと抱きしめてくれた。ただそれだけなのに、私の心は溢れてしまった。


「好き……です」

「え?」

「夜虎君のことが好きです!!」





 突然のことで、俺は驚き言葉がでなかった。

 姫野は顔を真っ赤にしながら俺を見る。

 今、俺は告白されてるのだろうか? 姫野が俺を好き?


 プルルプルル♪ 


 と同時に俺のスマホが鳴った。

 この着信音は、千歳さんからの非常時用の番号だ。


「ごめん、ちょっと緊急だ。はい、夜虎です……はい……羽田で、罪度ギルティチュード6の特級案件!? わかりました。すぐに最速で向かいます」


 どうやらシンが羽田空港で顕現したようだ。

 最近シンの出現が異常に多い。しかも今回は10年前、俺が死にかけた罪度ギルティチュード6のシンだ。

 早くいかなければ、何人もの人が死ぬことになる。


「ごめん、仕事だ!」

「はい!! お気をつけて!! 今の言葉は一旦忘れてください!!」

「…………ごめん!!」


 帯電、そして全力で飛ぶ。

 俺は羽田空港まで、全力で走った。

 しかし、3分後ぐらいだろうか、電話が再度鳴る。


「もしもし? はい、今向かってますが、あと5分ぐらいはかかるかと…………え? 修祓された!?」


 俺はビルの上で、止まる。

 報告では罪度ギルティチュード6のシンが発生したと聞いている。

 自分以外に単独で倒せるのは、静香お姉ちゃんか、その祖母――千代子婆ちゃんぐらいしか思い浮かばない。


罪度ギルティチュード6ですよ、それをたったの三分で? …………一体だれが………………え?」




◇同時刻、羽田空港。



 羽田空港に、絶世の姫が立つ。

 その手には、ボロボロになった白いうさぎのぬいぐるみを抱えていた。


 煌びやかな銀髪が、腰まで伸びてため息が出るほどに美しく、しかしその髪の美しさにまけぬほど力強い目をした少女。

 その隣には、従者である30歳ほどの女性が一人。


 そして目の前には、白銀に凍った罪度ギルティチュード6――鎧武者のようなシン


「さすがでございます、姫様」

「日本についたと思った瞬間これね。歓迎されてるのかしら」

「きっと姫様の色香に惑わされたのでしょう。姫様は世界一美しいですから」

「世界一の男の妻が、世界一美しいのは当たり前よ」


 その少女の目の前には、罪度ギルティチュード6に相当するシンが白銀に凍っていた。 

 一歩ずつ近づく少女は、その氷漬けのシンを見てつぶやいた。


罪度ギルティチュード6ってこんなに弱かったかしら?」

「姫様が強くなられ過ぎたのですよ。10年間……ただの一度も修行を休まずに、この日を迎えられましたから。母上もきっとお喜びです」

「そうね、ママも天国で応援してくれてる。それに何も辛くなんかなかったわ。全部、あの人のため。あの日、交わした約束のため。あの人の隣に立つためだったから」


 少女は、胸から下げていたペンダント型のロケットを開き、中の写真を見る。

 そこには、幼少期の夜虎の写真があり、それを見て頬を赤くする。


 大事そうに抱えるもう随分とボロボロになった白いうさぎのぬいぐるみとロケットをぎゅっと抱きしめるようにして、微笑んだ。

 

「ねぇ、夜虎。私…………あなたの隣に立てるぐらい強くなった? ずっとずっと……会いたかったけど、夜虎が待っててくれるって約束してくれたから、私……こんなに強くなるまで頑張ったの。なのに……」


 そして、凍ったシンに触れる少女は、ポケットのスマホを見る。


「この女だれ?」


 そこには、あの記事が映っていた。

 夜虎が姫野をお姫様抱っこし、熱愛か? というネット記事。それを見て、スマホが凍る。


 そして、白銀の吹雪が空港を一瞬で凍らせた。

 世界最強の氷結魔法が、この国の気温すらも奪い取る。

 しかし、深呼吸するように目を閉じる。


「でもね、大丈夫…………高校生だもの、少し性欲が暴走してしまうぐらいなら私、許してあげる。それに、夜虎のを処理してあげられなかった妻の責任でもあるものね。だから大丈夫。体の遊びぐらい少しぐらいなら許してあげるわ。でも、もし心まで浮気してたなら」


 そして、とんでもなく長い生足で、回し蹴りを一撃。

 その凍った罪度ギルティチュード6のシンは、砕け散って消滅した。


「――私、絶対に許さないけど」


 永遠の銀氷――シルバーアイス家次期当主。オーロラ・シルバーアイス。

 絶世の美女へと心身ともに健やかに……心だけちょっとだけおかしな方向へと成長し、10年ぶりの来日。





あとがき。

これにで第一章終了! 10万文字、ラノベ一冊分です!

これからも頑張りますが、皆さんの応援がほんとに力になります。

作品タイトルから下にスクロールすると★で称えるとあります! そこでぜひ!レビューを! 可能なら文字付レビューでここまで読んだ! 面白かった! など頂けると嬉しいです! よろしくお願いします!


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